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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
二章 入れ替わった男
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429話 荒野の迷宮4

 土の壁を見て、時間がどれくらい過ぎ去ったのかわからなくなっていることに気がついた。

 

「今、何時だっけ」


 何時間でも潜っていてよい頃は、良かった。板の上で座っている幼女は、


「まだ、17時にもなってねえよ。飯時まで、1時間くらいはあるだろ」


 先に進む気でいる。時計を腰の鞄にしまいながら、金属製の板を見ていた。

 接近戦をしていては、アルストロメリアたちの身が危ない。

 わかっていなさそうである。


「ここに来てからの時間は、わかる?」


「さっきの虫みたいなボスが1秒だとして、ボスまで15分くれーじゃん。カード作るほうが時間かかってるって、もっと狩ろうぜ」


 とことん、寄生する気だ。鞄から手帳を取り出すやいなや、めくり始めた。

 ユウタは、後ろ歩きを直す。接近戦をする気は、ない。


「へへ。あのさー、弓を買い取ってもいいよな」


 手帳は、価格表なのか。急に買い取りを希望してきた。こっそり鑑定をしているのかもしれない。

 

「高かったの?」


「いいじゃんか。たまには、美味しい思いさせてくれよ~」


 猫なで声を出すのだ。気持ち悪い。


「変なスキルがついていないか調べてからだね」


「そっから売ってくれるよな。な?」


 2層から3層への移動も時間がかかる。ゴブリンを感知し次第串刺しだ。

 レナもシルバーナと一緒で船を漕いでるのか反応がない。もっとも、レナは元から元気も無さげであるが。それにしたって、喋らないのはなんでか。


「2人は、どうしてるの」


「ああ。寝てらあな。迷宮で、寝ちまえるってのもすげえと思うわ。ふつー速攻で魔物の餌だろ」


 弓から意識が離れたようだ。


「ここは、まだ入り口だからね」


 三叉路を超えたとはいえ、動かなければ魔物がやってくるとは限らない。むしろ、冒険者の方が出くわしやすいのではないか。ゴブリンを風の術で把握しては、人の背丈くらまで土の槍を伸ばす。進めば茶色い土で股間から上部まで貫かれた魔物の死体に出会う。


 通路に2体だ。見張りか。左に小部屋がある。中にも4体。どれも、武器を手にすることなく事切れているようだ。


「これ、お前がやったん?」


「そうだけど。魔石とか取る?」


「やらねえよ。採取に便利な術とかねえのかよ」


「エリアスが担当だからねえ」


 いないので、できない。というか、面倒なのだ。金になるが、いちいち心臓付近にあるものをえぐり出さないといけない。エリアスは、使役する金属だかなんだか得体の知れない召喚体で採取していた。考えてみれば、いるのと居ないのとでは大違いだ。


