65話 王都で車3!
私とセリアさんは輸送車を乗り換える為に一旦降りました。うー、センカさんともっとお話したかったですよ。名残惜しいですがしょうがないですよね。それにしても奴隷にそんなものがあるなんて知りませんでした。大通りを王城に向かって行く方向からそれて環状の通りを左周りに周回する輸送車に乗り替えます。道の真ん中に行き来している魔術車の側を馬車が通っていきます。
セリアさんはヘルムからぴょこんと可愛い耳を出している狼系美人さんです。騎士団行きに乗り替え場所はここなのでしょうか。
「セリアさんこっち側に行くと、騎士団詰所なんですか」
「ああ」
「それにしても奴隷魔術なんてあったんですね」
「うむ。まあ、そのなんだ気にするな。と言うのは不味いか。えっとだなモニカ」
「はい。なんでしょう」
「実は昨日かなりモニカは危険な状態になっていたんだ」
「え!」
びっくりです。そんな記憶はないのですが。そう言えば昨日森の中での記憶が途中からありません。セリアさんは周囲を警戒するように見回しながら話をします。
「モニカが驚くのも無理はない。恐らく魔術の影響で気絶したからな。ご主人様もモニカも気絶したまま運んで帰ったからな。ご主人様も自分のせいでモニカが死んだとあっては寝覚めが悪いだろう。やはりモニカに対する【強制】LVを下げてもらうべきだ」
「そこまでしてくれるでしょうか」
私には信じられないのですが、セリアさんは自信ありげに話をしています。人の通りも徐々に増え始めています。しばらくすると人で溢れかえるのでしょう。
「正直言って半々だが、ご主人様は甘いからな」
「流石にそこまで甘くないと思いますよ」
「解放というのは無理だとしても案外すんなり行くかもしれないぞ。なんせモニカをかばって矢を受けるくらいだしな」
「そんなことがあったんですか」
「おいおい、忘れてしまったのか。ちょっと前にモニカは矢をもらって死にかけていたんだぞ。と言ってもショックで覚えていないか。あれには私も心が震えたものだ。まあなんにしてもご主人様は奴隷の扱いが良い。放っておけないお人好しだ。だから私も此処にいる」
そのセリアさんそれってご主人様を好きになったということなんじゃないでしょうか。
「そうなんですか。いえそうですよね。あのセリアさんは反抗するのもできたり、逃げる事もできるんですか」
「無論だ。だが、逃げるのは得策じゃないな。奴隷が一旦逃げれば、どこまでも逃げる羽目になる。それこそ大陸の果てか海の向こうの大陸までな。奴隷魔術には主人が【命令】を与えることが出来るのが特徴でな、同様に【解放】というのもある。キューブを利用したコマンドだ。恐らくだがご主人様は【命令】これも知らないだろう。奴隷商人がよく言う手だが奴隷に性行為を強制するのはこの国では犯罪行為だ。だが、【命令】で奴隷が望んで行為を持てば別だ」
「どういうことなんですか」
なんだかとっても難しい話ですが、警戒するセリアさんは滑らかに話をします。
「あの奴隷商人が何を言っていたか大体想像がつく。性行為を了承しておりますだとかな。LV5の【強制】をかけられているとまず逆らえないからな。【強制】状態かつ【命令】コマンドで了承したものとされ強姦ではないと主張する主人というのは少なくない」
「なんか獣の抜け道みたいですね。ホルスシュタインでは、奴隷さんを見たことがなかったのでよくわかりませんでした」
「それと、この話はユウタには秘密だ」
「わかりました」
話をしているうちに輸送車がやってきました。乗り込むとセリアさんと一緒の座席に座ります。
「あのセリアさんがLV1の【強制】だとしたら奴隷商人さんは嘘をついていたっていうことでしょうか」
「それはだな。そもそも私は、あの程度の奴隷商人の魔術にかかるような魔力抵抗ではない。だがら、一旦は奴隷魔術にかかって見せて、その後で徐々に魔術を弱体化させていったわけだ。自分の魔術は自己解除できてもモニカの【強制】LVを下げる事が出来ないのは歯痒い所だ」
