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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
二章 入れ替わった男
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509話 やりくり

◆ ヘルトムーア王国 ミッドガルド軍西部野営地


 戦う相手が居なくなりつつある。曇った空に、天幕を張った大地に椅子と机。

 ブーツを脱ぐのは寝る時くらいだ。薄暗いテントの中には、女が2人。

 背丈は、120cmと110cmほど。伸び揃った前髪が銀色を放ち、もう片方は茶色。


 銀色の髪をした女は、ぴんと縦に伸びた耳をしていて白銀の鎧を着ている。

 長く細い手足にも手甲。胸元の紅い魔晶石が輝く。

 机の上には地図と魔晶石を使った灯が置いてあり、茶色い髪の女が紙の束を抱えていた。


「つまらん」

「いつもそれですよね」


 直ぐ倒せてしまう。物足りなさは、飢餓感だ。

 外には、奴隷と獣人の兵隊たちがいる。茶黒の机に魔晶石を入れた明かり。

 白銀色の小手は、数多の血を吸っても奇麗に磨く。敵対するヘルトムーア軍は崩壊して久しい。


(どうして、強い者が居ないのか)


 不思議だった。だから、女は祈った。

 ユークリウッドとどうかにかして戦い、勝ちたいと。ちょっと殴って死ぬ相手は実につまらない。

 しかし、どうにも勝てない。不意を討てば? 勝つだろう。だが、殺し合いではない。

 

(ふむ・・・殺してはいけないからか?)


 段々と高まる攻撃の威力は、地を抉り、山を穿つ。机の上で輝きを移す水晶玉の中には、微生物ほどにしか捉えられない別の女が1人。ユークリウッドがあれこれと世話を焼いている。水鏡の術が映す光景は、物足りない。何故女の世話をしているのか。雌が雄の世話をしてもしてどうするという。


 セリアが求めているのは戦いで、戦いの中にあるものだ。 


「どう思う」

「どう思うって、何をでしょう」


 茶色い髪を揺らすチィチこと牛娘は、弱くないもののまだまだだ。セリアは、考える。

 戦いに蹴りを着けてしまうと、戦う相手が居なくなってしまうからではないかと。

 ヘルトムーア王国には、手ごわい相手が見つからない。むしろ、なめくじ女ことフィナルの方がまだマシな部類だ。

「だから、つまらないということだ」 

「あの、戦争をさっさと終わらせてしまった方がユークリウッド様と遊ぶ時間も増えるかと」

「ふっ、一理ある」


 わかっていることだ。だが、ひょっとして隠れた強者がいるかもしれない。念の為である。

 見つからないから探しに行くのだが、それにしても解せない。

 盗賊もどきと猿女は、弱い。どう鍛えたところで、錬金術師というのだからレベルがあったところでというのに。


「西のビーゴと南のセビーリャを破壊しておくとしよう」


 水晶玉への魔力を絶つ。時間は、有限だ。手甲に爪を生やす。赤い血は、奇麗に洗っている。

 さっさと手じまいすることにした。



◆ 洞窟



 灰色の壁を見て、道を進む。何処までも潜っては、出ての繰り返しにアルストロメリアが、


「今日は、ここまでにしてもらって帰ろーぜ」

「どうしたの」

「いや、お前んちに戻らねーと俺がサンドバックにされちまう」


 不穏な話である。だからといって、戻らないというのもない。


 まだ育成も途中だ。が、ユウタは、転移門で家へと戻ることにした。

 門の前だ。通りは、外灯で照らされている。人の通りはまばらで帰るには遅い時間だ。

 疲れは、感じていないものの横にいる幼女は油汗を浮かべていて入るのにせわしない。


「どうしたの」

「どうしたもこうしたも、遅いって鬼の念話が・・・」


 彼女にだけ念話を送っているというのか。ユウタにはわからないが、誰が送っているのかというと心当たりもあるというものだ。


「急ぐ?」

「まあ、ここまで来たら大してかわんねえんだけど」


 小走りで林を抜けて、玄関から駆け上がった。扉を開けると、羊や狐が眩しく光っている。

 ソファに寝転がったそれらと床で炬燵を囲んでいる面々から視線が飛んできた。

 青い瞳が絢爛と輝く女が、


「遅いじゃないか」

「すいません。遅くなっちゃました」

「ふん。まあ、成果は無しとは言え、悪くはない」


 ユークリウッドは、シルバーナがお気に入り、というよりは悪党が大好きと言っていいのかもしれない。転がっている丸太が気になるが、もう気にしていられない。木の葉っぱからアルーシュは察することが出来る。


(かあちゃんよお。なんでそんなことやってる!)


