511話 散歩して、貧民街で
何故、女が存在するのか。
ユウタは、女が居なかったから子供も居なかった。
子供が居ないので、金を儲けてもゲームをするくらいしかなかった。
シルバーナ、エリアス、アルストロメリアとくっついて行動している。
(忙しいんだけど・・・)
1人ならばどうにでもなる。1人なら、気軽に動ける。3人、いや、2人はお荷物だ。
空から眺めながら、セリアの行方を追う。雲は、少々。風があって心地良い。
地面には点になる人影。何故飛ぶかというと、空から眺めて行った方が早いんじゃねっていう。
だが・・・
「あれもこれもやるのって無理だろ」
「そうだねえ」
「わかってんなら、さっさと城の一つでも攻略しようぜ。セリアの奴がまた攻撃してるみたいだし」
ユウタは、男が嫌いなのだ。兄弟であっても嫌いなのだ。それが、わかってしまう。気を使う必要のない関係で孤独でもいいではないかと。女もまた面倒である。ひたすらに面倒なら1人で生きていけばいい。
1人、金と権力を手にして死ぬ。寿命で。
(それじゃあ、また同じなんだよなあ・・・)
転移門を使って、一つ一つ攻撃していけば、一日で終わる。だが、それでいいのだろうか。
町に城が隣接していると攻撃しずらい。中にあるともっとしずらい。
ミッドガルドの城は、基本的に町の中に城がある。ヘルトムーアも大差ない。
「んでも4人で、行かないよな?」
手下は、各々居るものの連れて行くのは無理がある。彼女たちを警護する影は、ちらちらといた。
「なんで?」
「なんでって、あたしは、その無茶だろ」
シルバーナは、防壁スキルを身につけたものの戦えるのか怪しかった。
いや、そもそも年端の行かない女が戦場に出る自体がおかしいというべきか。
ユウタが見る限り戦場に出るのは男ばかりだ。稀にいたとしても、いるのかどうかわからないという。
西にいるであろうセリアも手下の多くは、男獣人で構成されている。男女平等ではない。
「無茶でもなんでもやれよ。やられる時になって、できねーとかだせーこというんじゃねー」
「そりゃ、シルバーナは修行が足りねーって。勘弁してやってもいいんだろーけどよ。ユークリウッド居るし。なーに、死んでも蘇生スキルで大丈夫っしょ」
「じょーだんきついよ」
顔を引きつらせてつつも、帰してとは言わない。ユウタなら帰りたい。
戦い、戦って、戦って終わりがない。人を殺すのは、好きでもない。
この世界では、異端の考えだ。人と魔物を殺すほど栄誉がある。シルバーナは、貧弱だ。
空を飛んで西へ西へと飛ぶ。地上から攻撃はこない。
「シルバーナを連れて行って、何をさせるの」
「戦わせんだよ。わかるだろ」
「いくらなんでもオーラもスキルも魔術だって満足に使えないのに。いじめだよ」
空からの眺めは、良い。エリアスの箒に乗るのはアルストロメリアで黒いスカートから上に白いシャツを着た幼女の腰にしがみ付いている。顔は、強張っていた。
「あたしが言うのもあれだけど、何のために行くんだい」
「何のためって、そりゃあ、お前、こいつが居ればどんなとこもお茶の子歳々よ」
「なんで? 囲まれたらやばいじゃないのさ」
「こいつが、今までどんだけ敵を倒してきたと思うよ。ポーション屋とチンピラ2人くらいゾンビでもならない限りよお。余裕だっつーの」
意味不明な余裕をこく処は、変わりがない。ユウタはため息がでてくるのを隠しながら、周囲を伺う。
敵の攻撃をもろに食らうのは空だ。そして、落ちると死ぬ。たまに飛来する大きな鳥を焼き落としながら、背中に括りつけた人へと・・・
「これでいいのかなあ」