「えーそのどうやって弱体化なんてさせていったんですか」
「スピリッツだ。精神力とか気合とも言うな」
「そんな適当な」
「すまん。こればかりはな。他人に掛けられた魔術をどうこうするのは得意じゃないんだ」
セリアさんは残念そうに眉を寄せました。もしセリアさんがいなくなったら私はどうなっちゃうんでしょうか。
「それじゃ、セリアさんがいないと私はご主人様にあれやこれやされちゃうんですか」
「それはそうそうないとさっきも言ったはずだ。奴隷だからといって他国では非道な扱いがまかり通っているようだが、この国ではきちんとした処罰があるからな」
「例えばどんな刑罰があるんですか」
「例えばだが、所有者は奴隷を殺してはならない。重大な傷害を与えてはならないとかな。権力者というものはとにかく都合がいいものに書き換えたがる。この国でも王が代替わりする度に奴隷の扱いが良くなったり悪くなったりするがな。現在の王は奴隷制度肯定派だが非道を許さないから案外安定している」
「私はご主人様なら奴隷であってもなくても変わらない気がします。解放すると言われても何をしていいのかさっぱりわかりません」
「そうだな。解放するといきなり言われても先の事を考えておかねばな」
「その多分今解放されても路頭に迷っちゃいます」
「この国の歴史は長い。大陸広しと言っても東方の島国を除けば創世以来続く国はここだけだからな。長い歴史の中で幾度も奴隷解放が行われてきたが、廃止された後も社畜や会畜と言った代わりの物が出来てな。王国はまた奴隷制に戻されているが、国の南にある共和国では奴隷の代わりにこんな風に呼ばれる労働者が存在する。あまり変わらないというのが私の感想だ」
「共和国ってみんな平等なんですよね。王国から独立したのも400年ほど前だと教わりました」
「それは・・・」
輸送車が止まると、昇降入口から男の人が乗り込んできます。セリアさんは席を立つと男の人の方に歩みよります。何をしたのかわかりませんが、男の人は崩れ落ちました。
「モニカ。出るぞ」
「えっ。はい」
次々に乗り込んでこようとする男の人達にセリアさんは拳を入れているのでしょうか。皆意識を失って倒れていきます。セリアさんに続いて、男の人達を踏みつけないように外に出ます。
取り囲むように男の人達が立っていました。10人以上いますが、中でも大きな男の人がいます。隊長といった所かもしれません。危険な感じがします。大男が話かけてきました。
「お見事です魔狼。相変わらずのお手並みでござる」
「どういうつもりだ。イナリマル。ルナ様を裏切るつもりか」
「もとよりそのつもりはありませぬ。ですが、組合からの要請とあっては断れますまいて。セリア殿お覚悟を」
そう言うと戦う構えを取るイナリマルさん。スタスタと歩寄るセリアさんに拳を突き入れる大男でしたが、お腹に一撃をもらい崩れ落ちます。かなり強そうな人なんですけど、セリアさんは一撃で倒してしまいました。
「頭!」
「こうなったら皆でやっちまえ」
「悪いがお前達の狙いはわかっている。【影縛り】!」
セリアさんがスキルを使うと皆動きが固まってしまいました。セリアさんは私の方に近寄ってくると持ち上げられました。これはお姫様抱っこじゃないでしょうか。
「モニカしっかり捕まっているんだぞ」
「はいセリアさん」
するとセリアさんは物凄い力で飛び上がり近くの建物の壁を蹴って移動していきます。
「逃がすな。追わんか!」
声が聞こえますが置いてきざりにしてセリアさんは建物の上を飛び跳ねながら移動していきます。セリアさんは私が重くないのでしょうか。鎧等を含めると相当な重さになると思います。
「セリアさん重くないですか」
「この位どうということはない」
私はそんなに軽くないのですが、セリアさんは気にした風もありません。セリアさんは風を切って移動していきます。そうしているうちに背後からさっきの人達が追いかけてきました。
