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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
二章 入れ替わった男
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486話 凍える路地

 家に帰って寝て、また仕事。

 だんだんとルーチンワークと化してくる。

 一日が、決まった流れになっていて味気が薄くなっていた。

 

 しかし、だからといって戦争に参加するのは気が引ける。

 ユウタがやれば、まさに虐殺でしかない。人の死体を見て、楽しむ人間がいたりするから尚更だ。

 食事は、何気ない会話だし学校がどうのこうの物売りがどうのこうのと穴の事やら家族に聞かれたりする。


(女の子がいると、いいなどとどうして考えたんだっけ)


 ユウタは、強くなりたかった。強くなったはずだ。ならば、どうして奴隷のように働いているのか。

 意味がない。他人が、好きになってくれるはずがないから?

 それとも、失敗した記憶があるから? そうであったからやり直したかったと考えていたはずだ。


(ガキの頃は、なんだか知れないけれどモテてた気がするな)


 それで、努力しなかったから? いや、努力した。努力したが、選ばなかったから選ばれなかった。

 男も女も選ぶものだ。白い壁に石畳の廊下を歩いて2階への会談に差し掛かり、天井に灯りがついている。

 虫は飛んでいない。それで、明かりが白い色をしていて眩しさを感じた。


 ユウタの努力が足りなければ、あっさりセリアやエリアスは離れていってしまうのではないか。

 ユウタは、奴隷を求めた。考える必要がないからだ。

 奴隷がいれば、会話に気を遣う必要もない。会話の流れだとか、なんとか楽しませる工夫がいらない。


(迷宮に潜って金を稼いでいても、死んでしまえば何にもならない)


 だから、貴族は迷宮に潜って強くなろうなどと考えない。どうせなら、権力でこき使えばいいのだ。

 権力を保証するのも力ではあるが、必ずしも当人である必要はない。

 強い人間を従えていればいい。


 階段の先には、人がいない。扉の前に立ち、中の気配を伺う。複数の人間がいる。

 ユウタは、ほっとすると同時に疲れも感じた。

 いつまでも同じ時間は、続かない。男が歳を取るように女も歳を取る。


 扉を開けて、


「遅かったな」

「邪魔してるぜ」

「ええ」


(まあ、いいか)


 変わらない面々がいて、ずっと続くのかと不安になる。ユウタから見ていづれも利用価値があるからやってきているようにしか見えない。


「お前が、参戦しない間にどんどん進軍が進んでいるんだが。戦功を立てなくていいのか? 家臣どもは我先に兵を進めているぞ」


 そういうアルーシュは、石の板に映る画面を見てゲームを楽しんでいる。

 そのゲーム内容がミッドガルド大戦略なんて表示されていて、軍団の兵数まで見えていた。

 いいのか悪いのか。手紙でやり取りをしている時代に、ユウタの部屋だけ通信手段が異次元だ。


「ええ」

「ええって、またやる気が欠片も感じられねえし。やる気だせよな」


 画面が切り替わると、ユウタが水で砦の兵隊を押し流す姿が映る。

 どうやって記録したのか知れないが、斜め上から見ていた。

 まるでドローンでも使っていたかのようだ。


「砦一つではな」

「ご不満ですか」

「まーまー、いいじゃないですかー。ヘルトムーア東のあそこを落としたお陰で北回りの敵が孤立して中よりは抑えられたわけですよ。硬い守りで日数かかってたわけじゃないですか。十分に働いてますよね」

「いちいち解説は、いらないだろ。きっちり殲滅しておけば、後の処理で死人が出ることもなかった。逃げる相手を追い討ちするのが気に食わなかったのだ。おかげで、追撃した兵が思わぬ反撃を受けたりする。敵に情けをかけて味方がやられては、不満だぞ」

「こいつが、そういうヤツだって知ってるじゃないっすか」

「敵兵にやられる方が悪いであります」

「お前ら、私を悪者にしたてようとしてるのか。敵を逃しすぎだと言っているんだ。敵なんだ。容赦しちゃいかん。せめて、5割は倒すくらい」


 敵兵が、カウントされていく。水で押し流したものの、ほとんど死んでいなかった。

 

