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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
二章 入れ替わった男
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479話 廃墟へ

 茶色い丸太は、ただの丸太だ。

 光と魔力が人を集めないように、隠蔽と人避けの結界をエリアスに指示しつつユークリウッドの姿を伺う。

 穴が空いているとかいうことはなくて、グスタフら家人がやってきて、視線をアルーシュに送って来る。


「これは、何事ですかな」

「なんでもない。魔術の実験だ」


 光を放っていた丸太が地面に落ちる。丸太は、転がる。ユークリウッドの周囲をくるくると回っていく。


「しかし、光っておりましたし、魔力が・・・」

「今は、おさまっている。気にするほどでもあるまいよ」


 魔力というより、神力で木に関するからに・・・


「部屋に戻るぞ」

「いや、でもあれ気になんないっすか」


 ぱっと思いつくのは、黄金樹だろう。だが、茶色い丸太とはかけはなれていた。

 そうだ、そうだとアルストロメリアとエリアスは、白い薄着で黒い上着を羽織った恰好をしている。

 

「丸太を調べるとでも?」

「そうっす」


(丸太は、丸太だぞ。調べてどーする。そもそも奴のペットなら触れない・・・)


 ユークリウッドが触らせるかどうかである。仮に許可がでても白い毛玉や黄色い毛玉を捕まえられたことがない。右から左に光より早く動く。それと同じなら、とてもではないが二人には、手も足もでないだろう。永い時を生きる化け物で、同時に刹那で世界を滅ぼす神でもある。余人には、わからないのだ。

 言っても詮無いことである。

 

「またペットが増えたのですね」


 訳のわからないことを言っているのが、ミッドガルド一の聖女だ。

 月明かりと室内の灯りで金色に輝く巻き毛を弄っている。だが、変態だ。


(パンツを盗んだり、この阿保。やりすぎだろ・・・)


 もはや、頭がやられているとしかいいようがない。

 そして、ユークリウッドのペット。


 見た目は、ただの丸太でも角の生えた黄色い毛玉がぶつぶつと呟くからには只の丸太なはずがない。微弱ではあるが、同じ種族のような信号をアルーシュ自身は、感じる。

 扉を開けて部屋へと戻る。ぞろぞろと列を作る者と待機して窓から見ている者に分かれていた。

 これまた薄着をした幼女が、二人。オデットとルーシアだ。いつも二人で組んでいる。ユークリウッドの関係を邪魔さえしなければ、使える人間だ。

 

「あれ、どうしたんでありますか」

「さあな。私の知ったことではないが、ユークリウッドの使い魔が進化した、かもしれないというところだろう。特に、危惧することはないな」


 正確なところは、不明だ。だが、何かが変わったのだろうと推測される。

 

「さっさと狩りにいきたいところだが、奴があの調子だと迷宮に行くのが遅れて寝る羽目になる。どうしたものか」

「まー寝るまで待つしかないっすよ」

「それしかないか」


 強引に連れて行こうとして逃げられても困る。かといって、このような狩りで命令をするのもありか無しかでいうと無しだ。命令が、薄っぺらくなってしまう。狩りの時間は、アルーシュに合わされるのだからない時もある。


 ユークリウッドが寝るまで時間がかかるのは仕方がない。布の敷物に机があり、お盆には蜜柑と呼ばれる果物が乗っている。少々小ぶりだが、美味しい。壁の映像機は、各地の様子が映し出されている。もはや、報告書と一緒にこれらが送られる時代だ。羊皮紙から、ステータスカードを使った記録と映像が飯の種になる。


「最近、ロゥマに行ってるみたいですけど、いいのでありますか」

「問題なくもないが、セリアが好きにやっているからな。ユークリウッドの攻撃で進軍が始まっている。ヘルトムーア王国の首都と要塞の間さえ突破できれば、特に急がないといけないこともないな」


