表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヘタレの異世界無双   作者: garaha
二章 入れ替わった男
677/711

490話 絨毯の心地

 空を進むと、やがて緑色をした人型の魔物を眼下に収めては青い光がユウタの手から伸びて命中する。

 魔物は、動かなくなった。ゴブリンだ。腰巻に槍やら棒を手にしている。


(平地にゴブリンばっかりだ・・・)


 何時までも寝っ転がっていた4人だが、流石に夕日が落ちかけた頃には送りかえした。

 赤く染まる夕日は、物悲しい。人の姿は見当たらない。ユウタは顎を撫でる。見れば、ゴブリンやら何やらの魔物に人間がやられてしまった様ですらある。


「ロゥマの兵は、おりませんねえ」

「ここが、ロゥマってわかるんだ」


 そちらの方がユウタにとっては驚きだった。空を飛ぶ魔物の姿は、ない。平地にはこないのかそれとも山にしか出てこないのか。空を飛ぶ魔物の身体が、大きいだけでも脅威だ。


「あちらの山、形でなんとなくですがわかります。潜入したこともありますので」


 任務なのだろう。しかし、守るべきロゥマ兵も農民も見当たらない。畑と思しき場所に立っていたりうろついているのは、死体だ。頭部が抉れていたりしてわかりやすい。人であっただろう名残で、服を着ていたりする。ユウタは、火の魔術を投げて燃やしている。けれども耕作を放棄した平地を動く死体は、数えきれない。


「ここも、農民が多くいたものです。この先には海がございますが、そこまでいかれますか。街もあったはずです。海神の加護を受けた町は、白くて景色も良かったですよ」


 ユウタは、地平線の彼方に白い壁が広がっている連なりを見つけた。街の様子は、探っておきたい。

 が、別に危険を冒す必要もないのだ。水晶玉で、見ればそれで事は済む。


「水晶玉で、様子を見てみよう。ネロチャマ村の東をどうにかしろって命令は、受けていないし必要ないのかもしれないけど」

「遠見の術ですね。便利なものです」


 ユウタは、使える。トゥルエノは、使う様子がない。

 水晶の玉は、座るユウタの膝の上で映像を映す。トゥルエノにその原理は理解できない。

 同時に、遠見の術は鳥やら猫やらの動物が必要になる。


 ユークリウッドは目を瞑ったままだ。完全に無防備である。トゥルエノがその気になれば、腰の刀一つでやれる。敵の、魔物の攻撃はこない。ユークリウッドは、何を求めているのか。わからない。何を考えているのかもわからない。


 アルーシュの命令は、一つ。ユークリウッドを逃がすな。

 何なのかわからない。逃がすな? とは・・・


 二つ。ユークリウッドを死なすな。

 これは、理解できる。ユークリウッドに家門の行方をかけたのだから、守りもする。


 大まかに言って、これで他は家臣の業務として目録を渡されていた。

 トゥルエノは、じっとユークリウッドを見る。金髪に青目をしたどこにでもいる典型的ミッドガルド人だ。とても、ヘルトムーア兵と戦える外見ではない。


 米粒ほどの大きさで見える魔物も、水晶玉でみれば巨大さがわかる。街から街道を西に進むそれに、赤い光が直撃して倒れた。禿げた頭に胴体が、緑色をした魔物を押し潰す。ゴブリンの体格からすると5倍か6倍ほどの大きさだ。ゴブリンが5尺程度だとしても、大きな魔物と見えた。


 発光した魔法陣は、消えていて反撃が飛んでくることもない。ユークリウッドの力は絶大だ。

 銃器に依らない狙撃能力、相手を遠距離であっても捉える探知能力、これらを機械に頼らないで持っている。トゥルエノにはない性能だ。敵であれば、相手にしたくないに決まっている。


「この距離では、私に攻撃する手段がありません」

「いいよ。僕が全部やるから、僕が絨毯から落ちそうになっていたら教えてよ」


 落ちる様子は、ない。真ん中に座っているので存外に心配する性であった。燃えて、倒れた魔物にかけよるのは同じ型の魔物が2体で続けて赤い光に貫かれる。光が来た方向を見ている魔物は、多い。けれどそれらにも光が降り注ぐと、爆発が地面から起こって、魔物たちの身体は飛んで行く。


「敵、魔物を駆逐して何か得られるのでしょうか」


 ロゥマのことは、ロゥマ人が解決すべきだ。逃げ出しているロゥマ人の村を作っていると聞いているが、守りもしないで逃げ出した手合いを保護しているのは納得がいかない。腰抜けどもは、殺すべきである。ヘルトムーアからミッドガルドへ鞍替えしたので、家門の為に戦功が必要なのだ。


「んー、特に何もないねえ」

「やる意味もないのでは」

「意味は、自分が知ってればいいだけだしねえ。魔物は、人間を襲うからねえ。人間だってやられっぱなしでいるのは、いやなんだよね。魔物にも魔物の都合があるんだろうけど」