 ごろごろ転がっている丸太は、手足のように枝を伸ばしていた。

 家臣が見れば、いや気が付かないか。知らないふりをするか。


 誰か突っ込みを入れて欲しい。軽い頭痛がして、なんとなく面白くなくなったりと忙しい。

 ユークリウッドを諦める選択肢は、家畜への道だったりするから選べないバッドエンドだ。

 ユークリウッドを殺そうとすると、干からびたモヤシデッドエンドである。


 目を瞑り、眉間をさする。

 果たして他に選択肢を見える人間がいるのか。アルーシュ以外に居やしないのだ。聞ける人間も居らず、親は、放置するものだからアルルもアルトリウスも変な思想を持っている。


(とりあえず、ぼちぼちなんだが・・・)


 入ってきたら、


「で、あっちこっちに手を出すのはいいがやることはやって欲しいな」

「はあ」


 ユークリウッドは、あまり追い詰めると逃げる。訳がわからないのは、誰より戦闘力があるのに破壊を好まない点だ。男は、端的に言って怒りが持続しない。

 

 出会った頃のユークリウッドと言えば、気に入らないとなれば殴る蹴るの男だったのに。

 決して、動物を集める趣味もなく愛でたりしない。もっとも、居座って寝るだけの動物が竜神だとか魔神だとか誰が信じるものだろうかいや信じないだろう。


(だからといって、俺も光合成だけやってばいい風にはなりたくねえ)


 アルーシュが欲しいのは駒だ。何より強い駒。いう事を聞く駒。ちなみに、デットエンドを迎えようと思うのなら黄色い鳥もどきを叩くのが速い。爆速で挽き肉にされる。誰も叩かないように気を使う相手であるし、誰も触れない。

 

「蜜柑でも食べよう」

「うん」


 茶色い板を乗せた炬燵で温まる面々。壁に掛けられた液晶の画面は、オデット、ルーシア、フィナル、アルストロメリア、エリアス、そして、トゥルエノとザビーネ。寒いのに、集まってくる。部屋が狭くなってしまうくらいだ。貴族の部屋にあるまじき狭さであるものの、不満を言うものは居ない。


 オデット。眩いばかりの金髪は、貴族であっても羨むことだろう。青黒い服を好み、白いTの字シャツは文字が書いてある。不自然な眼帯は置いておくとして、細い手足なのにセリアと同等の筋力と凌ぐ魔術は、エリアスも唸る。戦闘力といい申し分ない便器1だ。

 

 ルーシア。黒髪なのは、残念至極。貴族になるには至難の業。白い鎧、白銀の剣はユークリウッドのお手製か。奪い取りたい。オデットが槍ならば、ルーシアは剣。だが、どれもこれも一流以上の境地にある。既に切り込み兵として1人で戦える戦闘力を持つ便器2。


「ユークリウッドが壺教会を片付けたおかげで、連中の邪悪さも白日の元にさらされたわけだ。よって、これでもどうだ」


 差し出したのは、1日デート券、1回肩たたき券。10枚セットなのだが、ユークリウッドの顔は嬉し気ではない。ジャポン人の基地外ぶりを理解しているのかしていないのか。しったことではないけれど、それが配下となると問題だ。アルーシュは、使えるかどうかが肝であって愛だとか何だとか知らないモノだ。

「これは、どういう」

「どうもこうも、デートしたいでありますよね」


 腕組みしながら頷くのは、巻き髪を揺する女だ。彼女は、専らユークリウッドの信仰者であり賛同者であるから不思議ではない。愛、愛呟く便器3である。


「お前ら、わかっていると思うが大丈夫なんだろうな」

「大丈夫とは、どうゆうことでしょう」

「いや、だから家の了解を得てるんだよなってことだ」


 巻き髪の女は、満面の笑みを浮かべて両腕を組んでいる。白の光沢を帯びた長袖から出た手は、2本指でVの字だ。頭を隠すフードに髪を置いている。


 他の面々は、こくこくと頷く。ついつい忘れがちになりそうなのだが、アルーシュを筆頭にして子供なのである。後で、家から苦情が来ても面白くない。フィナルは、速攻でユークリウッドとやりそうなのに微塵もそれを表に出さないむっつりだ。

 

 家とは関係なく突撃しそうなのにしない。が、親が決めた政略結婚相手が居てもおかしくないのである。


「それ、関係あるようでないんじゃ」

「つって、心配してもらえるのはありがたいですけど、ほら。こいつといたら、他のぶちのめせるじゃないっすか、ねえ」


 というのは、横も後ろも短いのに我慢強いポーション屋だ。名前の通りポーションを売るのが仕事で商売敵というのが、もぐりの売り子であり転生者、転移者なのである。色んなものをショートカットをした金髪の彼女は、分かりやすく利で動く。青いシャツを着て無造作なスカートですぐ死ぬ装備だ。


 レベルと金をチラつかせればすぐに食いついた。金と権力で簡単に利用できる便器4。


 では、アルーシュは? 全部に理由がある。ユークリウッドの替えは、居ない。

 セリアかユークリウッドが居れば勝つし、居なければ停滞する。

 ヘルトムーア王国は、まるでやる気が感じられないものの許容範囲だ。彼女が働いている。

 反乱、分離、独立などされなければ、詐欺集団を相手にやりたい放題などまるで問題ない。


「と、通りすぎちゃってるけどデート券を使うでありますよね」


 じっと見つめるオデットは、眼帯を外して青い瞳でユークリウッドの様子を伺う。

 彼女は、ユークリウッドの傍にいなくとも相手はどれだけでも見つかるだろうに。

 解せない。

 

