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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
二章 入れ替わった男
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428話 荒野の迷宮3

 影を見て、ユウタは両の手を合わせた。見上げる影は、黒くなり形を取ろうとしている。

 手には、剣を持っているようだ。


(やばい)


 見たことのない魔物だ。荒野の迷宮の1層で、強力な魔物が出てきたことなどあっただろうか。

 10周、20周しても大部屋の主は色違いの大型ゴブリン系のはず。

 影が、色を帯びた瞬間。倒す。


(石柱! これで!)


 黒いごつごつした昆虫の頭に、灰色が覆いかぶさる。石は、魔術で喚んだ。

 足も【土縛り】で固めてある。石の柱で、目の前が見えない。魔物の影は、どこにも見えない。

 石の下から、肌色の汁がはみ出している。死んだのか。【隠形】と【浮遊】を使って、一周してみる。

 死んだのかわからないので、困る。【生命】と【感知】で、探ってみるが反応はない。


 石の上を見れば、金色の鱗粉が立ち上る箱がある。石が落ちた直後には、なかった。


(初めて見た気がする…なんだろう、これ)


 鍵穴は、ない。普通に開けられそうだ。蓋を上に引っ張ると、簡単に開いた。

 解錠の必要は、なかったようだ。中には、


(なんだこれ。服、か?)


 黒い服だった。しかし、背中に硬い物体がついている。昆虫の羽のようだ。

 服を取り出した後に、弓が出てくる。他には、袋だ。

 弓は、矢がない。黒光りする弓だが、昆虫の腕で作られたかのような形状をしている。

 袋を開けてみれば、貨幣が入っていた。


(おかしい。これは・・・ついてるぞ)


 ありえないことなのだ。ユウタが迷宮を潜れば宝箱から武器や防具を見つけることなど、ない話である。

 おかしい。言葉が漏れそうになった。

 【鑑定】を使うと、【黒長角の昆虫弓】なんて出てくる。軽いし、女の子でも持てそうだ。

 ユウタが使うのは、鉄の剣だしただの弓だし武器に頓着しない。服は【黒長羽の外套】だ。


 軽く背中の羽は、盾にもなりそうである。


(こんなの出るなら、1層で周回するのも悪くないぞ)


 魔物の姿がないので、心臓の鼓動も治まっている。石の台座から降りると、樽に向かう。


「う、うーん。倒したのか? なんか、体がめっちゃだるいぜ」


 アルストロメリアは、眠たげに目をこすりながら肩にかけていた弓を取ろうとする。

 素直に渡して、


「うっひょ、いい武器じゃ~ん。でも、俺は弓なんて使わねえからなあ。せいぜい、ボウガンまでよ」


 シルバーナの樽を持ち上げる。


「なんなんだよ。なんで、樽に入んなきゃいけなかったんだ。説明をしろよ」


「危なかったからね。ボスの先制で吐息とかあれば、僕以外は死んじゃうかもしれないって思ったんだよ」


「じゃあ、説明してからでも良かったんじゃねえのか」


 ぐだぐだとやかましいクレーマーだ。これでは、シルバーナとパーティーを組もうという人は居ないに違いない。シルバーナには、経験が足りなさすぎた。


「その間に、死ぬかもしんねーじゃんか。シル、防壁使えんの?」


「使えねえよ」


「じゃ、樽に入って正解じゃん」


 2人に背を向けて、レナの樽を回収する。座り込んで、ほけっとした表情の女の子がいた。

 手を引いて、立ち上がらせる。木の棒を右手に持ちつつ、なんとか歩いているという。

 大部屋の入り口に人影が映る。早く進めということだろうか。


「先に進もう」


「えー。あたい、珈琲飲みたい」


「無茶苦茶言うなよ」


 板の上に2人を乗せる。アルストロメリアも乗って、狭そうだ。歩いているのは、ユウタだけになった。

 石からはみ出している汁を横目に、奥に進む。台座があって、階段があった。

 妙だ。大きな水晶が、赤い光を湛えているのだ。成人男性が2mだとすると、それよりも大きい。


「その水晶、怪しくねえ?」


「だね」


 試しに、丸太で殴ってみれば砕けた。赤い光は、消えてしまった。


「い、いきなり何すんだよ。割れちまったぞ」


「怪しいし。近寄ったら、転移させられるとかあるかもしれないじゃん」


「うー。そこに乗り込んでいきゃいいじゃんか。ユークリウッドなら倒せるだろ。きっと」


 甘い。ユウタは、無事に生還できるかもしれない。アルストロメリアも自分の身くらい守れるだろう。だが、シルバーナやレナは? 死ぬ。今のままでは、ゴブリンならぬ虫の餌になる。ともかく、階段を降りていく。

