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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
二章 入れ替わった男
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516話 神なき地(2)

日本?と思しき町にやってきたユウタだったが・・・

 ユウタは、このまま復讐の手伝いをするべきか悩んだ。

明らかに警察の一部、もしくは上層部が手を貸しているとみられる殺人事件だ。

漫画とは違い、実際の体験となると魔物を相手にするよりも頭が痛くなってきた。


(魔物を倒すのと違って、気分が悪い・・・)


 被害者は死んでいて、焼け死んでいるところから蘇生を試みるべきだったのか。

 当事者ではないから、気持ちは汲んでもそれがやりたいことかというと迷う。

 立ち去った後は、阿鼻叫喚だろう。


 通りの街並みは、外灯がこれでもかと輝いている。

 ミッドガルドの王都に比べてはいけないのだろうけれど、明るい。明るいことは良い事だ。

 そんな街並みを見ながら、ユウタは居心地が悪い。


(どうしたもんかな・・・)

 

 被害者の男は、復讐を望んでいる。死体から霊が見えるというか。

 学校に来てみたものの、白い壁、高い塀に立派な鉄製の門。

 夜半なので、というかユウタは目立つ髪の毛をしている。黒い染色をしている暇もない。

 うろうろすれば目立つ事間違いなし。


(まさか無関係の子供まで巻き込んでスキルを使う訳にもいなかないよな)


 よもやの無差別大量殺人テロリストだ。一体どちらが害悪だかわかったものではない。

 幸いにして、夜半。人といえば、警備員がいるくらいだ。明かりを見てテレビでも見ているに違いない。では、どうするか。考えて、施設を破壊して知らしめるべきかと。学校の校舎が壊れては勉強もできないだろうし。

 試しに、ユウタは隠形を使いながら火の玉を飛ばして見せる。スキルが元の世界でも使えるというのは謎だが、普通に火の玉が校舎へと向かって飛んでいくと真ん中の時計に当たって爆発を起こした。人のいなさそうば場所へ連続で放った壊れて火柱が立っているのを見ながら転移門で元の家へと戻る。




 通った先は、普段通りの屋敷。日本と比べれば、外灯の間隔は広くて薄暗い。魔石の内包している魔力が尽きれば灯はつかなくなる。しかし、被害者の男は満足したかわからない。


(気に入らなければ、なんでもかんでも殺してると本当におかしくなってしまう)


 戻れるのか怪しかったが、転移門で戻ることが可能だった。ということは、何時でも向こうへ行くことも可能だ。どうして、ユウタはそれを試さなかったのか。今にして、よくわからないけれども異世界あったよなんて言ったところで人が信じるだろうか。いや、信じない。ユウタは神の存在を信じていないが、神様頼みはする。凄く都合がいい人間だった。


 鉄格子の門。通りには、まばらな人の姿がある。日本と違って夜分には店も閉まる。

 門の鐘を鳴らせば、門番が開けてくれた。ユウタは、被害者に導かれて召喚されたのかも、と考えながら歩く。流石に、オデットとルーシアの姿はなかった。鬱蒼とした林を抜けて玄関へと立つ。


(ユークリウッドなら間違いなく町を焼いてただろうなあ・・・)


 ユウタは、そこまでしきれない。戦争でもしているわけでなし、城を攻撃するように命令されているのでもないのだ。間違っても火の術を使い始めたら、魔術とスキルが相まって火の海が出現することだろう。魔術師1人でも、生きた火炎放射器と化す。


 玄関で待ち構えていたのは、頭に2つ尖がりのある冠を付けたメイドさんだ。

 ユウタはマジマジと見るが、メイドにニコニコと笑顔で返されて恐怖を覚えた。 


(この子は、何故マスターと呼ぶのか・・・)


 ユウタはには、マスターと呼ばれる意味がわからなかった。DDDこと黄色い鳥といい謎だ。

 風呂を済ませて、1人で飯を食べてから部屋に戻る。遅くなったせいか待っている人間は居なかった。

 ベッドへ潜りこみながら、ふと部屋の横幅が増えているようなと違和感を覚えつつそんな馬鹿なと眠りに落ちた。


 寝覚めは、良い。朝の光で起き上がり、見覚えのある動物たちを横目にして音楽が無いことに寂しさを感じる。ユウタは、音楽を聴くのも大好きだ。音楽の聞ける便利な物は、アルーシュたちに没収されてない。異世界からやってくる人間たちの携帯電話等を奪うか、それとも買ってくるしかない。


