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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
二章 入れ替わった男
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518話 赤い月

 先に進むと、ユウタの前にまた赤い月を空に背負って魔物が出てきた。

 左右を見て小部屋、どころではない広さ。

 天井は、どこかに消えて飛び回る小型の虫。魔物の身体は、ずんぐりむっくり。動きは遅いものの成人並みの大きさをしていて、灰色の皮と、真っ赤な腹をしている。顔の位置に突き出した針だかなにかを見た。

通路からの小部屋だったはず。風の魔術は、変わって広さを伝えてくる。ユウタの魔術で感知できない迷宮の変化か何かに、怯えた様子の青い服の幼女は銃を両手で持っている。


 すり抜けたように現れたそれは遠目から寄ってくる。ユウタの手から青白い光が伸びて蚊もどきは黒焦げになった。それを繰り返すこと五回。


「うーん。あの赤い月は、一体なんなの」

「俺に聞かれてもわかんねーよ。ここって、第一の迷宮で初心者から上級者までが入るとこだぜ。底がないってんでそんな潜らねえのが多いし」

「ふむ」


 ユウタは、レベルを上げるのが目的で迷宮の底とかに興味がない。アイテムは概ね必要ないし、限界点というのはどこに行ったのやら・・・


「僕は、平気だけど、2人ともなんともない?」

「んー。あの月、メリアは精神汚染を受けそうだぜ。とりま、こいつを身に着けとけ」


 と、アルストロメリアに黒い帽子と水晶の嵌ったペンダントを渡す。


「これ、お前は?」

「あー、レベルが99超えて合算されてると影響ねえんだな。これ、むしろ魔力を貯めれていいとこなんじゃね。あんまり居ると、メリアとかとけた液体になっちまいそうだぜ」


 99は、ジョブの限界点でステータスかスキルで防ぐのでは? と考えつつ育成途中で死なれては後味が悪い。念じれば金色の扉が出てくる。開いて向こう側へ行けばお帰りだ。

 ユウタは、転移門を開いた。しかし、アルストロメリアは出ようとしない。


「人の話を聞いてるのかよ。やべーって」

「や、でもさー。こいう時ってお宝がでるんじゃ。とりま、あの壁の向こうとか気にならねえ?」


 灰色の壁と門。そして、赤い月が不自然に浮かんでいる。風は、広い球体と町並みを伝えてきた。

 中には、魔物が徘徊していてろくでもない状態だ。一体、どうしてこのような現象が起きているのか不自然に見える。安全第一だ。帰れる内に帰った方が良いに決まっている。


「いやいやじゃねえよ。精神がおかしくなった奴とか、元に戻らねえし。ユークリウッドは、地獄の底でも平気だろうけど、おめーはやばい。とりあえず、放り込むぞ」


 黒い帽子を被った幼女は、アルストロメリアを羽交い絞めにして引きずっていった。

 転移門の先は、ユークリウッドの家の前だ。大人しく消えた2人を他所にして、ユウタは門へと進む。壁もよじ登れるので壁歩きで登ろうとしたのだが、不思議な壁にぶつかって門へと誘導されている。隠形スキルを使いつつ歩いていく。


(どうなっているんだろう)


 赤い月といい、魔物といい、またしても見たこと無い物が増えている。

 門は、町の門らしく重くて開くのに一苦労だろう。ユウタはゆっくりと開けて中を覗く。

 気配は、無い。無いが、居たりするので恐ろしいが我慢だ。壁の中に入ったユウタは、通りを歩く。

 人の姿はない。霧が通りに漂う。十字の通りを右に行こうとしても不思議な見えない壁がある。


 迷宮は、真っすぐ進めさせたいようだ。灰色の壁と灰色の地面。歩いていて、帽子に痩身な人型が霧の向こうに映る。


(人か?)


