416話 楽がしたい+鎧の戦士
青い空。どこまでも広がっている。
縁側へ寄れば、町並みも見えるだろう。天にある城に攻め込む敵もいない。
平和だ。
「殿下、聞いておられますか」
アルルは、阿呆になって聞いていないといけない。
「うんうん。聞いているのだ」
「大衆とは愚かなもの。絶対に、日本人の言う新聞社なるものをお認めにならないように願いますぞ」
どうして、新聞社の話が出てきたのかわからないがどうも革命がどーたらこーたらと長い。
パンが買えないとかいうのは、王族のせい。わかる。
不安なのは、パンが買えないせい。わかる。
「彼奴らめ、神殺しを企むだけではなく各地の貴族とも揉め事を起こしているようなのですじゃ」
「そうなのか? 山田は大人しいぞ」
「かの者、見た目とは裏腹に誠意ある者ですの。ですが、貴族にするまではいきませぬ」
むしろ、奴隷のように働く男である。日本では、不遇に過ごしていたようだ。
「貴族にしろと、奴が言ってきたなら考えて欲しいのだ」
「そこは、騎士爵止まりで」
建築に明るいのは、少ない。専ら教師が不足していた。人口も不足しているが・・・。
ユークリウッドは、奴隷が嫌い。だが、アルカディアは人がいない。
全部、戦争のせいだ。アルカディアの王族であるシャルルは大人しくしているようだが、油断ならない。
「絶対に反対、というのも困るのだ」
人材が、他所の国に流れるのも困る。アルルは、頭がないと言われているので任せる。
アルーシュとアルトリウスは、何でも自分が取り仕切らないと気が済まない。
外を見れば、飛び回る翼人が見える。翼がせわしなく動いていた。配達のようだ。
胸の大きな雌にであって、動きが止まる。股間が膨れていた。やりたい雄は、空中でもやりそう。
(にゅー。胸、ないのだ・・・)
寝っ転がりたくなった。
家臣たちが、専ら政務を取り仕切っている。アルルは、楽がしたい。
アルーシュのように、苦労するのは嫌だからだ。
だから、今日も何もわかっていない振りをする。
馬鹿をやっていると気が楽になる。
「日本人で勇者を名乗る一味を捕らえたのですが、いかがいたしましょう」
ちょびヒゲを生やした男が、目を細めて言う。どーでもいい話だ。
ちょっと考えた素振りで、
「死刑なのだ!」
と言う。勇者とは、誰かから力をもらってふんぞり返る者ではない。勇気を示す者だ。
「では、そのように」
すると、隣に立っていた女が、
「お待ちください。簡単に死刑にしてよろしいのですか」
「というと、何かあるのだ?」
アルルは、万能でないことを知っている。背中の羽があるせいで、もたれかかれない。
会議は、苦痛だった。報告会議なのか、審議会議なのか知れないがアルルの出席が必要だという。
遊んでいたい年頃なのに、酷い。シグルスは、腰を低くする。
「ユークリウッド様が後から知れば、腹を立てるのではないでしょうか」
「む、むむ」
どういう訳か、ユークリウッドは日本人を優遇する。アルーシュは、何か知っているようだがアルルはさっぱりだ。ともあれ、即死刑は早まった罰かもしれない。そこで、考えるのが面倒になってきた。
「シグルスは、どうしたら良いと思う」
「でしたら、一旦は牢に入れておき、彼と交渉しましょう。アルーシュ様でもよろしいですが、何分、戦費に困っていますから」
「それは、名案なのだ! そうしよう」
アルーシュが、ユークリウッドから戦費を調達しているのを知っている。
そろそろ限界なのではないか。なので、ちょーっと無理だとアルルは思っている。
なにせ、セリアが方方で破壊した器材の修理だとか怪我人の治療費もあるのだ。
無理なのだった。
「アル様。戦費ついでに、ヘルトムーア城は放っておいてよろしいので? 敵軍のエンシェントゴーレムは6体になるとか。軍勢も10万規模とのこと。失礼ながら、4人では対抗しようもないように思えます」
「んー、なんとかなるのだ」