(トラックに轢かれて異世界に行く人の気持ちは、よくわからないな・・・)


 音楽もなければ、アニメもゲームもない。あるのは、殺伐とした殺し合い。魔物か? それとも人かの違いである。稀に知恵がある魔物に遭遇するが、一瞬会ったっきりである。全裸の変態とか馬顔の馬だとかそういうのもほんのちょっとだけ出会った。やりたい事をやってやりきったら、そのまま死ぬ。そんな刹那に生きているのだから、


(神様に何かを貰えるなんて羨ましいなあ)


 無いもの強請りである。よくあるチート能力を授けてもらえるなんて最高だ。

 しかし、その対価は? よくわからない理由で貰えるなんて信じられない。

 ミッドガルド王国で崇められているのは女神たちで、女神教という神殿がある。


 行ってみれば、PTに参加するフィナルが女教皇だというのだ。

 とても信じがたいことでである。彼女は、確かに正エネルギーと言われるエーテル治癒術に長けている。ヒールは、僧侶、治癒術士、神官などが使う。彼女は、女神の姿を見たのだろうか。一度聞いてみなければならない。


 ベッドで寝転がる動物たちをひとしきり撫でる。もこもこして撫でやすい。数がどんどん増えていくのは異常だが、どこからやってくるのか。ユウタに動物を飼う趣味はないので、餌がどうなっているのか不明だ。しかも、DDDこと竜神以外に狐神とか羊神とか鑑定結果がでくるから深く考えるのを止めた。

(食っちゃ寝ニートな連中が、神なわけがない・・・)


 黒いローブを羽織り食堂へ向かう。ユウタは、一家揃って食事を取ることも少ない。

 さっと済ませて、玄関へと向かう。やることは、一杯あるのだ。まず、滓どもがのさばっていないか見回りも必要だ。迷宮にも行かないといけない。異世界には娯楽というものがほぼなくて、やることというと魔物を狩るか、土を耕すか。どちらかの系統になる。


「よお。朝から学校、って感じじゃねえじゃん」


 もじゃもじゃした金髪の幼女とショートヘアをした金髪の幼女がいた。2人は、学校に行く素振りではなくてユークリウッドを待ち構えていたようだ。玄関横にある椅子から立ち上がって、歩くユウタの横に並ぶ。

「んなに急いで何処に行こうってんだよ」


 ポーション屋さんに問われてはい何処ですという気分ではないのだが、女子には優しく接しなければという謎の脅迫観念がある。国内を優先してペダ村のダンジョン経営を見るか。それとも、アルブレスト領に景気を見に行くか。はたまた西にあるハイデルベルク王国の調査。あるいは、東の侵略戦争へとヘルトムーア王国の城塞を攻撃するか。アルーシュのお願いは無視できない。


「やりたいことが多すぎるんだけど」

「どれかに絞れっての」


 ユウタは、ヘルトムーア王国の城塞を攻撃してさっさと降伏させた方がいいと思っている。しかし、戦争は優勢で侵略している状況だ。ミッドガルドを取り巻く近隣諸国と戦端を開いていて、西と北で戦いが終わらない。特に、ブリテン島では泥沼の様相を呈しているというではないか。


「じゃあ、ヘルトムーア王国の何処を攻めたらいいのかな」

「ん? どういう風の吹き回しだよ。ま、アンダーイとイルンはセリアに攻撃されて廃墟になってるって話で次のサンセバスティアンに集結している戦士団を焼けばあとは一気に抜けると思うけど」


 やるの? という眼だ。ゴーレムさえいなければ瓦解すると思われたヘルトムーア王国軍はしぶとい。アルカディア王国と比べればずっと粘っている。もっとも、百年以上も戦いが続いたアルカディア王国と比べてはいけないのだろうが。


 水晶玉から南側の山裾へと転移門を開く。


「うーん」


 街の明かりは、遠目に見てもわかる。飛行スキルを使い、隠形、防壁と展開していく。焼くのか? 街ごと。自問して、迷う。城壁を破壊していく方法に日和ってしまいそうだ。魔力を高めて、赤い光が城壁に吸い込まれていく。朝から盛大な爆発音と共に、溶けていく壁は魔術を防ぐ物でも埋めてあったのか。

 

