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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
二章 入れ替わった男
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420話 何でも上手くいくと思ってた。

 連れて行かれる男たち。

 ミンチだ。ミンチにしてしまえ。でなきゃあ・・・童貞野郎とはなんなのだ。

 Rの法則は、確かにある。だが、人口減少とは結び付けられなかった。


(痴情のもつれならしょうがねえ・・・けどこれって。おかしいだろ)


「どうかなされましたか」


 シグルスだ。端正な面持ちは、背が縮んでしまっても変わらない。

 気にかけてくれるの嬉しいが、シグルスは幼女たちの身に何が起こったのかわかっているのか。

 白い布で身体を覆った幼女は、顔に青あざがついている。


「パン屋と、名乗りを上げておられたようですが」


 厳つい騎士によって両脇を挟まれた門番の男は、外へと連れ出されていく。


「パン屋だってやってますよ。嘘・・・ではありません。売り子が、オデットたちなだけで」


 誰であろうと仕事がないのなら、用意できるのだ。

 ユウタは、パンを作れる。小麦から、仕上げまで。ただ焼けばいい、というものでもないが。

 隣の家は、もともとがパン屋だ。何故か、ユウタの家の前で売っていたりする。


(ただし、レイパーども。テメーら、死ね! 一瞬でも早く死ね!)


「それで、あの少女たちとどのような関係がございますか」


 すっ、と流されている。成長の早い娘は、頭の位置が2個も3個も上だ。見下ろす視線は、冷たい。


「うーん、と。行きがかった縁と申しますか、娼館に送るのはおかしいと思うのです」


「年端もいかない子であっても、糊口を凌がねばなりません。彼女たちの面倒を貴方が見られると」


 必要があるのなら、できないはずがない。シャルロッテンブルクは、余裕のある都市だ。

 外へと出ていく幼女は、にぱっと笑顔で手を振っている。

 

(シルバーナ・・・とりあえず、ぐーぱんかますか?)


 援助してやっているのに、睨みつけてくる幼女を思い出すと、


「ここで話すのも、なんですから城へ帰りましょう」


 見れば、口笛を吹くアルルがちらちらと視線を送っていた。




 玉座の間か。幕が、ある。

 左右に狭く、寝所がすぐそこにあって出入り口が一箇所しかない。

 白い壁に白い柱。床面は、汚れを気にしてか。少し汚れても良いような色合いをしている。

 升目があって、念の入った作りだ。


「さて、ここに来ていただいたのはアルーシュ様から相談のあった日本人を騎士として取り立てる件で審議した結果をお伝えする事です」


 !? となった。無理、という事だった。やはり、無理なのか。

 アルルの姿がない。気配は、脇の扉の方向だ。

 男が1人、女が1人。待っていたかのように、近づいてきた。


「よう。聞いたからって、怒るなよ」


「ふふ、それは、ないかと」


 紫色をしたドレス姿の少女と赤い角ばった服をした少年だ。

 それを手で制止しながら、


「結論から申しますと、看過できません。日本人は、神に逆らう人種と聞いております。また、戦闘能力は邪神よりの貰い物とか。技術格差で、現地民を食い物にすることも甚だしく領主代行にすら立てる騎士などとてもとても。失礼ながら、日本人に何か弱みでも握られているのですか? あるのなら、相談に乗りますよ。殲滅ですが」


 シグルスから他の2人に目を向ければ、同意するようにうなずいている。


「別に、弱みなど握られてませんよ」


「シグルス様。よろしいですか」


「アインゲラー卿。何か?」


 出入り口から、白いエプロンと黒い上着にスカートといったメイド姿をした女性が複数で近寄ってきた。

 手には、椅子だ。腰掛けて向き合うと、飲み物が差し出された。黄色い色をしている。口に含むとオレンジの味がした。香ばしい匂いが、新鮮さを伝えてくるようだ。


「アキラって奴、強奪スキルの持ち主だったんでしょう? そんなの危険すぎます。一刻も早く殺しておくべきではないでしょうか」


「ちょっと、待って」


 何故、アキラの名前が出てくるのかわからない。アキラは、強奪スキルの持ち主だったが真面目に働いている。日本人だからといって、騎士に取り立てないのは勝手だがまたユウタが領主として騎士に任命するのは自由ではないのか。酷い差別を目にしている気がした。


「いくらなんだって、アキラが何かしたの?」


「するかも知れないだろ。日本人てのは、利害が合わなきゃあ、自分に害が及びそうならさ。神殺しを考えてるからな。そんな危険極まりない奴をこの世界に野放しにしておいて良いのかって話だ。ブリタニアへ任務で送ってるみたいだが、今一な成果だしよ」


