497話 滅んだ国の・・・
シルバーナは、滅んだ村にいた。
赤い光に包まれた敵は、黒い炭になって消えてくばかりで戦いではない。
無尽蔵に赤い光を打ち続けるルーシアは止めようがないし、シルバーナは塵なのかわからない武器を拾い集めた。
(売れるのか?)
空は、どんよりとしていて薄暗い。魔物は、動く死体、骨、鎧に鎧から手足が生えたもの。
さかさまになった魔物の四肢を赤い光貫いて建物もも何もかも燃え落ちると、目の前に黒い穴が出てくる。
ステータスカードが振動する。見れば、滅んだ村をクリアしたと表示されていた。
「それじゃあ、姉ちゃんは私が面倒を見るので退散しましょう!」
村からでて、受付で換金するとレナとリルを連れて転移門で帰る。
出た先は、ユークリウッドの家の前。黒い鉄格子が権勢を物語っている。
レナとリルは、何が起こっているのかもわかっていないのかせわしなく視線を動かしていた。
「大丈夫、じゃねーよな」
「まー、家に帰れば元に戻るであります。時に、匂いを込められる魔道具とかあったりはしませんよねえ」
ああ。
「ないねえ。でも、それじゃあアルストロメリアんとこに行ってみるかね。あるかも知れないしねえ」
「ん、アルストロメリアが作っているでありますか。それなら、汗を落としていくであります」
せかされるようにして、門の中に入る。ルーシアは、挨拶だけで入れてもらえるようだ。
「顔パスってのはいいよなあ」
「どうでありましょうか。魔力で計測しているでありますよ。門番さんも目で見て覚えるわけですけどね」
木々には、言い知れない不気味さが漂っていて何度通っても背筋が寒くなる。
奥に行く人間は、いやしない。どんな魔物と会っても殺気というよりは、
(生き物として狙われてるというか、なんなんだい・・・)
生きた心地がしないのだ。奇麗に石で舗装された道を歩く。
「お。赤い光が、消えてく」
「やっとおさまったであります」
てくてくと歩いてただの森よりもなお薄暗い森を抜けて、噴水の背後に白い館が立つ。
左右の庭は、だたっぴろい。それでいて無理やりくっつけられたかのような、左右の館から伸びる廊下が異様だ。2階の部分にくっついていた。
(あんなんよく許したな・・・)
普通じゃない。しかし、それを問うてどうするのか。聞くだけ野暮というものか。
シルバーナの家は、遠い。そう考えると、会う機会など朝捕まえるしかない。
朝駆けだ。そうすると学校はいけない。行けば会えない。会えないとレベルが低い。
低いと馬鹿にされる。世の中は、レベルだ。
勉強がどうのこうのと言うが・・・
「うーん、ユーは居ないのでありますか」
「どうやってわかんだ。聞いた方が確実じゃないのかい」
わかるというのか。勉強は、した方がいい。わかるのだが、眼帯の幼女はじっとシルバーナを見つめる。
「わかるの」
「そうかい」
そういうことにしておくしかない。先だってルーシアの能力を見たばかりでルーシアも同様とくればシルバーナなんて一たまりもない。迷宮で処刑されてしまう。となれば、迂闊な物言いは危険だ。玄関の戸を開ければ、白い飾りを付けたメイドがお辞儀をする。
「ようこそ、おいでくださいました。本日は、お風呂をご所望ですか」
「ん。いいかな」
「ええ。もちろんです。ルーシア様には、ご主人様も大変お世話になっていますので」
夕暮れには早くて昼前だ。時間からして、本来ならば、アルカディアの迷宮に辿り着きもしない。
シルバーナの後ろに立つ2人は、しゃべらない。
すっと奥に歩いていくメイドは、掻き消える速度だ。目を疑ったが、人の動きではない。
「あのメイドさんは」
「あの人に逆らったりしちゃダメでありますよ。命の保証できないであります。シルバーナ殿は、本気なのかわからないので様子見ということなのでありましょう」
奥は、右が風呂。左が厨房と食堂につながる様式でぐるりとつながる。