 ユウタは、声を掛けるか迷うものの隠形スキルを使って歩いているのだから台無しにしてしまう。

 枯れ木と遠目にある尖塔。屯している黒影の人型へ電撃を放つと白い粉になった。手にしていた錆びた長槍は使えそうにもないし、触ると汚染されそうだ。


 色々な迷宮を見てきたユウタだが、魂に影響してくるのはフィナルを連れ戻しに行った時以来だろう。

(うーん。なんの目的かな?)


 迷宮が、人を呼び込む。良くあるパターンとしては、魔力の糧として。

 或いは、人を生贄にする為に迷宮主が企んでいる場合。

 色々あるが、何も考えていない場合。攻略されたがっているなんてものあって様々だ。

 ごつごつとした瓦礫を歩いて、飛びかう人顔の鳥を電撃で落とす。大量の鳥もどきが山を作って灰になった。赤い魔石が残っていてインベントリに入れていく。


(もう金には、困っていないけど・・・)


 金になるものはいくらあってもいい。領主というものは、いくらでも金が入ってくるものだ。

 増税しようと思えば、いくらでも理由がつけられる。人口を増やそうと思えば、減税すると良い。

 ユークリウッドの領地は、唸るほどの金が入ってきてまた出ていく。人件費に頭を悩ませるのは何時の時代でも同じなのだろう。奴隷が無くならない訳である。


(いくらあっても困らないのが金なんだよねえ)


 通りの先にぽつんと立っている魔物を見て、ユウタに気が付いたのか。耳に遠目から聞こえる叫び声と共に飛びあがって放物線を描く。飛びあがった振動と同時に、インベントリから丸太を取り出すと投げつけた。ついでに、地面に2本生やすと伸びた丸太が2つ、×の字を描いて串刺しになったまま燃え上がる魔物は、ちん●の形をした腕と全身にそれを生やした格好でとても気味が悪い。


(汚物的な何かなんだろうか)


 全身にびっしりと生えた魔物に火を放つ。丸太から逃れられないよう気を流して眺めた。

 汚物な魔物は、叫んでいるが内容は聞き取れない。どうせ大したことは言っていないだろうと燃やしているとしばらくして、ぼとりと魔石と共に灰になって落ちてきた。少し大きめの赤い魔石を拾うと赤い月は消えている。


 大部屋だ。目の前に淡い光を放つ魔方陣がある。入るとなにがしかの効果がありそうだ。


(つまり、先ほどの魔物が原因だったのか?)


 入って石になったりするのも運任せすぎる。ユウタは、転移門を出すと帰ることにした。



 大通りには、人の通りがまばらにある。通りに座るベンチもなく馬車と巡回の騎兵が過ぎ去っていく。

「おせーよ。どんだけ待たせるんだ」

「どうせ、1人で中がどうなっているのか見に行ったんだろ。で、どうだったよ」


 果たして魔物を説明するべきか。形状が下品すぎる。


「進んでって、出てきた魔物を倒したら元の部屋? に戻ったよ。怪しい魔方陣は放置した」

「おー、セリアなら壊してるだろうし、そいつは調べさせてみようじゃん。でも、ちっと時間が早すぎた。もう部屋でごろごろするか?」


 頷いた。ユウタだって休みたい時は、ある。そう、金にも困っていない。権力もある。難点といえば、チビという点で。ミッドガルド人は、どいつもこいつも180cmな男ばかり。そういう中で、10歳だからか酒場に入れば、あからさまに無視されたりからかわれる事もある。


 世の中というのは、不条理で差別に満ち溢れている。ミッドガルドの王都であってすら、屋敷の近くでもなければからかわれたりするのだ。でも、平和だ。矢弾も魔術も飛び交わない。


(王都は、戦争してるとも思えないよな)