 階段で休憩をしている人間がいる。正確には、降りた場所だ。座っていたり、白い天幕を張っていたりと様々だ。胡散臭いものでも見るような視線が飛んでくる。


「飯ー飯ー、腹減ったー」


 シルバーナがぐずりだした。人の目から逃れるように3つ又の道をまっすぐ進む。

 前からは、魔物が歩いてくる。冒険者のパーティーではないようだ。2匹か。

 アルストロメリアは、黒い服をレナに着せている。くの字をした角から出た瞬間を狙う。


(シルバーナ…なんて、わがままな奴だ)


 ユウタは、インベントリから作り置きしてある金属製のポットをそっと板の上に出した。

 手狭なので、板を交換する必要があるだろう。


「なあ、ちょっと休憩しねえか?」


 丸太を2本投げる。緑色の魔物が駆け寄ろうとしたところに当たって、ひっくり返った。

 

「いいけど、交換するよ」


 板の上で、エリアスやフィナルを寝かせたまま冒険したものだ。その頃は、セリアやアルが前衛をしていたので、楽ができた。新しい板に乗せて進む。


「これ、さ。どうなってんだよ。あ、マジ美味え。これ、なんて豆使ってんの」


 ユウタも知らない。桜火が用意してくれた物だ。おやつに、黄身を帯びたシュークリームを出す。

 元気がなかったレナも口にした途端に、瞳を輝かせている。 


「知らないけど。美味しいみたいで良かった」


 仰向けに倒れた緑色の魔物から、丸太を回収する。まるでスキルを確認しないが、丸太と投擲スキルには自信がある。

「ここって、俺らは入ってよかったん?」


「なんで?」


「いや、だって」


 白いクリームを舐めながら、ユウタを上目で見つめている。


「ここ、前に来たときは追い返されたからよー」


 それは、そうなのだ。ランクが関係してくるし、基本的に繁殖可能な敵性種族、或いは魔物と女を戦わせたりするのは愚かとしかいいようがない。例え、人が足りていなくても、だ。人類としての知能があるのなら戦わせたりしない。

「しょうがないよ」


「セリアやエリアスは、ここに入れるんだろ。シル、おめえも今日からやるしかねえだろ」


 飛び火した。ごろっと転がったシルバーナは、そっぽ向いている。


「うっせー。わーってるよ」


 声が上ずっている。風の術で、先を探っておく。手を放したレナというと、木の棒を抱えてユウタをじっと見ているのだ。視線を戻して、


(女の子をゴブリンと戦わせるのは、なあー)


 セリアやアルを思い出し、次いで冒険や戦争を禁止したらミッドガルドの屋敷が半壊しそうに思えた。


 だからではなく、女は戦わせるべきではないと考えている。ユウタ1人で踏破できる迷宮であるからお荷物を抱えていても、背筋が寒くなったりする程度だ。


 女が戦わなくてもいいと思っているのは、男女が平等でないことを知っているからで。

 女が大事なら働かせるのも無意味だと思っている。なんとなれば、セリアが戦場に行くのだって反対したいくらいである。


 戦うということは、いつか敵にやられるということ。例え、どんなに能力が高くても頭をふっとばされて死ぬとか毒で死ぬとか弾丸で心臓を破壊されるとか。色々、あるのだし。


「こ、こいつ、寝てる?」


 シルバーナのことだろう。寝息が鼻から漏れている。レナを見れば、笑みを浮かべた。


「役に立ってねえ、って、しょうがないんだろうけど、盗賊纏めてるとか冗談だろ」


「家の人が結構いるみたいだよ」


 元が、騎士の家だからか。盗賊といっても、マフィアだかなんだか訳のわからない組織になっていた。

 一皮向けば、騎士もごろつきと変わらないのではあるが・・・

 