この人達は一体何者なんでしょうか。セリアさんに追いつきそうでしたが、さらにスピードを上げたセリアさんは引き離していきます。しばらく走って行くうちに大きな建物に着きました。側の屋根からさっと降りると、入口に歩き寄って行きます。
重厚な建物から1人の男が出てきました。なんて目つきの悪い人なんでしょう。性格もひねくれていそうな顔をしています。セリアさんは私を抱えたまま男の前に立ちはだかります。
「おや、セリア殿ではありませぬか。お元気そうでなりよりでございます」
「ヨサクマル白々しいことを」
ヨサクマルと呼ばれた男は心にもない言葉を話す事になれているみたいです。男は東方の国の布を身に纏いその上に皮と木で出来た鎧を身につけています。男の口調は丁寧なのに何故か嫌味を感じます。
「ふむ。・・・どうやらお急ぎのご様子。レオ様は本部にはおられませぬ。お呼びするにも時間が少々かかるのではないですかな」
「貴様」
セリアさんは私を降ろすと、臨戦体勢に入ります。
「おお怖いですな。元騎士といえど、こうも落ちぶれますか。ですが、これだけの証人がいても殺れますかな」
「くっ」
周りには誰もいません。ですが周囲の建物の上にさっきの人たちを含めて50人以上の人達が立っていました。この人達は何時の間に来たのでしょうか。
「セリア殿には相変わらず手下が居ないのござるな。とはいえ、罠に掛からぬとはセリア殿も少しは成長したご様子。誠に重畳でござる。私にも面子というものがありますから。少々、格好をつけさせてくだされ」
「まさか貴様。ご主人様に何かしてみろ只ではおかないからな」
「安っぽい台詞ですなあ。そんな風に短絡的だから借金まみれになるのでござる」
「ぐっ」
セリアさんは悔しそうに俯くと男は側を通り過ぎようとしました。私も黙っていられません。
「ヨサクマルさんはご主人様に何か恨みであるんですか。この事はアル様やシグルス様はご存知なのですか」
「・・・。それでは急用がありますので失礼するでござる」
凶相の男はそれだけ言うと足早に去っていきました。建物の上に居た人達も姿を消したようです。元気の無いセリアさんに声をかけます。
「セリアさん。急ぎましょうよ」
「あ、ああ」
かなりショックを受けたみたいです。私とセリアさんはさっきの男が出て来た建物の隣にある入口に向かいました。建物の入口には衛兵が立っていました。
「これはセリア様。本日はどうされたのですかな」
「レオに連絡をつけたい。頼めるか」
「はっ了解しました。ではセリア様とお供の方中でお待ちください」
衛兵さんはセリアさんと会話を終えてから敬礼して中に入れてくれました。中は重厚な作りの不思議な石でできています。受付前で待っていると不思議とセリアさんの方に皆さん視線が集まっていました。
皆さん声をかけたい様子ですが、セリアさんは明後日の方向を見ています。しばらくしてレオ様が現れました。相変わらずちっちゃな騎士さんです。
「お久しぶりです。セリアさん。もっと早く連絡くださいよ」
「ん、ああ。それよりレオ。ご主人様を解放してくれないか」
「セリアさん。それはどういうことなんでしょうか」
「それはだな・・・」
レオ様に先導されて受付前にあるソファーで話す事になりました。セリアさんが細かく説明をしています。
「事情はわかりました。賊の住居侵入は正当防衛ですが、ユウタさんには今後気をつけるようにしてもらいます。ところで、セリアさん」
「何だ」
「ルナ様には何時お会いになるんですか」
「そのうちだ」
「・・・。わかりました。セリアさんの気が向いたら来てくださいね。ルナ様もお待ちしております」
「わかった」
「では、入口でお待ちください」
しばらくして、入口からご主人様が出てきました。
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