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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
二章 入れ替わった男
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434話 荒野の迷宮 4層>5層

 青いゴブリンは、火の玉を食らっても平然としている。

 ならば、どうするか。

 ユウタたちを冒険者は見ていない。

 つやつやとした金髪の下で眩しい瞳が輝いている。振り返れば、青いゴブリンが大きな手で冒険者の盾役を掴もうとしているではないか。


(まずい、やられるぞ)


 後ろに身をかわそうとして、避けきれそうもない。ユウタは、小ぶりな丸太を取り出して投げつけた。

 3mはあるので、狙い安い。禿げ上がった頭の首元からえぐるようにして、丸太は岩壁に刺さった。

 倒れる体を他所に、レナの手を引く。

 振り返った冒険者は、顔を突き合わせて視線を向ける。


「お前、助かったぜ」


「すごい、丸太だな。危ないところを救っていただき感謝する」


 盾役の男と僧侶が話かけてくる。弓手は、倒れている男を介抱しているようだ。

 魔術師は、座り込んでいる。


「どうも、それじゃあ」

「あ、君、名前を」

「名乗るほどでもないので、お先に行かせていただきます」


 岩に刺さった丸太は、下手に回収しようとすれば崩落する可能性がある。

 彼らは、ゴブリンの死体からアイテムを得るだろうし時間が惜しい。

 レナの細い手を引きながら、先へと進む。よたよたと歩くレナは、体力がない。


「あんちゃん、やっぱり、すごいなー」


「レナも、そうならないとね」


「な、なるべー」


 そうして進むうちに、ごつごつとした岩壁によりかかるゴブリンを発見した。

 すかさず、術を使う。岩を操って足を縛り、近寄って腕を切り落とす。

 なんとも絵面が悪い。が、


「槍で突いて」


「うぃ? つ、突くんだべか」


「うん」


 震えている。というか、戸惑っているのだろう。動けなくなっても、右左に体を揺するのだ。

 他のゴブリンを招き寄せないとも限らない。一撃で倒す必要があるのだが、レナは停まっている。

 ユウタは、背後に回ってレナの手を掴む。そして、槍を突き立てた。


「あんちゃん?」


「レナがやらないといけないんだけど、さて、どうなってるかな。確認してよ」


「あんカードだべか」


 レナの興味は、カードに移っている。枯れ木のような体をしているが、そのうちに肉々しくなるはず。

 体力も、迷宮の中を歩き回っていればつく。岩壁から石壁の整った通路に出る。

 前から歩いてくるのは、ゴブリンが3体。手には、棍棒、短剣、石とまちまちだ。

 

 インベントリから丸太を取り出し下手で投げる。足に当たって、倒れた。トドメをと視線をレナに送るが、動かない。動けないのか。


「止めをさして」


「え、えっとだ」


 しょうがないので、抱えるようにして運ぶ。腕を掴んで、槍を喉に突き立てる。

 作業のようなものだ。ゴブリンなので、何体こようが敵ではない。

 魔物の死体からは、核がでる。だが、抉っている時間がもったいない。

 エリアスがいれば、召喚した物体で回収も手早くできるが。


「魔物さ、殺す、そっがうちの仕事になるん」


「そうなるね。当面は」


「あんちゃん、すごく慣れてるすごいべ」


 呼吸するように魔物を倒す毎日だ。正直、セリアの事で頭が禿げそうだがそれでも前世よりはマシだろう。ゲームをしていても何にもならないと気がついたのは、一体いつか。ゲームが世界だと思った時もあったが、熱が冷めてみれば加齢した哀れで愚かな間抜けがいたという。


 ゲームは、所詮ゲームなのだ。データでしかない。現実につながるなんてことはなく、空虚だ。

 それが、どうだ。手に熱を感じる。集まった熱を地面につけた。光る魔方陣が浮かび上がり、手にした本から術を喚ぶ。大地から地磁気を通して魔物の位置を特定する。


 風でもいいのだが。


「そうだねえ。レナもきっと慣れるよ」


「そっかなあ」


 人見知りなのだろう。他人がいると黙ってしまうのは、大人に脅かされていたからかもしれない。

 魔物を倒して金と力が手に入るのだ。ゲームよりもずっとマシに思えている。

 女の子に相手をしてもらえるのは、ユークリウッドの顔面とアルーシュの権力のおかげであるが。

 それは、それとして。


「ふぁ?」


「レナは、魔物を攻撃したくないとか」


 黙ってしまった。


「いいことなんだべか。わかんねえだ」


「それじゃあ、剣を突き立てられても?」


「死ぬのは、嫌だべ」


 そう言って槍をぎゅっと抱える。 

 そう言いながらも、レナはゴブリンを殺せない。セリアとは対照的だ。彼女は、嬉々として人間を殺す。それが、悪いとも思っていないし当然のように振る舞う。特に、敵兵であればもう容赦なんて存在しないと言っていい。大地を割り波打ち地平が万の兵を飲み込む様を見れば、敵兵も怯むしロボットを繰り出してくるのも仕方のないことといえよう。


 ゴブリンの巣でもあればよいのだが、せいぜいが5。3、5、2、1と繰り返しているうちに奥までたどり着いてしまった。レナは、というと樽に入っているか盾を構えているだけだ。ステータスは上がっているはずで、クラスが見習いというのは確認している。


