476話 使い魔 (ユウタ、サド、マック、エリアス、アルストロメリア、丸太1号)
ネロチャマ村は、小さな村だ。
人は、いても木で作った簡素な建物に住んでいて裸足で糞もそこらにしては埋めているのか匂う。
ぼーっと景色を眺めて、
「ミッドガルドは、どんなところなんだ。北にあるんだろ」
「寒いところですね」
門の前で座っている男、マックは屈伸した。隣のサドは、
ネロチャマ村は、だいたいイタリアの北部だとユウタは想像している。緯度経度がどうとかわからないが、長靴の入口なのだろう。
「サドのやつ、暇だからって、ユークリウッドは冒険者じゃないのか?」
「冒険者ではありますけど、暇そうですか」
「まあな」
ユウタの恰好は、黒いローブに白い鎧だ。暑ければ脱ぐこともある。ミッドガルドと違ってやや暖かいくらいだ。気候がいいのだろう。それにしたって、人が通らない。
「冒険者なら、子供でもなれるんだな。でも、ロゥマで子供の冒険者なんて見た事がない。やっぱり何かが違うのかね」
なるほど。ユウタは、子供だ。ロゥマには、子供の冒険者がいないのか。だとすると、差は天と地ほどあるように思えた。通りは、南から北へと伸びていて降る南に人はなくて北面の畑にまばらにいる。川は、あるのか茶色い桶を天秤にかついで歩いている人がいた。桶は、木を縄で縛った御粗末様だ。
「村に魔術師は、いない、ようですね」
「居たら、都市に行くっての。ここは、何にもねえ連中の吹き溜まりみてえなところだからな」
マックとサドは、特段に気にした様子もない。それが普通で、常識なのだろう。
川から水を引いてくるか持ってくるかしないと農耕がままならない。
水田ではないようなので、麦か何かなのだろうか。食料事情は明るくなさそうだ。
「水の術が使えれば、畑の水まきが楽になりますよね」
「そこよ」
「普通は、そうだろ。だが、うちは貴族の連中が召し抱えちまう。自分のとこの畑を潤せってな。そりゃあ人もそっちに集まるだろ。そうして、貴族ってのはスキルや魔術が普通に使える連中の集まりなんだ。俺たちみたいのに関わってる暇はねえんだよ」
だんだんと、滅入ってきた。ともすれば、つまりネロチャマ村は棄民の群れとでもいうのか。
インベントリから丸太を取り出して、考える。魔物がいるから、人が減るのだ。
どうすればいいのか。勝手に魔物を駆除してくれる戦士、傀儡、ゴーレム、動物、何かが居ればいい。
丸太を手ごろなサイズに手で切断すると、口を大きくあけた二人がいて気に触ったかなとか思いつつユウタは人形化のスキルを使う。淡い光と共に、丸太1号が誕生した。丸太1号は、歩き出した。見ればLV1が頭に浮かんで見える。丸太1号は自我があるのか。わからないが、ユウタの意識をくみ取ったように転がっていく。
手足は、小さくてとても戦えそうもない。丸太1号は見えなくなった。
「なんだったんだ。今の」
「スキルなのか。それとも魔法なんだろ」
丸太1号は、そのまま見た目が短い丸太だ。ユウタの胴くらいの太さである。高さは、ユウタの腰までしかない。立つと、何かを発見したのか立ち止まりユウタは胸に痛みを感じながら丸太1号が角ウサギを倒したお知らせが脳内に流れる。これは、面倒なことになった。
「どこにいったんだ。今の」
「大丈夫か?」
「ええ」
ユウタは、移動することにした。丸太は、また角ウサギを倒した。しかし、レベルは上がらない。
魔物を引き寄せる能力でもあるのだろうか。丸太1号は、魔物と戦う。しかし、レベルは上がらない。
それを10回繰り返して丸太1号はレベルが2になった。遅い。丸太1号は、敵を選ぶだけの知能があるのか。わからないが畑の傍には角ウサギくらいのようだ。蛇系すらいない。
門の中にはいり、アルストロメリアが経営する錬金術師たちの建物の横に椅子をインベントリからとりだして座る。椅子は、茶色で丸い台座だ。背もたれに寄りかかり、テーブルを出し水晶玉を置く。日差し避けに傘を置きセットの出来上がりだ。丸太1号は、戻れと念じれば転がり始めやはり止めと念じれば飛び上って不服を表す。