 アキラから報告は、何も受けていない状況なので良いとも悪いとも違うとも言えない。


「アキラが、裏切らねえ保証をユークリウッドがしても、ですよ。気が付かねえ内に、スキルが復活してねえとも隠してねえとも限らなくないですか。ユーウ、ちゃんと把握してるんだろうな、そこんとこ重要だぞ」


 ロシナが、何故ここでアキラの話をしているのか。スカサハだかスカートだかと戯れているのでは。

 金のもみあげを弄るネロの顔を見れば、扇子で覆った。助けは、こないらしい。


「報告、させるようにします」


「全く。日本人を厚遇するから、貧民街が無くならねえってことだ。気がつけよ」


 日本人と関係が無いような? 歯ぁ食いしばれや、という気分だ。顔芸しているかもしれない。

 天幕は、動かず膝に鳥が乗っかる。黄色い鳥だ。広くて黄色いくちばしをしている。目を見たら、澄んだ瞳だ。撫でると、気持ちが落ち着いてきた。


「貧民街は、関係ないでしょうに」


「いいや。あるんだな。これが。ネロ、出してくれ」


 4人の真ん中に、小さな円卓が置かれて巻き紙が乗せられた。端っこが、石で押さえられる。


「右が日本人のアイテム販売量、販売額だ。左が一般の冒険者が売るアイテム販売量と額な。明らかに、おかしいだろ。働き過ぎというか、これでは買い取り額を落とさねえといけねえ、わなあ。奴ら、自分たちだけが儲けられりゃあいいって考えてやがる」 


「困りますね。そういう事をされては、低レベルの冒険者の狩場で?」


 紙を見ながら示すのは、下水道とかいう王都でもゴッキーがでるダンジョンだ。

 そんな場所など無いのだが、マンホールと呼ばれる入り口から入ればあら不思議。

 水が流れる滑った金属板の床と酷い匂いがする迷宮に出る。


 件のゴッキーは、ソフトボールクラスからバスケットボールまであるものの簡単に潰れる。

 レベル1から1撃で倒せる上に、持ち帰れば肥料になるのだ。買い取り屋までいる人気の迷宮である。


「はい。彼らは、徒党を組んで24時間狩りを行うと悪評が立っております。また、新入りを奴隷扱いすると…」


「恐ろしいですわ。奴隷でもないのに、奴隷扱いするなど。日本人というのは、悪魔では?」


 違う! と、叫び出しそうになった。

 だが、どうだろう。ユウタは、後輩に甘かったので舐められっぱなしだった。

 同僚が、適切でない言葉を投げればたしなめたものであるが故に煙たがられ嫌われていた気がする。


 同調圧力というものはあるものだ。そして、使える使えないを早々に決めて見切ってしまうのである。

 大成するかもしれないのに。そうして虐げられた後輩がどうなるかなど、推して諮るきだ。


「悪魔・・・」


「とまでは行かなくても? とっくに滅んだ国の哀れな連中だ。同情するのはわかるが、この国じゃあ帰化したって5代はありえねえ。獣人の騎士なんてのも、まあ、ないからな。セリアは別だぞ。あんなん敵にしといたら、やべえ。政治家だって、他の公職だって駄目だからな。わかってないようだから、言っておかねえと」


「ユークリウッド様は、どうして日本人を優遇したがるのか」


 答えに、詰まった。日本人が好き、とか答えようものなら悪魔崇拝者とでも言われ兼ねない。

 ユウタは、ロシナの狷介な眉の間が気になった。


「そりゃあ、発電所の建築には彼らの協力が必要ですからね。治水利水のダム、水路、道路工事にかけては魔術でぱぱっとできるものでもないですし」


 黄色い鳩だかあひるだかは動かなくなった。寝てしまったのか、急に重量が増す。

 段々と膨れているような。


「参政権を要求してくるようになったら?」


「それは、却下でしょう。国民として認めるか否か。それは、アル様が考えられることで」


 経済的な運営もさせられない。彼らは、人口を減らす事の意味がわかっていなかった。

 どうやって回復させればいいかもわからない低能大本営であったから、滅びる。

 戦後の大失敗の1つに、消費税が上げられないのは不思議であった。


 戦争をしている訳でもないのに、戦争する以上に人口を減らすのだ。

 歴史に名前を残すというのならば、平成の経済敗戦と道徳崩壊と。


「連中が、物価を破壊するようなら即、逮捕する。いいよな」


「ポーションですか」


「それもあります。アルストロメリア様が、涙ながらに訴えてこられましたよ。冒険者ギルドの薬草クエストが成り立たなくなってしまいます。わかっておられますか。薬草の価格とポーションは連動しているのです。不当な価格で廉売されたのでは、錬金術師はそろって首を吊らねばなりませんよ」


