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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
二章 入れ替わった男
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457話 手を握る?

 手を繋ぐ。

 簡単そうだが、寝ているユークリウッドに接近できない。

 鶏めいた動物が邪魔をするからだ。

 蹴ったくればいい? できない。エリアスは、目つきの悪い黄色い生き物を気に入っている。

 

 抱きつこうとしたら避けられるのだが。


(どうみても、犬かなんかじゃないか?)


 角が生えているのは、置いておくことにしてユークリウッドの部屋をでることになった。

 夜になるとさっさと寝てしまうユークリウッド。ベッドそのままに棺桶へと変貌する。

 浮かせないといけないのが難点だった。迷宮に引きずっていけば、起きてくるので苦情が飛んでくる。


 板の上に乗せている木の棺桶は、浮かばせるのも一苦労だったりする。

 魔力があるというだけで、対象を魔術で動かそうとするとき抵抗力も大きい。

 フィナルの術で移動したのは、オークが城塞を築いていた跡地であったり蛙と蜥蜴が争っていた村だったりとまちまちで、シャルロッテンブルクの町に近い迷宮だ。


 アルトリウスをじろじろ見る馬鹿はいない。

 見ようものなら、ユークリウッドが寝ているのを幸いに目をくり抜くだとか残虐な真似をするだろう。

 むしろ、もっと頭が高いまである。

 

 夜は、レベリングだ。夜も、といった方がいいのか。セリアは、どこぞで転戦しているだろうし蓑虫になってしまったアルストロメリアが不貞腐れて顔を向けている。


「いい加減、解放してくれよー」

「俺に言うな、俺に」


 罪状は、パンツを盗もうとした為腕の切断、ではまた生やすので蓑虫にしている。

 縄でぐるぐるまかれただけなのだが、そのままどうするのかはしれない。

 先行するアルトリウスとお供の2人を追いかける後衛陣。


 エリアスの出番は、ない。基本、1人で倒して最下層まで行けるようになっている面々だ。


(そういや、今日も奴隷なのか女の子を面倒みる流れになってたなあ)


 一週間で何人の女の子を世話するようになるのか。

 しかも、身寄りのない女の子だ。後々で、面倒にならないといいのだが。

 ぜったいに面倒事へと変わっていくだろうに。


 まさか孤児院でも開くつもりなのか。ユークリウッドのことだから何かしら考えはあってのことだろうが。孤児院は、すでにあるしフィナルの神殿が開いている。


(世話できねえなら生むんじゃねえ、て言いたいけど事情もあるだろうし)


 エリアスだって、いきなり子供ができたとかなったらぶったまげて何をするかわからない。

 想像もつかなかった。

 手を繋いだだけで妊娠するとは思えないが、


「おい、こら、ここどこだよ」

「迷宮だっつーの。見て分かるだろ」

「じゃあ、これほどけよ。俺、死ぬぞ」

「死ねばよろしくてよ」


 氷めいた声で、にこやかな笑みを浮かべる豚がいた。もとい、元豚だ。

 

「おいおい、穏やかじゃねーな。人に死ねとか言うなよ。おめーがいうと洒落になんねーよ」

「そうだぞ。ちょっと毛が欲しかっただけなんだぜ」

「ええ」


 小便が、漏れそうな圧だ。無形の圧力がエリアスの周りを漂っている。

 悔しいが、エリアスではフィナルを止められない。かといって、フィナルがアルストロメリアの首をもいでしまうのを見ていてもいいはずがなかった。

 

「まあまあ。・・・もうしないよな」

「くっそー。なんで、駄目なんだよ」


 阿呆だった。頭が良さそうに見えるだけのポーション屋か。

 仮にではあるが、もしもユークリウッドの複製体が作れてしまったら色々な物に実験したいという誘惑にどれだけの人間が勝てるかどうか。エリアスだって、心惹かれないでもない実験だ。人の倫理に挑戦しようという馬鹿なので、危険だという認識がない。


(昔話の魔力の泉みないな感じで、携帯できるようにでもなったら・・・)