 後ろから、くるものはいない。先を探れば、3体のゴブリンが歩いてくる。【土槍】を使う。

 避けない。


「このえぐい術、どんだけ連発できるん」


「どれだけでも?」


「防ぐ方法とか、敵が使ってきたらお陀仏じゃん、俺ら、っていうか。お前以外、生きてなさそう」


 防ぐ方法は、簡単だ。


「結界でも張っとくといいんだよ。常に【防壁】か【結界】でどれもくらわないから、雑魚殺しなんだよね」

「するってえと、なんだ。どっちも使えねえなら、確殺されるんじゃ」


「そうだね。魔術師とは争わない方がいいね」


 剣士が魔術師に勝つのは、至難の業だ。なんせ、近づく前に戦いが決まってしまう。

 重装甲だと、ただの棺桶になり。軽装であれば、蚊蜻蛉。

 術を剣で切るまでに辿りつければいいが、そこまで生きている近接職がどれほどいることか。


「だんだん、錬金術師が悲しくなってきたんだけど」


 慰めて欲しいのか。ポーションで一旗上げようという転生者は多いようだが、簡単に行くはずがない。

 強力なチートを持って転移したとしても、だ。

 現地人と争いになることは必定で、どうして勝てると思えるのか不思議である。


「そりゃね。錬金は、ねえ。お金を稼ぐには向いていると思うけど、戦闘は無理だよ」


 手から、なんでも生み出せる系ならわからないが。アルストロメリアは、出せないようだ。


「そうだよ。なんで、俺、ここにいるの? なぜ? 意味がわかんないぜ。小型ゴーレムの作成が急務なんだが? でも、金がない。全然、金が足りねえ。わかるかよ」


 わかるわけがない。金が欲しいならそれ相応の迷宮にいく。


「小さいゴーレムね」


「そうだよ。ここでだって戦えるやつ。なんで、小型ゴーレムがないんだか。機械をいじって【機械士】…オメー持ってんだろ。じゃなきゃ、鎧になるかとおかしいんだよ」


 さて、ユウタは困った。【鎧化】なんてほとんど使わないのだ。いつ、手に入れたのかすらよくわかっていない。気がついたら、持っていたスキルである。だから、どうやって手に入れたのだかわからなくなっている。なにせ、ユークリウッドが持っていたのかそれともその前の、なのか。


 ゆったりとした坂をくだって、部屋がある。扉は、閉まっていた。が、隙間から中が把握できる。

 部屋の中には、10体。ばらばらに彷徨いている。一気に、10体に【土槍】を発動させると過たず刺さった。金属の輪っかを引く。中には、絵にもかけない死体が、あった。


「戦いじゃ、ねーよな」


「まあね。なんなら、アルストロメリアが戦ってみる?」


「死ぬわ。俺が、逃げ惑うの見たいわけ? 泣くぞ」


 本当に泣きそうなので、


「悪かったよ」


「わかりゃいいんだよ。溜まってんなら、しゃぶってもいいぜ」


 何を、とは言えない。


「ごめん、て」


「ふん。お前ってさ。よくわかんねーよ。男なら、もうがっつくだろ。10くらいでガキ作ってんのいるじゃん」


 ロシナのことだろう。死体の林を抜けて、扉の向こうを探る。4方に扉があるので、反対が最有力候補だ。反応は、ない。通路のようだ。歩いていると思しきゴブリンが2つ。開けてみれば、後ろ姿がある。振り向いたところに、土の槍が刺さった。通路は、狭い。小さなゴブリンが、口を開けたまま死んでいる。


「それって、今する会話なの」


「や、だってさー。女が3人いるんだぜ。でも、襲いかかる素振りの欠片もねーってどういうことだよっての」

 ユウタは、軽い目眩を感じた。ユウタは、愛の存在を信じている童貞野郎なのだ。

 故に、

「なんで、襲いかかるのさ」


「かーちゃんが言ってたぜ?」


 ねーよ、と思いながら、


「うーん。そういう男もいるかもしれないけれど、ねえ」


 先に進む。ゴブリンは、息を吸うように倒せる。強力なゴブリンに遭ってみたいが、かといって出会ったらアルストロメリアたちを守りきれるか心配でしょうがない。

 道の先には、4、4、4と大きくなった洞穴前に屯している。待ち構えたままに、槍が生えた。


「でも、エリアスなんかとパコッてんじゃねーの? 遠慮は、いらねーぜ」


「してないから」


「マジで? なんでしねーの。意味がわかんねえよ。立たねえんなら、立つ薬をやるよ。無料にしといてやるからさ」


 なんで、こういう会話になっているのかわからない。洞穴には、足を組んで座っている赤い肌のゴブリンがいた。 風は、吹き込まない。近くに寄って、わかるとは。ゆったりと立ち上がるところに、槍。避ける。インベントリから出した丸太を突き出して、そのまま正拳を突く。