(先行しているパーティーのせいかな。ゴブリンの数が、少ない)


 大部屋に詰め込まれているという可能性。なくはないだろう。


「気になってるんだけどさ。シルと知り合いなのかよ」


「まあね」


「昔から、ってどっから?」


 若返るまで? いや、転生か。ユークリウッドが巻き戻しをしたら2回目でどっからと言われて答えがとっさに出ない。


「うーん。あ、あれだよ。ウォルフガルドに攻め込んだかなんだかの後くらい」


「あ、そっか。そっちもあるかね。青騎士団がぽか押し付けられたところかー。なるほどなー」


 ぽかを押し付けられたのかどうか知れないが、盛者必衰だ。今の時分、ミッドガルドには逆風が吹いていると思っている。ユウタは、器用に板を操りながら進む。3つ又の交差点に着く。右は、遠回り。真ん中は、パーティーがいる。左も右もいるので、真ん中にする。


「ユークリウッドは、なんで迷宮に潜るんだ? セリアみたいに戦場で稼いだほうが儲かるんじゃねーの。レベル的にもさー」


「それって、敵の武将を倒してレベルを上げようってこと?」


 嫌なのだ。基本的に。なるべく戦いたくない。


「そうだよ。一撃で万を殺れるならそっちがのが、鰻登りじゃん。レベルもそうだけど、戦功だって破格じゃんよ」

「敵が弱いとは限らないよ」

「火の女将軍と巫女を捕らえてるんだから、ヘルトムーアの大駒は少ないね。さっさとゴーレムを使っときゃまだわかんなかっただろーけど、それも壊滅してるらしーじゃん? 再建に10年はかかるってのにミッドガルドの動きが悪いってのが世評だってば」


 そうなのかもしれないし、そうじゃないかもしれない。誘導しようとしているようだ。

 珈琲に舌鼓を打って、機嫌は良さそう。


「軍勢が、少ないからね。アルカディア側から兵がたどり着くのに、すごい時間がかかるってのはわかるよね」

「飛空船使えばいいのに」

「数が少なくて、アルカディアのアル様は資金難だよ」

「お前が、金を出せばいいじゃんか」


 ユウタにだって、そんな余力はない。ともすれば、ウォルフガルド支援とかハイデルベルク支援で精一杯である。いや、そもそもそんな支援をする余裕なんてないのである。帽子を被ったゴブリンを感知した。

 奇妙な帽子を被った魔物が、7体。


 通路の奥から、一気に間合いを詰めてくる。突如、迷宮に発生したかのよう。ぽぽっと吐き出されたそれは、剣を手に駆け寄る。土の刃が伸びる。当たると、上半身だけが7つ投げ出された。なかなかに、衝撃的な死に方だ。ユウタは、【土刃】の威力に呆れ返った。


(戦争に行ったら、また人を殺さないといけない。わかってほしいんだけど、他の連中からしたら敵前逃亡しているように思えるのかな)

「お金は、そんなに余裕があるわけじゃないよ。自分のとこに手が回んなくなってるし」


「今、トドメを刺しに行ったほうがいいと思うんだけどなー。ま、セリアがやりそうだけど。あいつ、強敵を探して育てそうなとこあるから心配なんだよ」


「確かにね」


 実に有り得そうだ。

 そして、

(人口を増やす政策をした方が、いいと思うんだよね。男女は、不平等にできているんだから)


 男が、働き女が家を守る。そうであるから、人口が増えたのだ。

 それが、わからない政治家が多すぎて滅んだ。異世界にあっては、存在しない日本。

 その場所には、巨大な穴があるという。


(不平等なものを平等にしようとしたから、滅んだんだよな。しょうもねー)


「ところで、さ。俺ら、なんもしてねーけど」


(不平等なのだから、戦う必要はないんだよ。女の子は、仕事にしろ戦闘にしろ向いてないって)

 それでも、


「見て覚える、でいいんじゃない」


「レナも俺も、丸太をインベントリから出せねーよ。参考になんねー。もっと、剣か銃で戦うところかさ、レナの木の棒でも弓でもいいし」

 

 接近戦をやれ、というのか。額の汗をインベントリから、取り出した布で拭いた。


挿絵(By みてみん)


mうさぎ様作品


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