64話 王都で車2!
セリアさんに促されて黙る私とセリアさん。室内には灯りもついています。2-30人は乗れるこの輸送車に乗り込んで来た女学生さん達に何かあるんでしょうか。女学生の一団はこちらにやってきます。その内の一人が話しかけてきました。
「これはセリア様ごきげんよう」
「人違いだ」
「あら、嫌ですわ。セリア様の美貌を見間違えるなど、このフィナル・モルドレッセをあまり馬鹿にしないで欲しいですわ。所で貴方様は学園にも来ずに一体何をなされているのですか」
「いや。今は奴隷をしている」
するといかにもな髪型をした貴族様の子女は泡を吹いて倒れてしまいました。慌てて周りの女学生達が介抱しています。
「フィナル大丈夫か」
「大丈夫じゃありませんよ」
「センカそれはすまなかったな」
「セリアさん奴隷をしているって冗談ですよね」
「いや冗談ではないぞ」
「どうして奴隷なんかになっちゃったんですかあ」
そういうと黒髪を短く切りそろえた小柄な女学生さんは口を膨らませて追求します。私も気になる所です。どう見ても戦闘奴隷になるような人じゃないですし。並の冒険者さんとか軽く凌駕する戦闘力ならどこでもやっていけそうです。セリアさんは美しい人なので別に戦闘しなくても、高級酒場とかで給仕するとかでもいけると思います。お風呂場で勿体無い位綺麗な髪を手入れしてあげるのが私の楽しみでもあります。
「それは、秘密だ」
「このセンカ、フィナル様の護衛でもありますがセリア様の大ファンでもあります。早く学園に復帰してくださいね」
「奴隷だから無理だ」
「買い取ってもらえばいいじゃないですか。それなら通えますよ。ファンにはお金を持っているお金持ちの子弟も多いですし。学園ではセリアさん休学扱いになってるんですよ」
「セリアさんてファンがおられるのですか」
「これはお付きの方。いえ同僚の方ですか、なんとかセリアさんの説得をお願いします。またあの戦う姿を見たい女子は多いんですよ。男に女が勝つなんて魔術士同士でも中々ないですし」
「セリアさん凄いんですね」
「そうです。セリアさんは学園冒険者ランク1位闘技場ランク1位その上学年試験上位の最上位者です。いきなり姿が見えなくなって学園ではちょっとした騒動になっていたんですよ。寮にも荷物がなくなっていますし。上から下まで何かに巻き込まれたんじゃって」
そんな凄い人がなんで奴隷をしているのか謎ですよ。ふと横を見ると整った顔と長いまつげに浮かんでいるのは不機嫌そうな様子です。
「セリアさん人気者なんですね」
「そうなんですよ。闘技場で戦う姿に惚れない女子はいませんよ。万能戦士ぶりに男子は圧倒されて薙ぎ払うその姿は格好良すぎですし。客席は常に満員です。嫉妬とかする女子も最初はいましたけれど、フィナル様のように信者になりますからね」
「セリアさん強いんですね」
「ええ、只強いんじゃないんです。PTを組んで闘技場で一緒に戦うランキング戦もありますが、そこでも周りの女子をサポートして上位に食い込ませる。もうなんていうかですね、そこに痺れない女子は居ないワケですし。周りに気配りも出来て、それでいて厳しい中に優しさがあるんです」
周りの女学生さん達もしきりにウンウンと頷いています。セリアさんは黙ってしまってます。
「それじゃあ一刻も早くその学園に戻って欲しいですよね」
「そうです。えーとお名前は」
「あっモニカといいます。よろしくお願いします」
「モニカさんですねぇ。私はセンカこちらは右からヘネシー、キチェ、アマネです。お見知りおきを。みなラグナロウ王立学園普通科の生徒です。今後ともよろしくお願いします」
「それで学園に戻れるようにセリアさんを奴隷から買い戻すにはご主人様と交渉しなければいけませんよね」
「まあ、必ずしも今すぐ買い取らせろといっても難しいかもしれません。その方の都合もあるでしょうし。何より手放さないという気もします。もし私なら絶対手放しませんからね」
「それじゃあどうすればいいんでしょうか」
「一つは奴隷主が死ぬか奴隷になってしまうか。これが一番ありえるパターンですが、セリアさんの誇りがゆるさないでしょうし。ちょっとありえないかもしれませんが、奴隷のまま学園に通わせてもらうというのがあります。稀にお人が出来ている主が学園で教養を高めてもらう為に通わせるなんてことはあるんですよ」
