60話 暗い場所で会う3! (ユウタ、アングルボザ、ガルド)
冥界と呼ばれるそこは白く輝く月みたいなものが煌々と黒い大地を照らしている。俺はあまりに酷い言葉を少女から投げつけられて硬直していた。
「コノアン様。それ酷くないですか」
「アン様と呼べ、ユウタ。それとアタシが言う事はあながち間違いではないさ。童貞も処女も同じようなものだしねえ。こいつは魔力や呪力、霊力といったものに意外なくらい影響する。あんた達のいる大陸の東には小島があってね。その小島の国には巫女がいるわけだが、そこじゃあ大体任期中は処女であることが求められるのさ。こういうことは非科学的だなんだと言われるがね。ジジイの支配するあんたのいる大陸であっても多少はあるねえ。ま、扱いは似たようなものさ」
「はあ、そうなんですか」
自信満々で言い放つ少女はオーラでも纏いそうだ。俺は少女の腕で持ち上げられたままである。いい加減降ろしてほしい。さっきから腕が俺の胸に突き刺さったままなのだ。あれ、少女の腕が胸につきささっているのに血が出て来ない。
「アン様、腕が刺さったままなんですが」
「ユウタ。我慢してもうしばら付き合いなよ。アタシの話はあんたの為にもなるんだよ。それにしてもあんたの童貞は酷いね。前世も童貞そのまた前もその前も童貞のまま死んでいるねえ。このまま行くと、今世でもまた童貞のまま死にかねないね。こっちの世界に来て奴隷を捕まえたのにまだ童貞だしねえ。直近では寿命で死亡、その前は特攻兵として戦死、その前は軍の殿兵として戦死、どれもこれも童貞のまま死亡さ。あんたの中を調べるに、魂が発生してからこっち童貞じゃなかったことがないまま死んだためしがないよ。こっちの世界でのお前さんの同位存在が死亡する寸前で転生するはずがこの世界にあんたの無念に引き込まれたのか、混ぜ物になった。どおりでこの冥界に来やすいわけだ」
こいつ、なにいってんだ。意味わかんねえ。
「あのー、アン様降ろしてくださいよ」
「あはは、もうお前は私の物なんだから気にするなって。お前は気がついていないのか。自分の身体が霊体になっているんだぞ。でなければ肉体を持ったままここ冥界に来ることなど出来はしない」
「只の人間の霊体なんていらなくないですか」
「そうさ、只の人間さ。というのはだったであって、今やあんたは無限魔力生成タンクさ。信じられない事だけどねえ。創造神のヒヒジジイだって無限に見えて有限だしねえ。いや、似ている。ひょっとして・・・? ん、コホン。というわけで手放す気はないのさ。・・・あんた全然信じている顔じゃないね。どれ見ていろ」
そう言うと少女は俺の身体から魔力を引っ張りだす。辺り一面の地面が真っ白な花で覆い尽くされていく。結構幻想的な光景だ。
「ふっふっふ。ユウタ見たかい。これがアタシの力さ」
「はあ、でもこれってそんな凄いことなんですか」
「あんた、この冥界で物を生成するのがどのくらい難しいかというとだねえ。・・・あんたの感覚でいえば男が女を生む位なんだよ。つまりありえないような事が出来るそういうことさ。もっと派手な破壊の力の方が好みだったかい」
「はあ、それより俺は現世にそろそろ帰りたいのですが」
「あんたアタシの話を聞いてなかったのかい。手放す気はないっていってただろう。あっ」
つき込まれた腕を芋でも引っこ抜く感じで腕を引っぺがす。
「それじゃ」
「ま、待てま・・・ま。ま待て待て。落ち着けアタシ。あんた、どうやって帰るつもりだい」
「ええ、困ってます。アン様に関わっているとどうも帰れなくなりそうなので。自分で探すことにしたいのですが」
なんか関わっていると、終わりが見えない。
「わかったわかったから。ユウタが帰りたいというのは本気みたいだし、アタシの目的さえ達したならすぐにでも現世に返してやるよ」
腕を引っペがした直後は動揺していたアン様だったが、すぐに立ち直ったのか方針を変えたのかちょっと自称女神らしくないな。
「すぐ帰りたいので、なるべく早くお願いしますよ」
「え・ええ、と・・・えーとそうだなあ、創世以来の積年の恨みを今晴らす絶好のチャンスなんだけどねえ。取り合えずだ。ニブルヘイムにあるアタシの城を取り返す手伝いをしてくれ」
「はあ。しょうがないですね。本当に帰してくださいよ。」
「わかってる。アタシは嘘を言わないさ。それにしても、接続してそうそう都合よく支配もできないか」
「また、怪しい事をいってますね。それで、そのニブルヘイムの城をどうやって取り返すんですか」
そこまでいくメリットが俺にあるのか?
