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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
二章 入れ替わった男
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513話 やはり詐欺は・・・

 壺売りは、皆殺しだった。詐欺師だからだ。詐欺は、重罪。

 日本のように甘っちょろくない。放置もされない。解散命令なんてないのだ。全員その場で挽き肉か拷問ののちに火刑か。彼らはそれを知ってか知らずかやるのだ。見逃しもなく死刑である。

 どうしようもない基地外は、どうして殺せないものか。そんな事は、ない。ただ馬鹿なだけだ。


(野放しになどするものかよ・・・)


 ユウタは、消費税に次いで詐欺師が嫌いだ。人を騙して金をふんだくるとは如何にして、殺るか。

 灰色の壁に魔力を帯びた光がぼんやりとランプから放たれている。

 左右と後ろに歩く面々は、黒い帽子、皮兜、日本風の兜と額当てをしていた。


「詐欺、強要、詐取、暴行、こんだけあれば、火刑でもお釣りがくるさ」

「奴隷刑でよくねって、異世界人がらみかあ」

「あいつら」

 不自然に人がいる。衛兵ではない。先方の恰好からして冒険者の集団だ。


 視線を向けた通路の先には、黒い逆毛をした皮鎧姿の男がにやけ顔で立っていたり・・・そんな事があるのかと徒党でいる。通路の中央左右に隙間はない。奥にも衛兵の姿も見当たらない。つまり、因縁をつけようというのだろう。気付いたが、まさかといきなり火遁で一掃する訳にもいかず様子を見てしまった。

「おう、やんのかこら」と、チンピラ声はエリアス。三角帽子の下に青い目を細めて手には杖を構えている。


 だが、しかし彼らは嗤い声を上げ通路を塞いで受付へと行かせないかのようだ。日本と違ってチンピラというのは呼吸するように沸いてくる。なんなら、子供だからか鞘に手をかけたまま進ませないように立つと、


「お前ら、・・・」


 頬に傷がある男は、10cmの棒のように圧縮されて倒れた。先頭から順に倒れていき塞ぐ者が居なくなる。20人ほどで逃げようとした者もそうでない者も一纏めになった。気勢を制したのは、ユウタのスキルである。相手に防御を許さない。これがマスト。


「お前の攻撃だよな」

「まあね」


 余人はない。物音一つなく排除だ。衛兵が駆け寄ってくる前に、死体置き場と化す黒い穴へと手早く放り込む。エリアスの氷、シルバーナの剣は無音。トゥルエノの雷はばちばちと派手な音がする。アルストロメリアは、銃でもっと音が響く。


「一体、どうゆう攻撃なんだい」

「それは秘密ということで」


 なんてことはない。そう人形使いの操りスキルだ。己のレベル以下の敵を強制的に操作する掌握。

 対象を棒立ちにするものだが、使い方次第で丸太同様に細くできる。地面に血が大量に出てしまうのも水の術で洗い流して証拠も隠滅だ。4人も味方が居たら逃げる事もできない。先手必勝あるのみだ。


 ユウタは舐められるのが大嫌い。道で人と行き会うのですら嫌う。


「いいけどさあ。穏便にしても時間がかかるか」


 手にした黒色の銃を腰のホルダーにしまいながら、幼女が横を歩く。隣には、鎧袴姿をした少女。

 反対側に黒いローブと三角帽子の幼女でそのまた隣に、黒い皮鎧の幼女が歩いている。

 男1人に4人の幼女では、舐められるのも無理はない。そんなパーティーがA級ダンジョンへと入っていく。おかしいと。彼らは、思ったのか? もしくは、数に任せてかつあげでもしようと・・・


 ユウタは、受付へと行き衛兵に動きがないのを見やりながら転移部屋へと進む。


「ドロップが糞なのを除けば、不満ねえんだけどな。あ、あったらいいなってことで」

「はー、お荷物がゲロ吐くんじゃねえ。ユークリウッド、お前もたまにはなんか言ってやれっての」

「いや、その通りだからね。俺の周回に付き合うとね。おかしいと言われる」

 

 転移門へ入らない幼女が1人。


「あー・・・やっぱ騒ぎになるだろうから、俺が後始末してくわ」

 