様子見とは? 男女分れた風呂場の扉を開ければ、脱衣所がある。服からつるっとした体型だ。
全員つるっとしている。でるところが出ていればアピールになっただろうか。
男は、巨乳が好きと相場は決まっている。
「様子見ってなんなの。けっこうあたしは来てるんだけどねえ」
「うーん。こればっかりは、教えられないであります。自分で気が付かないといけないでありますよ」
考えろ、ということなのだろう。メイドに気を遣う貴族などいない。なんならそこら辺の畑で取れるくらいの感覚だ。殺したりすれば問題になるか、どうかであるが・・・
「気づく、か。わかんないねえ」
「普通であります」
メイドが、特別。特別、ならば貴族か? しかし、メイドをやる貴族などあり得ない。もっとも、ユークリウッドの家にはハイデルベルクの姫が2人いてメイドをしているという。正気ではない。アルが関係しているのなら他の貴族が黙っているのも頷けるが、あえて悋気に触ろうという者も居ないのだろう。
風呂は、広くて湯舟もシルバーナの家より大きい。家の人間が見れば、さぞ羨ましがる。白い床石に黒と灰の点がマダラになったお湯の底。体を洗う桶でお湯を汲む。壁際で洗うように水が出てくる仕組みだ。ごつごつとした石を回すと、暖かいお湯が出てきた。
「なんでお前らあんなに強いの」
横で体を洗っているオデットに話しかける。答えるかどうか微妙だろう。
「それは、鍛えてるからであります」
欲しい答えは、それではない。オデットは、シルバーナの部下ではないし家臣でもない。雇われでもないから詰問できない。強さは、ユークリウッドに匹敵するものがある。赤い光は、そのままユークリウッドが得意としている火の術と一緒で対象が燃える。
「まあ、どうやったらあたしもそれが出来るのかってことだよ。ジョブなのかい」
「であります。まず、魔術士60でクラスアップして魔術師を99まで上げてまた魔術王か魔女王になれれば王が付くクラスはまた特別な条件があるので、それをゲットしないとであります」
無理だ。そもそもシルバーナは、剣士でいきなり55まで上がったが密偵1も持っていて密偵1が生えてきたりするのは謎で謎のシステムとジョブには困惑しかない。ジョブとレベルが世間を支配するとはいえルーシアの赤い光は、攻城兵器だって霞む。なにより移動距離が重要で広範囲攻撃力も魔術士が優れているのなら剣士とは・・・
「今から魔術士になるかね」
「剣士60にして剣豪とるか剣術士なるかどちらもありでありますよ。体力があるとなんでも助かるであります。ボーナスが発生してるでありますから詠唱に必要な速度だったり有利であります」
体を洗い終わり、湯舟に浸かる。単純に身体が強いというのは、力だ。力がなければ生きていけない。弱くては、いじめられる。いじめられれば弱る。弱るから思考が働かなくなる。強さこそ全てだ。弱いものを助けるのも強さあってこそ。強いから弱いものを助けられる。
「また行ってみねえ?」
「いいでありますよ。でも、剣士を上げたら魔術士に転職であります」
金がかかるのではなかったか。確か・・・
「あたしにそんな金があると思うのかい」
「アル様の名前を出せば解決であります」
それは、そうだ。しかし、勝手が過ぎるのではないか。
「いやいや。アル様の名前をそんな軽く使っていいものなのかね」
いいわけが無い。
「うーん。それこそ、抜けられないとこまでシルバーナが来ている認識が不足しているであります。シルバーナは、逃げなかったでありますよね」
どきっとした。何を言っているのか。逃げなかった。何のことか。滅んだ村か。それとももっと前の腐れ貴族のことか。はたまた終わりのない戦争のことか。或いは、無くならない女衒のことか。わからないが、
「ンなこと言われてもなあ。結果、逃げなかっただけで、いよいよとなったらただの死体が出来るだけじゃん。そんなもんだし」