「いっしょに箒に跨ったりしたら、フィナルが血の涙を流すぜ。間違いねえよ」
「そんなに? でも、そんな素振りはないけどね」
すると、黒い帽子の鍔を下げた幼女は、
「お前の正気を疑うのは、そういうとこだぞ」
「そうなのかな」
しかし、わからない。黒い靄が下から伸びてくる。地上、森が見えた。西へと向かう途中なのだが、森が広がっていて畑もない。靄を払うように火線を放つと爆発が起きて、火事になった。黒い靄は消えた。
「あぶねー。やばげなのよく気が付いたな」
「まあね」
下からだけで良かった。が、中空に出てくる気配はない。
「こいつら抱えて回避するの無理だからよー」
「こら、振り落とすなよ」
空を飛ぶ。飛行機でもなくて、飛んでいるのは不思議だ。下を眺めていて目を回さないのも、慣れか。
「あの黒いの当たるとどうなるんだい」
「嫌な感じだから、墜落するか、死ぬか」
「冗談でもきついねえ」
シルバーナは、半眼になりながら汗びっしょりになっている。滴る汗は、生か死かという。
「待ち伏せされてたってわけか」
「んにゃ。それにしちゃ呪いっぽかったし。速攻で飛ばして反撃で全滅するなんて想像してなかったろうよ」
盛大に燃え始めた煙に、水球を放つ。森がなくなっても事だ。焼け死んでもらうのもありではあるが。
「このまま西に行ってセリアの隊に行き当たらなかったら、戻るんだろうけど。迷宮によりたいかなあ、かなあ」
「お前、そればっかりじゃねーか。ちょっとは、セリアとこいつの差を埋めようとかさあ」
「どだいねえのに、無理っしょ。あいつ、ガチじゃん。軍隊もってやりたい放題でユークリウッドは片手間。どっちが使えるって、セリアの方じゃんよ」
わかっている事だ。軍団を形成する。金と暴力の種が兵隊である。
ヘルトムーア王国に戦力らしきものも見当たらないまま山を越え海が見えてきた。
砦もなく警備の兵もない。眼下には、なだらかな緑と端に平地。その先に雲と青い海だ。
高度が上がっていても、レベルのおかげか。ユウタを含めて墜落する人間はいない。
「そりゃなあ。でも、気にしなくていいんだぜ。アル様は、寛大だからよぉ。無理に兵隊を集めなくても困らねえっていうか。集められると困るし」
エリアスの手が後ろに乗るアルストロメリアへと伸びる。ユウタには、どうでもいいことだ。戦争ばかりしているとおかしくなってしまう。迷宮へ潜るくらいで丁度いいのかも・・・
「敵、こないねえ。来なけりゃ来ないでいいんだけどさ。あたしら、散歩しているのかい」
「その通りだぜ」
「海、見に来たっぽいね」
「まあ、滅多に見ねえから景色はいいけどよ」
ミッドガルド王国は、平地が多い。王都だけで暮らしているのなら、田畑ばかりか石畳の街並みを見て育つことだろう。3人は、暇なのか。
「そろそろあたしは、用事があるんだけれどねえ」
「んじゃ、送っていこう」
「待てよ、それから迷宮だよな」
空中で、転移門を開くと四角く輝きで満ちた。
◆
薄暗い通り道に人影もまばら。ミッドガルドの王都だ。
昼も回って日が高い。時計のほとんど無い世界には、陽が頼り。
ユークリウッドが行っていたように日本へと戻る機会もない。
「北区は、貧民が多いんだ。南区の貴族たちにはわからねえだろうけれど」
「んなの誰でも知ってんだろ」
ユウタは、あまり知らない。ユークリウッドは知っていたかもしれない。
「で?」
「壺教会が流行るのも、やっぱ貧しいからでさあ。人を暴徒に変えるのってなんだと思うよ」
金、権力、いずれも持たない人間がやることと言えば、略奪、強姦とくる。
