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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
二章 入れ替わった男
621/711

435話 5層>レナの転職

挿絵(By みてみん)

 レナを育成する。

 そう決めたのだったが、ユウタが後ろから手足を操作するのが手っ取り早いという。

 人間に必要なのは、一にも二にもやる気だった。魔物を倒して日銭を稼ぐのが冒険者で、その自覚もなく冒険者にしようというのは傲慢か。


(ついつい忘れがちになってしまうんだよなあ)


 窪地に屯しているゴブリン5体に向けて、口から火気を吹き付ける。酸素が心配になる勢いで、浴びた相手は火達磨になって踊った。しばらくして、倒れた相手は動かない。槍で突かせる。

 緑色をしたゴブリンの集団だろうが、ユウタだけなら楽勝だ。

 人を守りながら戦うというのは、なかなかにきつい。


「大丈夫?」


 こくりと頷いた。スキル付きの兜を着せてみたのだが、様になっている。

 幼女がとことこと歩く。レベルの上昇とともに疲れにくくなっているようだ。


「あい」


 レナが持っているスキルというと、【石投げ】と【突き】である。向かいの入り口から駆け寄ってくる2体のゴブリン。応援か。それても周回タイプなのかもしれない。


 ユウタの術で動けなくなったゴブリンの体へ短槍を突き立てるのだ。


「ふーん。一旦、戻るかな」


「なして?」


「転職できるよね。レベル、10は越えたでしょ」


「あい」


 窪地だ。そこで、転移門を出す。魔物の気配は、ない。死体から、嫌そうな顔で魔石をえぐりとったレナがよって着て入っていった。


 向こう側は、ウォルフガルドにある首都ラトスク事務所だ。薄暗い部屋に金髪が肩にかかった茶色い背中がある。1人か。1人以外にはいない。扉を開けたものか、と迷っているようである。出口がわからないので困っているのだ。


「ここ、どこだべ」


 身を縮ませるので、寒いのに気がつく。術が補正してくれるのはいいが、他人が同じではないので気をつけねばならないだろう。インベントリから、小柄な兵士用の濃紺色をした外套を手渡す。サイズは、合っているようだ。鎧の上から羽織る。


「ラトスクって街だよ。こっちだよ」


 扉を開ければ、昼間から酒に飲んだくれている桃色髪の女がいた。見つけるや、突進してくるので押していく。胸が頭に乗っかる体勢になった。押していくに、青い髪の少女が目を座らせている。目が合うと微笑んだ。


「元気そう」


「まあね。それで、これ、なんなの」


「ユウタが相手をしないから」


 ならば、案内でもしてもらうとしよう。

 椅子に座り、隣へと置物のように押し込んだ。途端に、黄色い液体が降ってくるので死体置き場の穴を出す。なんとか成功だ。穴が空中にて液体を吸い込んでいる。


「それ、いつからできたの」


「結構、前から、かな」


 気がつけば、できる。だが、攻撃手段としては使えない。何しろ、射出能力がないのだ。水にしたっても垂れ流すだけでは、強敵に効かない。超高圧、なんていっても出す前に圧力を制御できるのか。水ないし土でもいいのだろうけれど。


 突っ伏した飲ん兵衛を他所に、澄んだ瞳が槍を持って立ちすくむ幼女を映す。


「ん、レナ」


 教えた覚えはない。名前を知っているのは、過去なのか未来なのか。未来なのだろう。


「知っているの」


「んん。剣士にする?」


「剣士、司祭かなあ」


「事務所の隣、出て左にある。女神教の神殿前がそう」


「ありがとう」


 席を立つ。アキラの姿はない。彼は、まだブリタニアで任務に着いているのだろう。

 騎士になるということは、そういうことで知ったのなら辞めるかもしれないがそれはそれ。

 冒険者から騎士になれるか否かだ。ユウタだって、アルルの言う事を聞いていないので何時首にされてもおかしくなかった。そのうち、なんて言っている間に弟やらが派遣されてはたまらない。