 距離にして10m。洞穴から出てこれるのか、それとも丸太が当たるのかわからない。

 伸びた木の繊維が、洞穴の壁にゴブリンの赤い体を縫い付けている。放射状に伸びた木の針山は、避けられなかったようだ。手にしていた片刃の剣が落ちる。


「強敵だったのか」


「いや、そうだね。土槍を避けたんだから、なかなかやるゴブリンだったね」  


 赤いゴブリンの死体がある真下に、箱がある。一瞬前には、なかった箱は淡い光を放っている。

 ボスではないはず、なのに。


「おっ。いいじゃん」


 妙である。宝箱は、鍵がかかっていない。開ければ、中には赤身を帯びた短剣が入っていた。

 鑑定すると【火の短剣】と出てくる。

 アルストロメリアを見れば、よだれを垂らしていた。

 呪いは、ないようだ。


「売ってくれるよな」


「ともかく、ギルドで鑑定してからだよ」


「売ってくんねーと、何のために来たのかわかんねえよ。な?」


「うるせえ」


 シルバーナの寝言だかなんだかに、アルストロメリアの目が死んでいる。


「あったら、俺だってたた」


「接近戦するの?」


「無理、だけどよぉ」


 指を突っつき合わせて、上目遣いをしても無駄だ。とはいえ、2人は寝ているしで困った。

 洞穴なんて、合っただろうか。迷宮が変化したのかもしれない。

 奥の扉から、階段で降りられると思いきや長い橋だ。


「すげ、こりゃあ、すげえとこだなおい」


 後ろを振り返ると、洞穴の向こうが見えない。前に進むしかないようだ。


「いや、これは・・・」


 橋の下は、見えない。奈落のように、真っ暗だ。風の術では、行き止まりに感じるが落ちたら死ぬように思えた。左右には、なにもない。真っ暗だ。ユウタたちを誘うようにして橋が淡い光を放っている。その向こうには、巨大な柱が光を帯びて立っていた。 


「やばくね」


「そうだねえ」


「帰ってもいいんだぜ」


 びびりである。アルストロメリアは、どうせ見ているだけなのだ。ゴブリンに捕まれば、それこそ苗床になるだろうに。橋には、魔物がいるようではない。橋の裏にも魔物はいないようだ。対岸に待ち構えているのは、硬質めいた体の黒い魔物だ。ゴブリンではない。


「どうするんだよ」


「どうするもこうするも」


 と、いいかけて走り出した。


「どうした!」


「振り返らなかったら、さっきのあげるよ」


「ほ、え?」


 わかっていない。足元が崩れだしているのだ。慌てて乗った橋も崩落していく。罠か。

 必殺の罠だ。走るに、【火線】を放る。前に、密集していた魔物は直撃を受けて爆ぜた。

 間に、2,3発。合間に飛び来るのは虫。赤く光る目をした虫を丸太で払う。黒い破片が舞って、溶けた橋が崩落を止めている。後ろは、いるのか。


「おいぃ?」


 大声だ。


 全力で、駆けて1秒か。それ以下か。前にしたのは、足だ。上下する足は、昆虫のそれだ。

 光る塔、ではなくて虫だ。黒い甲殻に淡い光を帯びていたそれが、斜めにずり落ちる。

 溶けた断面から、蒸気が上がっている。

 足は、別個の生き物のように動いていたがやがて緩慢になった。


「こ、こ」


 ここここ、しか言わない。


「見たことがないね。こんなの」


 昆虫とは思えない大きさの魔物だ。昆虫型は、独自の進化を遂げたのか頭が突き出たような形状をしている。後頭部なのか。人間のようなものは、見えない。巨大な魔物は、宝箱を出さないのか。出口を探す。

 光る塔が無くなって、灯りは永続光だけだ。


「こんなん、無理だって、無理」


 歯を打ち鳴らしているから、アルストロメリアの正気度も危うい。足の踏み場もないほどの死体が、あるのだ。死体置き場に送ってきれいにするべきか迷うところである。辺りを見てもない。黒い虫の向こうかも知れない。あるとすれば。


「でも、レベルを上げようとしたらこれ以上のところだってあるよ」


「くそっ、びびんねえぞ」


 音と閃光があったのに、レナとシルバーナは寝たままだ。

 登っていく。板は、そのまま移動してきた。鑑定した巨大な虫は、【黒鎧芋虫の死体】と出てきた。

 死体置き場に入れるべきだろうか。入って消えないのなら、宝代わりに持ち帰ってもいい。


「こういうのってさ。魔物からまた魔物が産まれるとか」


 ユウタは、黒い穴が巨体のしたに出るか試してみた。普通は、入らない大きさだ。

 

「押し込んでみようぜ」


 頷いて、いやいやながら太い足を引いてみる。入れ、と念じている内に先っぽが入った瞬間、消えた。


「なんとか入った、のか?」


「うーん。かも」


 巨大すぎたからか。死体置き場は、珍種から何からまで押し込まれているのを思い出す。

 

(そういえば、オークだって入るような大きさじゃないな・・・それにもっとでかいのもユークリウッドが押し込んでたっけ) 


 すっきりしたので、再度、出口を探す。なければ、転移門で脱出だ。 


挿絵(By みてみん)

mうさぎ様作品


挿絵(By みてみん)

みりん。様作品

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