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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
二章 入れ替わった男
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502話 壺

 人の恨みは、買わない方が良い。怨恨が、殺人に繋がる。異世界であっても変わらない話だ。

 しかし、ユウタは恨みを買いまくりである。

 何しろ、戦争でもなんでも人を殺しまくっているからだ。当然ながら、暗殺者が来ても何らおかしくない。


(それこそ食べたご飯の粒を覚えていないというけれど・・・)


 1人、2人ではない。いつ暗殺者が来てもおかしくなく、味方でも邪魔に思える人間が居て不思議でない。そう、ユウタを殺そうとするのなら迷宮か・・・それとも毒殺か。


 一緒に狩りをするシルバーナは、レベルが上がって嬉しいのか口元が上がっている。

 魔物は、魔物だ。崩れ落ちた異形は、経験値が大量に入ってくる。

 迷宮から出て入口から入りなおすと復活しているので、何周でも行ける。

 やる気があれば。茶色の髪が兜から漏れてる彼女は、笑みを浮かべて、


「見ろよ、こんなん出来るようになったよ」


 剣を横に振って見せる。それで鎧の魔物が腹の部分で上下に分れた。

 1周目では、ついてくるだけで2周目でようやく剣を振り、3周目で魔物と向き合いだす。

 彼女とお供の女は、手助けが必要だ。主にユウタの欲望の為である。

 悪が、分からない。何処にいるのか分からない。

 

 石を拾って、鎧の胴体へと投げてやれば命中して動かなくなる。

 同じことをシルバーナがやるものの当たっても表面で弾かれた。

 ユウタの方を見て、眉を寄せ、釣り上げて憮然をなる。


「どうしてなのさ。ねえ教えておくれよ」

「うん。魔力を込めるといいよ」


 人に教えるのは、苦手だ。だいたい、オデットもルーシアも勝手に強くなっていった。


 地面に落ちている灰色の石を拾う。小さな女の子の腕と手だ。石を持っても不釣り合いな大きさで持ちずらそうにしている。魔力は、込められないのか色が付いたり立ち上る気配もない。


 石をまた掴み、駆け寄ってくる鎧の魔物は盾を前にして駆け寄る。それに、ユウタの投げる石が命中して動かなくなった。盾には穴が開いていてそれをシルバーナが近寄って手にした剣でつつく。首をひねって歩く彼女は、


「おかしいじゃないか。あたしのは、全然効かないのに。なんであんたのが穴開いたり魔物が動かなくなるのさ」

「練習が不足しているね。魔術師やってみるとか、まだ早いけど」


 魔物は、ユウタたちを感知すると動く。人間とは、違い明確な殺意を持っていない。

 したがって、性能だけならばそれを上回るものを持っていさえすれば良い。

 

「あんた、まだオーラも満足に使えてないのに横道はないだろ。ここいらで打ち止めにして仕事に行こうかね。あんたにうってつけのやつさ」

「へえ」


 駆け足で行く。後ろに置いていく恰好になる2人は、瓦礫の道を抜けてくる。

 定まった位置にいる魔物たちは、ともあれ普通の冒険者にとって脅威で鎧を着ているので倒しがたい。

 倒しがたいだけで、一体を複数で対処していけばクリアできる迷宮だ。

 

 よくある魔物を倒しがたいほどいるというわけでもなく、盾を持った土色の騎士型や大型のボスさえたおせればいい。息をあげなら追い付いてきたら、ちょうど暗い色をした鬼型のボスが倒れるところだ。


「なんで、急に走り出したのさ。そんなに気になるのかい。ちょっと遠いところなんだけどねえ」

「何処なの。その仕事は」

「ハイデルベルクに行ってみようじゃないのさ」


 ユウタとシルバーナで移動する。モニクは王都に置いておくことにして、転移門で移動すればすぐだ。

 ハイデルベルクの空は、曇っていた。何時と聞くには、鐘かそれともステータスカードを見るしかない。腕時計が無い不便さがある。音楽は無いし、聞きたければ演奏会にでも出向かないと聞けない。王宮となれば楽隊なんてあるようであるが・・・


「で、ここに何が?」

「雪降ってんじゃないのさ。あんた外套だけで平気なのかい」


 がたがたと震える幼女は、鎧が冷えるのか。上着が無いのと体温を調節する魔道具を着ていないのか。迷宮に来て体温調節装備をしてない等と分からないユウタは、インベントリから外套を取り出す。旅に必要なものは一式揃っている。受け取ったシルバーナは満面の笑みを浮かべた。


「いいねえ。こういうのがあるからなのかね。それさ、出したところ収納鞄じゃないだろ。出し入れ自由なのかい」


 ユウタは、何故か胸がざわつく。なんとも疑わしい光を帯びた目、口は平坦で探る表情だ。感情が顔に出ている。幼女だからか。それとも元は、こうだったのか。道を歩くシルバーナはしきりに町の様子が気になるのか頭を右に左にする。


「まあ、いいさ。他でもないユークリウッド様がご贔屓のジャポン人に関わることだからねえ。連中が持ち込んだ邪教、それに関わる邪教徒の殲滅だよ。手下を配置しているし、それを信仰する奴も豚箱行きかその場で処刑って話さ」