「そうなんですね」
「奴隷の扱いもピンキリですけどね。奴隷を持っていても見目のいい女子であれば通わせる男子の子弟なんていうのは結構いますし逆もまたいます。専属の治癒士や魔術士に仕立てて冒険者として活躍している人も少なくありません。私の父も奴隷から使用人に格上げされてお仕えしているわけですし」
「センカさん達も冒険者なんですか」
「私は戦士でヘネシー斥候、キチェ治癒士、アマネ魔術士です。冒険者はフィナル様ですね。サブクラスも当然あげていますけれど、中々ダンジョン攻略が進みません。あ、ダンジョンというのはですね学園専用のダンジョンがありまして、安心の設計になっているんですけれど難しいんですよね」
「普通科の生徒でも冒険者稼業をされるんですね」
「そうです。普通科の他には魔術科、戦士科、冒険者科とまあ嘘みたいな数の科とそこから派生する選択型の授業があるんですよ。普通科と言っても先を見据えた教育がありますし。淑女育成のための花嫁コースなんていうのもあります。私達は普通科ですがたまにダンジョンに潜る授業がありまして。そこでセリアさんとであったんですよ」
「どんなところであったんですかあ」
遠くを見つめるような表情を見せる女学生さん。黒髪が短く切りそろえられてきりっとしている彼女がうっとりとして話をします。
「当時の私達はですね。12歳で学園内の幼年学部から中等部に進学してきたばかりだったのですが。フィナル様がダンジョンに入るといって私達はお諌めしたのです。けれどフィナル様は薬草を取るだけと入っていきました」
「フィナル様すぐ調子に乗るだミ」
「フィナル様が先に行くからです」
「そうでしたねえ、あの時は大変でしたねえ」
「3人ともあの時はそろってオシッコ漏らしてましたよね。1階のモンスターは攻撃してこないタイプで、最奥にはゴブリンが1匹だけ召喚されるはずの装置があります。私達はよくわからずにその場所まで楽にたどり着いてしまいましたし」
「そこでゴブリンさん達が大量に出来てきたところにセリアさんが颯爽と現れて蹴散らしたんですね」
「そうそう其の通りですよ。何でわかるんですか」
「セリアさんですから」
実際には耳で聞こえるので駆けつけたという所なんでしょうけれど。
「セリアさんだから駆けつけられたというのはあるんですし。1階から10階まではかなりの広さを誇る採取場も兼ねた広大な広さになっていて初心者が真っ直ぐ2階に繋がる階段までは中々いけません。フィナル様は【幸運】の持ち主ですが、不運なことについた先の装置が異常をきたしたわけです」
「でも駆けつけるまでに何もなかったんですか」
「ありましたよー」
「あしましたミ」
「ゴブリンの恐怖です」
「お下劣ゴブリンさん達だったんですか」
「そんな感じです。基本的に10階までは豊富なモンスターというよりも採取用のダンジョンなのでモンスターもこちらから攻撃しなければ大丈夫なノンアクティブって言われる動かない安心なモンスター達ですし。他所の国と違ってラグナロウ学園のダンジョンには過保護って言われるけど安心の加護システムがあるのです。そんな訳でモンスターから加護システムでダメージをもらわないんですが、ゴブリンの下劣攻撃で3人ともお漏らししちゃった過去があるのです」
「センカも漏らしてたよ!」
「漏らし仲間だミ。」
「攻撃も精神的なものは受けちゃうっていう奴です。一人だけ漏らしてないみたいな言い方はズルいですよ」
ツッコミのレンジャーに天然ヒーラー、冷静なマジシャンといったところですね。
「ともかくそんなわけで、恐ろしい形相を浮かべた小鬼達が私達をジリジリと追い詰めていくわけでした。ゴブリン達からダメージを貰わないとはいえ、フィナル様を背負って追い詰められる私達の前に風が現れたんですよ」
「セリアさんですね」
「そうですそうです。颯爽と現れたセリアさんはゴブリンをちぎっては投げ、ちぎっては殴り飛ばしました。その姿に勇気づけられた私達もゴブリンを仕留めてですね。1階をクリアすることが出来たんですよ。ちなみに部位証明で耳を持ち帰ったのに、キューブから情報を読み出せると言われて大ショックでしたし」