 がっくりきた。しかし、


「何でも、例外を作ってちゃあ駄目ってこった。お咎めは、無しでも今後はギルドに入って貰うなりなんなりは、よ。必要な事なんだぜ」


 紫色の髪をした幼女の事を思い浮かべる。勝ち気な子だった。納得するだろうか。

 しない気がする。どうしたものだろう。

 ネロが、手を叩いて乾いた音がする。眠そうな目をしていた。だるかったのだろう。


 音と供に、幕の脇から入ってきたのは両手を金属製の板で覆われた幼女と黒いローブを羽織った2人組だ。見覚えのある顔に、にやついた笑みがある。ぶっ飛ばしたい。助走つけて、顔面を打ち抜きたい。


「おっす。どうした? しけた面してんじゃん。でもま、これでわかってくれたかよ」


「おい、やめろって。こいつ、いつ切れるのかわかんねーんだから。ほ、ほらごめんって。でも、理由もわかってくれたよな」


 いつもの2人組だ。ふん、っと相好を崩して調子に乗っている女がいる。

 ユークリウッドならば、月の裏側までぶっ飛ばすところだ。ユウタは、大人である。

 いや、いい年こいたおっさんであると自負している。我慢だ。

 

 ローブの前を閉じる。不意に、股間が元気になったからだ。

 

(こいつの差金かよ。滾ってきたな)


 黒幕を探す手間が省けていい。そして、元気がないのは茶色い髪を後ろで止めた盗賊娘だ。

 騎士になりたいと常に、吹聴している幼女である。背丈は、ユークリウッドの身体と変わらない。

 用意された椅子に座るエリアスとアルストロメリア。


「何処まで話したん」


「釘を刺しておいたところだ。ポーションの件を含めて、な」


 前髪をいじりつつ、にへらとした笑みを浮かべる。そして、うんうんと頷いた。


「1人は、皆のため。皆は1人のため。明日も錬金術師ギルドは安泰だぜ」


(こいつ・・・)

 ふふんと鼻を鳴らして言うのだ。


「勝ち誇って言うの、ほんとやめろ。俺の心臓が、きりきり痛むんだよ」


「はっはっは。確かに。なんとなく、出会った頃のエリアスを見ている気がするな。あれより、酷い、かもしれない」


 エリアスもフィナルも、変わった。特に、フィナルなどは変わりすぎて面貌まで違う。

 ぷにぷにした腕はどこに。腹回りの樽は、粉砕された?

 生暖かい感触がする。見えないが、異臭がローブの隙間から登ってきた。

 ローブのしたは、下履きしかない。そして、出てくる黄色い鳥。

 

 一目散といった体で、扉をこじ開けて出ていった。


(あ、あの鳥。とんでもねーことしやがったああああ)


 触れないが、濡れているのは確定的だ。


「で、シルバーナは何したんで? 膠着した前線で遊んでたみてーだけど」


「誰が! 遊んでただ! エンシェントゴーレムがあれば、あたしだってやれた!」


「あーはい。そういうの良いから。財力も力なんだよねー。これだから盗賊ギルドは貧乏神っていわれんだよ。ぷーくすくす」


 白い顔の幼女は、見る間に顔を真っ赤にさせた。襲いかからんばかりだ。


「そこまでにしましょう。シグルス様」


 ネロに促されて、シグルスが顎を下げる。


「シルバーナ。貴方、貧民街の女衒ケロンはご存知ですか」


 ユウタの中では、死刑である。蛙が人になったのか人のまま蛙なのかというイメージがついていた。

 

「ああ。奴が、何かありましたのでございましょう、ね」


 下を俯く少女は、唇を噛み締めている。口からは血が出ていた。


「少女を食い物にして売っている。認識はありましたか?」


「いえ」


「では、彼がしていた仕事について中身までは知らなかったと?」


 そこだ。


「食い詰めて食えなくなった子は、娼館の下働きをするってことくらいで」


「下働きとは?」


「掃除とか洗濯だとおもいます」


 本当に知らなかったのだろうか。ユウタは知っているし、ロシナも知っているはず。

 ネロは、目だけを見せている。耳を塞いでいるのが、1人。


「ひょっとして、娼館とは何をするところとか知らなかったり」


「知ってるさ。女を買うところだろ」


「買ってどうするのですか」


「ええと、それは・・・」


 ユウタは、そっと椅子に座ったままの姿勢で出入り口へと移動すればメイドに阻止された。

 幕の方へと向かえば、裾から出られる。出て、ほっと一息をつくと。


「お互い、くっせーおぼーーーー」


 渾身のパンチ。ロシナは、言葉の途中で、壁を突き破って外へと出ていった。

 中では、シグルスの性教育が始まってそうだ。怒りもパンチでスッキリ。

 見れば、ローブの下に黄色い固形物。洗濯に帰ることにした。

 

挿絵(By みてみん)


Rojeny様作品

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