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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
二章 入れ替わった男
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492話 彼女の事情

 入った先は、真っ暗だった。

 床は、がさがさとして足元はおぼつかない。

 迷宮は、命を懸けるから意味があるという。しかし、死んでしまえば元も子もない。

 

「ここは、鎧の騎士が出る。鎧の中身は、伽藍洞だから狙うべきは核となっている輝く玉だ。入口には、あの通り魔物で一杯だ」

「それじゃ」

「待て待てゲロビは、待て。ここは、スライムだろ」

「酸性っすよ。スライムじゃなくて、ここは水魔術でいいんじゃないでしょうか」


 と、エリアスは杖を構えて方陣が地べたに広がる。すると、一見して水が通りを走り橋を渡って広間へと向かっていく。天井と広間には明かりが灯っていて、鎧の数はトゥルエノたちよりも多い。前衛は、オデット、ルーシア。それにトゥルエノなのだが・・・


「鎧だけにそのまま倒せるなら、鎧をゲットできるからな。傷がつかないことに越したことはない、というわけだ。後ろから、来ないように見ておけよ」

「よくこんな場所に門が開けましたねえ。でも、迷宮の中って直出しできたんですね」

「いい質問だ」


 周りは、ごつごつとした岩で真っ暗に見えたのは窪地だったからだ。影になってわかりずらい位置に通りが面していた。エリアスの魔術で操る水は、鎧の兵士を次々に飲み込んでいく。


「こいつは、水鏡のおかげだ。呪符を作って覚えさせればぎりぎり行けるっぽい」

「でもって、アルストロメリアが死なない程度の迷宮って訳ですかね」

「そりゃそうだ。跳んだら、鼻血だして死んだとかしゃれにならん」

「脅かさないでくださいよ。でもなんで俺が死ぬんですか」


 アルストロメリアは、神妙な顔だ。アルは、彼女に向き直ると、


「そりゃ、迷宮によっちゃ気持ちが悪くなる圧力みたいのがあってだな」

「主の呪いなんですかね」

「瘴気の濃度もあるかも」


 出番のない前衛は、口々に言う。言われた方は、実感がわかないのか不思議そうだ。

 

「昔は・・・ああ、エリアスが専ら死んでいたな。最近、そう、死ななくなっているようだが」

「死んでねーっす。死にかけるだけでね。人聞きの悪い」


 天井まで覆う大きさに水が膨らんでいて、爆発や剣を振るっている鎧の魔物たちを物ともしていない。

エリアスの術は、大した物だ。トゥルエノでもどうにか出来ない数だ。鎧というのが不味い。雷がほとんど効かない。鎧を通して地面に流れてしまう為か、それこそ気絶するくらいに振り絞って1体かそこいらだろう。

 ユークリウッドの方を見ると、姿はなくて木箱があった。その上で寝そべるのは白いローブで呆けた顔をするフィナルだ。頭がおかしそうである。


「ま、危険だと感じたら言えよな」

「既に、ってか頭が痛くなったらって感じでいいんですよね」

「そんな感じだ。フィナル、ユークリウッドが寝るのを止めろよ。なんで、寝かせてるんだよ。全く」


 呆れた顔をして、胡乱な目をするアルはフィナルと木箱に不満だ。笑みを浮かべるフィナルは、打たれるでもない。時折、手を動かして光が水に吸い込まれている。

 

「あれ、やりだしてから10分持たなかったっすね」


 歩き出すオデットとルーシア。それを追うようにアルが続く。

 

「使える鎧も使えない鎧も回収しとけよ。どうしたもんかな」

「そりゃまあ、寝ても経験値増幅効能はありますし」

「気を遣うとかこいつに期待してもしょうがないんだろうが、最近の私たち対する扱い、雑過ぎないか」


 橋は、広くて10人ほど横になれる。普通ならば、数を迎撃するのに使うのだろう。

 後ろからは、魔物がこない。雑、雑と言われても眠いのだろう。

 ユークリウッドの寝る木箱は、浮かんでいてその上では白いローブの少女が鼻歌を歌っている。


 動く鎧はいない。動かなくなった鎧は、術で袋に吸い込まれていく。


「まあ、強敵でもなんでもないし、物理だけだったらやばいかも? みたいなとこありますからね。オデットとルーシアにうちがいたら全然戦うことなくないですかね」

「そんなん寝る理由にならねえよ。全員、可愛い子を揃えてるのに、これじゃなあ」

「あの、意味がわかんねえっす」

「わかれよ。いやわかんねえか。そうだよなわかんねえよな。私もわかんねえ」


 うーん、と唸るアルにトゥルエノは男女の恋仲を想像したものの・・・年端もいかないのにと考えた。

 皆、胸があるわけでもなく権力や金のある貴族の子弟だからといって、性欲まであるわけではないのだろうし。少なくともユークリウッドは、顔には出していない。股間は大きいようだが、子種が重要で金と権力がついてくるのなら拒む理由もない。