 ドメル、ロメル親子の姿はない。アキラの嫁と会釈してから、玄関を出る。両脇に立つ獣人は、鋭い視線を降ろしてきた。


「あっち」


 後ろから声がする。行き交う獣人の多いこと。日中なのに、人の往来が激しい。広い通りの真ん中に、レールが敷かれていて箱を乗せたかのような車が通っていた。

 上に電線はない。ということは、どういう動力で動いているのだろうか。


「あれ、人力」


 考えを読んだかのようにティアンナの声が後ろからする。ついてくる気のようだ。

 背の高い獣人ばかりで小人になった気分になる。ユウタは、もとより人混みが苦手だ。


「どうなってるんだろう」


「山田が、ペダルという棒を回しているって言ってた」


 箱の前方を見ると、鉢巻をした獣人が4人で息を荒くしているようだ。前に2人、後ろに2人。

 電気を使わないのが、謎だ。そうして視線を前にすると、建物の屋根に羽の生えた獣人が降りる。

 顔は、鳥だった。嘴が長く、白い毛並みだ。動物好きなら抱きつきたい衝動に駆られたことだろう。


「電線、使わないのは飛ぶ獣人の邪魔になるから。絡まって死んでしまう。獣人も屋根を走るから」


 建物に電気が使われないのは、魔術があるせいなのだろう。光を蓄積して、夜に光だす石が迷宮から取れたりするのだ。それを目的に迷宮に潜るということは、科学が進歩しないのと同義だった。思えば、ミッドガルドでユークリウッドがどうやって畑を耕していたかというと歯のついた棒をセリアと一緒になって引っ張るのだ。

 段々とそれが長く固く重くなっていくのだが、修行だとか煙に巻いてセリアをこき使っていた覚えがある。同じ真似をしようとして、今もやっているのがオデットとルーシアだが大体顔が青くなって倒れる。筋肉が違うのか。筋肉量が細い体のどこに隠されているのかわからないほどだ。


 レベルを上げたおかげか、レナの調子はいいようですいすいと前に進む。槍は、危険がないように布で巻かれている。ゴブリンの魔石は、全部レナが持っているので換金も任せていいだろう。金には困っていないのだから。


「その山田が、困っているみたい」


「どういうふうに? 悩みが解決できるならいいけど」


 女神教の神殿前に着いた。門の後ろには、巨大な像が立っている。一見して、名前はわからない。

 フレイヤだったりヘルだったりアテナだったりと女神ならなんでもありの神殿なのだ。

 北欧だとか関係がなく祀っているという。対して、転職の神殿はこじんまりとした柱があってハローワークじみた小ささだ。人は、というと少ない。広場はあるものの、女神教の敷地に比べて狭くみえた。


「獣人に、憎まれているみたいだって」


「それは・・・耐えるしかないよ」


「うん。そういった」


 耐えるしかないのだ。コーボルト王国との戦争は、日本人の転生者や転移者との戦いたった事になっている。犬耳を持った部族からそういう風に宣伝されて、憎しみが転嫁されているのだ。それが間違いではないから何も言えない。戦争を主導するということはそういうことで、負ければ全面的に悪者にされてしまうのだった。

 山田は、耐えられるだろうか。耐えられなくなったのなら、ハイデルベルクに移り住むという選択肢もある。下に行けばライオネル、その下にアテネを主体とした都市国家連合体がある。そっちに行くのもいいだろう。だが、簡単ではない。山田とその嫁が移住することをセリアが許すかどうかと周りが逃げ出すのを許すかということだからだ。


 正面を進む。物珍しそうな視線を浴びるが、慣れっこだ。


「でも、ここに来たのはなぜ?」


「なぜ? うーん」


 ティアンナが言いたいことは、なんであろうか。職を変えることだろうか。それとも早すぎるということか。レナには、兵隊、冒険者が向いていないという線もあるが、それよりも、


「考えて欲しいんだよ。レナは、何をして生きていくのかってことを」


 人は、考える生き物だと本で読んだことがある。

 前をいく幼女が振り向いて、ほけーっとした顔を見せる。何もわかっていない顔だった。

 ユウタだって、そうだったのだ。将来は、何になる。など、10歳でわかるはずもない。

 英雄になりたい。なんてのは、ミッドガルドに生まれて変わって考えもしない事だった。


「レナに考えられると思うの」


 ずっと父親と二人きりでいたのならそれが世界のすべてだっただろう。であれば、勉強もしたことがなく歴史だって知らないし料理だって作れないしなにかができる事ない。そのように思えた。