 ヘルトムーア王国を攻撃する兵が、旧アルカディア王国から調達できれば幸いなのだ。

 そうした方が本国から兵を移送する手間も、少なくて済む。

 セリアとユークリウッドで十分に敵の兵力と兵器を削ってある。損害が出ても制圧が不可能な程にならないよう小出しに浸透していく戦略だ。


「うちの国って敵、多いですし」

「姉ちゃん大丈夫だって言ってるし。大丈ーぶ大丈夫」


 扉が開いて、ユークリウッドかと思いきや別の人間だった。拭きかけの頭にぼさぼさした金髪の幼女が二人して入ってくる。


「おいーっす」

「おいーっす、じゃねえよ。ユークリウッドはどうした」

「風呂っす」

「連れてこんかい」


 立ち上がろうとした幼女の腕を捕まえた。変態幼女は、風呂を覗きに行こうとしたに違いない。


「あらあら、殿下もご一緒します?」

「ご一緒じゃねーよ。座れ」

「野郎が覗きに来るんじゃなくて、女が覗きに行くっておかしくねー?」

「それだよ、それ」


 実際、おかしい。


「お前らが、覗かれている可能性もあるな」

「ずりーぜ。ぶっ殺す」

「待て待て」


 座らせてまた出ていこうとした幼女を捕まえて座らせる。窓の方向へと動こうとした女を空気の手スキルで捕まえた。【停止】でもよかったのだが、


「だから覗きに行くなって、行ってんだろ」

「でも、チャンスかもしれませんわ」

「なんのチャンスだ。全く、どうかしているぞ。慎みを持て」

「そんなもの捨てました」

「捨てちゃいねーよ」


 どっかと座って、頬杖をつく。


「奴の玉からちょっと液体を回収するのなら手伝うぜ!」

「どーして、そうなる。オデット、こいつらが変な動きをしたらしばけ」


 アルーシュは、意のままにしたい。全てが、手の平に置きたい。意のままにならないのなら降格、蟄居、隠居、色々やりようがある。未だに、魔力の補充やら要塞の破壊は換えが効かない。父親は、見たことがなく母親が全てであって言うことがおかしい。が、おかしいから神なのか神だからおかしくなったのか。換えが効かないにも程があるというか。


「ユークリウッドとスベケとかマジむずいっす」

「まあ、そうなんだが」


 胸を触るとか口づけとかそんなことすら起きない。下手をすると、フィナルが背負われて徘徊した接触が最長ではないか。


 (あれ? ひょっとして、負けてる? 私が、敗北者?)


「わっ、いきなり真剣な顔になったぞ。こえー」


 扉の取っ手が動いて幼児が、上下白い布の服で部屋に入ってきた。その足元には、転がる丸太がある。

 

「狩りいこーぜ」

「もう遅いよ。寝たほうがいいと思うよ」


 夜は、これからだ。まるで経験値を稼げないと、弱っちく惨めな王子になってしまうではないか。

 既にして、セリアとの差は象と蟻とまではいかないが開きがある。

 彼女が体当たりしてきたらそれだけで瀕死になる。


「寝たいのなら寝かせてやればよかろう」

「それじゃあ。おやすみなさい」


 ユークリウッドは、寝る時間が明らかに早くなった。ちびになるというのが本人の弁だが、父親のグスタフは190cm程度はある。ミッドガルド人としての男の平均値だ。食い物が悪くなっても背丈だけはあるのが、ミッドガルド人の特徴で餓えると反乱が起きやすい。どこでもそうだが。


 


「ここ、どこですか」


 寝静まった頃合いを見て、移動した。移動した先は、王城の地下にある施設から直行で跳べる迷宮だ。名前は、溶け落ちた城。暗い空は物理的法則を超越して、黒い太陽が出ている。メンバーというと充実している。フィナルに、オデット、ルーシア、エリアス、アルストロメリア、それにトゥルエノと呼ばれる雷使いの女。


 黒ずんだ壁から、火の魔物が出てきそうくらいわかるだろうに。


「見ればわかるだろ」

「いや、でも説明くらい」


 ステータスカードをとんとんと指し示して、開かせる。南の暗黒大陸中央部だ。砂漠を超えるとそこには火山があるという奴で、しかも魔物で周りは一杯になっていて人の姿というと無い。幼女たちを見つけて一斉に間合いを狭めるに、水と雷が迎撃している。空中と地上を舐め回している間に、崩壊した城の門をくぐる。


