7話 王都で家だ! (ユウタ、盗賊、セリア、モニカ)
某日某時刻、とある盗賊のアジトにて。
そいつは突然アジトにやってきた。ピィィ。敵襲を告げる笛だ。
「何事だ!」
仲間の一人が警戒の声を上げた。笛の音と同時にアジトの扉が開くやいなや、火の玉が次々とメンバーたちを燃やしていった。室内にモクモクと立ち込める黒煙。なにかが燃えているのか、煙で息苦しい。草だ。草が地面から猛烈な煙を吐き出している。
一体、俺達のアジトで何が起きているんだ。
【ファイア】の呪文? それをこんなに連射できるものじゃない。騎士団か? 大量の魔術士がきているのか? それにしたって、手際の良すぎる奇襲だ。アジトの入口付近を見ると、そこにはまだ若い少年一人立っていた。生きているメンバー達が怒りの咆哮をあげる。
殺す。すぐさま殺す。腰のナイフを引き抜き、駈け出す。入口に立つ少年に突撃すると、そいつは逃げだした。
「おのれ! 逃がすものかよ!」
仲間の一人がそう叫ぶ。皆、怒りにかられていた。あの馬鹿野郎を八つ裂きにしてやる。煙を大量に吸って倒れる仲間は、捨て置く。扉に手を掛けた所で、外に出たメンバーの悲鳴が聞こえた。何が起きているっていうんだ。
外に出るやいなや、何かが胸に刺さる。これは、槍だ。胸からは、ぴゅっと血が噴き出す。急速に、目の前が真っ暗になっていく。糞・・・・・・こいつは化け物か。ガキだってのに、なんの表情も浮かべてねえ。ダメだ。みんな逃げろ。
こいつは・・・・・・悪魔だ。
◆
奴隷を2人加えて、俺は気分がよくなっている。冒険者ギルドに行き、王都に飛ぶことにした。受付嬢に聞くと、都市間は【テレポート】ではなく長距離用の【ゲート】を使うらしい。あと王都でのテレポートは外のスペースか専用のスペースの制限が強制と。つまり、建物の中には【ゲート】で転送室に飛び込むのがいいみたいだ。
壁の中に入りたくなければ。慣れれば、そうでもないみたいだが。ついうっかり壁に入る者は居るらしいが。肝心の【ゲート】だが。ギルド内にいる魔術士に頼めばいいようだ。だが、ゲートを開くのに1回につき500ゴルとはぼったくりではないだろうか。
ちなみに、【ゲート】は魔術士のスキルだ。普通PTは冒険者と魔術士、治癒士が固定になるとか。俺は魔術士のジョブは持っているし問題ない。多分【ゲート】の魔術も使えるはずだ。【ゲート】の使用法としては、こちらに帰ってくるポイントを決めておくのが仕様にあると。
とにかく魔術の【ゲート】を使って、王都に飛ばしてもらおう。転送部屋と呼ばれる部屋の前に立つ魔術士に交渉して、【ゲート】を出して貰うことにした。
「それではよろしいか? 魔術の神よ、その力にて人をかの地まで運び給へ《ゲート》!」
おお、なんか光る門。どこ○もドアがができた。触れるとテレポートと仕様は同じなのか? やはり向こう側が頭に浮かぶ。同じ王都のギルド内にある転送部屋らしい。【ゲート】を使ったことがなかったのでなんか感動だった。出口の様子を確認すると跳ぶことにした。
転送部屋からでた王都の冒険者ギルドはでかかった。なんといったらいいんだろう。大きさも3倍なら人はまるで溢れるばかりでごった返すありさまだ。これじゃ、テレポートやゲートを不用意に開くのは邪魔だろう。自然と、壁際かね。はたまた、邪魔にならない外で開くしかない。
モニカもセリアも特に驚いた様子はない。経験済みなのか。俺だけがお上りさんかよ。冒険者ギルドの受付で王都の地図や冒険者用ガイドブックを買う。500ゴルか。あれえ? 安いような。アーバインのが高いのか。比較してみると、アーバインのにはダンジョンのマップがついていた。
なるほどね。それで、家だ。奴隷たちに尋ねてみる事にした。
「なあ。家買いたいんだけど。どこで買えばいいんだ?」
俺は、セリアとモニカに聞く。モニカがもごもごと口を動かそうとしている間に、セリアが教えてくれるようだ。
「それならこっちだ。・・・・・・ここ王都には住宅を扱う店がある。案内しよう」
「セリアさんは王都に住んでらしたことがあるんですか?」
「・・・・・・昔の話だ」
いや昔っていうほどじゃないんじゃないか? 10年前とか? ふーむ。俺としては疑問が尽きない。だが、つっこんだ質問をしたら噛まれるやもしれない。ここは、自重しよう。セリアの身体能力は、おそらく段違いで俺より上だろう。
