59話 暗い場所で会う2! (ユウタ、アングルボザ、モニカ)
俺は今、ニブルヘイムという冥界に来ている。
どうして来たのか、どうやって来たのかは、今の所は謎だ。いや、なんとなくだけど理由は想像しているんだけど、死にかけるとこっちで目が覚めるみたいな所だろうか。
小屋をでて幼女の話を聞いていた俺は、真っ暗な大地を真っ赤な月が大地を照らすようになっていた。そこで、死者の群れの中にモニカを見つけてしまったのだ。
「おーい。モニカだろ」
「・・・」
「モニカ。返事がしてくれよ」
姿を見ても、生前の彼女の姿そのままである。
只、表情がうつろで全く反応を見せないというところを除けばであるが。その生まれたままの姿なので当然のように裸であった。目のやり場に、困ってしまうな。胸がでかい。犯罪だ。これはけしからん。
突然走り出した俺に追いついてきた美幼女が、側にくると尋ねてくる。
感動の再会だというのに台無しだ。
「なんだいあんたの知り合いでもいたのかい」
「ええ、そうなんですが反応がないんですがどういうことなんでしょうか」
「ふーん、そうさねえこれは死んじゃいないけど死にかけているってとこかね。これをこのままほっとくと。こちら側に引きずられて、死ぬねえ」
さも当然といった様子で、モニカの事を説明する薄紫色の髪をした幼女は、モニカにペタペタとさわりながら告げる。
おっぱいにさわんじゃねえ。俺がしたいわ。
「へえ、あんたとこの子はそう言う仲なのかい。これは・・・。ユウタ、お前さんどうするんだい。アタシはどうでもいいけどねえ。あんたがちょっと言う事聞いてくれれば、この子もあんたも元の世界に戻してやることが出来るんだけどねえ」
「それはどうすればいいんですか? さっきみたいなのはなしでお願いします」
気味の悪い笑みを浮かべた幼女ババア。
必死に考えてみるものの、この自称神を名乗る外見だけは子供の言う事を聞くとか。まずロクなことになりそうにない。というのが俺の考えだ。どうしても神が、人間の言う事というか頼み事をタダでほいほいと。
そういう考えを持つのもどうか。神が人間の言い分を聞いてくれると思うのはおかしい。何かよからぬ事を考えているのは間違いないだろう。幼女はきひひと、笑いながら話をする。
「くふっ。あんたねえ。選択肢が自分にあると思ってんのかい? あたしゃいいんだよ。このままこの子が死んじまっても、お前さん達人間の感覚で言うなら犬ころが一匹死んじまったね位さね。ただ、この冥界の状況はアタシにとっても都合が悪い。あんたを助けるとこっちに都合が良さそう、だからちょっと手を貸してやろうそいうことさ」
「はあ、しかしどうにも納得出来ない事がありますよ。俺は貴方に名前を教えた記憶がないのですが」
「あんたボケ老人かい。ユウタと名乗ったのはあんただろう。さっきの卵から色々情報を読み取ったし間違いないはずさ。この子の記憶でも、間違いないようだしねえ。まだ納得いかないかい? いや信用がないといった所がね」
「そりゃそうですよ。いきなりキスしようとしたり、怪しいでしょう。俺が此処に来る原因になったのもホモにキスされて魔力を吸い取られたせいみたいですから」
「あんたホモかい。けどねえ、あんたはアタシの話しか情報源がないだろう。色々聞き出したいみたいだけどねえ。時間切れでこの子が死んじまってもあんたは後悔しないのかい? それに悪い事ばかりじゃあない。このアングルボザ、冥界の大女神ヘル様に誓ってもいいさ。ちょーっとあんたの身体をいじらせておくれ」
「じゃあ、女神様俺の力を奪ったり盗ったり危害を加えたりしませんか?」
「チッ、目ざといねえ。いいさ誓おう。ここに我は誓約する、汝人間ユウタに対して危害を加えないと。これでいいかい」