ちょび髭の横にいるでこ助が、生意気な事を言う。
「確かに、普通の騎士なら無理なのだ。卿の言う事ももっとなのだが、ユークリウッドがその気になれば数は関係ないのだ」
「はあ。まだ、子供、にしかみえませぬ。それに、女子が3人。獣人ではありませぬか。これで、いったいどうやって撃退しようというのでしょう」
理解し難いというのだろう。実際に、コーボルト王国での戦い辺りを見ていないと信じられないのも無理はない。走る鉄の箱は、アルカディア王国でも珍しくないが戦うとなれば別だ。生身で、砲手が持つ騎乗スキルの乗った戦車は戦略兵器と言ってもいい。
それを知るからだろう。巨大な水晶玉より映し出された光景は、敵兵の威容を見せつける。
「赤、青、緑。しかも、二対に槍と弓、剣に盾です。エンシェントゴーレムでも年代物ですぞ」
「そうだな」
予算の会議も、そちらに話題が取られている。セリアがいると一方的な展開になるので、見向きをされなくなるのだが、ヘルトムーアでは偶々といっていいくらいの出番である。全面に押し出されたゴーレムたちで、魔術を防ぎながら倒そうというのか。
ただ、一時はセリアを退けられても昼夜の別なく襲いかかってくる彼女は難敵だ。
アルルであっても、彼女は敵にしたくない。ユークリウッドは色んな意味で手放せない。
余人は、わからないであろう。つらつらと説明してやるのは、面倒なのだ。なので、秘密を喋ったりもできなかった。
「火線を得意とするようですが、あれば氷壁か防壁で防げるのでは? 火線だけで、敵軍を退けるなど信じられませぬ」
ちょび髭と壺目よりも下流で男がぼそぼそと声を出している。アルルは、寛大だ。故に、聞こえなかったふりをする。アルーシュであれば、顔面ボゴォ案件なのだ。
「アル様、羽を広げられては。私が、何か至らなかったでしょうか」
シグルスの黒毛が引っかかって、滝のような流れで落ちていく。艷やかな黒髪だ。
手に取って、口にする。あまり、美味しくはない。
「ぺっくしょい」
「何やっているのですか」
「うむ」
「うむじゃ、わかりませんよ」
援軍は、未だに行ける状態ではない。しかも、画面を変えれば前線で膠着状態になっている
「ビトリア、落ちてないな?」
都市アンダイエよりもヘルトムーア王城に近い場所だ。
「は。まだ、そのような報告はありません」
「前線は、ぜんぜん押し込めていないのだ。どうなっているのだ」
どうなっているもこうなっているも、本国兵が動かせないせいだ。アルカディアの兵たちは、シャルルが上手く動かさなければいけないのにちぃっとも動かない。おかげで、傭兵などを使っているが芳しくない。地方の兵はやる気があっても馴れ合いなのか、収穫期には戦いたがらない。
そして、冬がくる。その前に、スキル祭だとか聖夜だとかあるが、ヘルトムーア王国を支配下に納めておきたい理由がある。なのに、配下が動かない。金か。金なのだろう。
「汗顔の至りでございます。されど、西よりからは船での大軍を送り込みまして」
映ったのは、海賊と化しているような一場面であった。
「これは、なんだ?」
「は? こ、これは」
大臣たちも目を開けて凝視している。海軍は、何時から海賊になったのか。
少なくとも、アルルは海賊が嫌いだ。空賊も嫌いだし、見かけたら火炙りが上等である。
「綱紀粛正が、必要なようです」
「そうなのだ。さっさとやりにいくのだ」
「殿下は、会議では?」
「お前が、飛べないだろうし。私が行くしかないのだ」
こうして、アルルが輝く翼を使う時には大臣以下もほっとする。
裸で、石責めを受けるものが度々でるからであった。
◆
石壁の上は、山脈が見える。かつて、広大な田園が広がっていたという。
今や、荒野に変わり果てて蠢いているのは死体か魔物であった。
(こりゃ、まいったなー)
目の前には、金属の巨大なロボット。手にした武器は、当たれば必殺だろう。