「結果、オデットとルーシアが後始末に行ってくれたんだぞ。苦戦する方が悪いんだがな。アルカディア兵が多分に混じっているものだから、崩れる時はあっという間だ。軍として再編するのに1年かかるのか2年かかるのかわからん。ともあれ、明日はシルバーナと調査に行ってくれ。明日の朝に迎えに来させる」


 ユウタは、頷いた。魔物を倒すのと違って、兵隊でも人だ。心に来るように響く。

 ベッドに横たわって、黄色い毛玉や白い毛玉を手に揉みつつ瞼を閉じた。


「なんなら、僕が殺しとこうか」

「止めとこうね」


 黄色い毛玉は、嬉々として実行するだろう。ユウタと同じかそれ以上に残虐な真似をやりかねない。

 折角、権力に近いのだ。人を幸せに導くのが仕事ではないだろうか。



 ユウタが瞼を閉じて、白く模様の入った天幕の向こう側は、


「寝たのか」

「まだ早いのでは」


 早いも糞も早い方がいい。口角を上げたアルーシュは、忍び足で踵を上げつつ歩く。 


 そろっと様子を見に行くと、アルーシュは腹に白い筒状の物で衝撃を受けた。

 吹っ飛んだ体をエリアスが受け止める。重い。従って、壁に激突するかのようなしなりを作った。

 除き見は、できなかった。忌々しい下僕どもだ。駆逐しようにもアルーシュたちが駆逐される。


 手ぐすねする連中は、強敵だ。


「あの獣が邪魔するっすね」

「んなことはわかっとるわ」


 普通は、女を襲うのが男だ。出すものだ。おっ立てて生きる。そういう生き物だと皆知っている。

 だから、ユークリウッドは理解できない。


「ちん○がついてるのか確かめるだけだっつーのに」


 ふうっとため息が出る。テーブルの下へと体を入れ温まる。布と温める機械は、非常に便利だ。

 四角の木板は、つるつるとしていて上にはお盆と蜜柑。甘みが適度にあり絶品だ。風邪もひかないというもの。


「堂々と脱がせばいいじゃん」

「触れんだろ。逆に脱がされたら困る」


 己は、やってもいいが相手がしては駄目。言わずとも知れた屑の中の屑だった。

 アルーシュは、選り取り見取りの筈。何もユークリウッドに拘る必要がない。

 世間一般民からすれば未知の存在で、雲の上から隠れて見えないのだし神族だ。

 潜入は失敗。とはいえ、この集いには目的がある。


「迷宮にいかないのだったら、俺、帰りますけど」

「牛乳飲まないとであります」


 黒髪と金髪。二人の幼女が、赤い革布でふかふかと体を沈ませていた。


 アルーシュの顔が見る間に赤味を帯びる。しかし、エリアスにするような暴力はない。

 恐れているのか。金の毛を弄る眼帯の女は、薄着で長い袖の布一枚に口で葉っぱを噛んでいた。

 神族を恐れている風ではない。さりとて、


「ふん。今日も、行くぞ」


 寝ているユークリウッドをそろそろと運びに移る。




 ユウタが目を覚ますと、全身が痛む。筋肉痛でもこもことした動物がベッドの上を占領していた。

 枕の下には、石の感触があり夢を一切見なかった。不思議である。

 回復をかければ、痛みは取れた。


(なんだったんだ。朝から、あれ)


 パンツがない。ユウタは、パンツを履いていたはずだ。

 寝るときには、パンツを履いていた。しかし、朝はない。不思議だった。

 パンツは何処に行ってしまったのか。しかし、詮索しても検討しても思い出せない。


 そそくさと、濃い茶色の箪笥から茶色のパンツを取り出す。体にぴったりと合う短パン形式の物だ。

 いつの間にか新品が入っていて、非常に助かる。黒い下履きに黒いローブを羽織って黒いベルトを使って下履きの位置を合わせる。短足だった前世とは、大違いの体だ。


(さてと)


 シルバーナが、家にやってくる。その前に、朝食を済ませることにした。



 ユークリウッドの家は、ルーシアとオデットの家の隣でアル達の別荘からも隣にある。

 茶色い髪を後ろで結んだ幼女は、朝から不機嫌そうに唇を結んでいた。

 呼び鈴を鳴らすと、警備の男が出てきて応対する。


(くそっ、どうして私がユークリウッドの後始末をしなければならない!!)


