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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
二章 入れ替わった男
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512話 お座りはやめられない

挿絵(By みてみん)

 漫然と過ぎる日々。天変地異も起きない。

 ユウタは何がしたいのか。

 最初は、ハーレムだった。女がいない生活だったから、やりまくりたいと思ったものだ。

 しかし、


(女が居ても面白おかしく生活してるわけじゃないな・・・)


 ぺったんこの女を見ても、やりようがなくまた犯罪者としか言いようがない。

 とっくに世間的に見れば犯罪者なのを思い出して、瞬きした。所詮地獄行きなのだと。

 

(日本人でも異世界行ったら人殺しまくりというのは、なんなんだろう)


 戦争、女、他には? そうかといって娯楽が、ほぼない。

 漫画もテレビもゲームなく何なら戦争が娯楽ですらあるようなのだ。

 そして、女に突っ込むだけの生活で良いものだろうか。と、悩んでしまう。毎日があっという間に過ぎていくのも恐怖だ。ユウタとしては、それで敗北するなどあってはならない。もう既にセリアに負けそうだ。というより、殴り合いしても面白くなくて相手は楽しそうなのが困りものである。


(彼女は、なんで殴り合いが大好きなんだろう・・・)


 世にも稀に見る戦争大好き幼女だ。


 まるで疲れを感じない身体をベッドから下すと、黄色い毛玉、白い毛玉、白い石を撫でていく。

 迷宮に潜っても緊張感がない。マンネリ感がある。ともすれば、動物園と化した部屋でくつろいでいるのもいい。目を輝かせて鎮座する魚から狐、蝙蝠まで見るに奇怪だった。目が光っているのだ。


(なんなんだ・・・)


 居候たちから放射され黄金色に染まる部屋を逃げるようにして出る。


 白いシャツに黒い外套を羽織る恰好だ。階段を下りて、朝食を取って玄関へと向かう。


「兄上、おはようございます」

「おはよう」


 素振りをする2人の弟に出会った。父親はいない。ユウタから見ると如何にも努力が足りない。

 しかし、これで素振りをして頑張っている。子供のうちから迷宮に行く方が異常なのだ。

 ユウタは、2人からじっと見つめられるとそわそわした。


「何か」

「剣のご指導をお願いできれば」


 遠慮がちに言う彼らに何もしないのか。気が引けるものだ。


 僅かに低い2人は、上目づかいをしてくる。

 白い上着に小麦色のズボンを履いていた。貴族であってもそのような家だ。

 ユウタは、鼻の頭掻きながら、やおら木剣をインベントリから取り出して手にする。


(長男、だいたい踏み台にされがちなんだよな)


 構えたのは、クラウザーで正眼の構えをした。ミッドガルド王国に、剣道なんてものはないが正面に剣を突き出す基本の構えである。スキルを使うまでもなくレベルの差があるのだ。手加減は必須と言える。


(ぼこぼこにするというのも大人げないよなあ)


 よくある上段に構えた瞬間に胴を抜くというのは、余程の鈍間だ。

 同じようにして木剣を構えて動かない。頭を木剣で突ける距離であってもまだ動かない。

 ぴくりと、反応があった時にはユウタの手がクラウザーの手と首を押さえて木剣は地面に落ちる。


「これは」

「剣だけに気を取られていると、こうなるという見本だね」


 単純に動きで上回っている。繰り返し腕を掴んでいくが、やはりユウタの動きについてこれない。

 彼らの腕前というと普通の兵士とどっこいどっこい。特別に剣技が優れていても、斬り倒せるものだろうか。ユウタは、魔術が使えてしかも刹那に火の玉であれ土の飛礫であれ飛ばせる。ひとしきり打ち合いに応じて、


「ここまでにしよう」


 父親の気配が近づいている。


「ありがとうございました」


 逆毛にした金髪の額に汗が、びっしょりになって言うのだ。冗談のようであるが、滝のようになった汗を見てユークリウッドの身体は疲労していない。汗一つ無い。便利な身体である。歩きながら、外へと向かう。金、権力、それらを得る為の暴力である。

 

 剣技を磨くのは良い事だ。ユウタとしても、どこまでも修行しかない。魔力、スキル、それらで相手を殺す。そんな事ばかりだ。地獄へ行くしかないわけであるが・・・


(彼は、彼らは、騎士になるのかな)