喋れないだけで自我がありそうだ。丸太1号は、また狩りを再開した。
また角ウサギだ。角が刺さると、その箇所がユウタもまた痛む。下手をしなくとも感覚を共有している可能性があり、殴って倒しているのでその光景といったら絵にもしずらい。短い手足なので、角をわざと突き刺させてから倒しているのだ。
白い犬人のミミーを彷彿させるが、彼女と違って角ウサギでレベル丹念に上げるという入念さ。
噛みつき系ばかりを相手にしていて、そつがないというか数で勝負というか転がって移動する丸太1号は素早い。ともすれば頭の上下がわからない。
丸太1号の戦法は、角ウサギの角を突き刺させて倒す誘い受けでどこを刺されても死なないのか不思議だ。次に狙いを定めたのは、蛇と骨戦士のようだ。片方は、同じ攻撃。もう片方は、突進だ。ただ転がって体当たりなのだが、骨戦士の脚が壊れて直ぐに倒せるようだ。
レベルが2から3になった。遅い。角ウサギよりも蛇と骨戦士に切り替えてほしい。受けて倒すのはどうかと思われた。転がり攻撃は、高速でそれだけで倒せるならこしたくとはなくて、火を吐く魔物がいなければ無敵に思われる。
意外にも森のなかの雑草を駆逐していき、森の開拓にも一役買いそうだ。森は、鬱蒼としていて草が棘をもっていたりその中に、口の付いた花がいたりするから恐怖だ。かといって火は、丸太1号に大敵であろう。相手も燃えるが、丸太1号も燃えてしまう。
だが、黒い玉を相手にするには心許なくそうして見ていれば、
「おいおいおい、てめえ、なんでここにいるんだ。挨拶くらいしろよな」
「ご機嫌麗しいようで、何よりです」
へちゃむくれの幼女が腕組みをして立っている。予想される危険は、穴に落ちるか地形に嵌ってしまうことだ。丸太には足が見えない。だから嵌ってしまったり落ちると抜けられなくなるのではないか。心配だが、骨戦士や腐った死体を倒している。レベルが上がり4になった。骨戦士含め4体で上がったにしても遅い。
つまるところ、ミミーと丸太1号の差は、何かある。
「こんなとこで、何見てんだ」
隣に、増えた。黒いとんがり帽子をして白いシャツに黒いエプロン姿をした幼女が好奇心か目を輝かせている。丸太1号は、転がっていく。
「あ、あ?」
水晶玉をしまう。丸太1号が地形に嵌ったら迎えにいけばいい。丸太1号のレベルがあがって5になった。丸太1号のレベルは、ゆっくりとだが上がっていく。ペースからすると夜中には30か40になっていると思われるが、黒い玉に出会ったら逃げるようしなければ。火を吐いてくると燃えて倒されてしまうからだ。
伝わったかわからないが、
「なんで見せてくれねえの、けちだなあ」
青いシャツにスカーフを胸元で結んだ幼女は、ふて腐れた声だ。気に入らないとすぐに、機嫌がかわる。かわいいが、毒があり過ぎてという幼女だ。ユウタは、可愛ければとりあえず味見するというつもりも性癖もない。やれば、愛が生まれるとも思ったことも考えたこともない。転がる丸太1号が気になっている。
2人して椅子を収納鞄から取り出して前に座る。風が、吹いても黒いとんがり帽子は飛んで行かない。何か入っていそうなくらいにずっしりとしている。
「暇だったら、迷宮にでもいかねーか。つーか、暇だろ。なあ」
そういうエリアスの顔を見て、はっとした。スライム。粘液系の魔物、あるいは池は危険だ。
伝わるだろうか。スライムは、最弱の存在などという不当な扱いを受ける魔物だが実際は違う。
その大きさが大きければ、比較当数級というか乗数で強さが上昇すると考えられともすれば体当たりと枝というスキルしかなくて前進と後進に側転が加わっただけの丸太1号にとって天敵ともいえる相手だ。
丸太1号の身体は、木だ。単純に火をかけられれば燃えて死ぬというか、炭か何かにされてしまう。
熊を倒したとでてきて、レベルが6になった。熊は、体当たりでなんとかなるようだ。
「いいよ」