「そりゃあんた、ドーンと神術を炸裂させてド派手に愚か者をしばきたおしておしまいさ」
「それじゃ、行きましょうよ」
そう言うと俺は歩きだそうとしたが、またしても背後から腕を身体に突き入れられた。
「あんた何言ってんのさ、帰れなくなるって焦るのもわかるけどねえ。あんた【幽体離脱】コイツがあるだろう。そんな焦んなくても大丈夫さ」
「あのアン様、またですか」
「しょうがないだろう。これのほうが補給いらずで全力出せるわけだしねえ。パパッと行って、パパッと片付けてアタシの凄さを見せてやるさ。どうにも信用されてないし、まずはそこからかもしれないねえ」
そりゃそうだろう。いくらなんでも童貞、童貞うるさいし、俺は気分が悪くなったぞ。流石に怒鳴り散らしたりするほど愚かじゃないけど、悪いけど帰らせていただきます。
「それじゃ、さっさと行って片付けちゃってください」
「はいよ、んじゃ。城付近まで跳ぶかい」
アン様は何語か聞き取れない言語を発する。
が、おそらく【ゲート】の神様版。それが開くと、飛び込む。すると出た先はこれまた幻想的な場所に出た。辺り一面は透明な水を蓄えている湖、というよりも海といったほうがいいかもしれない。見渡す限り水で城に向かって一本の土道が伸びている。海にある城というのがぴったりだろう。
「あの、此処がアン様の元いたお城ですか」
「ちっ。元は余計だねえ。今から取り返すわけだし。まあ一瞬で終わるけどアイツら邪魔だねえ。ほいっと」
アン様が杖替わりの俺をブンブンと振り回すと土の道を歩いて城まで向かっていた死者達が消えた。
俺が、杖か。
「あの人達は何処に消えたんですか」
「まあ、気にするなってユウタ。あんなのいちいち気にしてたらあんたハゲるぞ。心配するな、取り合えず近場に移動させた」
「ならいいんですが、お城は破壊しちゃうんですか」
「そうだねえ、そのほうが手っ取り早かったんだけどねえ。中の奴を普通に相手すると手間取るかもしれないんだ。なので、これかな。【聖光大瀑布】!」
俺の身体を杖のように振り回すと俺の身体から光が生まれた。光は一直線に城に吸い込まれていったが、何もおきなかった。
「アン様失敗ですか」
「くくく。まあ、ユウタは待ってなって。見てろ城から死者達が溢れてくるからさ」
話をしている間に城から爆発するような真っ白な光が溢れてくる。城の門が開くと大量によたよたと骸骨兵やら魔獣やらが土道に逃げたしてきた。
「どうだい、見たかユウタ。一発だったろう」
「そうですね。でも、自分で住む城を攻撃して大丈夫なんですか」
すると。
「大丈夫なわけないでしょう、ボザ様一体どうなされた。気でも狂われたのか。いやあなたのことだ。最初から狂っておられたのやもしれませぬな」
ふと後ろを見ると幽鬼のように佇む犬っぽい人が立っていた。いつの間に立ったんだ。ぜんぜん気がつかなかった。
「ガルドか。ユウタ、こやつはガルム族のガルドと言ってねえ。ヘル様のお付の冥界官吏の一人でね。犬っぽいけどれっきとした狼系の獣人さ。ま、霊体なので迫力がいまいち伝わってこないのが残念だねえ」
「ボザ様まさかとは思いますが、ヘル様に反逆されるおつもりですか」
「いいや、そのつもりはないけど復活の狼煙を上げたそんなとこさ。それでガルド、支配者の証はどこだ」
「それを答えるとおお・・え・・・私は何をしているのだ」
アン様に何か差し出すように言われた獣人は、懐から拳大の宝石を取り出すとアン様に差し出した。満足そうな表情を浮かべる少女はご機嫌のようだ。何なんだろう、どっかで見たような。そんな感覚に陥った。
「素直でよろしい。ガルドご苦労様下がっていいぞ。そうだガルド、ヘルを説得する間城にいるといいさ。このままだとガルド、お前は狼焼肉にされちまうだろうからねえ。ふふん、どうだいユウタ驚いたかい」
「そりゃあ驚きます。ガルドという方がいきなり背後を取ったかのように見えましたしたよ。その支配者の証を手に入ればニブルヘイムを掌握出来るってことですか。」
話をする間に、ガルドと呼ばれたガルム族の獣人の霊体はどこかに消えていった。城の主だったのだろうか。アン様はまるで気にした風もなく話を続ける。道に転がる石を気にしないといった風だ。