 魔物は、魔物だ。人を襲うのが当然ではないか。魔物と話して分かり合うなどと聞いた事がない。


「兵と人がいなければ、領地の維持はできませぬ。兵が弱くとも魔物の侵攻を防げませぬゆえ」


 トゥルエノの家は、弱く小さい。家人からして100居るか居ないかで、生業がそれぞれにある。

 トゥルエノ自身は、ヘルトムーアの貴族に雷の術を買われて仕えていた。

 女は弱くて、使い物にならない。そう言われるのだから、人一倍技と術を磨く。


「兵士ねえ」

「我が家の兵は、残念ながら出せませぬゆえ」


 次に、街の中が水晶玉に映しだされる。街の道を歩くのは、緑色をしたゴブリンだ。成人した男よりも少なく雌は見当たらない。


「アル王子とトゥルエノって契約を結んでいるの? 雇用とかどうなっているのかな」

「雇用、雇われの身です。小口の傭兵団といったところでしょう。実際、やる事と言えば不浄の扱いであったり迷宮への案内だったりしますので」


 高くもなければ、安くもない。だが、アルの肩書が重要だった。

 家は、雷の術者を欲した。トゥルエノは、ユークリウッドを見込んだ。

 種さえもらえれば、それでいい。簡単な筈だったのだが、ちらりと肩でも見せれば襲いかかってくることもない。


「ふむふむ」


 ユークリウッドは、話題を振って来ることもなく魔物と街の壁を攻撃している。

 男は、下心がある。ユークリウッドは、隠しているだけだろうか。ユークリウッドほど術が使えれば、引く手数多なのだろうから女に苦労したこともないのだろう。現に侍らせている女は、両の指でも足りない。考え事をしているのか。黒い外套から手を出し、町並みの間にある道にいる魔物を攻撃していた。

 

 狼の頭、猪の頭と体格も体型もばらばらだ。獣人との違いは、赤黒い瘴気を放つところであろうか。2本足の狼型は、冒険者でも手こずりなんなら討ち取られる驚異がある。


「これ、特にお金が手に入るわけでもないのでアルストロメリアあたりだと無駄やと言われるんですけど、お付き合いいただいてますので僕からお給料を差し上げるというのはどうでしょうか」


 ユークリウッドが、何を考えているのかわからない。お小遣いをやろうとでも言うのか。


「いえ、結構です。お気持ちだけで感謝いたします」

「そうですか」


 ユークリウッドに金子を恵んでもらうのは、事だ。雇い主は、別にいるのだから。

 トゥルエノの父親は、種馬としてユークリウッドを見ているし能力に申し分ない。

 突然、受ける結界の衝撃に周囲を見てユークリウッドの手が赤く染まっている。光る穴が、あった。


「暗殺者? かな。銃は、定番だけど」


 と、言いながら血の滴る桃色の物体を投げ捨てる。スキル鑑定を使用すると【異世界暗殺者】【暗殺者LV●●】とでてきた。光を放つ穴は、暗殺者の元へとつながっているのだろう。異世界人。ヘルトムーア王国では、見慣れた人間だ。ただ、神から祝福を受けて異世界からトゥルエノがいる世界にやってきただけ。髪の毛が黒いことが特徴と言えば特徴である。


「ヘルトムーアの兵でしょうか。ロゥマまで出向いてくるとは、彼らも執念が深いものです」


 ユークリウッドの髪は、金でトゥルエノの髪は紫に近い。父親は、婿にと考えているようだが上手くいくのか。


「お金で雇われたのかな」

「僭越ながら、異世界人は命令を拒否する者が少なく従順だと聞き及んでいます。さしたる理由もなく戦争に参加するとも、ヘルトムーア王国は魔王アルの侵略を受けていて侵略を防いで打倒して欲しいと願い請われれば止む無しと考えもしましょう。彼らを送り返す事のできない点をはぐらかせつつ、適当な待遇を与えれば否という者の方が少なくかつ大金を持って傭兵を雇うよりも確実でありますので・・・」


 金、女、地位。よくわかっていない学生でも日雇いで雇って奴隷のように使う。

 丁稚奉公よりマシといったところである。トゥルエノの家門がヘルトムーアを抜けたのは、王国による奴隷相当の扱いだけではない。馬鹿にされるのが気にくわなかったからだ。一門一同揃ってヘルトムーア貴族王族に何としても思知らせてやらねばと、一つ腹に抱えていた。


(思い出せば、煮えくり返ること・・・)


「ふむふむ。僕は、ちょっと難しいかな。でもわかるような気がする」


 ユークリウッドと街の中心まできた。街の通りは、火で覆われていて逃げ場が門くらいしかない。動いている魔物がいなくなってしまった。


「反撃は、来ないものですね」

「まあね」

 

 実際には、空を飛ぶ魔物が飛ぼうとした瞬間に赤い槍に貫かれているのだ。目にも留まらぬ赤い槍は、ユークリウッドが操っているとみられる。どうやって? 疑問だ。トゥルエノの雷は、体質と呪文を身体に刻んでいるからできることで1秒もかからずに出せる。指と指の間に青白い電光が灯った。ヘルトムーア人は、スキルを習得して稲妻の術を使うが連発できず威力も低い。対人であれば、防護服もしくは退魔鎧で十分な程度だ。