 女衒の元締めを駆逐したら、面倒を見るのがシルバーナになった。

 それは、それで手間なのだ。女だからだ。女というのは、やかましくて自己主張が激しく責任を負わない。そういう生き物だから、殴って言うことを聞かせる。


 だからといって、それだけでは生きていけない。股を開くことでしか金を稼げない女というのはいるのだ。幸いにしてシルバーナは、剣に覚えがあり父親は元騎士団長。手下には、男が多く元騎士という者がほとんどを占める。


(まだか?)


 降って湧いてくる仕事は、多い。女衒の後始末も然り。アルーシュは、暗がりを好まない。焼き払ってしまえという意見もあったが、それでは女たちの暮らしが立ち行かないことを説明して回避することはできた。だが、それで済む話ではなかった。女衒というものは、町があれば町、市があれば市にいるもの。


 だからか、調査を命じられていて見つかったのは凍死したという少女の検死だ。

 結果、凍死で済まそうとする町の圧と原因不明とする騎士団。自警団まで加わり、混沌とした町が 

 レンダルク家の領地にあるという。アルブレスト家との境目にある領地の名は、ヒカワ。


 調査は、難航を極めた。北にある町で、領地の外れにあるとなれば領主の目も届きにくい。

 はたして、ユークリウッドは、何気なく10数えるほどで現れた。

 整った髪型に、人を殺しそうな眼光は底冷えする。シルバーナでなければ、幼児がまさか歴戦の戦士だなどと思いもよらないだろう。


「おっす」

「何かな」

「手を貸せ」

「なにするのか説明してくれないとね」

「転移門だ。ここに行く」


 地図を開く。光の門に入ってきたのは、シルバーナとトゥルエノだった。

 

「なんだ、こいつ」

「いえ、主が何処かお出かけしようというのでついてきた次第。お邪魔でしたか」

「別にいいけど」


 町は、どんよりとした曇り空だ。まるで、憎しみが空から落ちてきたかのよう。

 何気ない路地の木箱。その裏へと案内する。白いチョークで人の形が作られていた。

 どこでもある人の死。凍死する子供など珍しくない。家を家族を失ったら、子供が生きていくことなどできようか。できやしないのだ。


「ここには、何が」

 

 雪が屋根の上から落ちてきた。ユウタから離れた場所で、それは大きな音を立てる。

 

「なにか、見えないか」

「霊は、見えないね」

「そうか。だが、たしかにここで死んだ少女がいた。単なる事故死なのかそれとも他殺なのか。体には体液などなかったし、薄着だった点や靴を履いていなかった点が不審がられている。降霊の行える術者には、金がかかるから金をかけるかどうかが論点でもある」

「巫女は、おられないのでしょうか。たしかに、ここに霊の残りはおられないようですが」


 冷たい風が路地を吹きつける。白い袴の女は、東方の霊媒師か巫女か。シルバーナには測りかねた。

 

「わかるのは、通りから入ったすぐの木箱裏で死んでいたこと。それを早急に凍死と結論づけようとする点だけ。何かが引っかかるんだよねえ。こいつはさあ」


「これだけじゃ、わからないよ。寒いのに、なんで薄着で外に居たの」


「わからない。出かけてきますと書き置きがあったみたいだ」


「その書き置き、本人が書いたなら凍死、他人が書いたかもって話なの」


「字がな、きたねーんだ。教育を受けてたみてーだけど、その塾ってのがな」


 親は、片親でいじめを受けていたという。だが、いじめを受けていたというのはなかったという。

 塾は、公的なものではなくて私塾だから当然平民と貴族が入り交じる。片田舎の塾を想像すれば、権力者のガキがのさばっていてもおかしな話ではない。


「あれ、なんだろう」


 白いマークとは別に、壁に浮き出る湿った染み。何か人影にも見えなくもない。不吉だ。


挿絵(By みてみん)

ルーシア

Kreis様作品


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