「ふーん。でも、どこでもただの人なのに逃げなかったであります。つまり、見込まれたので期待されているのです。ただおっぱいがでかいだけでは、親がそうだからっていう訳ではないのでありますよ」
「お前、言い過ぎじゃないのかい。おっぱいだけとか目つきとか気にしてるんだよ」
風呂から上がり、ほやほやと湯気を上げながら水を拭く。布は、白くて肌触りがいい。寒いのですぐに拭かないと風邪にかかってしまう。
飯を食堂で食べる。いいのかと思ったが、当主であるグスタフは居らず子供だけだ。ルーシアとオデットにレナとリル。オデットとシルバーナだけが話をしている。気を使ったりしなくていいので楽だ。
「でも将来のおっぱいを見越してアル様は贔屓にしていると思うであります」
「どんだけおっぱいなんだよ。そりゃあ、母ちゃん腰は細いのにおっぱいだけメロンだからな。でも柄が悪くて売れ残ったんだぞ。行きついた先がむさ苦しいおっさんで、なんでもない風だけどそれってちんこがでかいなら許されるくらいなんだかなって思うわけでさ」
おっぱいが女の全てじゃねえと、否定したいが男はおっぱいばかり見る。おっぱいが役に立つかというと武器にならない。そもそも戦場じゃあ使えないし。仕事だって男のように働けない。女は、すぐに疲れて動けなくなる。戦闘で感情的になるのも危険だ。レベルがあっても仲間と意見を合わせてしまうのも・・・
女の利点なんて生殖くらいしかない。
着替えるオデットの胸は、シルバーナよりも平坦だ。だからか?
「ユーが何を考えているのか。そこだけでありますよ。ちんこがでかいのも気にしているようでありますし」
「お前、見たことあるんかい」
「そりゃ勿論であります」
でかい。やはり父親の物くらいになるのであろうか。馬並みである。
ルーシアが近づいていた。危険ではないのか。しかし、赤い光が湧き出てくる様子はない。
「ただ、おっぱいだってでかいと肩が凝るらしいしいい事じゃねえって聞くけどなあ。ちんこもでかけりゃ邪魔じゃね。走ったりするのにさあ」
「さあ。それは、そうなってみないとわからないであります」
食い終わると、屋敷の外へ出て転移門で移動することにした。
アルカディアと同じ型をした迷宮は、あってもアルが許さない。
どうしてか。しかし、王族に逆らうなど許されないし他でレベルを上げればいいだけの話なのだ。
再び戻ってきた。人の出入りは多いし、戦後ということもあってか子供が多い。
アルカディアは、ミッドガルドに飲み込まれたのだがレジスタンス活動など起きていない。
朝と夕方に人は、多いというのが迷宮で夜も入って探索するというのは深いところまで潜る者たちだ。
石畳の脇では、物売りも畳んで場所を変えている。
「また滅んだ村かい?」
「同じ滅んだ村でも種類と場所が色々あります。いろんな村が蒐集されているようで城や町もあります」
「そこは、まだあたしらには厳しそうだねえ」
受付も、オデットの力なのだろうするすると進んで女5人のパーティーで滅んだ国の谷へ進むことになった。
石の玄室に進んで背後の扉が閉まる。
「大丈夫なのかい」
「ちょっと、一気に上げてしまうかも。レベルダウン使う敵もいたりしたりいないといいでありますが」
「谷ってどこなん」
「さあ」
扉が開くと、外だ。薄暗い天気に下り坂。左右は、禿げあがっていて進むとオデットの手が振るわれて鎧の兵士が倒れた。問答無用だ。
「人、みたく見えるんだけど」
「それは、また魔力感知、感知系の習得してないのでありますねえ。そういうわけでレベルを上げてしまってスキルを磨いてくださいであります。レベルが高くても負けたり死んだりしますけど、低いともう蘇生もできないでありますよ」
鎧の兵士が、剣と盾を持ったように倒れていて中身はない。シルバーナは、見ているだけだ。剣を振るう? 無理だ。戦うなんて、できっこない。つまり、ついてきているだけである・・・