暇ではないが、転移門を開く。不審そうに見たのは、アルストロメリアで腰のポーチに椅子を仕舞いながら追ってくる。ユウタが向かったのは、近くの穴があった場所だ。何もない。あったであろう、場所には白い肉の欠片が黒い物体へと変わり果ててあった。
更に移動して、橋があった場所へ移りそこでも川が流れているのを見て骨兵士のものか錆びた鎧や槍が転がっていて、次に向かったのは手直な森だ。丸太1号は、東へと移動している。
「迷宮じゃねーよな。迷宮に行こうっていってんの」
「そーだぞ。なんもいねーじゃん」
返す言葉もない。
「村の東になんかわけわかんねーくらいどろっどろの怨念ある洞窟があんだけど」
水晶玉から見るに、それは、黒い靄が立ち上っている。気が付かなかったのか。
東は、遠くてというか。見なければ感じないのか。転移門を開いて移動したところ、入口からはどろりとした空気が漂って来て浄化スキルを連射することになった。
「なんで、こうなの」
「さー。でも、アル様いわく、神なき大地の汚染だとかなんとか。ほんとかねって疑うこともあるけど、こいつを見たらよー」
「やっぱ、やっべえの?」
ユウタは、外からどうにかできるものかと考えたが、村が近い。肉か魔物かが溢れ出してくれば村の畑がやられてしまう。そして、丸太1号は荷が重いだろう。いや、転がるだけなので前へ進むには都合がいいものの落とし穴があれば死亡してしまう。
ただの丸太だが、
「行ってみよう」
黒い靄を浄化ではらいながら、中へ入ったところから黒い像が立っている。石像のようでいて、すかさずにユウタは石を拾って投げた。近づくと動き出す型かもしれない。石は、そのままぶつかって人の像は頭がなくなり寄ったところ崩れてなくなった。空中に掻き消える埃のようにして消えるのだ。
気味が悪くて、奥へと続く石畳があり、金属の鎧が奥に見えた。でかい。
ユウタの3倍はあり、背格好からすれば巨漢だ。そして、武器を持っている。
ただのデブではない。ユウタは、動く鎧と認識して寄るとやはり動きだして槌から逃れられるか計算しつつ足元の床石を投げる。今度は、堅い。物ともせず、野太い声で殺す殺すといいながら駈け出して迫ってきた。ユウタも間合いを詰めて、横から殴ってみれば金属は堅くてしかし突き破った。
「うっ」
籠手は、機能している。突っ込んだ中は、泥でもあったのか黒い靄がでてきて腕が迫ってくる。
敵の腕を登りながら顔面を叩く。吹っ飛んでいき、中から黒い靄が迫るので浄化のスキルを連打して、奥からくる2対の細い鎧が間合いを詰めてきた。
丸太1号が、レベル7になったお知らせが届く。細い鎧は、両手が剣で背が天井に迫り、もう片方はというとゴキブリのように這いつくばってくるので背筋が寒くなる。
「やばい」
「あー? 何が? 余裕じゃん」
スライム系を侍らせているエリアスならともかくアルストロメリアは、防御に関して何も無さげであってすぐ死ぬのはお前だと言いたいところだ。
剣を籠手で受けながら、片方はと無視しないでユウタを狙ってくる。
丸太1号は、団子虫を倒した。
レべルは上がらない。ユウタもまた上がらない。どうすればレベルを簡単に上げられるのか。
狩場もあるのだろうが、こと細い鎧が強いのか弱いのか変則的な剣でぐるぐると腕を回したり背中を向けながら斬りかかってくるのを捌きつつ頭を殴る。細い鎧Aは、頭がなくなり黒い靄を出しながら動かなくなった。細い鎧Bは、壁をよじ登りながら横から手を伸ばしてくる。倒れ込みながら、巻き込んで倒そうというか。
靄がでて動かない細い鎧AごとなのかBの腕を掴んで引っ張れば取れて、反対の手に付いた剣の突きも掴んでは引っ張る。腕がなくなっても組み付こうとするのだ。頭を叩き細い鎧Bは動かなくなった。弱点なのかもしれないが、あくまで人間を模した魔物ともいれるかもしれない。
「どうよ」
「うーん。確かに奥に何がいるのか気になるね」
両手に剣は、厄介だった。丸太1号は、団子虫を倒した。丸太1号は、レベルが8になった。
黒い靄がひとしきり浄化スキルでなくなると倒れて鎧3体は消えてしまった。