「それを決めてもらいたい。だから、まず剣士として冒険者として迷宮に潜っていればなにかが身につくんじゃないかなって」

 そうして、玄関をくぐる。入った中は、まばらに人がいる。書類がいるのかもしれない。

 受付へと歩いていく。


「ようこそ転職の神殿へ。あなたのお名前をこちらに記入してくださいな」


 女性の職員が、対応している。困った顔を向けてきた。目尻がよって、悲しい顔だった。

 ティアンナが、すかさず前へでて腕を動かす。インベントリから出した丸太にレナを乗せて、自分の名前が見えるようにしてやる。


「剣士でいいの」


「司祭見習いかな、槍が使えないってことはないよね」


「聖騎士を目指させる。かな」


 受付の女性は、にこにことした顔だ。夢を馬鹿にすることはないようで、ほっとした。

 レナの年齢では、騎士見習いとして誰かにつくというのも厳しい。かといって、資産や家族もないので自活しないといけないのだ。女神教の神殿なら伝手もあることだし、入信は可能だろう。誰を信仰するか、というのが問題だが。

「レナ」


「なんだべ?」


「将来、何の職業につきたいとか、あるかな」


 後ろで待っている人間は、いない。レナは、困惑しているのか槍を抱えて首を傾けた。


「おとうちゃんを探したいだ」


「司祭見習いに転職してもいいかな」


「そっでいいならいいだ。うち、なんもわかんねえから」


 明日のパンだって、どうしたら手に入るのかわからないのだろう。ユウタだって、10歳の頃を思い浮かべれば両親に言われるがまま小学校に通っていたことを思い浮かべる。知り合いの名前は思い浮かばない。友達は、いたように思える。毎日ドッジボールで遊んでいた記憶だ。車の駐車場で野球のマネごとをしていたようにも思える。


(そんなもんなんだよ。普通は)


「じゃ、司祭見習い(アコライト)で」


「了解」


 すらすらと説明されて、別室に通される。部屋でいたずらされていないか心配になった。


「大丈夫」


 頭を撫でるのだ。手をのけると、


「なんでも絶対は、ないんだから」


 心配になるのだ。時折歩いていく獣人を見ながら、厚着をしている彼らの食料が気になった。

 戦争をして、生産が元に戻ったとはいえないのだ。


「セリア、頑張ってるね」


「まさか」


「ミッドガルドからヘルトムーア王国を叩くと給金がでるから」


 借金の話をしないと思ったら、そういう事だった。

 扉が開いて、髪の長い獣人の女性とレナが出てくる。


「終わりました。レナちゃんは、これから女神教に入信されると思いますが頑張ってくださいね」


「おら、いえ、うち頑張る」


 ててっと駆け寄ってくる。職員が、


「3000ゴルになります」


 ティアンナが受け取り、ユウタはインベントリから金を取り出して受け皿に乗せる。

 安いのか高いのか微妙な価格設定だ。多くはいそうもないので、職員の数も限られるだろう。

 

「うち、司祭さなれるんだっけ」


「頑張ろう」


 可能性だけだ。魔力がどの程度まであがるかにかかっている。フィナルは、根性があった。なぜ、限界知らずに命をかけられるのかわからないが真似しろといってできるものではない。同じ戦士系で回復持ちのモニカにしても、フィナルと同じようにはいかなかった。つまり、蘇生であり四肢欠損であったりする術まで使えるようになるということであるから難度は上がる。


 求めるものが低ければ、楽だが。


「このあとは?」


「荒野の迷宮に戻るよ。そこでレベルを上げているからね」


「エリアスは?」


「学校じゃないかな」


「ユウタは、通わなくていいの」


 通わないといけないのだろう。だが、面倒だった。そもそも、算数やら国語といったものが必要なのだろうかというと今更だからだ。むしろ、レナを通わせるというのもありといえばありだ。保護者は、今世における父親であるグスタフが適当だろう。ヤーというかどうかは別として、頼んで見るべきかもしれない。


 転移門を出す。くぐった先は5層の窪地で、緑色の魔物が手を上げている。拳が腹にめり込み倒れた。

 左からくる。蹴りが、頭を捉えて倒れた。2体。3体目は、いない。遅れて、青い髪をした少女が光る門の中から出てくる。


「学校は、嫌?」


「嫌だね。人とは、喋ればしゃべるだけ憎しみが湧いてくるよ。そうでない人もいるけれど」


 嫌な思い出が多すぎる。楽しい思い出は、成長するに従って減っていき高校辺りでストレスが最大になった。なぜか。他人をこけにして、上であると顕示しようとする人間が多かったからだ。そうだから、敵対的だったのかもしれないし、そういうつもりはなかったと後になって言う人間がいる。


 大人になって出逢えば、血を見るのも当然といえよう。 


「あの、学校ってなんだべか」


「そうだねえ」


 その所感は、人によって変わるのだろう。天国と感じる人間がいれば、地獄と感じる人間だっている。ユウタにして子供のうちは、毎日が楽しかったのに次第につまらなくなっていった。それも体験だ。レナが学校に通えば、また違うものを感じるのだろうし、行きたいというのなら行ってみるのもいいだろう。