「惚れた腫れたというには、皆さまお立場があるのではないでしょうか」

「ちょっと、えっと、待て待て」


 と、言いつつ到着した門を開けていく。


「惚れたも腫れたも、全部、ユークリウッドの奴が俺に惚れるために女を集めているわけでだな。お前も、その一人なんだが?」

「そのような契約は、ございません」

「だよな。そんなんねーです」

「むう、じゃあエリアスもトゥルエノもさようならだな」


 焦った。さよならとは、どういう意味なのか。


「さよならは、無理っす」

「さよならは、無理なのが無理だろ。どうせ、ユークリウッドを利用する気なんだろ」

「論点をずらさないで欲しいっす。アル様にどうしてユークリウッドが惚れるのかってことっすよ」

「それは、わからんから、だなあ」


 威勢が落ちてきて、扉に入るころにはしょげ返った幼女と黒い鎧の魔物が巨体に閃光を走らせて爆散する。歩いてくるのは、オデットとルーシアだ。飛来する破片と魔物がなすすべなく倒されるのに、他は呆気に取られている。木箱の幼女は動かない。


「アル様なら別のよさそうな男とかいくらでも見繕えるんじゃないですかね」

「お前、本気で言ってんのか」


 破片を拾って捨てるアルは、前へと進んでいく。オデットは、槍にしては大きな代物で青白い刃がついている。体よりも大きな刃を振るったのだ。敵うのか敵わないのかというと、ルーシアもオデットも大そうな得物を操っているのだ。侮れない。


「別の男とよろしくやってたら敵になって現れるのが、ユークリウッドなんだからすぐ死ぬそうでなくても死ぬ」

「別の男が原因じゃ」

「まるで体験してるかのように言われるんですが、ねえ」


 ミッドガルドの王族ともなれば、男くらい如何様にでも都合ができよう。従って、殺される自体が想像しえないのも無理はない。


「小さいのが、100飛んで10に中が25、大が1。中々の収穫っす」

「重要な話をしているんだが、聞いてたのか」

「アル様になんでユークリウッドが惚れないのかって話ですよね」


 耳だけで聞いていたのか、エリアスが口を開く。雁行のように並ぶ面々。


「そうだ」

「日頃、何してるっすか」

「日頃? それは、書類の確認だったり裁決したりだな。あとは、こうやって狩りをしているが」

「何も進展ないですよね。俺らのことを責められるってずるくないですか」


 鎧の魔物がいた跡には、一際大きな赤い魔石があった。立ち上る魔力が内包する石の価値を示している。石を回収するのは、エリアスだ。


「だから、考えてるんじゃねえか。ジャポンゲームでいう好感度上げの作業のはずなんだが、奴の家を改装したり庭の手入れをさせたりしているんだがちっとも響かないようだ」

「それも、言わないと駄目なんじゃないですかね」


 四方に広がる部屋の中には、アルたち以外に人はいない。奥に進む扉もないので、帰るしかない。

 しかし、帰る素振りもない。転移門を使えばすぐなので、トゥルエノが気にしても栓のないことであるが。

「ふむ。次だ。鎧は、回収したし。武器だな武器」

「迷宮の中ですよね、ここ」

「そうだ。中から中に飛ぶ。武器もあるに越したことはないし、なくてもレベルとスキルがあるのならなんとでもなってしまうんだが、澱んだ寺院にするか」

「マジで」


 と、黒い靄が渦を巻く。入っていくのは、オデットが先頭だ。何を考えているのか知れない2人組の姉妹である。トゥルエノも続く。地面は、と足はついた。大地は、ある。洞窟かと見まごうばかりの薄暗さに、明かりは、仄かだ。燐光が頼りにして周囲を見る。石が段済みになった壁に、骨の兵士を切り伏せている先陣を見ていた。トゥルエノが寄る間もない。