訓練すると、ワンツーだけで撲殺されそうになった。顎の骨が砕けていないか心配なほどだ。これで、なんで奴隷になってしまったのか。全くの謎である。ギルドの外にでると、目の前は騎士団詰所じゃなかった。王都ではまた立地が違うようだ。
道具屋、武器屋、防具屋になっている。服屋がないのが残念だ。道中色々考えていると、不動産屋までついたようだ。中に入ると、受付嬢が相談に乗ってくれた。
「いらっしゃいませ、本日はどのようなご要件でしょうか」
「家を探しています。できれば、治安がよく防犯に向いた場所でお願いします。家が改造のできる物件がいい。1パーティーほど生活できる場所が好ましいです」
「わかりました、少々おまちください、ご予算はいかほどですか?」
「30万ゴルまでで、お願いします」
小声でモニカが話しかけてくる。
「あの、まさかご主人様相場をご存知ないのですか? その大きさの邸宅でしたら12から18万程度ですよ」
「モニカありがとう」
ふんだくられるところだった。知らないことのが多いのな。モニカには経済の観念がある様子だ。当面は頼りにさせてもらおう。待っていると、受付嬢が裏から戻る。
「お待たせしました、こちらがリストになります。よろしければ現地での確認もされますか?」
上から9 12 12.5 13 15 18 20 27 30。
ふーむ。
「あの、この相場よりも上の金額になっているのですが」
「一応ですが、邸宅は広さと大きさが最大になるようご予算に検討して載せました」
なるほどね、気を利かせてくれたわけか。気が利くっていい事だ。
「そうですか、現地の確認させてください」
「手数料とテレポートで50ゴルよろしいでしょうか」
うむ。徒歩でいくことなんぞ、時間の無駄でもある。ここは払っとこう。壁の中に入る事はないよな? そこだけが心配だ。
「では、お気に召す物件が御座いますよう。それではこちらでございます」
受付嬢に、テレポートで連れられていく。だが、全部回らず途中で決まってしまった。セリアが或る場所で、ここがいいと言うのだ。4番目の18万ゴルのところだ。ちと、王都の外れのような気もするが。気のせいかな。しかし、セリアに訴える目でみられたら瞬殺された。
身体も暴力的だ。だが、その瞳も殺人的だぜ! オーケー。そこにしよう!
「あのご主人様よろしいのですか? ギルドからは遠くなりますし、利便性は低いようなきもしますが。あと水源がございません。水を得るのに苦労しそうですが」
「防犯用に敷地の門にいたるまで、防転移がしてございます。防犯に庭と邸宅の広さが売りで、御座いますね」
「んーまあ、任せたまえ」
決まった! これも主人の甲斐性の見せ場である。主人として、結構役に立つアピールせねば! あれなんか違うような。受付嬢が契約について説明する。これもキューブに書き込み方式だった。契約を終えてから、早速テレポートする。荷物らしい荷物もないのだが。
風呂場がないので、速攻で風呂をつくることにする。生活するには、色々と生活用品がいるな。
「セリア、ここ王都に詳しいのだったら案内を頼みたい。いいかな?」
「ああ、わかったご主人様。どこにいけばいい?」
「生活用品全般だ。とくに、湯船とか、給水塔もいるな。製造するところがあれば頼みたい」
「とりあえずあたってみよう」
どういう組み分けにするか悩む。が、モニカは1人では行かせられない。また拉致られては、面倒だし。
「あと終わったら2人で服頼む俺のも。500ゴルずつでいいか? 荷物を設置したら、また戻ってくるから」
「あのー。これは多目のゴルでは? ご主人様の分も含めてでも、多いとおもいますが」
「俺も着替えがないんだ。色々買い物を頼む。あと、セリアとモニカは2人離れないようにな」
「わかりました。気を付けます」
ちょっと嬉しそうだ、やはり買い物は女性の性か! 色々イベントリに買い込んで、1人で戻ってきた。一応、タンスやらダブルベットやらソファーに椅子にテーブル。その他、湯船を取り付ける。簡易湯沸し用のタライに、お湯わかしとか。いろいろ1万ゴルほどかかった。
風呂がドラム缶風呂よりはずっとマシにできたと自負したい! 給水塔できれば! もっとでかいものにしたい! 風呂を沸かしてる間に、1人で設置と掃除に改良してみる。原始的冷蔵庫もつくる。いろいろ台所を掃除したり、そのまま料理に時間がかかった。
ユウタは料理人を獲得した!