エンシェントゴーレムたちは、どのような能力なのか知れない。勢いで、倒せればいいが。
王族から監督を受けている訳ではない。退却も、検討すべきである。
(帰るか・・・どうしよう)
逃げ帰るのも選択肢だ。わかっている。
ユウタは、無謀な戦いをこのまない。対抗して、鎧になれるが巨大になれば操縦できないという欠点があった。竜になると、理性が吹っ飛ぶ。
「あのー、敵さん、いっぱいですね」
「ですね」
「どうやって、切り抜けるんですか」
チィチとモニカにグラシアは真剣な眼差しだ。様子を見に来て、遠目にも見えるロボットに心穏やかではないのだろう。ちなみに、エリアスとアルストロメリアは用事を思い出した。転移門で、同じようにゴーレムを出したいのかもしれないが。
(近づいてくる気配が、3)
隠しているようだが、階段からではなく壁を登ってくるようである。
頭が出たところを叩くべきか。
敵は、学習したのか斥候で位置を特定しようとしている。
(3人は、俺のスキルで見えないはずだが・・・)
同じ看破レベルなら? 或いは、スキルの熟練度が同じなら? 見えるし、分かるのかもしれない。
上がってきた瞬間を斬るか。2つ残って、1つが上がってくる。
特定したのかもしれない。上がってきた影を雷が貫く。
「びぎいい」
奇怪な声とともに、煙が上がった。隠密スキルを再度使用しながら、場所を移動する。
黒い布のようだ。白い煙が、布のような何かから上がっていく。眺めながら、
「敵、ですか」
ひそひそと声を上げながら、足元を見る。影。影から影へ移っていく術は、使用されていないようだ。
足元対策もバッチリ。だが、壁には影が出来ていた。移っていないとも限らない。
何故か気になった。黒いから? 違う。当たりが、薄かったから? そうとも言える。
(人間にしちゃ、図体が小さすぎる)
まるで、小人のようだ。しばらくして、影から動いた。いや、人だ。伸びる黒い物体を受け流しながら、
(雷光剣)
青白い光が、人影ならぬ黒い人を貫く。
「ぐ、ぐうう。ここですじゃ!!!」
策なのだろう。転移門を開いて、3人を突っ込ませる。ついで、眩い光。
門から出れば、男女が倒れていた。赤い鎧の戦士に見える。
女は、白いローブ姿だ。巫女か。魔女か。杖を持ったまま驚愕の表情を貼り付けていた。
(勿体無い。美人なのに)
しかし、連れの3人は気にしていないようだ。そして、居た場所には粉砕するような爆音。
壁に槍が刺さっている。
間一髪だ。そして、撃退するにはいくつかある。火線で焼く。通用しなかったら、即死する。
3人には、帰ってもらう方がいい。
「鎧になるんだけど・・・入ってみる?」
「え? いいんですか? もちろん、入りまーす」
即答だ。グラシアは、飛び上がる。そんな澄まし顔の子だったか。鎧化を使うと、中身は空っぽらしい。
3人入れるのか微妙なところだ。大きくなるには、どうだったか。1人、入ったような感覚がする。
(聞こえる?)
「ええっと、頭にびんびん来ます」
!?っとなった。チィチが入っているのか。入るなとは言わなかったので、3人とも入っているような。
ユウタには、中身がわからない。スマホでもあれば中身を写してくれるのだろう。
スマホが欲しい。異世界人であるところの日本人たちか没収したスマホが有ったはず。
今更ながらステータスカードの機能が似てきているのを思い出した。
「3人は、狭い、気がしますね。棒みたいなのがあります。なんでしょう、これ」
(座席とかあるのかな?)
「はい。座っても、あ、チィチさんずるい」
「すごい、す、すご、これ、あああああああ」
「チィチさんの目が光ってます。これは、ユークリウッド様の権能なのでしょうか」
わからないが、大変な事になっているようだ。アルーシュはなんなく動かせたのに、壁の向こうにいた敵が門を崩しながら飛び込んできた。待っては、くれないようだ。