目を光らせると、中空に何やら文字が浮かび上がる。キラキラして綺麗だな。背中の空間や足元にも魔術陣みたいなものが輝くと、幼女は厳かに告げた。そして、手をワキワキさせながら近寄ってくる。
「あの、それでどうするんですか?」
「大人しくしていれば、すぐに済むさ」
「あのー女神様。それじゃ、さっきとすること何も変わっていないんじゃ」
「五月蝿い奴だねえ。もう誓約をしただろう。あんたいい加減にしな。時間が差し迫っているのは、あんたもこっちも同じなんだよ。てい!」
そう言うと、幼女が背後に周り手を突き出してきた。背中に手が当たると、えも言われぬ感覚がする。熱い焼きごてが突き刺さるというような、あまりの激痛に、思わず悲鳴を上げてしまう。とんでもない痛みだ、身体のというモノじゃない魂の、精神のそんな痛みに耐え切れない。
「ぎゃあああ、な・何を? とんでもなく痛いのですがアングルボザ様」
「予想外だねえ、ここまで拒絶反応があるってことはまさかねえ。ちょっと待ってな。もうすこし、おお? うーん。ほうほう。なるほどねえ」
「痛い、い。いいいいいいたた。死ぬし・・・。あばば、し、死んじゃいますよ!」
こちらの抗議を全く無視すると、グリグリとつきこんだ両腕をめり込ませてくる。
「しょうがないねえ、このまま五月蝿いと調べるのにも手間取りそうだ。えいっ」
「ギャ・・ぷっ・・・はあ・・・あれ。ってやっぱりするんじゃないですか」
グリグリと背後から背中に腕をつきこんでいた幼女が正面に回り込むと、腕を胸につきこんででくる。めり込んでいく両腕が激痛をもたらすが血が出てくるわけではなかった。同時に、顔が迫ってくるがこの状況で避けようもなくキスしてしまう。どうしてこうなる。いきなり、痛みを感じなくなった。
「あんた身体の痛みはなくなったかい?」
「はあ、おかげさまで」
「そうかい、そりゃよかった。これでようやく落ち着いて調べられるねえ。うーんここでもないか」
どこを弄っとるんだ。
「それで、何かわかったんですか?」
「ん・・・まあ待ってな。【神性接続】って知っているかい? 人間の魔術士や神に仕える者達でも、極一部の者はこれについて知っていたりするがねえ」
「いえ、一体なんですかそれ」
アルの正体か? なんか変な事になってきたな。
「ふーん。まあ、知らなくてもいいんだけどねえ。人間には、稀に魔力が多いやつがいたりするのさ。そう言う奴は大抵聖女だとか聖者だとか言われて崇められたりするんだけどさ。で、そいつらが神に見込まれると神殿の巫女だったり祈祷士になったりして、務めを果たすとご利益を受けるみたいな関係を持つんだよ。やるのは大抵ジジイかトールの奴でねえ、まさかロキの野郎としてたりしたのは予想外さね。あんたの場合は別に恩恵が欲しいわけじゃないからこっちとしては困ったもんだよ。これは、一方的なモノじゃないんだけどねえ、あんた魔力が多すぎる。どうしてこうも多いのかは、わかった。聞いとくかい?」
「お願いします」
「この世界では、神が力を振るうには色々やり方があるけれど、信仰心を集めるやり方とは別に雄なら牝を牝なら雄を捕まえるやり方があるのさ。直接対象から魔力や霊力、呪力と呼び方は色々あるけどこれを吸い出すのさ。けどまあ、普通の人間から絞り取れるものなんてたかが知れているし、吸い出した人間はすぐ死んじまうからやる奴なんてのはオーディンのジジイとかトールの奴くらいなんだよ。そんなのが現れるのも千年に一人いるかどうかだから大抵そいつを巡ってラグナロクになっちまうがねえ。今は、どこぞで遊びまわっているんだろうけど、あんたの存在が知れ渡れば必ず現れる。というより、もう吸い取られたから周りに絶対いるはずさ、その直系の子孫なり転生体なんなりがねえ」
