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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
二章 入れ替わった男
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462話 白い肉の迷宮 2

 白い肉が焼けている。洞窟の穴は、山の斜面にありユウタの立つ位置からすると右斜めだ。

 左には、メラノという都市があった残骸を見て取れる。

 川だったろう箇所に侘びしく苔を生やす橋とか。


「でてこないでありますねえ」


 結界を阻害する手印を組んでいる。どこまで伸びるのか果たして黒っぽい魔物を討てるのか未知数だけれど放ってはおけない。巨大な骸骨がいた都市も、復興していないしメラノは滅びたのだ。原因が、魔族なのか黒い魔物にあるにしても倒しておきたい。


「燃える丸太は、どかせないし困ったな」


 水の術で押し流すか? 或いは、油を入れてみるか。同じ手印を横目に、寝ている板に乗ったエリアスを転移門で家の前へと移動させる。寝たままでは危険だ。ティアンナと目があって察してくれたようである。肉に向けて、水の術を差し替えで放つ。防壁、索敵スキルも同時に使用しながら心臓が激しく動く。右のオデットは、槍を背中にしょって両手は結界印を組んでいた。


「水ですね」

「では、油を乗せてください」


 ルーシアは、鞄から壺を取り出して水の上へとぶちまける。火元の直上までいって振りまいた。

 激しい熱風が押し寄せてきて、木々の破片が防壁にあたって落ちる。何もなければ仲間に突き刺さっていたところだ。白い肉を洞穴へと押し流しながら、煙が立ち上る。魔物の乱入は、ない。襲ってきてもおかしくないが・・・


「どう思う」

「あの声でありますか」

「そう、それ」

「慎重な魔物ですね」

「姿を現さないというのは、賢いであります」

「めんどくさいんだけど、ああいうの」

「厄介だよね」


 さっさと死んでくれる魔物ばかりだと都合がいい。ユウタたちを観察してくるような魔物というのは、それこそ上級だ。人間ならいざしらず、ゴブリンでもオークでもデーモンでもなくて、影が濃くなった感じのうすーい手合い。存在感も、風か何かにしかとれなかった。


「でかい骸骨の仲間?」

「それもありえるけれど、不意打ちが怖い」

「ドッカーン、バシューンって終わらないもんね」

「水で、押し流してよかったでありますか」

「中に捕まっている人がいれば、蘇生するし」


 だが、果たして魔物に捕まって五体満足だろうか。魔物に捕まれば、大概はその場で食われる。ゴブリンやオークでもなければ巣に持って帰ろうなんてしないし、生きてもいないのが普通だ。洞穴からは黒い煙が立ち上っている。水が収まっている。ので落とし穴を広げておいておく。隠形を使い、或いは身隠しの魔道具で隠れて待つ。


「結界を入口ぎりぎりまで調整できる?」

「やってみるであります」


 斜面の向こうに橋がある。その下には、川が流れていた。石の橋は、真ん中で崩落していた。

 下へと降りる道がある。視線を山に沿って動かすも、魔物が出入りしているような穴はない。

 となれば、入口は煙を上げている場所だけである。上空には、黒い鳥の影。全身から黒い靄を吹き出しており火線を放てば直撃して落下した。しばし待つ。


「出てこないね」

「であります」

「エリアスちゃんを起こしたほうがいいんじゃないかな」


 すでに、帰してしまっている。何も考えていなかったわけではないが、探索となれば水銀系の召喚物で探知が可能だろう。エリアスは適任と思われた。


「起きたのなら、戻って、あ」


 結界の隙間を縫うようにして黒いのっぺりが洞穴の上部に張り付く。と、同時に光球が炸裂した。投げたのは、ルーシアだ。ユウタの放った赤い光は黒のっぺりを割った。割った跡へと飛ぶ。黒い魔物は、膨らんで弾けた。数が多い。追うに、口火を浴びても溶けない。