 殲滅とは穏やかではない。しかし、日本人が関わる邪教というと・・・


「どういう人たちなの邪教って?」

「さあねえ。家にやってきて壺を売りつけるとかいう話さ。それも家が立つ額とかねえ。そもそもミッドガルドはオーディン様を筆頭にした神様たちを信仰する国だからハイデルベルクがどうして邪教を信仰するのか自由なんだろうけれど。ハイデルベルクって衛星国で帝国との緩衝地帯だからかね。で、アル様ってあれで潔癖症なところがあるし、汚らわしいとでも思ったんじゃないか。ミッドガルドで今だと木の神様、偉大なる黄金の木を崇めない人間は生きてられないのにねえ」


 邪教だった。壺といえば、朝鮮邪教しかない。ただの壺が1000万円、塵のような本が3000万円。


「だからといって、皆殺しって」

「いつも魔物を相手にやってるじゃないのさ。どこが違うってんだい。魔物は、人間のなれの果てで瘴気からできるんだよ。人間と魔物なんて大して差がないんじゃないのかい。汚染源は、絶たないとさあいつまでたっても魔物が繁殖しちまう。そうじゃないかねえ」


 道には、人が居て慌ただしそうに歩いている。邪教が蔓延っているとかいう風に見えない。見ている人もいるまいが、ユウタは憂鬱な気分になった。


「ああ」

 人は、変わらない。町並みは変わらないのに、足取りが重くなった。

 信者は、人、だろう。人を殺す。人殺しだ。邪教の徒だからといって、それはもう広めた人間だけ殺してもまた教えが広がるからか。壺売りの手口は何とか教会そっくり。壺を売って、一家を破産に追い込んでも何が問題なのか分からないと言うのではないか。


「連中の合言葉は、全ては罪の穢れを払う為だとか・・・信じられるかい」

「先祖霊を鎮める為とか?」

「そうそう、そんな感じで献金させるんだけど、無税なものだからねえ。金の流れも掴めやしないんだよ」


 真っすぐに進むと、ハイデルベルクの城に着く。ミッドガルド同様に中央に城が立っている町だ。

 被害に合う人は、信心深いからとか関係がないとか言っているうちに被害者が増え続けることは良くない。ユウタは、考える。これは、比叡山焼き討ちと違うのか。ある戦国武将は、悪名を恐れずに山を焼いて信者を殺しまくった。

 またある武将は、信者に踏み絵を迫った。


「それで、俺だけで倒すの」

「手が必要かい? いいや、不足してないだろうさ。何なら町ごと焼いちまうかい。なーに報告書には、見分けがつきませんでしたとでも書けばいい。まあ、あたしが書くんだけどさ」


 道行く人の表情は、千差万別。かまどの火ならぬ煙突から煙は見えている。寒いからだろう。ユウタは、実感がなくとも被害に合えば怒り狂う人の気持ちというのは察することができる。金が無い。金が無い人間の苦しみというのが、わからないというのがわからない。


 天国に行くために献金だ、献金だという方がわからない。何故、献金するのか。わからない。

 道を曲がって大通りに出る。一際尖塔の立つ館があった。白い。白い建物で鉄の格子で覆われていた。塀は、簡単に爆破できそうである。門番は、いない。扉の向こうから声は聞こえない。


「ふーん。けど、普通の建物に見えるなあ」

「なんだよ。あたしが騙そうとしてるってのかい。まあ、見てなよ。何も感じないのかそれとも、ねえ」


 大通りだ。作りは城を中心として縦と横に通りが走っている。日本の城下町のようになっていない。

 城へ進むのも出るのもやりやすい。それで教会というと、遠目には普通。

 通り過ぎていくと、門に掴みかかる子供、それに石を投げる子供・・・

 素足で、暖房の意味をなさない衣服。


「信者から金を巻き上げるから子供が苦労するのさ。それで、お前さんはどうするのさね」


 ユウタは目を瞑り、破壊するべきかしないべきか。と、自問する。ユウタは、何のしがらみもない。ハイデルベルクで破壊活動をしたとなれば、アルから責めを負うところである。そして、なんとなく腹がでて貴族風の衣装で黒い上下に黄色い帯をした男が槍を手にしたに命じると2人が連れて行かれる。


「いきなり爆破したら怒られるかな」

「いつもの手じゃん。あんたが、破壊しないで人の話を聞くなんてこれっぽっちも想像できないねえ」

「そりゃそうなんだけど」


 皮一枚から憎悪を感じる面だ。男の名前は、鑑定するに上下 太郎。どこにでもありそうな名前である。日本でなければ、そうなのかなと思ってしまいそうな演説に違和感しかない。

 