「レナ。まだ冒険者にはなれない?」


「うんーー。そん前が農奴だったで、まだー」


 鍬をもたせたほうが良かったのかもしれない。そして、扉を前にして辺りを伺う。人は、いない。

 2人だけだ。


「レナは、将来なにかになりたいっていうのある?」


「そっただ、わかんね」


「自分で決めないとね。いつか」


 中には、ゴブリンの姿がない。部屋の上、左右にもいない。2人で入ってみると、鈍色の甲冑を着たゴブリン顔が現れる。滑るようにして、間合いを詰める。丸太を叩きつけるも、剣で防御しようとしたようだ。壁に激突して動かなくなった。死んだふりかもしれない。一回転した丸太は、そのままにローブを着たシャーマンといった風のゴブリンを弾く。


 天井に打ち当たった頭は、地面に落ちて体からは赤い液体が流れ落ちる。

 甲冑ゴブリンに丸太を投げれば、胴に突き立った。


「ゴブリンさ、死んだべか」


「生きてたら、すごいねえ」


 しばし、待ってみるも蘇生することもなく奇妙な場所にでることもなかった。

 奥の扉を開けて、下へと階段を降りる。


(あれ? レアなアイテムもでないし、ボスとも出会わなかったような)


 期待はずれだ。であれば、レナの育成に切り替えてどうしたいのかを考える必要がある。

 セリアのような暴力大好き獣人を制御できるような人間になってもらうのが望ましい。

 ともすれば、アルーシュなどはけしかける側。

 フィナルも、エリアスもまるで歯が立たない。アルストロメリアは論外でティアンナは戦おうとしない。

 

(自分より強くなられると、困るけど・・・)


 セリアだって、最初は強くなりたい! ではなかっただろうか。隣の家に住む幼馴染とてそうだ。

 強さだけでいいのか。恨みがましい怨念のある姫なんてものも、同居しており本来そうではなかっただろう清冽さは失われようとしている彼女を見ていると。


(弱いから、強くなって弱い者の痛みがわかる人間であって欲しい)


 そうなるはずだった子も、成長するにしたがって歪んでいってしまうのか。

 階段は、5層へつながっていて降りたところで休憩している冒険者の姿がある。

 奇妙なものを見る目をしていたが、耳打ちされるにそっと視線を外す。

 ユウタの正体を知っているからなのだろう。


「うちみたいな人間、ならないで欲しいだ」


「それは、そうだねえ」


 あのようなことになっているのには、ユウタも責任を感じずにはいられない。

 為政者として、精一杯の事をしているつもりなのだが24時間、365日は戦えないのだ。

 税制も変えていかなければならないのだが、貴族と戦うのは容易ではない。


 富が固定されてしまっている。冒険者として、一山あてないと成り上がれないようになっていて商人ではどうにもならない。商人以外では? というと、もっとどうにもならない。最後にものを言うのが、戦闘力なのだから冒険者しかないのが現実だろう。


 そんな少年、青年が階段で屯しており脇を抜けていく。


「例えば、どうしたら住む家が手にはいると思うの」


「わかんねえだ」


 それは、そうだ。レナは、まるで社会経験がない。槍を持っているが、使い方も満足にわかっていない。

 社会経験とは生活の中で、他人との会話を通して知っていくものだ。

 冒険者として踏み出したとかそんなレベルではなくて、街の中を歩くかわりに迷宮を歩いているという。


「まあ、迷宮を潜っている間にレナもわかってくると思うよ」


「そうなんだべか」


「まずは、ゴブリンの殺し方なんだけど」


 殴ったっていい。棍棒を持てない。筋力が決定的に不足していて、歩いているのがやっとなのだろう。

 ヒールをかけてやり、汗を拭いて布はまたインベントリへと戻す。 


「ほんで、ええんだべか」


 槍を真っ直ぐに突き出す。その繰り返しからだ。やりたがらない人間にやらせるというのもなかなかに億劫で、自分でやったほうが早いのだがやってもらわねばならないという。

 必要なのは、向上心で日本人だとすぐに「やる気だせー!」だとか「馬鹿か」と言ってしまうだろう。だが、ミッドガル人はまったくもって外人だ。アングロサクソン系なのだ。それが日本人とのミックスでいいとこ取りだったしても、人を馬鹿にしてはいけない。


 南国で日本人が射殺される原因の多くが、まさに当たり前のようにして人を馬鹿にする事なのだから。


「上手いよ。すぐにできるようになるよ」


 人の頭を撫でるのもどうかと思い、ユウタはまるでなでないがセリア犬バージョンを撫でないと股間が破壊されてしまう。顔の両脇を撫でるのがお気に入りで、腹は何も感じないようだ。


「うんー」


 にっこにっこと木の柄を前にして汗を流す。歩くにゴブリンを見つけて、魔術で足を縛る。


「さ、いってみよう」


「うう」


 またしても固まった。ゴブリンをレナが自分の手で倒せるようになるまで続けるしかない。

 ひょっとしたら、魔術師や僧侶という線だってあるだろう。

 レベルを上げて、転職するのがいいかもしれない。

 レナが疲れてくれば、回復をかけて進む。


(これは、大変だぞ)


 ちんぽを突っ込めば、惚れるだろうか。ありえない話だが、いう事を聞いてくれるようになるのならと思わなくもなく。考えを振り払ったものの、困った。


(オデットもルーシアも水を吸い込む綿みたいな感じだったからかなあ。比較しちゃだめなんだろうな)


 むしろ、やる気のあるというか。適性のある人間というのは珍しいのだ。


挿絵(By みてみん)

1コマ「ふっふっふーーーんっふっふーん」


2コマ「こんな事していていいんでしょうか」「ふっ、いい。今日は、休暇だ」


4コマ「あ”あ”あ”~~~」

みりん。様作品


挿絵(By みてみん)


Shimbo Hanako様作品

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