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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
一章 行き倒れた男
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58話 暗い場所で会う! (ユウタ、アングルボザ、死炎のレグス)

 おかしい。

 意識が落ちる前に見たのは金色の髪をした少年の紫色の瞳だった。あれ・・・アル様は蒼の瞳をしていたような。まるで別人だった、例えるならアル様はさわやかな風を運ぶ暖かな太陽、あれは闇色に輝く冷たい月か。


 そして、ここはどこだ? どことなく既視感を覚える荒涼とした大地だ。大地を見ると微かに草が生えていた。真っ黒な大地に真っ黒な空がどこまでも続いている。その中にポツンと灯りが灯った場所があった。


 取り合えず、俺はそこに向かうことにした。


 何度か来たようなそんな気がするのだけれど、そこは死者達が行列を作っていた。物言わぬその人の形をした死体が無言で歩いている。灯りのついてる場所はどうやら小屋のようだ。周りには雑草がぼうぼうで木が生えていた。


 小屋には何かいる気配がするので、窓が申し訳程度の大きさでついている所から覗いてみる。気配を殺しながら接近して中を覗くと、そこには一人の幼女がイビキを立てて寝ていた。


 これはどうしたものか。中に勝手に入ると住居不法侵入だよなあ。何処かで見たような気がする。とんでもない醜女だったような、そんなわけないか。薄紫の色をした髪の美幼女がベットで寝ている。俺は取り合えず声を掛けてみることにした。


「こんにちわー」


「zzz。」


「こーんにちーわー」


「むにゃ。・・・うるさいアンタ誰。はっ、はわわ」


「こんにちは、お目覚めですかお嬢さん」


 幼女が震えてる。失禁しそうな勢いだ。寒いのか。


「あ・・・アンタは・・・ヒィィ。あ・あんた、また来たのかい。帰れ」


 全身がぶるぶると揺れている。失敬な。まるで、こちらが性犯罪者のようだ。

 全く違うぞ! 


 寝ていた幼女は申し訳程度の布を身に纏っていた。ベットからゆったりと体を起こし、こちらを見て怯えたよう言う。小屋の中は壁もむき出しの木がつかわれていてすきま風が寒そうだ。


 床も相当な汚れが溜まっていてろくに掃除もしていないのだろう。食べ物も貯蔵してなさそうだ。テーブルすらなくポツンとベットが置いてあるだけであった。

 どうやって生活しているのか不思議だ。


「また・・・とは。もしかして・・・君は、俺の事を知っているのかな?」


「知っているも何も、あんたがアタシをこんな風にしたんだろが。おかげでヘル様にはお役御免にされたし。で・・・僻地に飛ばされちまったってのに、また会うなんて。アタシャは、つくづく運がない女なのかねえ」


「そりゃ悪い事したみたいだね。でも俺にはそんな記憶がないんですけれど、とりあえずさ、此処がどこでどうやったら元に戻れるのか教えて欲しいですよ」


 はー、っとため息をつく幼女は髪をかき揚げながら手を振ると話に応じてくれた。そこに座れとばかりボロボロの椅子を指差しながらこちらを手招きして話だした。


「冥界だよ。あんたねえ、記憶がないのかい。けどこっちには・・・あんたにこれ以上、何も話す事は無い。なんて言っても、無理やり口を割らせてきそうだしねえ。どうしたもんかね。・・・こっちもあんたに質問するけどいいかい?」


「うーん。持ちつ持たれつって奴かギブアンドテイクかな、まあどっちでもいいけれど。・・・いいよ、んじゃそっちからお願いします」


「まずは、あんたはどこの誰だ。どっから来たんだ。冥界に只の人間がやって来るなんて考えられないんだよ。見たところ神族ってわけでもない。存在がおかしいのさ。昔、ダンテなんて男がここらをうろついただとかいう話はあったけれど。ありゃあ、すごいいい男だったからさ」


「自分ですか。ユウタですよ。あんたは誰だとそう言われても何者でもないのですが。只の人間です、どこからと言われても人が住んでいるところからやってきたとしか言い様がないですよ」


「あんたいいかい、此処はニブルヘイム、ヘル様の治めるヘルヘイムの一歩手前の領域さ。ここには死にかけか死人しかこないようになっているんだけど、そもそも死にかけだってもう自由に動けやしない。あんたみたくアタシの力を奪った挙句。何度も来るような奴なんて初めてなんだよ。ありえない存在なんだ。分かるか? お前のおかげで冥界は滅茶苦茶だ。今や草木に命が宿り、骨だけだった死体が肉をつけてうろつき出してんだよ。おかげでアタシはこんな辺鄙なところに追いやられて、死人共の送迎とか見張り役さ。どう責任とってくれるのさ」


