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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
二章 入れ替わった男
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431話 悪とは

 白い壁に、白い椅子。窓に白い毛玉がいて、上には黄色い蝙蝠が停まっていた。

 座れば、眠気がやってくる。己の部屋のように改造したいが、そうもいかない。

 ユークリウッドの部屋だからだ。


(奴め、一体、何を遊んでいる)


 水晶玉で見るに、新たな女を加えたようである。


 そして、風呂に入りに行って飯を食ったかと思えば外で遊んでいるのだ。


「むー」 


 ユークリウッドは、戦場に出向かなかった。


(セリアは、殺しすぎるんだが・・・)


 人族の捕虜は、奴隷にするし餌にしたりする。獣人だからか。


(価値観が違い過ぎる。私がいなかったら、どうする気だ)


 隣で、横になっている幼女は緊張感の欠片もなかった。戦場での働きは、目覚ましいのだ。

 罰するにしても、言葉を選ぶ必要があるだろう。香木で拵えたテーブルに散らばる紙に目を移す。


(そして、こいつだ)


 テーブルの横で正座をする2人の幼女を一瞥して、内容を思い浮かべた。

 日本人の転移者だ。


「お前ら、何をやっている? さっさと押し倒して嵌めろよ」

「へ?」

「む・・・無理ですよ~」


 無理。できない。それならば、頭をすげ替えるまでのこと。だが、ことが事だけに替えられない。

 黒いワンピースに青いワンピース。胸がないのは、仕方がない。

 片割れが、くるくると髪の毛を弄っている鼻にくっつけた。


「何が、無理だ。気合だ」


 隣に座って、股間に手を入れた。

 息を吸い込んだまま、エリアスは目を大きく開けている。


「ここに、●玉があるからな。掴んでしまえばイチコロだろ」


「お、俺も?」


 アルストロメリアは、碧色の瞳を丸くしていた。口元が釣り上がって痙攣している。


「何のために、2人を喚んだと思っている。やれといったら、やれ」


「フィナル、なんとか言ってやってくれよ」


 右対岸で、よだれを垂らしている幼女は夢の世界に行っているようだ。

 返事がない。


「ふむ。姉上、金的を潰すのか?」


「誰が、潰すんじゃい! でゅるうるるうふんがふんが、ぢゅりゅぢゅる。くらい面白くないギャグだぞ。潰してどーする。潰して」


 灰色の狼は、明後日に頭を沈めた。夕飯後、だからか暇をしているのか。

 ヘルトムーア王国の戦いをすっぽかして、ユークリウッドのベッドで寝る気のようだ。

 水晶玉の中で、ユークリウッドが股間を押さえた。顔面には、汗を浮かべている。


(まさかなあ)


 自分の部屋に盗聴器を仕掛けているとしたら、侮れない。


「ところで・・・」


「はい?」


 手を出した。


「なんすか?」


「なんすか? じゃねえ。弓だせや」


 何のことだかわからない顔をしたら、さらなるお仕置きだ。しかし、しぶしぶといった様子で黒い弓と反り返った刀身の剣を差し出した。


「ふむ」


 ひとしきり撫でて、収納付きの鞄に入れる。唇を噛んでいるので、不満のようだ。目からは、炎が浮かんでいる。

「なんだ? 文句でもあるのか」


「それ、は」


「奴のものは、私のものだ。すべて、な。何、ポーションの価格、保証してやろうではないか。ユークリウッドは、迷っているようだからな」


 これには、アルストロメリアもにっこりだ。寸前までの憤怒も消えたようである。


「いいんすか。そんなこと、ユークリウッドに言っておかなくて」


「所詮は、私の騎士。つーか、政治、経済、運輸、外交、治安からゴミまで365日、24時間、思うがままに運営、解決する身になってみろよ。担当大臣置いて、好き勝手やりたいわ! の! 少しでもミスったらぼっこぼこにされるんだぞ。笑みをずっと浮かべているとか、マジ無理。そっちのが無理だろ。なあ」


 エリアスは、のけぞった。それでなくても、頭が痛い問題もある。

 ヘルトムーア王国ではなくて、転移者のいるハイデルベルクだ。

 ハイランド王国を攻撃するには、まだまだ準備が必要である。


「いやー、憧れちゃうなー。未来の賢王様!」


 微塵も思っていないだろうに、ぐっと見つめるとエリアスのにやけ顔が泣き顔になった。

 フィナルは、現実に戻ってこない。放っておけば、ユークリウッドのベッドで良からぬ事をし始めかねない変態だから要注意人物だ。


 水晶玉の中では、手加減をしているであろうユークリウッドがアルカディアの人質とちゃんばらをしていた。


「はあ。で、ハイデルベルクで日本人が次々に殺されている件だが」


「困った事って、それですか」


 当然だ。


「奴ら、気軽に馬鹿と人に向かって言うらしい。それで、どうも暗殺されているようなんだがどうしたらいい。行方不明を含めると、延べ20人ほど死んでいる」


「や、それはしょうがなくないですか。馬鹿って言われたら、殺さなきゃおさまらないでしょ」


 困った事に、日本人というのは道徳心が欠如しているらしく人前で相手を罵る傾向にある。

 恥をかかせれば、殺されるのも道理であるから言葉に気をつけなければならない。

 わからないのだろうか。悲しいことだが、技術はあっても人の心は持ち合わせていないようである。


「他にもあってだな、稀にみる悪魔のような民族かもしれんと、私は思いつつある」


「えーと、ケース、高級装備品を貸し付けて仲間を奴隷のように扱い殺害される、と」


 人を人とも思わない手口であるが、狡猾なのだろう。犠牲者が、幾人も出たところでセリアを差し向けた。


「水商売でやる手口みてーだぜ」


「シルバーナを呼んだほうが良くないっすか」


「あいつは、飴を投げた。ユークリウッドがやりすぎて精神が持たん。つーか、女なんだから優しくしろっての、なあ」


 アルストロメリアは、手振って顔を左右にする。


「そいつは、同意しかねますわ。板の上で、寝てただけとか。むしろ、俺が蹴りいれようかと思ったんですけど。けど」


「まじで?」


 確かに、寝ていたが。戦ったとして、前衛をやれたとは思えない。むしろ、最初の虫型で潰された死体になっていたであろう。水晶玉の中で氷柱が飛び交っている。姫の片割れが、必死に捌く。3秒ほどして足元が停まった。登るのは氷だ。そして、氷像になった。殺す気なのか。氷が溶けると、オヴェリアは倒れた。