「やられた」

「あっちゃー。弾けるってずるいであります」

「焼き払う」


 辺り一面を火の術で燃やし尽くす。山か、川か。或いは木々に飛んだ欠片から再生するなら、面倒極まりない。粘液系の魔物は、知性を持っていると強敵だ。黒い粘液は、簡単に倒せそうもなくて困った。粉みじんになるまで油断していい相手ではないし、ユウタが洞窟に潜ろうとすれば今度は逆をやられかねない。

 

「しょうがないかな」


 転移門を開くと、エリストールとティアンナを呼び寄せる。店番が、オデットの家から出てきて変わりになった。人が足りないので、お願いできる貴重な人材だ。トゥルエノとザビーネもお願いできそうであるが、居所がわからない。入口を守るという役も、こくりと頷いてくれた。代償は、


「おはぎでいい」

「それでよければ」


 作り置きがある。ただし、ユウタが作ったので味は保証しない。


「それがいい」

「わたしも食べたいであります」


 今にも犬の姿勢になろうとするのだ。何故、おはぎなのか疑問がわくもののやってくれるのなら感謝しかなくて手持ちを確認した。インベントリを覗き込んで確認する。在庫がなかったら、と肝が冷えたのだ。果たして有りはしたが、全員にやれるほどなのかというと心持ち不安だ。


 ユウタは、完全武装したティアンナとエリストールに洞窟前を任せると入っていく。

 襲われたばかりだ。また、入口を封鎖されたり待ち伏せされるのはよろしくなかった。

 中は、湿っていたがふやけるほどではなくて岩である。土は、流されたのか少ない。


「煙は、防げるけど臭うね」

「生きた人間は、いないようでありますが」


 入っていっても、伝わってくるのは動かない肉だ。煙は、少なくなっている。

 風の術で空気の入れ替えをしているので、窒息したりはしないだろう。

 黒い靄が、地べたに見える。靄を落とし穴に吸い込みながら移動していく。


「狭いであります」


 先頭がユウタで、後ろにオデットとルーシアが続く。路面はでこぼこしており、むき出しの岩が上に見えて、白い肉が突き刺さっていた。動かないものの不気味だ。落とし穴を移動させながら前進していく。黒い穴なのだが、使い勝手はいい。敵の罠を阻害しているのかわからないけれど、落とし穴にかかるのは魔物の方なのだ。 


「肉は、どこから来たんだろうか」

「その瘴気を辿っていけばいいと思うであります」

「魔物がいないのが、不思議かな」


 蝙蝠か何かが住み着いていておかしくない。洞窟なのだし。

 白い肉だけが、口をくっつけたような手足のある魔物だ。それ以外は、食ってしまったのだろうか。

 敵の魔力は、感じないので足元、天井からの串刺しはないと思いたい。

 

 広間に出て、みれば通路が5つに見える。真ん中には、靄を立ち上らせる四角い箱状の物体がある。

 黒い箱といえよう。それに、人が2人。苦悶の表情だ。伸びた通路に肉の詰まった姿がある。召喚していたのか。或いは、肉が生を得ていたのか。黒い箱は、壊すべきだろう。


「それ、どうするでありますか」

「ちょっと槍で突いてみて」


 鞄から瓶を取り出して、槍にかける。槍が、青白い光を刃に宿す。それを箱の上部に突き立てた。

 煙が、箱からでてくる。硝子が砕けるようにして、人の姿が顕になるや光の粒子になって上へと立ち上って消える。黒い硝子は、溶けて地面で煙を出すので、落とし穴をそこへと移動させた。


「残りは、いないようでありますね」

「肉はどうするの」

「死体置き場に入れていくかなあ」


 むしろ、死体置き場へと入れ込む方に手間取りそうな具合である。通路に詰まった肉を投げ込みながら、当分は肉が食う気にならないだろうと思う。


「あの魔物、ここで肉を製造して何がしたかったんだと思う?」

「んー、人間の邪魔でありましょうか。ちょーっと抽象的で村とも言えないところを襲ってどうするのって思いはするでありますけれど。魔物にしたら、これはこれでいい戦略だったのかもしれないであります」