 と言って、アルストロメリアは入ってくるお供3人に出迎えられて残る。いつの間にか寄ってきたのは、何処にでも居そうな男女だ。


「どういう風の吹き回しかねえ」

「うっせ、うっせ。いくらなんでも20人以上掻き消えたら説明が必要だろっての。そんだけだぜ」


 ひらひらと手を振る。


「あいつ、経験値稼ぎが終わったら抜けやがった」

「効率的というかねえ。何とか言ったらどうだい」

「いや、説明は必要かも」

 トゥルエノは頷いている。


 ハイデルベルクへの門を通り抜けていくと、雪が降っていた。場所、というと案内されるままに屋敷らしい屋敷は、まだ都の片隅にあった。空が灰色で寒いのに薄着なので黒い毛皮のコートを手渡していく。


「この屋敷なんだけどねえ。特に、異世界人たちと戦う覚悟は、出来てるかい」

「今更だろ。こいつが異世界人びいきなのは知ってるけど、な」


 ユウタは、困った。さて、一体どんな悪人かというと、何も知らなさそうな学生風の男子たちに見えるのだ。水晶玉からは、敵の内実がよく見て取れる。屋敷からは見えない位置で、囲むのはシルバーナの手下たちだ。空の雪は、秋であっても無情に地面を埋めていく。 


 腰には剣、或いは槍といったいで立ちで、女生徒の姿もある。それらを殺していくのか?

 自問して、


「彼らは?」

「脱走者さ。管理施設から逃亡するのは、厳禁と知ってそれをするとなれば死刑でもって処分するしかないんだよ。なまじ知識があるからLVを備えられるとハイデルベルク兵で抑えが効かなくてね」


 なるほど。ユウタは、考えた。生かして捕らえる。しかし、勝てるとは限らない。たまたま勝って生きているだけで、敵が必殺の技を持って先手をとってくればやられるのだ。日本ではないのに、脱走するとはどういうことか身を以て知ることだろう。彼らの仲間でもなく話をした間柄でもない。哀れな転移者といったところで同情もない。


 本当に? いや、しかし壺売りなのだ。身から出た錆び。無理やり己を納得させるしかない。


「ユークリウッドがやりずらそうだから、俺が始末してもいいぜ」

「あ、ちょっと」


 と、魔力を帯びた青い輝きが杖の水晶を輝かす。同じように水晶玉を映しながら、氷の中に閉じ込められていく異世界人を見ている。無防備だ。慌てふためいても、スキルやレベルで防げない術の効果で氷塊と化していく男女を見つめた。


 逃げられた者はいない。敵に魔術を良くするものはいなかったようだ。剣を交えるまでもなく終わったのに、


「あんたが、始末しないといけないのにねえ。全く、エリアス様のお優しいこったよ」

「あ~~~、何が悪いってんだ。ユークリウッドが、異世界人を依怙贔屓してんのは知ってんだろ。それなのに始末させようって、何考えてるんだかよ~~ったくさあ」


 黒い帽子の鍔の下でぎらつかせた目と裏腹に口元を緩くして、ユウタを見てくるのだ。気味が悪くなる。妙に優しい。

 

「して、異世界人の後始末はシルバーナ様の家臣がなさるのか」

「んだよ。だからって、ねえ。まあ、しょうがないね。アル様はねえ。危ないのを野放しにしないしね。かといって、送り返す気もないみたいだから大人しく過ごしてもらうしかないさ。それか帝国の送還門に行くかって黒竜が守るとこにね。ま、無理な話さ」


 紫の髪を涼し気に切りそろえた少女は、首をかしげる。

 何故、と思ったがさもありなんというか。LVを身に着けると領主に刃向かったり、冒険者として活動しても、素材を根こそぎにしたりととんでもないケースが多いと言われれば黙るしかない。


 そんな彼らがLVを上げても、魔術に対抗できないと死ぬ。魔術無効など存在するのか。見たことはない。ユウタは、当たったら大体大怪我したりしている。ファンタジー世界には良くあるチートものだが、ユウタにしてもエリアスの攻撃を受ければどうなることか。

 