 目下、北と西で戦争している。東は、緩衝国があるものの火が付けばどうなることか。

 門番が開けて、道を歩く。3人揃って、横並びだ。


「あー、気になって仕方ねえ。で、お宝とか出たんじゃねえの」

「魔石だけだったよ」

「メリアが居なきゃ、って訳にも行かねーか」


 連れて行かないというものありといえば、有りだ。ユウタは、どちらかというと効率よくレベルを上げたい。悩むのは、既に上げるレベルのジョブが無い。というのだ。ということは、行き詰まりに差し当たっている。全てのジョブをカンストさせてみて、そしてその先があるのではないかというのはゲーム感覚なのだろう。 


(こうなるとスキルレベルを上げるしかないな)


 例えば、調教士ことテイマー。スキルレベルは、育成する上がらないので他人を人型モンスター扱いでレベルの効率化アップする。しかし、本体は紙装甲と耐久力という難点がある。では、どうすれば生き残れるのか。SSR級、☆5相当のキャラをゲットするしかない。ユウタがめんどくさがらずに他人を鑑定すれば、簡単にわかる。


(☆が増えてくなんてありえそうもないのだけれど・・・)


 実例として、エリアスがいる。

 既に☆2から☆5になっているエリアスと☆1つのアルストロメリアでは相当な差だ。

 武器で攻撃する系統のスキルと違うその調教スキルの有用性を鑑みれば誰でも欲しがること間違いない。見た目だけはいい☆1と見た目は悪い☆5。どちらを選ぶかというと☆5ではないだろうか。

 見た目ではない。といいながら、愛用するかどうか。ユウタと遊んでくれなければレベルも上げようがない。


(まあ、人はゲームのキャラじゃないから)


 何がどうなるなんてユウタだってわかりはしない。ただ、毎日の一日一日を大事にするだけ。

 最初から☆5の人間というとアルとセリア。王族だからなのだろうか。ユウタは、買い物をする時に使うくらいだから。そこは、なんとも言えない。


 庭に着くと大きな枝ぶりの木が500年くらいは立っていそうな風格で葉っぱをつけている。


「ほれ、あれだよあれ」

「あー。授業料ね。ほらよ」

「これは?」


 四角い金属製の箱だ。黒い艶と金色の縁が高級感を増している。開ければ、布が敷かれていて白い錠剤が少量あった。


「足の骨が伸びやすくなるんだと。お前が、気にしてんのそういうのだろ。毎日一粒な」


 ユウタは、感激のあまりアルストロメリアを抱きしめようとしたが、


「おいおい。そいつは、俺にするべきだろ」


 と杖で割り込んできた。よくよく考えれば、何故錬金術師をパーティーに入れようとしていたのか。

 ユウタは、さっそくエリアスを抱きしめようとして考えた。


「効果があるのかないかわからないよね。試して見るか」

「ちょっと、あれ? こら」


 頬を風船にしたエリアス。彼女は、言う。が、効果はあるのか知れないのだ。幼女に抱き着いたら犯罪に違いない。

 ガラスのコップに水魔術で水を入れながら、一粒取って喉に流し込む。

 ふと考えるに、錬金術が効用あるのならユークリウッドの父は剛毛だ。胸毛はかなりのものである。

 顔にはないのに、不思議な事に胸毛と腹に毛が凄い。幸いにして、ミッドガルドは剛毛でも許されているしデブでも許される。


「じゃあ」

「ああ。脱毛剤だろ。とーちゃんすげーもんな。俺らとしても匂いがきついし」

「と、役に立つだろ? なあ」


 なんだと? と思いながらユウタは、頷いた。さしあたり、気と魔力を上げるべきだろう。2人に座らせて、


「運気調息って、知ってる?」

「なんだそれ」


 首をかしげるのはスカートから細い脚に窮屈そうな青い長靴を曲げた幼女。


「知ってるぜ。格闘系ジョブが使う奴だろ」

「んじゃ。足を組んで背を真っすぐに。呼吸をしながらお腹の筋肉を動かして」


  並んで座った2人は、泡を吹いて気絶した。

 

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