「うーん。いつか?」

「いつかって、いつなの」

「それはその、皆が・・・成長、いやあと5,6年した後でってことで」


 する気もなければ、玉もないのか。ユークリウッドとくればこの始末である。

 緩い波打つ金髪を弄る幼女は、欠伸をして呆れ顔をした。素っ気ない態度である彼女は、魔術師としてユークリウッドから離れられない運命にある。真術を追求すれば、神秘から逃れられない。わかっているのか。いやわかっていない便器5。


 雁首揃えて、餌を待っているアヒルが如く・・・


「まあ、そういうのならそれで決まりだな。絶対、もっと早く使うだろうな」

「ほんとでありますか」

「こいつが、むっつりド助平じゃなかったら、つーか玉が付いてるんだからよ」


 玉から子種が出来る。ついているのなら子供が出来る。しかし、全員わかっているのか知れない。

 男は、やりたがるものと聞いている。しかし、ユークリウッドはやらない。


(どういうことなんだ・・・)


 部屋は、女と動物だけだ。他に男を部屋で見たことがない。というより、いつも1人だ。

 ユークリウッドは、1人が好きなのか。そういうことなのだろう。


(何が原因で、女とすけべをしないのか。わからん)


 アルーシュの権力があれば、女は選り取り見取り。どんな女でも逆らわせない。

 しかし、当の本人が女とやらないのでは意味がないではないか。また、話題が限られる。

 壁に映っている画像は、ヘルトムーア王国を制圧した区域を示す。


「セリアの奴がやる気だ。当然、奴の方が働いているとなれば報奨金も土地も捻出しなければならない。俺のところでそれをやろうとすれば、一時的にでも増税だ。何かいい案でもないかな。そうユークリウッドが賄ってくれると大いに助かる」

「増税は、止めましょう。持ちますので」


 キレる、かとびくびくしながら切り出した。が、持ち出しもセリアのことなので大甘だった。


「そんなんでいいのかよ。100ゴルとかそんな話じゃねーっしょ」


 手入れをしていないざんばら髪の女が混ぜ返そうとする。心配なのはわかる。だが、ユークリウッドの領地税収は把握済。決して払えない額ではない。貴族は、往々にして重税を課しがちであるものの税を取り立てれば立てるほどに領民が疲弊していく。では、一体どうして税を取り立てているのに赤字ぎりぎりに陥るのか。何処かで鼠がちょろまかしているのだ。


 公金をちょろまかそうとする奴は、死刑。した奴は、拷問刑。税を半分も取れば反乱が起きる。馬鹿でもしない。故にアルーシュは鼠狩りに余念がない。

 

「なーに。金は、十分に帰ってくる、だろ?」


 返ってこないが? そんな未来はない。


「ええ、うちは増税さえ見送ってくれればいいです」


 反乱を起こされては敵わない。


「でも不足するんだろ、どうやって当座凌ぐんですか」


 魔術師は、相変わらず金勘定が苦手だ。


「馬鹿だなあ。いらんもんを削って付け替えるだけでいいじゃないか。それすら考えられないのなら徴税権なんて持っちゃいかんだろ。考えろ」


 徴税するのだ。国民に使うに決まっていて、考えるのは当然無駄からやりくり。


 国民から取る分が増えるだけ国民は、貧しくなる。官僚は、馬鹿なので予算しか考えなくなる。

 財源は、どうのとか。馬鹿ばかりなのだ。だからアルーシュが導いてやらねばならない。

 軍隊が強ければ攻め込まれないし、治安は騎士がしっかりと給金を貰っていれば賄賂もない。


「金の件で言うとだ。ネロチャマ村に資金を投下しても回収できる見込みは、薄い。国外だから、同じようにハイデルベルクに援助というのもない。別に助けなくとも良いが、どうして助ける?」

「助けたら駄目なんでしょうか」


 無心で助ける道理はない。利用価値のある女がいるから助けるのであって。

 ちん●を握るのは当然、将来への布石である。


「駄目じゃないけどな。見返りとか、まるでないじゃん。国内に投資する、してるよな。良いんだが、人の良い顔しても持たねえと思うんだ」


 ユークリウッドに言い過ぎると不貞腐れるので、言い過ぎないように言葉を選ぶ。しかし、どうして得にならない事をやり出すのか。やれと言ったけれども、適当に茶を濁していれば良いものを・・・

 彼女の瞳には、納得していない光がある。

 

 美味い飯だけ食っていれば、肥え太るというのが民草というもの。貴族にあるまじき施し具合だ。


「他国を援助し過ぎるなってことでしょ」

「そうだ。加減しないとウォルフガルドみたく別の国になってしまう」


 セリアが狼人たちの教育に力を入れて、産業育成を図った結果ともすると暴力だけで生きている狼人が狼人らしくなくなった。基本、脳まで筋肉が詰まっているか脂肪が詰まっているのが獣人という代物なのにだ。ミッドガルドにおいては、教育は基本中の基本。


 飯と菓子を突いているだけで満足気な男を眺めながら顎をさする。

 ユークリウッドが眠たげにしても誰一人帰らないのだ。気が付いたら城で、ベッドの上である。

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