(やりすぎだろ。便器が、死ぬぞ)


 駆け寄る妹は、涙目だ。


「ケース2は、金貸しか。冒険者に金を貸して保証人にする手口は、なんとも堅実と思いきや」


「そいつは、高利貸しの手口だぜ。やべーよ日本人」


「とんでもねえな」


 悪魔としか思えない行為をいともたやすく行う。異世界とは、魔界か。悪魔ですら、やらないだろう。 

 むしろ、悪魔が可愛く見えるかもしれない。拷問と


「バンス、たすき掛けという手口らしいな」


「きもいわー」


 恐るべきは、日本人だ。人を平然と貶めることは、日常としても同じ冒険者を罠に嵌めるとは。

 フィナルの姿がない。ベッドか。頭を180度回転させれば、腰を突き上げた姿勢で床を滑っていくのが見えた。壁に当たって、血が染め上げる。


「ケース3、これは商店での話なのか? 業務委託。なんて雇用形態はあったか?」


「わかんねーっす」


「あー。それ、昔、禁止されたってやつじゃないですかね」


「ほう、聞かせろ」


 ユークリウッドが遅い。寝たら、そのまま迷宮へ行ってしまうのもいいだろう。荒野の迷宮は、レベルにあっていないとアルーシュは思うのだが。虫の魔物からいいものが取れるかもしれない。しかし、見た限りではレナという肉奴隷を連れて行ったから、ではないか。


「えーと。基本、売り子ってうちの直接雇用なんすよ。直接、つまり錬金術師ギルドそのものに所属するってことで」


「当たり前の話だろ。それと委託ってなんだよ」


「だああ。最後まで聞けっツーの」


 本当である。テーブルに置いてある鈴に手を伸ばせば、扉が開いて濃紺か黒紫色をした女が丸い木の板に湯気を立てたカップを乗せて近寄ってくる。ふりふりのついた白い服だ。首元を彩る赤い帯が、いい。

 手で掴んでぐっと飲む。熱い液体が、喉を潤した。


「おっぱいでけーな」


 目が合う。殺されるかも知れない威圧感を受ける。只者では、ない。


「いいなー」


「やめろよ。すいません。この人ら、頭がおかしいんで」


「お前だけな」


 思った事が、つい口に出てしまったのだ。許せ、とはいわない。でかいのだから。

 シルバーナよりちょっと上の年齢か。シグルスより下か同年齢に思えた。

 でなければ、おかしい。メイドは、ぺこりとお辞儀をして出ていってしまった。


「話、飛んだな」


「えーと、冒険者ギルド。ここな、直接ってのが売り子を雇うってとこだから。ギルドに依頼が行くと、それを受けるのは間接雇用になるってわかるかよ」


 アルストロメリアの言葉に、エリアスはぽかんとしている。フィナルは何事もなかったかのように椅子に座った。聞いても、返事はないだろう。興味がないことには、一切加わらないのが特徴だ。


「で?」


「こんときに、ギルドを通して依頼を受ける。業務委託なのか間接なのかというと、ギルドに属しているって事なら委託ではなくてギルドからの請負にワケ。ギルドが元請けなら、冒険者は直請け。それ以降は許してねえ」


「ふむ。で、何が問題なのだ。委託と請負で、変わらないように思えるが?」


 アルストロメリアは、首を横に振る。


「こいつを見る限り、ギルドから受けた奴を借金で縛った冒険者にこなさせたりしていたみたいだな」


 アルーシュは、頭を抱えた。放って置くわけにはいかない。そして、なぜ平然と行えるのか。


「恐ろしい人の皮を被った悪魔どもか」


「悪魔だって、思いつかねーよ。長時間に渡る探索に、帰還後には道具の手入れ、睡眠不足から洗脳するって・・・」


 日本人という民族は、洗脳スキルを持っていたのか。【強奪】【即死】【万能】これらを邪神から受け取って侵入してくる。強大な能力を与えられていることも多々あって、神殺しだって厭わない。アルーシュたち神族にとっては、なんとしても始末したい手合であった。


「死ぬまで働かせるというのは、冗談ではないらしいからな。年若い見習いをかき集めるのも、奴らにとっては御しやすいからだろう」


 全部が、全部、日本人が邪悪である。という事では、ないとアルーシュは思いたい。

 万に1人か。そんな確率だろうが、それでも手口を教えている悪鬼がいるのだ。

 知識。邪悪な知識を蓄えている。となると、図書館が思い浮かぶ。


(燃やすかねえ)


 水晶玉に映るユークリウッドは、鼻血を吹き出して倒れた。何を見たのか気になるが、まぶたが重い。

 ソファーを崩すと。横になって、目を瞑った。

挿絵(By みてみん)


mうさぎ様作品。


挿絵(By みてみん)


1コマ目(喧嘩ばかりで・・・)


2コマ目(何やってるのかわからないけど・・・)


3コマ目(でも、まあ・・・)


みりん。様作品

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