 超絶便利ではあるが、実験の過程でアルたちに殺されるだろう。目に見える焚き火に突っ込む虫か。

 食料をどこから調達しているのか、とか謎が色々捗りそうだが・・・


「帰ったら、処刑でしょう」

「いや、そこまでは」

「マジで?」

「当たり前ですわ」


 真剣だった。目が座っている。座禅を組んだまま浮かぶ幼女からは、魔力が蠢いている。

 爆発寸前といったところかもしれない。何故に、そうも怒れるのかしれないが、フィナルと喧嘩をしても距離がないのでは戦いようがない。


「土下座でもしねえと、おさまんねえと思うなー」


 人事である。


「はあ?」

「何を言い出すかと思えば、その程度で許されるとでも?」

「でも、こいつ殺したところでユークリウッドが喜ぶかよ。どっちかってーと」


 知り合いで、死んだ人間というのは部下くらいだ。翻って、ユークリウッドは泣き虫であるから知り合いが死ねば大いに悲しむことだろう。それは、どう考えてもいいことではない。戦場からも遠ざかり、隠居しかねなかった。となると、肩を持たざるえないわけでかといってパンツ泥棒を擁護するには・・・


「女衒とかさー、そのたぐいを探してるみてーだぜ? そう、悪党を探してるみてーだし。そっちの方を手伝うのが好かれるんじゃないか。言うてきかなきゃ、ぶん殴るしかねーけど、殺すまではしちゃいけねーや」


 フィナルを見た。わかってくれるだろうか。ユークリウッドは、言うことを聞く時と聞かない時がある。圧倒的優勢な場面に持っていくと、反対の敵を助けたりするのだ。訳がわからないが、劣勢な相手に情が湧くのかもしれない。なので、言うことを聞くように状況を整えて、言うことを聞く案件を持っていくことこそが肝要なのだ。


 果たして、フィナルは形の整った眉の下を閉じた。再び、開くと強い光がある。


「その女に庇う価値がありまして?」

「いや、ねーかもしんねーけど」


 やるなと言われているのに、やるのだから始末に負えない。

 既に、複製体を作っていたらと思うと気が気ではなかった。

 戦場でもないところで、知り合いを処刑するとか。翻意させるのは、アルストロメリアの仕事であってとんだとばっちりだ。


「一応、仲間なんだから処刑するってのはなあ。そうしようぜって、同意してユークリウッドが喜ぶかってことだよ。そこが、おめーにとって最重要じゃねえの」

「それは、そう、ですが」


 気勢が削がれたようだ。全身を覆っていた金色の膜がしぼんでいく。

 手間をかけさせる。蓑虫になった錬金術師は、反省している様子もなくて半眼を見せていた。

 子供だ。意固地になっているものと見える。エリアスもそうだが、フィナルも大概で頑固だ。

 

 その間にも、魔物の死体から魔石だったり貨幣だったり抜き取っているのはアメーバ状の液体だ。

 エリアスが操っているのだ。誰も褒めてくれない、地味な作業で労ってはくれるもののやりがいは?

 あるのかないのか。取らないと金が稼げないわけで、暗くてじめじめしているのが一般的な迷宮だ。

 

「なあ。なんか言うことあるだろ。俺にさ」

「別に悪いことじゃねーじゃん」

「あー、そう。じゃ、あれだ。体験してみようぜ」


 全身が吹き飛ぶ感覚を味わうと、他人がどうなるのか知りたいところではある。

 フィナルの場合、外がわが爆ぜて肉塊になった。そこから復活するのだから、底知れない。

 彼女が只者ではないと敬服する点だ。豚というのは、前からの愛称のようなもので、丸かったからである。思い返すと、


「では、ほんのすこしだけ」


 指先で触れると、蓑虫が板の上で跳ね回る。縛りつけられているのが嘘のようだった。

 涎を垂らして、半開きになった口はもう人語を話さない。

 