 

 それ以上の魔術師であれば、魔導兵になり機械に乗り込む。ゴーレムというものだ。対するミッドガルド兵ときたら、鎧と盾だけでゴーレムや動く箱を使わない。車輪のついた箱であったり羽のついた箱だ。大砲がついていて、魔物は容赦なく駆逐できた。今やもう過去の話なのだが、ヘルトムーア王国は勝利を疑っていなかったのも無理ない。


「こんなものかな」


 海がその街より先に広がっている。港だ。魚人に襲われていない船も燃え上がっていて海には魔物の死体が浮かんでいる。北に道があり、海岸に沿って伸びていた。北側の壁へと降りていき、絨毯から降りる。魔物は、襲ってこない。焼き焦げた匂いが、風で運ばれていく。


「ロゥマ軍は、何をしているのでしょうか。このような有様では、北の山脈からぐるりと制圧されているのではないかと存じます」

「だろうね。ロゥマ軍が何をしているのか知らないけど、兵隊は呼べないからネロチャマ村の住人でなんとかしてもらうしかないかもね。段々、人が集まってきて手狭になっているみたいだし村の拡張しないとね。結局、その土地に住む人間がどうにかするしかないんだよ。僕は、ロゥマの領主じゃないからね」


 領主のようなものではないか。他の者がなんと言うのかしれないが、ミッドガルド兵がロゥマの最北部を占拠しているように見られる。ヘルトムーア王国が動けない今、ロゥマ国の切り取りが始まっていると考えるべきなのだ。当のユークリウッドにはそのような考えが浮かんでいるのか計り知れない。肉の焦げた匂いに悩まされつつ光る門が出て誘導されるままに足を入れた。

 

 門がある。黒い柵の突き立つ外壁に道があり、馬車が疎らに行き交っていた。


「はい。どうぞ」


 木の椅子が置かれて、差し出された串を受け取る。いい匂いだ。屋台から、にこにこと笑顔でやってくるのはオデットとルーシアだ。白いエプロンに黄色い鳥が描かれている。


「いつも人がいないんだけど、大丈夫なのかな」

「大丈夫であります」

 男は、まるで理解しない。


 目がオデットと合った。話すな、ということのようだ。屋台は、ユークリウッドが帰ってきそうな時間を見計らって締めている。というより、客を追い払っているのだ。値段は、高くもなければ安くもない。だが、客がくる。長い椅子で金網を乗せた壺を差し挟む。壺の中は、炭が燃えている。


「トゥルエノさんのお給料は、いくらなんですか」

「我が家、での計算になりますからさっと諳んじることできませぬ」


 術は、使えても計算が苦手だった。壱足す弐は参。掛け算までは、わかる。

 人工で一人人で、二万ゴルならば十分だ。


「物が売れるならいいんだよね。売れるんだったら・・・」


 代わりの人でいいんじゃない? とは、ユークリウッドは言わなかった。やりたいのに、やっていることを咎められれば腹も立つ。結果、屋台がなくなりオデットとルーシアは接点がなくなりぼっちになる。つまり、気がついたのか。気がついていないのか。ユークリウッドは、視線を明後日へときょろきょろ動かす。オデットとルーシアの雰囲気に、先が喋れないようだ。


 通行人は、いても遠くを歩くか迂回する。


「売れ行きは、上々であります。心配ご無用、それよりネロチャマ村の避難民が増えて疫病が流行らないかとか心配したほうがいいでありますよ」

「それは、そう。完全隔離で分けるしかないかな」


 相対する形で4人になった。まるで、関係に塵ほども進展がない!!

 脇に汗が滲む。


「元の住人たちと揉めそうじゃないかしら」

「仕事があるから、そんな暇ないよ。揉めそうならもっと与えてもいいし、外壁、土工、外構、舗装、作図、保管作業はいくらでも土木だけであるんだからね」

「県境がないから疫病を防ぐのも靴とか手洗い所の増設しかないであります」


 ヘルトムーアならば、国境を閉じる。同じようなものだろう。黒死病も遠い話ではない。

 いくら魔術で治ってしまうとはいえ、脅威だ。元栓を閉じるのが良策である。馬鹿にはわからないが。


「今日は、なんでエリアスとか連れてないの。フィナルもいないみたいだし」

「なんか結界を無理やり開けようかしたのか血まみれになってたから返したよ」

「なんで、無理やりでありますか。頭がおかしいであります。通れないのに、どうしてでありますか」


 彼女たちの頭がおかしいからである。転移門がそもそも使えないトゥルエノは、羨ましく思うものの試そうとは思わない。なんとも思っていなさそうなユークリウッドが心配になってきた。家門の命運を託しているのだが、早まったか。


(それでも、歯車よりはマシでしょう)


 夕日が沈みきるころにお開きになった。

 


挿絵(By みてみん)

さつ。様作品

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