 ぜえぜえと息を荒くしながら一気にまくしてくる幼女。

 ほほう。

 そうか、ここはニブルヘイムっていうのか。


「どう責任とるんだって言われてもですねえ。只の人間に何が出来るのっていう感じです。ちなみに俺はユウタといいますが、アンタはなんていうんでしょうか?」


「こ、この馬鹿。こっちはあんたの事は忘れた事がないというのにアタシに勝手な名前をつけたこと忘れてんのかい! コノアンなんてヘンテコな名前つけやがって、もう許さないよ。ぐちゃぐちゃの肉片にしてやる」


 そう言うとベットから立ち上がろうとする幼女だったが・・・。あっさりと俺はこの子を押さえこんだ。このスピード。我ながら電速というか、光速を超えていたね。まさに肉体の縛りを超えた動きって言う奴だな。


「ふー、危ないな。おいちゃん、何か危険を感じちゃった。で・・・なんだって? コノアンちゃん、ぐちゃぐちゃの肉片に変えるとか聞こえたような気がするんだけどさあ。この状態でも何かできるのかな?」


「む・・・むううう。は、離せええ。変態。助平。ロリコン。おーかーさーれーるー」


 だ、だれが変態だ。ロリコンでもない。犯すとか。ゴクリ。


「ちょっと待ってくださいよ。そんな趣味ないからさ。大人しく話をしよう。暴れるのをやめないと、蓑虫にして吊るしちゃうよ?」


「は、はう。・・・何か危険な香りがするね。わかった。だから離せ」


「落ち着いてくれましたか。嘘だったら酷いことなるからね。さあ、どうしたら元の世界か身体にに戻れるのか教えてください」


「うう・・・なんでアタシがこんな目に。あんた、自分でなんとか出来ないのかい。アタシやヘル様から奪った力で余裕で出来るハズだろう」


 できたら、速攻で帰ってるよ。だから、聞いてんだろ。

 わかれよ。この幼女ババア。

 しかし、俺は紳士。殴ったりしない。


「だからさ、コノアンちゃんどうやったらいいのか分かんないんですよ」


「ああ、もう。あんたが力の制御位覚えなさい。このアングルボザとヘル様の力を奪ったおかげで、冥界中で死体が歩き回るハメになっているの。そこんとこわかってんのかい。このままでいくと、じきに転生システムが壊れちまうんだよ」


「転生システム?」


 初耳だ。そんなもんがあったとは。


「そうさ、冥界が一体何の為にあると思っているのさ。魂の浄化し、新たな生に送り出す。これに尽きるんだよ。冥界的なものは他にもあってねえ、地獄だったり、黄泉と言われていたりね。そこにはやはり管理神がいてカルマ値と呼ばれるたり業だったり罪だったりで秤にかけられて何処に送られるのか決められるのさ。これを今あんたが壊しそうになってんの。人間、わかってんのかい」


 なんかやばそうだ。カルマ値って。ゲームっぽいなあ。


 なんだか知らないが、冥界という場所がトンでもない状況に今あるということだけわかる。興奮して仁王立ちした彼女は逆立つ薄紫色の髪を整えると、ベットに座りながら足を組み換える。


「で、大変なのはわかったんだけど、俺はどうすればいいですか」


「これだから、人間ってやつは現金・・・本気で協力するってのかい?」


「ええ出来る限りですが」


 なんつってな。もちろん、このロリコンババアをゲットするためだ。

 はっ。まさかな。ヘル様はゲットしたいぜ。

 持ち帰りだ。


「取り合えずはだねえ、背中を向けな」


「はい。」


 なんだろう、何かするっていうのか? しかし殺気は感じない。幼女が背中に手を伸ばすと何かが引っペがされる。幼女は黒い球のような物を手に持っていた。球には足が生えているようだ。爬虫類の足っぽくジタバタとしている。


「アンタ、これが何かわかるかい」


「いえ、わかりません」


「ふーん、不思議な・・・卵なのかねえ。アンタの魔力を食べて大きくなっているねえ。おっ」


 幼女の手を振りほどいてこちらに駆け寄ってくる卵? というか真っ黒い触手をうねうねと生やしたそれが足にくっつく。かなりキモイが、これは一体何なんだ。黒っぽいもやのような触手を引っペがしてみると金色の卵が出てきた。これ森で拾った卵か。