 やめておけと、言いたい。2人の自由なのだが・・・


 2人が何になりたいのかによる。剣の技を磨いても、魔術が使えないとただの的にされがちなのが戦争だ。魔術を修めた剣士と出会えば手も足もでない、概ねそうである。剣の長さしかリーチがないのと、火を筆頭にした飛び道具は火砲も顔負けだ。何もないわけではないし、技の打ち合いに慣れて切り払いスキルで凌ぐことができればチャンスはある。


(いきなり戦場にはでないだろうし・・・心臓が痛くなりそうだ)


 いざ、という時がこないのを祈るしかない。Sの字を描く入口への道を歩いていると、


「おいっす」


 手を振って歩いてくる女が4人。ユウタは、増えたり減ったりする人数とまた何か別の業務が追加されるのかと身構える。黒い尖がり帽子の女がぷかぷかと箒の上で、胡坐を組んでいた。スカートだけにパンツが見えるのかというと長すぎるそれで見えない。


「おはようございます」


 揃って会釈を交わし、揃って門へと向かう。アルストロメリアは丸いパンを彷彿させるかのような青い帽子をしていて、青色の外套を羽織っている。白いシャツに青いスカート。足は白くぴっちりとしたパンツかステテコといった様子。

 にぎにぎと揉み手する。何を考えているのか知れない。度し難いのが女という生き物だ。


「忙しいんじゃないのかな」

「忙しいに決まってんだろ。でも、まあこうやって4人も集まっちまってまあ。別段、俺でないとできねーのもないし」


 帽子を弄りながら両手を組んでいる。空は、雲有りの晴れ。天気予報はないからどうなるか知れない。


「ん、迷宮にいこーぜ」

「あんたそればっかりじゃないのさ」

「いや、そうだけど、、お前だって出遅れてんだから追い付かねーと生ごみ寸前なんだぜ。俺ら」


 にぎにぎしく黒い皮鎧の幼女へと顔を向けて喋る。


「塵って言うじゃないよ。実際、そうであってもさ」


 なんだか元気の無い発言に、茶色い髪の毛で隠れている目は充血し殺気を帯びていた。


「ンなこと言ってると、とんでもねーとこに連れてかれるぞ」

「とんでもないとことは?」

「あんたまで興味を示してもらっちゃこまるんだけどな。なあ」


 手っ取り早いのは、奈落、縦穴型の迷宮だろう。真っ赤な血か何かで彩られた血滝。こちらも縦型。

 上空へ伸びる豆の木と反して、冒険者を殺すので人を拒絶していた。時間と空間がねじ曲がったかのようなというか実際には転移門が使えないというのだから脅威でしかない。ユウタはというと使えるので、いつも非難を浴びる。エリアスは、狂いかけるので長くいられない。


「滅んだ系は、どう」

「それでいこーぜ。間違ってもこいつら、正気を失ったら元通りになる保証なんてないんだからよー」

「それは、どこなのですか」

「こいつに、案内させるさ。なあ」


 門を出れば、いそいそと待っていたのはオデットとルーシアだ。考えてみれば、何故彼女たちは揃って待っているのか。しかし、口にして言うこともないままだ。ユウタが考えていることは凡そ妄想に近い。なんなら、一緒にいる4人にしてもだ。


 挨拶しながら、様子を見るに制服を着ている。青と白の上着とスカートも紺というとアルストロメリアと似通っているものの細部が違うとしか言いようがなくて、じろじろと見るのも良くないことに気が付いた。

「別段、学校に行かないといけないもんなのかね」

「というと?」


 転移門を開いて、場所を変える。向かったのは、アルカディア領の迷宮だ。


「あいつらは、めっちゃつえーじゃん。学校行く必要なくね」

「行ってから転移門で移動するんだよ。何処にでも行けるから俺らみたいなことは必要ないのさ」


 奇異の目で見られながらも声を掛けてくる人間はいない。紫色の髪を纏めた少女は、視線をせわしなく移している。着物に胴鎧と具足。枯れた色の草鞋というのは新鮮に映った。皮靴というのは気に入らないのか? わからないものの・・・


 女4人に男1人。非常によろしくない面子である。どうして、こう付いてくるのか。ユウタは、考えたがどっか行け、とも言えない。記憶を探っていくとどうにも後悔があるからだろう。