久しぶりに聞いた気がする。あれ? これは。ワシ、主夫へまっしぐらじゃね。主人の威厳みせねばならぬ! と意気込んでみた。【ゲート】の位置を決めると家からでて【テレポート】する。ぶっちゃけ【ゲート】の方が優秀である。ふむ。【テレポート】はゲートの劣化でしかないような? あってるよな。
迎えに服屋にいく。そこに、2人がいた。良かった。逃げられるかと心配になったぜ。だが、なにやら女の子達としゃべっているようだ。こちらに気がついたセリア達が話を切り上げてきた。その女の子達の目線が怖い。俺が何したってんだよ。まるで、その視線は汚物を見るようだよ!
やりきれないし、切ねえ。だが、なんでだ? 奴隷にしたからか? 天罰か。
「あのセリア、あの子達は?」
「昔の知り合いだ。見かけたので話しかけられた。買い物は終えていたので立ち話をしたのだが。ご主人様、不味かったか?」
「いや。なんでもないよ。とりあえず戻ろう」
俺は激しく嫉妬してるんじゃないんだからね! 女の子たちからの視線が切なかったんだ。俺が何したってんだ! まだ、何もしてないんだぞ! 畜生。あんな事やこんな事したるぞ! 俺達はテレポートで邸宅前まで戻る。
「荷物を収納したら、二人とも風呂にはいってくれ」
「ご主人様。風呂を沸かせるなんて、王侯貴族だけだぞ」
「本当に沸いてるから、まあまあ細かいこと言わずに入った入った」
あ、そういえば。石鹸がないか。風呂や桶はあっても洗剤もないから服の洗濯どうするかね。
「あのご主人様からでは?」
「いろいろ用意があるから先にはいってくれ。垢はこれとこれでおとしてな。でたら着替えれるようしてくれ」
「わかりました」
アッーしまった! 一緒に入ろうぜ! 作戦じゃなかったのかよ。すべて間違った気がした。全て燃え尽きたような。どうやら、2人とも洗ってさっぱりしたようだ。くすんだ色になっていた銀髪もすっかり汚れを落とし輝いてるし。つんつん茶髪になったドワッ子の髪はなんかはいってるんだろうか。
なんか湯上り美少女はいいものだと再確認した。あ、これ飲みもんですと出した。二人供いい飲みっぷりだった。魔術スキル【コールド】で氷つくったんだ。そう、水冷やしといただけだったけどね。
原始的な冷蔵庫に氷ができている。あれ。全然、戦闘に魔術つかってない。2人とも布のシャツとズボンがとっても似合っている。2人に再装備してもらうと、俺も風呂に入る。俺のターンは割愛で。みんな見たくないだろうしな! 食事は、その卵巻きと野菜炒めしかできなかった。
「飯ちょっと残念な感じだけどすまん。左右に座ってくれ」
「ご主人様とご一緒にご飯か?」
「ん? 何か問題が?」
奴隷とスキンシップは出来ないが、食事を取る事で忠誠心を上げよう。そういう作戦だ。勿論、下心はある。え、男なら当然だろ。もしかして、俺にはない。なんて思ってた? モニカが口を尖らせているな。
「ご主人様。奴隷と食事をともにするなどありえません」
「まあまあ、いいからいいから」
煙にまこう。西洋ではたしか奴隷だろうが家人なら運命共同体として一緒に食事したんじゃなかったっけ。違うのか? 2人を無理やり座らせる。
肝心の食事だが・・・・・・。
2人して残念そうな顔をするのはやめてくれ! 泣くぞ俺。男子厨房にはいらずな社畜の料理、その最初の一歩だ。もう爺じゃなかったわ。爺だったかもあやしくなってるけど。ジョブ料理人を持っているし。俺だって素材さえあれば、いつかは腕は良くなるよ!
俺達の食事も終わった。そして、盗賊退治用アイテムをこしらえる事にした。簡単に作れる上に多数を相手にするなら、必須のアイテムだ。2人にはスラム街の盗賊の退治を伝えてある。
リメンバーアーバインだ。迷宮に入るのに、盗賊たちが邪魔すぎる。
キューブステータス サナダ・ユウタ 16才 冒険者
装備 鉄の剣 チェインアーマー 銅のメット 皮のブーツ 木のバックラー 銅の篭手
邸宅有り セリア 人狼 モニカ 戦士
スキル テレポート PT編成
特殊能力 なし
所持金47万弱ゴル
次回逃げろ盗賊たち!