63話 王都で車!
ドンドンと叩かれる。うるさいなあもう。私は玄関の扉が叩かれる音で目が覚めました。セリアさんも起きたようです。ベットから這い出すともそもそと服を着替えて玄関に向かいました。二階にある奴隷用とは思えない室内を出ると階段を伝って玄関に移動します。ドンドンと扉を鳴らす音は激しさを増してきました。
「はい。どちら様でしょうか。」
「君がユウタか。ではないな、女の子じゃない。少年のはずだ。我々は王都騎士団白銀の剣で治安維持隊だ。私は隊所属の調査係でムクという。君は召使いかね。主を呼んできていただこうか。」
「はい。騎士様しばらくお待ちください。」
真っ白な鎧が銀に輝く王都でも有名な騎士団の方が一体どんなの用でしょうか。大変です。私は慌ててニ階にあがっていくとセリアさんが出てきます。
「どうしたモニカ、騎士団が来ているが何かあったのか。」
「あ、セリアさん。ええっとご主人様を出せって。」
私は慌ててご主人様の部屋向います。私はノックもそこそこに返事も待たず飛び込んでいきましたが、まだ寝ておられるようです。
「おはようございます、ご主人様起きてください。」
私は必死で死んだように眠るご主人様を揺さぶります。
「うう、モニカ。」
「ご主人様起きてください、大変です。」
「何、どうしたの。」
「ご主人様騎士団の方が玄関に来てますよ。主人を出せっていってます。」
「わかった。すぐ降りていくからちょっと待ってて。」
私がご主人様の部屋を出るとセリアさんが完全装備で立っていました。
「あのセリアさんどうしたんですか。」
「どうしたもこうしたもないぞモニカお前も着替えるのだ。」
「騎士団の方と戦うのですか?」
「何を馬鹿なことをそんなことをしてみろ、この場を切り抜けたとしても王国に居れなくなるぞ。確かに私も偽物の可能性について考えてみたが、あれは紛れもなく本物だ。とにかく着替えろ。この後の事は速さが問われる。」
「ええっと、分かりました。」
「早くしろ、モニカ」
私は会話が終わると急いで戦闘装備に着替えます。会話が玄関から聞こえてきます。玄関ではご主人様と騎士様が会話されているようです。準備もそこそこで私は玄関に出ます。
「では、連行する。」
「分かりました。セリア後の事は頼んだ。」
「任せておけご主人様。」
ご主人様は両手に枷を付けられて、騎士様達に囲まれて連れて行かれます。
「あのセリアさん、どういうことなんでしょうか。」
「モニカ遅いぞ。時間がないから、説明は移動しながらする。」
騎士様達は【ゲート】か【テレポート】を使って帰っていきます。未だにどっち【ゲート】でどっち【テレポート】なのかわかりません。
セリアさんは入口に走ると、私を待っています。
「遅いな、モニカ全力で移動しろ。」
「セリアさんわかってますよー。」
セリアさんが走り出すと私の横を走るように合わせてくれました。
「あのセリアさん。お一人で目的地に向かった方がいいのではないですか。」
「やれやれ、わかってないようだな。敵の狙いはご主人様だけではないぞ。もっとも狙い安いのはモニカ、お前だ。」
「えーとどういうことなんでしょうか。」
「あの凶悪忍者か陰険学者辺りが糸を引いているなら、間違いなく分断攻撃の一種だ。」
「それって、私が狙いなんですか。」
「そう見て取るべきだ。判断に間違えば、モニカ一人屋敷に残して誘拐されてみろ。最悪肉片になって返される。」
「そうでした、でも誘拐されたあの頃とは違いますよー。」
「確かにな、それでも中級以上の忍者か盗賊或いは手練の手駒で固めてこられれば手も足もでないだろう。相手は王国に巣食っている暗部だからな。」
走る私とセリアさんは高級住宅街を抜けるとアイングラード大通りに出て大通りの隅のほうを走ります。早朝でもしばらくすると人で溢れかえるようになる通りです。王都の中心部を貫く通りでもあってなかなかの広さです。ご主人様は何時も【テレポート】か【ゲート】をご利用されるのですが歩くことも重要だと思うのです。
「はあ、はあセ・セリアさん。」
「何だモニカ。」
「あの何処に向かっているのでしょうか。」
「それか、モニカ息が上がっているな。だらしがないぞ。そうだな騎士団黄金の盾の詰所だ。レオの父上が団長をされておられる。レオに連絡をとって戴ければ話は早い。白銀の剣も隣にあるからな。手間をかけるとご主人様の身が危ないというのはモニカでもわかるだろう。」
私も息が上がってきました。セリアさんは騎士嫌いだと思っていたのです。アーバインの騎士団詰所に行くのが嫌だったんでしょうか。早朝とは言え通りを冒険者風の格好をした2人の女が走っているのは珍しいのか注目を浴びています。
「セリアさんは騎士団に行くのを嫌っていたのは何ででしょうか。」
「む。それはだな。あーまあ秘密だ。」
「でも今から騎士団に行くわけですよね。」
「そうだ。背に腹は代えられないというかだな、ご主人様を見殺しにするわけにもいかない。レオかアベル辺りに会えればいいのだが、シグルス様がこの件を知っているのだろうか。」
「あの返事になってませんよ。」
「モニカはそんなに気になるのか。不味いな、モニカ。仕方がない魔術車に乗るぞ。」
セリアさんはそういって停留所に移動します。この王都には城門から王城付近まで移動する魔術を応用した魔導輸送車が存在しています。王都が広いので移動するには便利です。ご主人様は【テレポート】や【ゲート】を利用されるので目にすることはないのですが、普通の人は巡回する箱みたいな移動用の物を利用しています。
「あのセリアさんお金はあるんですか。」