歩きながら、胡散臭げに見つめてくる男たちはユウタたちを見るや姿を路地へと移すか壁へと同化した。
「食いもんがねえ。だろ」
「そうさ。けれどねえ、今の王都じゃ、やつれて死ぬやつは居ねえ。教会から配給があるし、王様からの手当も出る。さて、そうなると人は考える。なんで、金がねえ。仕事にありつけねえ、ってな」
道には、陰鬱とした気が漂っている。女衒は、見当たらない。
引き込み宿もなくなったのかそれとも、陽がまだ高いせいか。
「自分を知って、他人を知って羨ましくなるのさ。人の欲ってのは限りが無いからねえ」
「ひょっとして、あれか。女衒を始末しまくったら、今度は平民がなんか企んでるっていう?」
「そうだねえ。ユークリウッドがやらなくてもこいつは王権に刃向かうってことだから始末しないといけないのさ」
囲む数は、増えている。しかし、敵意はない。
「んじゃ、周りの連中は、シルバーナの手下ってことでいいんだよな。ユークリウッドに言っとかねえと殺されるぞ」
「こっちを攻撃してくるようなら敵さあ。でも違うはず、だよ」
また別の金属音を微かにさせて寄るのが、3つ。
「あの建屋な」
連なって立つ石作りをした2階建てだ。白い外壁で、どことも違いがない。一般的な作りの外観。
「うちのとエリアスにシルバーナのとこまで揃って、突入する、けど」
扉は、打ち壊して金属鎧に身を包んだ兵が中へと入っていく。
「具体的に何かやったわけじゃないんだろ。だいぶ弱いけど、容疑はあれか」
「んー、平民にも権利をってやつさ」
「平等、何か悪いの」
あきれた顔で、エリアスが言う。
「駄目だろ。お前も貴族の一員なんだから、王権に挑戦するようなの許しちゃなんねーよ」
「ユークリウッドは、歴史の授業を受けねーとな」
「人前、うちらだからいいけど。学校でそんなこと言ったら、皆ドン引きするねえ。ボッチ飯食いたいってのなら止めないけどさ」
ぞっとしないが、元々ぼっち体質なので気にしない。しかし、
「平民だと、権利をってどういうことなの」
「それだよ」
「お前、剣も魔術も絶世一等のくせに常識がねーとか。しょうがねえ。シルバーナ、教えてやれよ。俺は、中のが暴走しないか見てるから」
すると、立ったままだった3人に椅子とテーブル、傘まで用意された。雨もないのに傘とは。
「こほん。平民と貴族の違いってなんだい」
「んー、土地があるかないか」
「あっているような違うような、だねえ。まず、徴税権。次に、支配権。三つ、裁判権。貴族は、王様からそれらを貸し与えられて平民を導くのさ。ミッドガルドには、王様が君臨されて1000年が過ぎようとしてるね。それで、おかしいっていうのがたまーに沸いてくる。王様がいるから国が保てて生きてられるのを忘れちまってさあ」
そんなであっただろうか。それにしても、貴族も平民から成ったのではないか。
「そんなだから滅ぶのもいる。ロゥマなんかがそうだね。あそこは、風と水、鷲と狼を祭った国で王様も長くいたはずだけれど」
「狼は、西に行っちゃって国をまた作ったんだろ」
「そんなのが、あるけど王様に見捨てられた国というのは本当に悲惨なことになるのさ。お前さんもネロなんとか村を見てるだろ。あんな感じさね」
生きていけない。文字通りだ。ユウタだって、寝ているところを動く死体やら浮遊霊に襲われたら一たまりもない。
「あたしゃ、生きている間は芋だけの生活とか嫌だよ。王様がやる気出している時は、良い生活したいからねえ」
「ま、とりま生まれた時から、皆、平等じゃねえってことだぜ」
青い外套を脱ぎ扇子で扇がれる幼女は、優雅に手で硝子の果汁を飲むと口元を歪めた。