「あたし、なんもしてないんだけど」
「そんなもんであります。ちなみに今のは、剣気を飛ばす技で剣を抜く所作が見えたのなら幸いなのでありますが」
「あはは、あー見えてないよ」
並ぶルーシアというときょろきょろと頭を動かしている。進んでも、石を投げて倒して密集したのがそれで爆散した。魔物でも密集隊型を作るものだと。坂道だからか、降りていくのはシルバーナを含めてレナとリル。坂を上って降りてくらいできるが、あからさまに罠の気配がして坂下にいるのは白い霧と霧が消えて見えてくる。
「やばい。心臓の鼓動が止まらねえ」
オデットとルーシアがいなければ、戦えないほどに危機感が無形で迫ってくる。黒い靄が地面を這っていて蛭かと思いきや燃え始める。後ろの2人は、もう動かない。シルバーナが動けば動くという具合で、空から黒くて靄をまとった肉のような半円の物が2つ落ちてきた。銅板を打ち鳴らすよりも腹と耳に効く衝撃が足に伝わる。
(トカゲ? トカゲって? いや、沼と靄はなんなんだ。とかげは動かねえ。まさかドラゴンとか)
靄が燃えて黒い沼が端から消滅していく。白い霧はすっかり晴れて左右の森と正面の崖が見える。
残ったのは、一面の人骨と肉だった。
左右に降り立ったオデットとルーシアは、音もない。身体が熱く、両手からは光の玉が飛び立っている。
「お、カンストしたでありますか。重畳、重畳」
「オデット、あたしらやばかったんじゃね。ひょっとしなくても、あれ、竜だったりするとかしねえよな」
竜なんて倒したら大事だ。兎角、異世界人は竜を倒したがるがとんでもないことである。
話せばわかるし、決してやばい相手に喧嘩を売ってはいけない。
子供でも竜に攻撃をしてはいけないことを知っている。
「残りかすみたいなもので、元は飛竜だったようですけれど、普通に死ぬ罠みたいな? 倒すとほんと経験値でしかなくてアイテムって骨と錆びた剣とか鎧とかで売りにいっても魔石にする、うーん。お金稼ぎには微妙なとこでありますね」
つまり、シルバーナたちの養殖レベル上げの為だけだ。シルバーナは、それに一体何の対価が払えるというのか。払えるものなど無い。10まで10歳まで上げていれば御の字の世界で、既に99ときた。一体どれほどの金を要求されるのか。
「職変えちゃうね」
「え?」
職変えるって、変えられないはずだ。人の職を勝手に変えられるなんて聞いたこともない。
慌ててステータスカードを見れば、シルバーナのジョブが魔術士になっていた。
レナやルナもカードを見ている。鎧に盾と剣を持っているのだが・・・
「変わったでしょ。これは、秘密だよ。あと、然るべき時と場所でお礼は貰うから」
「払えりゃいいんだけどねぇ」
巫女かそれとも神殿? 神殿でしか替えられはずなのに、しかも鎧を着たままでいいのか。
「この骨とか肉とか、回収しないのかい」
「私たちは、腐るほど持っているでありますが武器として使うにはちょっと見た目が悪いのであります。ほら竜に見えるし、大騒ぎになるので」
「そっか。そうだよねえ」
竜の死体なんて扱いに困る。そうでないとしてもおいそれと出せないだろう。迷宮では、持ち帰れる物と持ち帰れない物があるのだ。大きすぎるとそもそも荷物持ちがいる。インベントリを全ての冒険者が持つものではない。魔術士クラスを上げることがまた難しいのだ。防御力が無くて、結界だのなんだのといっても生命力が低いのかレベル上げには向いていても死ぬ。
「空から落ちてきたけど、こいつって空飛んでたんじゃ」
「うん。でありますから、真っ二つになってもらったであります」
「そうなのね」
冗談でも、オデットは冗談を言わないど真面目である。どうやってって剣気か空を飛ぶ術か。坂の上だったとして姿を追えただろうか。沼地跡の右手には、灰色をした城壁が見える。白い霧は、消えてしまって壁の上からはまた灰色か黒味を帯びた人型が接近してきて赤い光とともに跡が見えて穴になった。