「これ、やばいですよ。ていうか、ユークリウッドを起こしましょう」


 トゥルエノとエリアスが殿で先を行くのが、オデットとルーシアだ。


「おたつくんじゃない。死ぬもアルストロメリア、生きるもアルストロメリアだぞ。名前を入れ替えても使えるからな」


 端的に言って、アルストロメリアは場違いだし、死ぬ可能性がある。フィナルが控えているので蘇生できるとはいえ、頭を破壊されればその限りではないしいつだって死ぬのは突然だ。格上がやってきたら? 当然、死ぬ。予想もつかない感じに死ぬのだろう。押しつぶされて死ぬとかよくある光景で、左右の壁からは圧を感じて仕方がない。


 先を進む奇怪な人間大の幼虫と人間の顔ときたら言いようもないほどだ。

 切れば、緑色をした体液を撒き散らす。かからないように距離を取らないとべちょべちょに汚れることだろう。


 嫌な匂いが漂ってきて、


「漏らしてんじゃねー」

「ぐ、うう」


 歯を食いしばっているが、怖いものは怖いというやつで肛門から糞を放り出しているのは明白。

 【清浄】のスキルは、匂いも取ってくれるものの出している最中なら出し切った方が手間が少ない。


「出しちまったなら、脱いどいたらいいかもしれんぞ。なに、魔物に見られても困らんだろ」

「そりゃそうですけど」


 飛蝗や蟷螂に人の顔がついた魔物が出てきてはフィナルの拳で穴を開けられて沈む。

 素早い動きをしているものの、フィナルの方が優っていたようだ。

 護衛が、本来ならばユークリウッドかエリアスなのだが前後に分かれている。


 かと言って乱戦になれば、アルストロメリアを守ることはままならなくなるだろう。

 細い通路は、第二の門へと続いていて伏兵はいないようだ。また馬車より大きい芋虫もどきが、残骸となって大地に割断されて転がっていた。


「採取とかしてる暇ないですよね」


 脱いで、出し切ったのか履いた下服に【清浄】スキルをかけてやる。

 アルストロメリアは、使えない、とまではいかないが今後に期待するしかない。

 何しろ、顔と根性と家柄など揃っている条件の厳しい審査とを合格した者を選んでいるからだ。

 その上で、現状で用意している面子と関わりがあるという。


「ないな。そんなことより、祈った方がいいかもしれん」

「ええー」


 蟷螂も飛蝗も胴から人っぽさがあった。会話できたかどうか怪しいが、城へと続く門は開いていて門番だったのか青白い入れ墨の入った魔物の下半身がある。


「ふーむ」

「それで、ここ暗黒大陸、ですよね」

「そうだな」

「暗黒大陸にくる必要あったんです?」

「ある。早急に魔物を駆逐する必要がな。ここと似たような場所が、この大陸にはごろごろしているのだから人間とは度し難い」

「それでもここは・・・」


 瘴気が濃い。地上型の迷宮になってしまえば、更に難度が上がる。その前に倒しておきたいのだ。

 迷宮の主かそれとも元になる物の破壊して、綺麗にしておくのは支配者の努めでもある。


「早かったか? だが、突然襲われることだってこの先にはある。鍛え方が足らんから漏らすんだぞ。フィナルも私も漏らすくらいある。気にするな」


 魔物の下半身を横に通り過ぎていく。死体か残骸か。動く様子はない。


「わたくしは、もう漏らしておりませんわ」

「代わりに、全部ぶちまけるようになったけどな」


 魔物は、飛来するものが多い。目玉か灰色をした皮膚で、浮遊してくる。片端から、礫を投げて撃ち落とす。前の方で振動と地面がめくれ上がる波を避けつつ幼女を抱えた。




挿絵(By みてみん)

Kreis様作品

茶色い丸太の元

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