 黒い三角帽子の鍔に手をして、にこにことしている幼女が何を考えているのか知れなかった。


「なんかあっさり片付いちまったけど、あたしは残るしかないか」

「残るって大丈夫かよ。ちっと時間潰してこうぜ」


 離れていく皮鎧の幼女は、駆け寄ってきた男2人に連れられていくようにして去った。

 どう時間を過ごそうというのか・・・


「というと、増援か残党でもいるんか? どうするよ」

「ふーん。じゃあ、寒いし肉でも食べてるかな」


 肉を食って過ごすか、ぼーっとしているかしかなくて困る。


 左は、山で通路は石だ。雪が降っているので、石を積んで丸太をきざんで火を付ける。

 盾で肉を焼く人間もいるが、素直に鉄板で焼く。ユウタは肉が好きではないけれど、肉は美味しい。

 一般的に、タレでもつけて食べれば大抵食ってしまう。取り出したのは、補給品の塩漬け豚肉。


 豚肉と鑑定して乗せる始末だ。雪を避けるように赤い傘を突き立てて広げる。紙で出来ているけれど、魔術的防御も作用する優れものだ。狙撃くらいなら防げる。


 1人離れて4人になっている。白いお椀に茶色いタレ。ゴマと塩とをすり合わせたもので、大体塩があればなんでも食える。左右の女2人にして男1人。奢って当然では、男女不平等なのだが、


「シルバーナの奴がかわいそうになってきたぜ」

「さてどうでしょう、ユークリウッド様はお食べになりませんか」

「ちょっとね。ほら、少しくらい」


 焼くのはいい。しかし、食うとなると微妙だ。ユウタはデブへの恐怖がある。


 肉は、好評だ。豚を想像すると、またユウタはげんなりした。ミッドガルドには豚が存在する。豚人も存在する。そして、牛も牛人も存在する。ということは、知性があるものを喰っているのだということだ。といって、肉を喰わないとすぐに筋肉がなくなる。筋肉がなくなると身体能力も落ちる。セリアに負ければどうなることか。


 雪が降っているのに、バーベキューをしてしばらく果実の汁を飲みながら様子を伺う。

 魔力の高まりもない。ユウタよりエリアスの方を見ても、首を横にしながら肉を頬張っている。

 どこまで喰う気なのか。肉を提供するのも、焼くのもユウタの仕事になっていた。


「なあ、これさ店でも出そうぜ。夜は、すぐ寝ちまうから滅多に食えねえんだよな」

「大変おいしゅうございます」


 行儀良く口元を隠す少女にがつがつと1人で頬張る幼女が対称的だ。敵が襲い掛かってくるには絶好のロケーションなのだが、その気配はない。奇襲するには絶好の地点で、周りに人というとシルバーナの手下くらい。


「異世界人というのは、一体何をしているのでしょう。どのような目的があって壺を押し売るのか測りかねますね」

「そりゃ、お前さん、金だよ。金。こいつみたいに腐るほど金が有る訳じゃねーんだから。そりゃねえ。やるだろ? 奪うより吐き出させた方が効率いいしな!」


 悲しいことに異世界人というのは、モラルも糞もないのだ。ユウタが不思議に思うのは異世界にやってきた人間がチートスキルを持っているという点で、ユウタは何も神様から貰っていない。会ったこともないのだが・・・


「金の為に、人を騙すのは良くないよね」

「騙して金子を奪う・・・」

「そんな異世界人を優遇するのっておかしいよなあ。だから頭がおかしいんじゃねって。消費税っていうとユークリウッドが怒り狂うけど、そこら辺都度説明しねえとな」


 消費税。エリアスは知っている癖に説明させようとは。シルバーナは、戻ってこない。


「一言で言って、社会を衰退させる税なんだよ」

「それじゃー大雑把すぎるだろ。200000ゴルの建物を建てるとしてだ。220000ゴルかかるが、中身は100000ゴルの素材で出来るとか言わねえと。すると、どうなると思う?」

「立派な建屋は、出来ませぬ」

「そういうこと。貧乏になっていくんだよね。その社会が発展していかなくなるんだ。だから、反対するけど、俺が言うと何故か戦争に参加しろと脅されるし。ほんと困る」


 税を取り立てる側になったが、貴族以外を重税にするというのが基本だ。

 大多数を相手に五公五民では、反乱が起きる。日本なら問題ないのだろうが、武器を手にやってこられれば普通に殺し合いになる。貴族が、それを許すかというとないので徹底的な弾圧がされる。

 ストライキと一揆は似ているのだが・・・


「戻ってこねーじゃん。帰るか、どっかいこーぜ」

「まあ、そうしようかな」


 振ってくる雪と白い雪山を見ながら、腹がいっぱいになったのかエリアスは眠たげに目を擦った。

 

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