「まあ、レベルを上げてから行きたいのならってとこだよ。楽しいかもしれないし、つまんないかもしれない。中のわからない箱みたいな場所だよ」


「んだべか」


「ユウタは、学校が嫌いだもの」


「ほえーなら、行かなくてもいいべ」


 とはいえ、勉学をした方が良いこともある。読み書きができたにこしたことはないし、簡単な迷宮に潜る訓練もある。低学年で義務教育が終われば、騎士学校だったり各種のギルドに進むことになるのだ。冒険者が迷宮から素材を持ち帰るのだって、工業に対しては重要な供給だったりする。


 山田は、冒険者に見切りをつけて職人になったがそれだって計算が必要だ。間違ったことをしているという道徳だとか価値観を身につけるのにも、有用だろう。日本人が異世界で強ええするにはウォルフガルドにしろミッドガルドにしろ過酷だ。

 

 西暦にして3100年頃には日本人は消滅するとされているくらいに貧弱だし、周りの国が米国以上の戦闘力を持っているとしたら勝利する絵は浮かばないだろうに。どうして、異世界にいったら強ええできると思うのか。

 

 ともあれ計算ができると、重宝されることは間違いない。例えば、獣人は脳まで筋肉が詰まっているようだし。


 筆頭にセリアやモニカが出てきて、彼女たちの戦闘狂ぶりはユウタからして異常に思えた。


「それで、レナはどこで見つけたの」


 ティアンナが横を歩く。後ろに、濃紺色で円筒形の革製帽子をした幼女が続く。ティアンナの術は、風だ。優れた術者で、遠距離にいる緑色をしたゴブリンが部品のように割断されて転がり魔石が空中で弧をを描く。矮躯に腰巻きしかしていないゴブリンの死体。階層奥の部屋まで、まっしぐらに進む。


「シャルロッテンブルクの外、僕が支配していることになっている街の外でね」


「景気は、いいと。対応が良くない?」


「良くなかったね。僕の失策です」


 上げる顔もなく、前を見ているしかない。


「私のところは、狭くて外にでるしかないから羨ましい」


「結界だっけ」


「人間が人間を取り締まってくれるようになって助かっている」


 ティアンナの故郷は、雪吹雪く森だ。秋であっても雪が降ってくる程度に寒い。

 ウォルフガルドは冷気を防いでくれる山脈のおかげで雨が降ってくるくらいだ。

 さすがに薄着はできないが。


「奴隷は、なくならないのかな」


「人間は、人間を奴隷にするもの」


 レナは、奴隷だ。詳しくいうなら農奴で、シャルロッテンブルクに所属する農奴ということになるのだろうか。どこからか逃げてきたのなら、ザック辺りに聞けばわかるだろう。レナは、というと振り返ってみれば満面の笑みを浮かべた。

 農奴として過ごすよりは、冒険者として一旗上げるべく迷宮に挑んだほうが実入りがある。

 下手に見目が良いものだから、娼館に売り飛ばされてしまいかねない。


「奴隷は、なくならないね」


 日本でだってなくならなかった。非正規雇用というのは、要するに奴隷だ。正社員が平民だとするなら役付きは貴族といったところだろう。それにしたっても、下流か中流、上流で差はあるものの年収が劇的に違う。なぜ、そうなったのか。すべては消費税だろう。間違いを正せないのだ。日本人は。戦争が間違っていると思っている人間がいながらも太平洋戦争ですべてを無くすまでわからなかった。


 消費税を廃止しようという人間は、ついぞでないというのにも似ている。金の価値を最大にしようというのが、デフレであり消費を冷え込ませる税であるところの消費税だった。アングロサクソン系が作った理想の仕組みを破壊することで規制緩和と謳ったが、真実は経営者にとっての上流階級にとってのもので大多数は苦しんだ。

 止めに消費税30パーセント。

 そして、日本は滅んだ。元の日本など影も形もなくなれば、滅んだのと一緒だ。

 日本人を増やせないのに、外国人を呼び込むなど悪手を重ねたなどいろいろあるものの。


「みんななにかの奴隷?」


「かもね」


 ゴブリンを細切れにしながら進んでいると、


「人」


 階層奥にある扉の前に、屯している男たちを見つける。 

挿絵(By みてみん)


Shimbo Hanako様作品


ルーシアSD

白玉餅様 作品

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