「ようは、力を振るうのに【神性接続】が必要で。その力を発揮するには魔力の高い人間を電池替わりに使うってことですか?」
「電池ねえ。聞いた事のない単語だねえ。なるほど。あんたのいた元の世界でいえば早い話がそうさね。あんたがこの世界の人間じゃないってこともわかった。それでこっちの世界の理が通じにくいってのもねえ。しかし、遅かれ早かれこちらの世界の身体に馴染みつつあるからどうなるか興味深いね。っと、この子は送り返しとくかい。これで義理は果たしたね」
うつろで目の焦点の合っていなかったモニカの足元が輝くと吸い込まれていく。よかった元の世界に戻ったんだろうか。
「ありがとうございます、それじゃ俺もお願いします」
「あはは、何を言っているんだい。たった今、この女神たるアタシが手助けしてやったろう。まだあんたにはやってもらわなきゃいけないことがある。それと魔力が多いことについて知っておかないければいけないだろう。あんたとアタシの為にね」
そう言うと、幼女ババアが少女に成長していく。短かった薄紫の髪が背中まで掛かるようになっていく。胸のふくらみがどんどん成長してお椀位の大きさになった。サラサラの髪が胸にかかってきて心地いい。
この幼女ババア只者じゃない。まさに、神か。
「あのー。それもしかして変身魔術ですか?」
「くくく。いーや、力を回復できたんでお前さんの好みに合わせてみた。フフフ、股間は素直に反応しているぞ? 少年。この調子なら今度こそアタシが全世界に覇を唱える日も近いかもしれないねえ。自身の魔力量がなぜ多いのかあんた考えた事はあるかい?」
「いえ、ないです」
世界征服? いや、そんな事めんどくさい。
だいたい、日常生活だけできればいいんだよ。
美少女ゲットして、侍らせればおーけーなんだよ。ま、怠惰な生活はしたくないけど。すぐ腹がでてしまうだろうし。
「あんたの魂を調べてみたけれど、単純にジョブが多いのとLVをどれもこれも上げているのと相まって魔力量が多いんだねえ。年齢を考えてもかなりのものだよ。あんた達人間の中でも特に優秀なのは天才と呼ばれているのだろう? そういった才能的なものはないようだが、凡才なりに頑張っているようだねえ。努力は、才能の限界を超えるってやつだね」
「確かにセリアみたいな天才には勝てませんよ」
「セリア・・・ああ。フェンリルねえ。まあ、そいつの話は置いておいて重要なのは魔力量じゃあないのさ。あんたの売りはなんだとおもう?」
「はあ、特に何もありません。至って平凡な男ですよ」
「たく、しょうがないなあんたは。アタシが見せてやるしかないか」
そう言うと、少女は俺に腕を突き刺したまま持ち上げて何語かわからないが未知の言語をつぶやくと俺の体から光が真っ赤な月に向けて放たれる。どれだけ放つんだろう。
こんこんと湧き上がってくる力を存分に吐き出させられている、そんな感じだがいつまでたっても賢者タイムのような脱力感は訪れない。そうして真っ赤だった月は白い光を放ち始めた。
「これが力の使い方ってもんさ。見ろ、あんたのせいだったじゃあないか。予測通りヘル様から奪った力が変化して、ああいう風に具体化していたのだ。あんたから溢れ出た魔力が冥界を狂わせていたんだよ。原因もわかったし、手遅れになる前に冥界中を元にもどすから手伝いな」
いや、帰りたいっす。
「はあ、でも俺の売りってなんだったんですか?」
「あんた、まだ分かんないのかい」
少女はやれやれと小さな頭をふり、その細い腕で俺の身体を玩具のように振りまわしながら告げる。
限界突破か?
「童貞だろ」
ずっこけた。
「・・・」
ねーよ。童貞が理由とか。終わってるだろ。
幼女ババア女神様、そりゃないわ。
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