「その通りさ。ま、あんたにはわからないことだろうけどねえ。例え、現世に戻って忘れてしまうとしてもアタシの話を聞いておきな。まず、さっきガルドを操った力だけどね、これはあんた自身の持つ【人形化】と【人形使役】さ。こいつはもっと上手く使えるようになれば、強力なスキルになるだろう。そもそもこいつはヒヒジジイが並行世界から呼び寄せた人間に与えるジョブのスキルでねえ、普通には得ることのできないユニークジョブでユニークスキルなんだよ。たまたまこっちに来ちまったあんたは何にももらってないけどさ。憑依で融合しかけてるってのは興味深いね」
「そうなんですね。そのアン様、質問ばかりで申し訳ないのですがよろしいでしょうか」
「いいさ、ほかならぬユウタだからね。あんたは特別さ。けどまあ、場所を変えようか」
すっかり人間杖となった俺を振るうと闇色の門が出て入る。俺とアン様は一瞬でどこか立派な椅子が置いてある場所に出た。壁一面どす黒い何かで覆われていたし。総ドクロで出来たの椅子がやばすぎる。これは玉座ってやつなんだろうか。
「あの、アン様此処はどこなんでしょうか」
「ユウタ此処はニブルヘイムの中央にある死湖城の玉座さ。だけど、今日から月下城に改めるかねえ。あんたとの出会いを祝して、壁の色も変えとこうかね。全部ぶち壊して、パパッと作り直すのも有りだったかねえ。あんたの帰る気を無くさせる方向が良かったんだけど、今更手遅れぽいしねえ。けどまだ時間まで話に付き合いなよ」
壁に向けて俺を振るうとどす黒い色をしていた壁が薄い影のような色になる。ぽっかりと窓が出来て、壁はぼんやり光り始めた。そして、アン様は玉座をパッと払うと黒っぽい石で出来た椅子に変えた。とっても俺の好みにピッタリな渋い椅子だ。
アン様は椅子に腰掛けると、人間杖の俺はアン様と話をする。
「なんだか、とっても上手いこと丸め込まれているような気がしますよ」
「あはは、まあ最初はそう考えていたけどさ。どうやらそうも上手いこと行きそうもないのさ。出来る限り時間稼ぎしてみるけどねえ。おっとこうもしていられないね。ユウタ、あんたの魔力が無限と言われてもなんだかピンとこなかったんじゃないのかい」
「そりゃそうですよ。神様が只の人間にあんたには無限の魔力ありますよーなんて言われても現実感ゼロです。この少女、頭おかしいんじゃねっていうのが俺の意見ですが、女神様が言っている訳で半信半疑といったところです」
信憑性の薄い話だ。魔力無限とかチートもいいところだ。
俺が否定的な返しをすると、ははっと自重気味に笑って薄紫色の髪をした少女は話す。
「人間の反応としちゃそんなもんなのかねえ。それともユウタがイカレているのかね。ともあれこれまたあんたの能力【力吸収】【生命操作】こいつさ。あんたはあんたの世界の言葉で言うならチートスキルか。どうやって、これを得ているんだよ。まあ、現状じゃ・・・。いうほどチートでもない上に磨きをかけないと持ち腐れになってしまうんだけどねえ。世の中には、光速で動く人間もいるっていうんだからおどろきさ」
光速で動く人間だと。そんなもんありえない。
いたら、びっくりだ。
「アン様、俺がチートスキル持っているのはわかったんですが、使い方がわからないです」
「そうか、あんたまずそこからだね。まずはキューブを出して操作するのさ。そうして使用を選択するアイコンを出しておく事から始めな。慣れれば感覚で使えるようになる。ここら辺についても逐一教えてあげたいんだけどねえ。時間がなくなってきたね!」
「アン様何かあるんですか」
「チィイ。足止め出来ないか。ダメだねえもっと時間をかけて話をしたかったよ。世界の秘密、魔術システム。色々教えておかなきゃいけないことが沢山あったのにねえ。ユウタよく聞きな。当代のアタシはアングルボザ。忘れるな。それと【リザレクション】を不用意に使うんじゃないよ。といっても忘れちまうかい。てい!」
うあ、なんだか青い玉を身体に埋め込まれる。不思議な感覚だ。
「なんですかこれ。」
「大丈夫さ、これがあればまた会える。ああ、もう来たかい」
「ごきげんようボザ様。ユウタをお返し願う」
「ようこそ、嘘つき。こんな所までご苦労様だねえ」
ドンッと大きな音を立てて大広間の扉が吹き飛んだ。アン様が声をかけると返事を返す存在がいた。煙の中から少女が歩いてくる。
あれ、あいつは。ホモじゃねえか。胸が膨らんでる。
こういう場合は・・・どうなるんだ?
閲覧ありがとうございます。