 もう思い出せもしない顔のない少女のことを。服も思い出せない。


「で、竜が降ってきて火を吐くところは止めてくれよな」


 向かうのは、滅んだ国の城だ。扉に入ると黒い渦があって、そこへと導いてくれる。

 入場料は、とられるもののカードで通過した。

 目的の扉には、番兵も居て入場者を改めている。


「ところで、そこで何を狩るのでしょう」

「うーん。まあ、お座りしててもらうくらいかな」


 開いている場所というか。狩りをしている者もほとんど居ないのが、滅んだ系である。

 魔物に殺されるなんてざらにあって、しかも生き返るなんて保証もないのが迷宮というものだ。

 死体が残ればいい。そうでない処へ貴族であっても、養殖なんてしない。


「でも、珍しいよな。ユークリウッドが誰かを育成しようなんてよ。こりゃとんでもねーぜ」


 覗き込んでくる顔が余りにも近いので、おでこを指で押す。噛まれそうになって引っ込める。


 入って、すぐに広がるのは灰色の空とくすんだ大地だ。死を連想させる馬車の壊れたものが転がっていてなぜか火が付いている。毎回違うのも特徴ではある。森と道の奥から駆けてくる鎧の兵らしき馬を見て、火線の術を放つ。蒸発するようにして消えた。


「いうまでもねーけど、あれ俺らでも一撃じゃねーから」

「滅んだ城塞、ですか」

「エリアスでもできるんじゃないのかい。出来ない訳なさそうだけどねえ」


 進む道中には、鎧を纏った死霊の兵が斧やら盾を持っているものの電撃でも一発だ。

 錆びた斧や錆びた盾が転がっていてそれらを回収するのは、エリアスの仕事である。

 4人で均等に割れているのだろうか。


(うーん。この既視感)


 ユウタは、何処へ行っても物拾いの役になりがちだ。雷を撃つ少女も浮き板を用意するとお座りした。


「これでいいのかねえ」

「ユークリウッドがそうするなら、良いってことよ。なあ」

「良くは、ないよ。ただ、時間が惜しいだけで」


 つまり言って、のんびりと少女たちがどう戦うのか見ていてもいいのだ。しかし、襲ってくるのは骨がむき出しになった狼もどきだったり骨の兵士だったりで手ごたえがあるのかないのかわからない。駆け寄ってくる骨の馬に乗る大盾の鎧兵へ石を投げる。ぶつかった盾に穴を開けて、石が残る。魔石だ。

 

「こいつは、まあまあじゃん。それよりぎゅんぎゅんレベルが上がるんだけど、こことんでもなくやばいとこなんじゃねーの」

「そりゃー頭がおかしくならないのでレベル上げやすいのってったら、ここかミッドの地下だけどあっちはアル様が許さねえからなあ」


 瓦礫になった跡地らしき場所へと進む。立っているのは、いかにもな腕を生やした魔物だ。灰色をしているのは、謎だが巨体だ。ユウタ達を感知したのか駆けだしてくる。肩から生える腕としわくちゃた顔面は人間なのか不気味さをかもしている。謎を解くということもないままに横殴りの棍棒が来た。


 受け流しながら、両の手で胴を突けばぱっくりと割れる身体に稲光がして横に周る。手は左右に2対。

 攻撃した棍棒と節くれだった肩の手は、反応していない。刹那に放った丸太がインベントリから突き刺さる。燃え上がって弾けた。死体は、燃え落ちて灰しかない。


(こいつらは、俺を便利に利用しているだけなんだよな・・・)


 だとしても、邪魔っけにはできない。


「腐った毛とか取れても、こいつは微妙すぎるぜ。周りにも何もねーし、マジで経験値だけだ」

「いいじゃん、いいじゃん。こういうので良いって。なあねえちゃんもそう思うっしょ」


 刀に手を添えた少女へと笑顔を向ける幼女。にへらっとしていて奇妙な笑顔に見えた。


「これでよろしいのならば・・・」


 反応は、違う。女ばかり4人。崩れた壁と何かの跡地へと向かいつつシルバーナが、


「こんな時に言うのもなんだけどさ。壺の残党が見つかったんだよ。ちょっとあんたに手を貸してもらいたいんだけどねえ」

「ちょ、えー。これで終わり? 後でよくね。もう2周。いや1周でもいいって。まだ周ろう、な」

「ありゃ、ここで壺出すんかー。まあ、らしいけど。手に負えない感じだろーね」


 同意を求めたが、首を横に振る。魔物は何時でも狩れるのに。焦るのが理解できない。


 黒い渦に入って外へと出る。四方は石の壁で玄室の中に人はいない。4人とも揃っている。

 ユウタは扉を開けて外へと出ると、番をしていた兵士のぎょっとした顔があってそそくさと通り過ぎていく。売り物になりそうなものもないままで、


「またハイデルベルクかよ」

「そりゃまあねえ。あっこしかないさ。今回は、異世界人もかかわっているからね」


 ユウタは、どきっとした。

挿絵(By みてみん)


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