「一応隠しゴルがある。ご主人様はゴルの管理が下手糞だからな。こういう事態もあるかと言い方は悪いが溜め込んでいた。」
「そうなんですか。すいません私は手持ちのゴルがないのでお借りしてもいいですか。」
「無論だ。ご主人様のゴルだからな。」
しばらくすると大型の民衆用の輸送車がやってきました。白塗りで中々の大きさです。早朝ということもあって人が少ないので楽に乗り込めます。車輪がついているのですが。不思議な事に少し浮いています。セリアさんと一緒に四角い箱のぽっかりと開いた口に入りました。中には座る場所が結構あって人乗っています。セリアさんと一緒に空いている席に座ると騎士団詰所前まで移動です。
「輸送料金はいくらになるんでしょうか。」
「ん、大体平均3ゴルから8ゴルだと思うぞ。」
「ご主人様はやはりお金の管理が下手なんでしょうか。」
「普通は奴隷にゴルを預けたりしないものだしな。」
「買い物も同じ店に行って他の武器屋、防具屋回らないですよね。」
「ああ、だから騙される。いい加減目に余るからな。取り合えず次買い物に行く時は私が紹介する店に連れて行く予定だ。モニカ、人が良いというのも問題だぞ。奴隷が主人に意見するのもおかしいと黙っていたがそろそろ口を出していくつもりでいる。最初に連れて行った店で言われるがままに買うというのは少々な。詐欺とは言わないが上乗せが悪質だ。」
売り手側の商人の言う通りの値段を払うご主人様です。
「騙されたと知ったら怒るでしょうか。」
「怒るかもしれないが、商人との値段交渉というのはあってしかるべきだ。ご主人様はお人好しが過ぎる。モニカは覚えているか? ご主人様が10万ゴルで購入した盾の事を。」
「はい。」
「私もあれには口を挟むべきだったと後悔している。10万ゴルでいかがですか、と言われてそのまま買うとは思わなかった。」
「そうなんですか、私は10万ゴルと言われてそんなにするんですね。凄い盾なんですねとしかおもっていませんでした。」
「ご主人様も相当な田舎者だが、モニカも何処から来たのだ。」
えーとそれは。ふと乗り物の中を見ると窓というべき物には透明な何かがつけられています。思い出されるのは故郷の大草原です。どこまでも広がる草原に農耕と放牧で暮らしていました。懐かしい兄弟達の顔が目に浮かびます。
「ホルスシュタインです。とっても良い所なんですよ。」
「そこは確か、牛人が主体の地域だな。王国西方の辺境で自治州だったか。通りでドワーフぽくないのだな。」
「そうです。皆牛さんに似て穏やかなんですよ。牛人と言っても女の人も男の人もそんな動物ぽくありません。牛人と聞いて皆さんミノタウロスと一緒にするのはやめてほしいです。」
「ふふ、まあそうだな。ハーフのモニカは残念な事に乳だけだしな。」
「セリアさん酷いですよぉ。ドワーフの特徴が耳と背丈程度しかないのが残念です。」
「見た目が牛人と離れているものな。モニカは牛人の【獣化】も【筋力強化】これも使えないのか。」
「セリアさんすいません。私はどちらかというとドワーフ寄りでスキルも【武器製造】【防具製造】だったり戦士系のスキルばかりです。身長も160cm位しかありませんし。」
私自身ドワーフ族の真似が出来るとは思っていませんが、【武器製造】【防具製造】と聞くと燃えてきます。お父さんの血のせいなんでしょうか。身長は伸びませんでした。女の人でも牛人だと平均180cmはあります。
「そうか、牛人と言えばその巨躯が売りだものな。ドワーフ族というには耳も細い上に小さい。得られるスキルはどちらかというとドワーフ寄り。ご主人様もモニカを鍛冶士にしてみたが製造させられるほど暇がないしな。」
「それはしょうがないと思います。暇がない上に設備があるわけでもないので、せっかく素材を集めても倉庫行きですよね。」
この輸送車は各所で止まるタイプのようです。しばらく移動してはまた止まります。
「素材か。ご主人様は相当イベントリに溜め込んでいるが、素材売りも考えないといけないのだがな。」
「ゴメスさんに只であげてたりする物ですか。」
「ああ、ご主人様は全く何を考えていないのかわからない。例に上げるとだな、木があるだろう。」
「やっぱりそうですよね。」
「木を一つ買うにしても500ゴルから2万ゴルまで幅がでるとはいえ売れる。恐らく木材の代金を請求するならちょっとした町の予算位の額が出てくるぞ。」
「とんでもないお金になっちゃいますよね。村人に都合がいい時だけ利用されて捨てられないか心配です。」
「そこだ。ご主人様は無欲だなと言ってしまえば簡単だが、アル様が何とかしてやると言っていただろう。」
「それが何か?」
「あれは、そのまま木やら森で採れた採取物を金額に換算して請求する腹芸だぞ。」
「ということはアル様の騎士になることを断って仕官することを拒否していたら、ご主人様は奴隷になっていたということですか。」
「そうだ。何でもタダの物なんてないわけだ。ご主人様は素直にありがとうございます、だなんて言っていたがな。この国の王族に貴族という奴は兎に角強欲だ。一見すると善政に見えても搾り取るとこに躊躇が無い。アルルの奴も欲しいと思った物を手に入れるのに遠慮する気はないからな。そうなったらそうなったで都合がいいんだが。」
「というとどういうことなんでしょうか。」
「それはだな・・・。」
そこまで話をしていたセリアさんがしっと言って下を見るように合図しました。輸送車の入口を見ると学生さん達のような人が乗り込んできました。
閲覧ありがとうございます。
モニカはセリアの抱き枕に。広げまくった伏線回収しないとOrz