もはや、迷宮を破壊して理屈だとか攻略だとか無視である。
時々に置いてある巨大な石人形も砕かれていく。どうやって砕いているのか。
道は広い。土の地面に石畳で左右に立っている人形の残骸が転がる。
「どこまでいくん。これ、夕方になりそうじゃないの」
「まあ、ウォーターボールでも使えないでありますか」
「ない・・・な。魔術の書とか必要じゃね。あたしら持ってると思うのかい。持ってるなら、貸してもらって覚える手があるんだけど」
ちらっと振り向き、手を振る。
「残念でありますが、初心者用のっていつ以来でありましょう。手持ちには中級以上、レベル、いくつになってるでありますか」
「ありえねえと思うけど、もう33で34になった。でか人形、経験値くれすぎだろ」
接近して殴られれば死にそうだ。障壁も張れない魔術士である。かといって剣士で戦うにしても一体倒すのにどれだけかかるのかわからない。坂道を登っていき城壁の門は、開いていてぼとぼとと落ちてくるのは、平たい魔物だ。魚にも見えるそれは目玉が腹についていて気味が悪い。びっしりとしたそれは怖気を催す。
門は、魔物が上に立っていたのだが難なく処理して中へと進む。広間だ。立っているのは、中型の鎧。
しかし、堂々と真ん中に立っていて他にいない。
「戦うん?」
「愚問ですよ。これは、そういう迷宮でして油断してはいけません。いずれシルバも一人もしくはレナとリルを連れて攻略してもらわないといけないのでありますよ」
ルーシアに引かれて右へと歩いていく。正面からはずれた。端っこまでいかなくていいのか。
オデットが歩いていくと、槌を上にして盾を正面にする。次に、輝く槍が背中から貫いて放り投げられる。槌の騎士は、雷を放つ。空中で放電していて、それに見知らぬとんがり帽子の人型と仮面の人がいて黒こげになった。地面に鎧が転がり騎士だったのかわからないものは動かない。
黒焦げの跡には、黒い粉しかなくて槌をもった鎧の騎士も粉になっている。
「なんだったんだ」
「説明すると、あの鎧の騎士は雷を操るので槌を奪うかして攻撃力を弱めないと倒せないのです。雷を見て避けれるかというと避けれませんよね。鉄棒、避雷するものが必要になります。或いは、彼そのものに鉄の鎖を巻き付けるというやり方もありますね」
言うが、何の準備もなければ死ぬではないか。それに、直後の人らしきものは何なのか。
わからずに突っ込んで無事であるはずがない。
「避けれないよ。防げもしないからねえ。こんなん死ぬわ。あたしら魔術士なんだっけ、防御力最低だし。体力点も低いしスキルを磨いておくしかないって、引率できるようになるもんかね。無理な気がするわー」
「うん。でも、殴られないように装備もスキルも磨かないとね。ここでは降参して無事なんてないからね」
ルーシアは、淡々と言う。魔物が相手だ。両手を上げても殴るのを止めてくれるなんてことはない。
弱ければ負けて死ぬだけである。何者にもならないまま死ぬだなどと・・・
「覚悟してても、してるだけなんだよな」
そこらの兵士と戦って勝つのは、レベルによってであって技術で上回られれば負ける。
ましてや、魔物の力は侮れない。というか、雷を操る槌の騎士は手に負えない。
「これからが、あるだけいいんです。負けて死ねばそれまでなんですから」
火の術は、使える。しかし、無駄打ちして魔力切れを起こせばお荷物である。
スキルを磨くには、マナが少なすぎて打ちまくって練度を上げようと思えばマナポーションが必要になる。が、オデットもルーシアも底無しだ。マナも気力もどこが底なのか。
「大したもの出なかったけど、時間だし帰ろ。レナ、リル手伝ってね」
まだ奥がある。
「心配しなくても戻ってくるであります」
そんな時間というと、ユークリウッドが帰ってくるのをぼんやりと待つという。
なんで? という、それこそ謎だった。