「町の中を攻撃しない方針?」

「うーん。やっぱり誰でも彼でもってなんか違うような気がしてね」


 4秒ほどで、町を囲んでいた壁が無くなった。同じように作ろうとすれば土壁でも使えばいいのだが。同じく土穴で簡単に穴が出来る。ユウタと同じように、消したり作ったり出来る魔術師が居ない筈がない。世界は広いのだから、隠れた術者が突然出てきてあの世へ旅立つなんてことも想像できる。


「けど、撃った方向、ユークリウッドが攻撃したから辺りに兵隊がやってくるのを釣るってことでいいのかね」

「あんまり気が向かないけどね」


 やることは、狙撃手のようなもので兵隊たちが街からぞろぞろと出てくるところ撃つ。

 それだけなのだが、弓矢が飛んでこれる距離でもない。

 赤い光が人を吸い込んで爆発する。虐殺もいいところだ。


「エリアスは、同じの使えねーのかよ」

「お前、ファイアボールだって連射出来ねーくせに生意気言ってんじゃねーつーの。奥歯がたがたいわせたろか」


 横で顔を真っ赤にさせながら、湯気を立ち上らせる箒に跨った2人組。喧嘩は、他所でやってほしいものだ。戦いは、遊びではないし時折飛来する矢が防壁にあたって砕ける。


「悪かった。落とすの止めてくれ」


 ぐるんぐるんと縦回転するのは、危ない。浮遊してられないと、毒の沼を超えられないし敵に囲まれれば逃げようがない。そんなアルストロメリアは、ジョブ育成も錬金術士だけ。それから、いきなり魔術士に転職しようとするのだ。魔術士も魔力が必要だ。レベルがなければマナも十分ではない。ポーションを作製したところで攻撃方法というと銃剣で、腕前も並みだ。


「いいか。魔女王99レべでもあの一発撃つのが限界なんだよ。分かれよ。あまりにも極太すぎんだって。ただの火線スキルじゃねえ。絶対におかしんだって。あれは、異常なの。城壁には、ふつーに魔術を阻害する抗魔回路を描かれるか石が埋め込まれんだから。再現? 冗談じゃねえんだよ。ぼけっ」

「そーなんだ。てへっ」


 援護射撃を乞うような目線を送ってくる。ユウタは、素知らぬ顔をするべきか迷った。

 油断してない。が、攻撃を避けるように位置を変えながら引く。

 追手を送ることも諦めたのか、敵兵は茶色い煉瓦の街並みから出て来なくなった。


「どーする。兵隊がいなきゃ、俺らもどーしようもないぜ」

「そもそも、3人で城塞都市を攻撃しようってどうかと思うわ」


 オマケでついてくるアルストロメリアは、手を横にひらひらさせた。

 殴りたくなる顔だ。ユウタは肉体がガキの年齢。だが、中身は爺どころかガキ同然でまるで精神の成長していない。経験が豊富になって慎重になるだけで、やることなすことさほど子供時分と変わらないものなのだ。屋敷に兵はいない。足元の木々を見て、燃え盛る彼方の平原を伺う。


「徴兵すると、お金が無くなってね。こればかりは・・・」


 国家の殴り合いが戦争だ。


「ふーん。俺んとこの兵隊でよければ貸してやってもいいぜ。10日に1割利子でさあ」

「それ、どうみても借り損」

 彼女たちに限らず女とは、度し難い生き物だ。 


 そして、戦争は外交の失敗というが全く埒外である。互いに蛮族なら、もう相手を殺して土地なり資源なりを奪うというのが手っ取り早いの精神なのだ。殴り合う人間同士を、どうして止められるのか。酒でも飲みかわすのか。その前に殺されるか囮に使われて糞袋に変身だろう。やはり圧倒的な力でもなければ、無理な話だ。それこそ核兵器のような抑止力でもなければ、人はむかつけば殴るものだ。


(モヒカンと髭を戻す。コーボルト王国から兵を引き上げさせよう)


 数人では限界がある。

 兵士が必要だ。暴力装置が全てを解決してくれる。言葉は無力で、何の力もない。


 今のところ、究極の科学兵器こと核ミサイルは見ていないし。飛来する長細いそれを見たら、ユウタ達が死ぬ時だろう。

 地続きの国同士、手打ちという考えは持たないのか。アルーシュたち王族が決めることのなのだから余人には知れない何かがあるのかも。興奮物質が脳を刺激しているユウタ。しかし、終わりの見えない戦争が嫌いだ。街を覆う外壁を破壊していくことにした。




 

 


挿絵(By みてみん)

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