「やっぱ、耐えられないじゃねーか。死んでないよな」

「錬金術師というのは、脆いのですね」

「こいつが、そーであって他にゃ大したやつだってどっかにいるだろ」


 まだ爆散していないだけ良しとして、歩き出す。前を行く連中は止まることはなくて、走るかのように先へと進むのだ。空気を読まないというか、意図的に前へ前へと進んでいる気がする。エリアスが魔石を取るよりも先に進む、というような。蓑虫も夢遊病者も手伝いやしないのだから、困った。


「両手を合わせただけで、いろんなのが手から飛び出してくるのとかいるらしいけど。実際には見たことがねーんだよな」

「手を合わせただけで?」

「ユークリウッドは、なんかやりそうだけど」


 アルたちと縁があったからたまたま同行しているようなものだ。立ち位置的には、いてもいなくてもいいようなものである。家からは、がんがん行けとか言われている。手を合わせただけでなんかやりそうなのは、ユークリウッドくらいだろう。だから? そうではない。


 経験値は、大量に稼げる。これが、肉体なのか精神なのかしれないが。

 ステータスカードにその機能があるのか。謎ではある。

 その場にいないといけない制限があるとはいえ、肉体の性能が跳ね上がる階層上げというのは筋肉トレーニングとどれだけ違うのか。しれたものではないにしても、フィナルはアルたちの完成品であるところの姉に似てはいないだろうか。ソルとルナの側にいるという彼女は、


「ユークリウッドってさ、ホモなんかな」

「は?」


 閉じた瞳が開いてまじまじと見つめてくる。先には、また緑色をした皮とか剥がれた肉とかが壁にこびりついていてうんざりした。


「だって、さあ。普通の男だったらスケベしようやみたいな? 感じじゃん」

「それは、まあ。紳士なのですわ」

「あー、一度ちん○調べようぜ。もしかしたら、勃たねえのかもしれねえじゃんか」


 いつの間にか復活していた蓑虫は、鼻をひくひくと動かした。


「ロシナじゃあるめえし。大人になってからだっつーの」

「ロシナは11だっけ。10くらいからやってたんだろ」

「やってたって、何・・・でしょうね」


 わかっていて言っているのか。鼻から血が噴き出して大輪の花を咲かせた。噴霧器と化した鼻で、白いローブが真っ赤だ。もとから赤が入っているとはいえ、みるみる内に真紅に染まっていく。


「すげえ」


 エリアスは、蓑虫の頭を叩いた。暴力は、いけないとわかっているがそれにしても両方戦闘できなくなる。それがわかっていて、先行している気がしてきた。

 もう、構っていられない。


「まずは、手を繋ぐことからだろ」

「どうやって、手を繋ぐんだよ」

「滑るとかこけるとか?」

「ばっか、普通に買い物をして金よこせからのお釣り渡しで捕まえるのでよくねえか」

「不審すぎんだろ」


 滑っていくにしても、突進するにしても避けられる確率の方が高い。

 鎧を着ていても、エリアスより俊敏なのだ。かといって、棺桶に入っているときは木製なのに剣だろうが弓矢だろうが通らない。木製とは思えない硬さである。


「そもそも、なんで手なんだよ。ちん○でよくねか」

「なんでそっちだよ。頭逝っているだろ」


 蓑虫になった女の子は、頭が逝かれてしまったのか。わからないが、突然の蓑虫に精神をやられてしまったに違いない。まだ年端もいかない女の子なのだ。アルストロメリアが壊れてしまっているのを認識しながら、


「じゃあ、ほら体当たりで挨拶」

「んなのあるか、いや」

「ないこともないじゃん」


 抱擁で挨拶なんてのもある。女がするのはどうかと思う光景であるが、体当たりは攻撃に見られやしないかという点。

 やってやれんことはない。肩から当たれば妊娠などしないだろうし。


「ありなんかなあ」

「そのまま玉もみまで一直線だぜ」


 頭いいなんて、思いかけていたがただの馬鹿である。

 そこいらの平民なら、手を出せで終わるのだがそうもいかない。

 手を出せ、といって素直に出すとは思えないからだ。

 前段が必要になる。


「飴か」

「興奮剤入りだぜ」

「んなもんはいらんわ」


 手を握るだけなのだが。悩ましい。


 


  



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