 肉をどけて、通路の向こうには魔物の死骸があり湧かないように阻害していたのか。ポップした瞬間に肉で圧死してポップを自動的に瘴気へと変えていたというのなら知能犯だ。魔物にこれほどの知能が備わっているとなると、大掛かりな手配をしないといけない。或いは、ロゥマでは知性を備えた魔物が跋扈しているというのか。


 結界石を備えた都市造りをしていればそう易々と魔物の侵入を許したりはしないし、僧侶なり神官が祈りを捧げて強化すればなお堅固になる。


「下まで行ってみよう」


 余りにも汚いので、途中で帰ってしまおうかと思った。だが、魔物の拠点にされてしまうのなら根気よく探索をつづけて迷宮をつぶすか埋めるかの選択が必要だろう。続いて、


「うーん」

「こ」

「汚いよ」


 下も死体がぎっちりと箇所箇所に詰め込まれて、湧かないようにされていて肉がまたへばりついていた。

 増えては、いない。そして動きもしない。岩と思ったら、肉だったり、岩壁に化けている人型だったりする。長い腕が特徴で、狼とか手下を連れていれば強敵だろう。もっとも、丸太で押せば潰れる。ほどほどの大きさなら取り扱い易い。


「弱いでありますねえ。不意打ちはありますけど。肉、めんどいであります」

「肉が、湧く理由ってなんだろうね」

「壁も肉だったりするね」


 どうにも、幽鬼の類に近い。顔面の目は黒くて球体はない。口は、歯がないのでどうやって噛むのか不明である。迷宮の管理人がいるのなら死霊系術者に違いないだろう。いるのかしれないが。

 階段には、魔物がいなくて左には降りていくようになっている。

 正面は、真っ暗だ。灯りを照らすと、どでかい魔物が壁に張り付いている。


「思ったであります」


 インベントリから転移門を通じて丸太を投げ込む。射出と防御が合体して受ける舌は、相手へと突き刺さる親切な設計だ。串刺しになった薄い肌色の魔物は、動かなくなった。


「うん?」

「それを防ぐために肉で詰め物してたのかなって」

「見えないんだっけ」

「そう。見えないと繋げないって弱点がね。なので、水晶玉を使うんだけど頭が痛くなってくるんだ。あまり使えないね」


 嘘である。全く痛くならないし、のりのりで射出できる。ただ、物がただの丸太なので当たっても効果がなかったりするという。壁にへばりついていた魔物は、上にもいるのでそれまた目測で飛ばしている。天井から降ってこられると、空中を浮かばないといけない。壁歩きを2人は習得していただろうか。


「壁、歩けるようになってたっけ」

「お茶の子さいさいであります」

「うん」


 ユウタの模造品めいた真似っ子たちなのだ。何が、彼女たちをそうさせるのか。ユウタには想像できなかった。だいたい、女の子なのだ。面倒事は、嫌いなはずである。おかしい。ユウタの常識が崩れようとしていた。ユウタの知っている女が、こうも面倒を面倒くさがらないとは。


 今は、良くてもそのうち別れるものなのだ。


 階段を降りていくに、地面が見える。白骨だ。魔物の姿は、あれば片っ端から串刺しである。

 手で丸太を投げるのと、転移門を通して投げるのとどう違いがあるのか。電撃は、2人と近すぎる。

 火線は、窒息死する。水流は、溺死だろう。


「気味が悪いでありますねえ」

「あの下が怪しい」


 水は、どこに行ったのか。流し込んだ水は、底を埋め尽くして足りないだろうに。

 骨の山は、浮かんでいるのかもしれない。しかし、壁と一体化した魔物が多い。

 死体になっていて光になることはない。階段の下、そこから切れていて人は登れない。登ろうとしたのか、壁には骨が打ち付けられてあった。

 

 切れた階段から横をみれば、頭蓋骨の頂上で赤く染まった頭蓋骨がかたかたと振動している。 




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