「それで、これはコノアンちゃんにもわからないのですか?」


「それはこっちの台詞だいユウタ。まあ、あんたの事だからなんにも考えてないんだろうけどねえ。アタシは知らないからね。龍界のことなんて全然しらないから。こいつ、もしや」


「それって・・・知ってますよアタシは、っていうことじゃんか。素直に教えてくださいよ。」


「人は神に教えを請うのに只で済まそうってのかい。教えてやるから言う事を聞け。これでどうだい。それをそのまま制御せずにいるとあんた死んでしまうかもしれないねえ。ふふん」

 

 なんて邪悪な笑みを浮かべるんだこの幼女ババアは。

 不釣り合いな表情だが、全くの嘘とも思えない。


「死ねとか、力を返せとか、言われても無理だと思うんですけれど。そこのところ考えて言う事言ってくださいよ。自称神の幼女様」


「ぬううぅ、お前ええぇ。アタシを誰だと・・・まあいいそれより先に冥界の状況を元に戻す必要があるからな。とりあえず、アタシの目の前に跪け頭を垂れろ。話はそこからだ人間」


 お断りだ。頭を下げるのは、ホモ王子だけでお腹一杯である。


「コノアンちゃん、それは酷くないですか。そしてそれに何の意味があるんでしょうか」


「お前は背が高すぎるだろ、それくらい分かれよな」


「はいはい、分かりましたよ」


 そう言いながら、膝をついてコノアンちゃんを見る。ん・・・この体制どっかで。


「そう。そのままじっとしているんだぞ。すぐ終わらせてやるからな。」


「な! ハッ、あぶねえぇ」


「避けるな。・・・? どうしてわかったんだあんた」


 そりゃわかるわ。ボケがっ。何度も同じ手を食らうかっつ~の。


「今思い出したわ。此処に来る原因になったのも、それされてなんだからそうそう食らったりしないわ。今考えているとこだけれど、もしかして直接口に触れてから魔力を吸い取るんですか?」


「ほう、流石に一度受けているならバレバレどいうことかい。しかし、あんたには時間がないぞ? ここにいればいるほど世界に馴染んで帰れなくなる。生者が死者の理を乱すように死者の世界の理もまた生者を侵蝕する。他にも方法がないわけではないが、これが一番てっとりばやいのさ」


 本当か? いや、しかし、おかしい。

 生きているはずなのだ。肉体は。きっとそうだ。

 だが、ここに来ている理屈がわからない。


「他に方法がないんですか?」


「うーん、確かに言われてみればあることにはある。だが、しかし・・・。冥界の門番でもある霜の巨人族が一人。死炎のレグスからこの世界に自由に出入り出来る鍵を奪うとか、あとはヘル様に9つの世界を自由に移動する指輪を盗み出すとかどれも相当に難しいぞ? 冥界にある死を集める冥海の底にあると言われる扉を探すというのもある。これはこれで、探している内にお前の霊体が、持たないだろうな。で、覚悟は決めたか? 人間」


「覚悟も何も乗り越える試練が時間制限つきで、無理っていうのはわかりましたよ。けど、なんでそこまでしてくれるんですか?」


「いちいち疑い深い人間だねえ、まっ確かに其の通り。こちらに思惑がないなんてことはありえないさ。色々あるんだけどねえ。冥界の状況を確認してもらうとするかい。あんたちょっとこっちに来な」


「分かりました」


 言われるがまま薄紫色の髪をした幼女の後についていった。外には真っ暗だったはずの空に真っ赤というよりは血の滴るような月みたいなものが見えている。辺りはおかげで徐々に明るさを持ち始めていた。


「気がついたかい。あの月あれがそうだよ。お前があれを作っているんじゃないかとさっきまでは思っていたんだけどねえ。どうやらそうでもないらしいね。けどこのままほっておくわけにもいかないのさ。どんどん大きくなっているじゃないか。それに見ろ。あそこの死者の列をよく見てみろ」


 月がでかい。それに。


「何かへんな所が? あっ、なんだありゃ。げえっ」


 死者には骨皮か生前の格好をしたまま歩き回っている奴が出始めている。


「よくわからんだろうが、このまま生前の記憶を死者が、取り戻す様なことになれば、冥界は輪廻の輪を保つ役目をはたせない・・・オイッ。どこへ行くんだあんた。」


「すいません、ちょっと・・・」


 幼女の話どころじゃねえ、話していたのに俺は目標に向かって走り出していた。





 

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