「衛兵さん、何をしているのです。あの危険な子供を捕まえてください!」

「え、あれって・・・いえ。なあ」


 男に言われて鎧を着た槍を持つ兵士が、仲間と顔を見合わせる。


「ああ。あの子、いやあの方は、ユークリウッド様じゃないか」

「お前も、そう思ったのか。どうする」

「どうするもこうするも・・・上にお伺い立てる・・・捕まえなんてしたら縛り首か矢の的になっちまうぞ」

 耳に入ってくる声に、シルバーナが、


「聞けっ、わたしは、ミッドガルド王国陪臣青の家門が一子シルバーナ。この方を何方と心得るか。恐れ多くもミッドガルド王国アル王子に仕える第一の騎士ユークリウッド様よ。捕らえるとは、何事か! ハイデルベルク公国は、アルカディア王国を下したミッドガルド王国を恐れぬとハイデルベルク公は仰せか」

 大音声を発する。横にいたユウタが度肝を抜かれるほどだ。


「・・・」


 沈黙が、場を支配する。兵士の不穏さが、男の口を閉ざして汗を浮かべさせている。

 見れば、ひそひそと話合う兵士たち。向き直ると顔には汗とぎこちない笑顔だ。

 ユウタに鑑定をかけたのは、間違いない。戦いにならないのならそれでもいいが、壺売りは解散させて首謀者は奴隷市場にでも売り飛ばして被害者の救済に当てないとである。


「あー、我々としてもどういった理由でこの教団を解散させるのか伺っても?」

「高額な壺売りは、死刑ですよ。いけませんか」

「や、しかし、高額な壺売りとは?」

「そのままです。ここに、壺があります」


 ユウタは、インベントリから壺を取り出す。茶色をした壺だ。凝視する人々。


「それが、どうかなされたのですか」

「1000万ゴルで買いなさい。そうすれば、貴方の先祖は霊も救われますよ。実際には、救われたりしないのですけれど」

「それは、500ゴル程度では。まさか買う人間がいるはずないでしょう」


 ただの壺だ。それで先祖が慰められるはずはない。むしろ、不幸になる。子孫が不幸になるからだ。

 しかし、当人はわからない。そう信じるのだ。信心を利用するのである。

 ユウタは、知っているだけで壺の被害者ではない。だから、関係ないといえばそうなるが・・・


「教団は、解散。それで、まだ残って説法などすれば死刑でいいかな」

「そんな無茶苦茶な。信じる者は、邪教徒でも?」

「だから、ユークリウッド様が来たんじゃねーか。分かれよ。理解できねーんなら戦うしかねーよな。戦って己の正義を示してみろ」


 戸惑う兵士にすっかりシルバーナは、虎の威を借るなんとやらだ。

 踏ん反りかえる彼女は、やれるならやってみろという。兵士が怖くないのか。

 兵士たちは、顔を見合わせて「解散は、すぐにしとけよ」と言い募り、ユウタへお辞儀すると去っていく。どうにでもなれと、残されたのは白い服の信者と貴族風の井出立ちをした男。


「なんということでしょう。理解に苦しみます。かぺっ」


 ユウタは、手を振るうと上下なる男を二つにした。許すなどととんでもない。人が見ている。シルバーナが、横に後ずさりした。様子を見ているものの教団は、敵を討つ様子もない。ユウタは舌なめずりして待っているというのに・・・


「許してやるんじゃなかったんか。まあ、あんたらしいけどさ。で、どうするんだい焼き討ちかいそれとも・・・」

「いるんでしょ、手下」

「まあねえ。もちろん準備は、しているから捕らえることはできるねえ」


 ユウタは、考えた。どうせ、どうせ改心などしない。人というものは、そう簡単に信心を捨てたりしない。人は、変わらないし良い人間というのは最初からいい人間だ。見た目は、相応に人身を反映したものだから歳を取ればどういう生き方をしたのか分かるというもの。


「捕らえたのなら全員奴隷として売り払ってしまいましょう。鉱山奴隷も復活させて終身で皆の役に立ってもらうように」

「・・・いいけどさ。反乱とか起きかねないよ」

「そこは、区別して壺とそれ以外とでね」


 人を幸せにするものではないか。寄付も行き過ぎて印鑑と壺だけの生活などあってはならない。

 そうなったのならそうなった原因を取り除かなければ。それが、できないのなら、高額な壺売りが見えないとでもいうのか。目が無いと・・・


 シルバーナが手を叩く。すると、入れ替わるように武装した男たちが教団の建物へと走っていく。


「準備してるし、お前が暴れるようだと町がなくなっちまう。この前のとこは都合がつけられなかったけどさ。勘弁しとくれよ」


 兵士の姿はない。シルバーナの手下と町民で区別があるものといえば、腕の布くらいだ。同志討ちをさける為か。

「5人で1小隊。それが10組。で中隊。今回は、そんくらいさ。金がかかるからね」


 ハイデルベルクは、ミッドガルド王国の属国と半ば化しているからだろう。

 空の雲は、雪を降らせ始めた。


「そんなに突入させたのなら事故も起きないかな」

「デーモンくらい出るかもしれないねえ。でも、ま、そういう仕事だし面子も選んでるよ。あたしにはどーしてもわからないんだけ寄付とかいうのがさー。お前さんには、ないだろ。そういうの」


「わからないね」


 ユウタには、他人に金をやれば幸せになるという精神がまず理解できない。

 しばらく様子を見ていても雪が降るのを眺めることになった。


挿絵(By みてみん)

かなまりあ様作品

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