「その後セリアさんがフィナル様を運んでくれたり」
「これで男じゃないのが残念だミ」
「そういう事もあってフィナル様と言わず学園にはセリア様と慕う人が大勢います」
「あれは・・・」
「ということなので何卒モニカさんセリアさんを学園に通えるように主に働きかけてください。なんなら貴方もどうですか」
セリアさんが何か言いたそうに口を開きましたが遮るようにセンカさんが話します。どうやら是が非でもセリアさんに学園に復帰してもらいたいようです。
「えーと」
働きかけてみます。と言おうとしたところで気分が悪くなってきました。
「あーすいません。モニカさんも奴隷魔術にかかっているのですね。失礼しました」
「奴隷魔術ですか」
「奴隷商人のスキルですし。奴隷になる際に書類とは別でキューブに何かスキルをかけられませんでしたか」
「はい。キューブを出せと言われてだしました。あの時の魔術ですか」
「そうですそうです。ちょっとキューブを出して見せてもらえませんか」
「わかりました」
私はおもむろに右手をかざしてキューブ呼び出します。【知識の神よそのものの根源を表し給え】でしたっけ。
不思議な四角い箱が浮かび上がってきます。
「んじゃさ、アマネちゃん。【鑑識】でどのくらいの【強制】がかかっているか見てあげてよ」
「【強制】これですが奴隷魔術の強度って思えばいいですよ。強い【強制】をかけられていると逆らえないですし。主に不利な行動が出来ないものもあるんですよ。例えば性行為を強制するような下衆な魔術をかけている奴も奴隷商人には多いですし」
「そうなんですか」
「んっとわかったわ。モニカさんにかけられているのはLV5。最高ランクの【強制】よ。大変ね」
「それじゃあセリアさんのは」
「私のは1だ」
「最低ランクですね。まあ当然ですし。というわけで私達も一安心です。セリアさんが奴隷になってあれやこれやとされていたら夜も眠れませんし。モニカさんは気を付けてください。セリアさんのは反逆すら可能のLV1モニカさんの【強制】は主が死ぬとモニカさんも死ぬLVの【強制】がかかっていますよ。アマネ【教示】スキルの【リ・ラーニング】で教えてあげて」
センカさんそう言うとアマネさんが私のキューブを握ってなにか唱えます。
「【我が言霊よかのものに伝われその意を教えよ】リ・ラーニング!」
「これは」
頭の何かに何か文字が浮かんできました。
名前:モニカ
性別:♀
種族:ハーフドワーフ
年齢:17
職業:鍛冶士 サブクラス 戦士
スキル:【ラッシュ】【シールド・スマッシュ】【ガード】【叩きつけ】【武器性能強化】【命中強化】【修理】【製造】【採掘】【採取】
特殊能力:【獣化】【筋力向上弱】【武器製造】【防具製造】
状態:奴隷 【強制】LV5
加護:大地の神
属性:地
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「【リ・ラーニング】これはキューブから読み取った情報をそのまま相手に伝える魔術ですし。アマネの大活躍する分野です。いわゆる冒険者カードというのはこれの応用を利用しているのですよ。勉学にはつかえません、【教示】された内容をすぐ忘れてしまうのですし。機会があれば仕掛けられてある魔道具を観察してみてください。特に重要なのは本人の状態ですネ。職業の盗賊と並んで状態:盗人であるかないかなんてのは特に重要です。【サーチ】を併用で使って犯罪捜査や追跡調査もしっかりされます」
「そうなんですか」
「すまないセンカ。話の途中で悪いが乗り換えるぞ」
「えええ、まだまだ話は終わってないのですよー」
「そうは言っても一刻を争う。済まないがまた今度にしてくれ」
「分かりましたセリアさん。はあ、フィナル様いつまで寝てるんでしょうか」
「セリア様絶対帰るだミ」
「またお会いしましょう」
「それでは失礼する」
ヘネシーさんはペチペチと貴族のお嬢様を叩いては起きるのを待っています。セリアさんと私は別れの挨拶をすると一旦ゴルを払って降りました。
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