「待て、魔物を追うよりもアルストロメリアを守ってやってくれ。こいつ、矢の一本でも死にかねない貧弱だから」

「へへ、返す言葉もありませんや」

「ここも同じ奴でいいっすか」

「かまわん。が、腐れ肉団子っぽいのが出てくる前に広げとけよ。フィナルも瘴気をどうにかしろ」


 微笑んでいた幼女が手を軽く振るう。すると、光の粉が舞って広がっていく。


「戦うのも、女の気を引くとか金とかが目的なわけで私がやるのっておかしいと思うのだが、どう思う」

「女子は、確かに戦いに向いてはおりません」

「そうだ。女は、労働に向いていない。とかく、筋力がないから体力もなければ歳とともに容色も衰えていくものなのだ。男女は、平等ではない。だから、給料も違うし汚くきつい仕事は男がする。なぜなら、女はしないからだ。だったら、どうする。いい男を捕まえて働かせるにかぎる。女の全てを使って、だ。普通の女ならそうする。貴族の子弟が行先を選べる方が、幸いなのはその親が身分、権力、金を保証してくれるからだ。ミッドガルドでは、私に逆らおうとする奴などいない。ユークリウッドの気を引かなければならない状態がすでに負けっていうのなら、負けなのだ。そう、いろんな手を使ってみるのだが・・・」


 アルは、手鏡を手にして顔をしげしげと見ている。


「悪くない造作だと思う」

「それ、自分で言っちゃいますか」

「女は、顔だろ、体型とかもな」

「顔が良くなくても、勉学で身を立てる道もあります」

「そりゃそうだ。でも、皆勉学に勤しむだろ。そうするとそのうち、稼ぎがどのくらいかってことになる。兵士をやる能力があるのかどうか冒険者を経てわかる奴もいれば、商人のがいいって奴もいる。でも商人でもレベルを上げとくにこしたことはないぞ。最終的には、全て暴力が解決してくれるからな」


 進む一行に、横倒しになっている肉の塊が黒い液体を噴き上げていた。ぐにぐにと表面が動く。

 回収出来そうな代物は、ない。アルは、木箱の上に座りその両脇にエリアスとトゥルエノ、アルストロメリアが歩く。青空は見えないものの、まばらに生えている木と浮遊する金の粉で明るい。


「では、ユークリウッド様のこと暴力で解決で」

「できないだろ。あいつとやりあえるのは、セリアくらいだ。他の連中はそもそも戦うとか考えもしねえ。ちょっと叩いたりなんかしたらその分だけ、好感度が下がっていくじゃねえか。それじゃ意味ねえよ」

 アルは、王子である。王子であるから、男に入れあげるのが、どうかと思っていた時もあるが・・・

 アルは、男にも女にも見える。切断されて肉は灰色で、進む道のそこかしこに転がっていた。


「つまり、どうしたらいいんだ?」

「男は、寝ればいちころって聞きますけど」

「既に寝てるけど、スケベか。スケベはなあ。失敗したら、捕まらんけど逃げ出すだろうし、困った。なんかいい手はないんか」

「変な服を着て踊りだすとか」

「誰がするんだ。お前にやらせるか」

「良い手がないかっていうからですよ。しませんとも」


 オデットとルーシアを追って音のする方向へと進む。廃墟となっている建物が左右に見えてきた。

 正面には、門扉が崩れて地面には動物の頭に目玉が生えた残骸が転がる。

 1つ、2つと細かいものは数えきれない。やや紫がかった皮膚と赤黒い液体が特徴だ。

 緑色をした蔦が下がっていて、警戒心を呼び起こす。


「加勢しなくていいんすかね」

「今日は揃っているしな。水は広げているんだろ」

「そりゃ、もう。フィナルの術が合わさるとただの水が聖水になりますからほら、魔物もいちころで」


 漂う型の黒い染みが燃え落ちるようにして、何もなかったかのようになっていく様があった。

 フィナルの術は、光でエリアスの術が水。首を左右にゆすったアルは、


「アルストロメリアが死なないで済むようにしているんだが、退屈といえば退屈なんだよな。防壁抜かれると死ぬけど」

「焼肉でもしてみます?」

「焼肉とか毎日してるじゃねーか。ダンスとか嫌いだが、ありといえば有りより」

「狩りならともかく、ですねえ」

「これだよ」


 アルたちは、女ばかり。トゥルエノは、アルが王子じゃないとして考えておくことにした。

 狩りをするよりも、ユークリウッドについて話をしている彼女たち。別に構いはしない。

 トゥルエノにしてみれば、金とレベルが手に入りさえすればよいのだから。


挿絵(By みてみん)


ユウタの部屋に住み着く金魚

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