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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
二章 入れ替わった男
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415話 奴隷が増える(エリストール、モニカ、グラシア、シャクティア、ティリア、馬人

 石は、青い光りで彩られている。

 壺に尽きかけていた魔力が戻って、口からは瀑布となった水が弧を描いていた。

 横から見ていると、どでかい壺から水が飛び出しているという景観だ。


(うー、疲れた。これやると、しんどいわ)


 まるで、自家発電をした後のよう。対面には、流れ落ちる水を鑑賞するで賑わっている。

 向かって右は壁で、左手は上から水の幕が降りてきた。そちらは、手すりがあるもののひやっとする。

 その真下は、見えないくらいに深く高く見えた。

 落ちれば、即死待ったなしであろう。水の飛沫で全貌は、見えない。


「この神具は、どのような仕組みなのでしょう」


「うーん。僕にも説明がしようのない不思議な道具としかいいようがないよ」


「ユークリウッド様は、その、神族ではないのですよね」


 捨て子らしい。ユークリウッドの本当の父親と母親は、別にいるようであるが知れない。

 神族である可能性は、ないに等しいだろう。


「はい。普通の子供ですよ。そこらへんで歩いている、ね」


 神族は、不死身だとか無敵だとか言われている。ユウタは、怪我もするし疲労だってする。

 直前の事に疲れているので、よろけて落ちたって不思議ではない。


 が、ユークリウッドの身体は頑健なのかよろめく事がない。

 強力な術を使っても、足を絡ませて転倒するという事もなかった。

 緑色の外套から手を出して、飛沫から身を守っている少女は背後に移動する。


「ここでの仕事は、終わりですか」


「ええ。ヘルトムーアへ行く前に、ラトスクへ行きます」


 転移門は、元の道すがらで騎士に断りを入れてから使った。

 事務所は、テーブルに突っ伏している女と酔っぱらいとメイド服を来た赤毛の女の子が2人いた。

 殺気を隠そうともしていないのは、赤毛の子たちである。


 首には、太くて文字の入った首輪が付けられてあった。


「奴隷、ですか?」


 顔を赤くして、次に突っ伏す女の子は奴隷魔術がかけられているようだ。


「みたいだけど、どこかで会ったっけ」


 すっかりボケが来てしまったかのような頭の巡りだ。ここで、イチョウ葉エキス入りのサプリでもあれば記憶が復活するのかもしれないが・・・。残念ながら、そんなサプリは売っていない。開発もされていないのだろう。

 アルストロメリアの家が作っているかもしれないが、ポーションの値下げ騒動から顔を合わせづらい。


「おいおい、こいつ頭がおかしくなったんじゃね」


「ユーウが、甘いからってんなこと言ってると真っ裸でランニングさせられるぞ」


「したことあるんかい!」


「おうよ! あんときは、辛かったわー。さみーし、痛いし、股間は葉っぱだしで刺さるし。おっす」


 エリアスが前ぶれもなく現れた。黒いとんがり帽子に、白いシャツ。謎のエプロンというコーデだ。

 肌寒いのか黒い外套を肩にかけている。


(めんどくさいなあ。何か、今日はあったっけ)


 会議のある日でもない。王国に仕える騎士として、戦争に参戦しろと言われている。


「忙しいんですけれど、この子知ってる?」


 指で指したのは、赤い髪を逆立てている女の子たちだ。片方は、短い髪で背丈はユークリウッドを遥かに上回る。燃える鳥を操っていた。今は、白い服に首輪という格好である。もう片方は、後ろで結った髪を下げてアルーシュ並に絶壁といった胸にちょこんとつけられたかのような三角の布を乳首あたりにつけた破廉恥幼女だ。

 全身鎧を脱げば、さしてエリアスやユウタと変わらない年齢なのだろう。


「あー。そいつらね。お前が捕まえてきたんだろ。身代金を請求するとかしてやれよ。美人だからってレイプすんなよ」


「誰が、するって?」


 由緒正しき童貞に向かって、唾を吐きかけた幼女に手加減しない攻撃をしたい。

 もちろん出来ないので、拳を震わせるだけだ。わかってもらいたいものである。


「お前だよ。お、ま、え」


「まー、まー。あんまテンション上げんなって、嫉妬は見苦しいぜ」


「んだと、このやろーやんのかこのやろー」


 掴み合いを始めた。なぜか幼女同士で、外へと向かっていく。「久々に切れちまったぜ」「あ?」どこのチンピラなのだろうか。彼女たちは、いやしくも貴族の子弟なのだが。呆れたようなぽかんとした視線で、獣人の娘たちが見送る。


 首輪の少女たちが、ユウタへと向かって歩もうとした時だ。


「おすわり!」


 甲高い声がする。誰であろう、ロメルだ。獣耳をぴんと張りながら、白いカッターシャツに黒いストレートズボンというシンプルなスタイル。ややベルトが熊の頭で自己主張をしている。長い茶毛は、癖っ毛なのか左右に分けれているものの跳ねていた。


「このように、彼女たちには奴隷魔術がかけられてあります。どなたでもご利用は可能ですが、まだ処女です。ご利用になられますか?」


「まさか」


「では、奴隷として売り払うということでよろしかったでしょうか。指示をお願いします」


 普通の男なら、尻を並べて突っ込むことを懸想するのであろう。何しろ、奴隷だ。

 どのように扱おうとも自由なのである。奴隷を無くすとは、簡単ではない。

 ウォルフガルド内であればラトスクではなくても、近隣の村では開かれるという事態になっていた。


(奴隷、身体以外になんもねーっていうのじゃねーのなら・・・? いや、きっと練って殺しにくる)


 いくら呑気なユウタでも、寝込みを襲われるかも知れないという可能性は排除しておきたい。

 何者にもなっていないのだ。また労働中毒者のようになっていたとしても、女に刺殺されてしまいましたなんて間抜けもいいところである。


 ひとしきり考える間に、獣人娘たちは適当な飲み物を黒毛の耳を立てた狼女へ頼んでいた。  


「うーん」


「首輪がしてある限り、ユークリウッド様には手を出せません。また魔術、スキルも使用できません。ご心配でしたら、入れ墨による抑制も追加できます」


 そこまでは、したくない。全身が、奇怪な文様だらけになったら嫁の貰い手もいなくなりそうだ。

 そうなってから、責任取れとか後々になって言われたのでは逃げようがなくなる。

 ちらりと、2人を見れば片方は澄まし顔で片方は眼尻を釣り上げて今にも噛みつかんばかりであった。

 

「うーん。例えば、僕がこの子たちを売りに出すとどうなるの」


 例えば、である。すると、唇を噛み締める年かさな子。


「例えば、ですか。奴隷市に競りをかければ、きっと高値で売れるでしょう。彼女たちの持つ能力は、非常に戦闘向きです。護衛に、性奴隷に、教育熱心な紳士が買い取ってくれるものと思われます。また、ヘルトムーア王国が買い戻しにくることも予想されるので二重三重の儲けが予想できますね。それとは別に、擦り切れるまで売春宿・・・」


「なるほど」


 最後で、もう眼尻を釣り上げている方は唇から血を流している有様だった。ユウタは、ユークリウッドのような善人ではない。むしろ、鬼畜になってもいいかなとか思いだしている。人とは変わっていくものだから、なるようになるとしか言えないものの。


 ぶっす~とした桃色髪の女が、顔をぐいぐいと近づけてくるや。


「ちょっとは、可愛そうだと思わないのか? ユークリウッド。戦いに負けた上に、性奴隷にするとか。そこらへんの外道にも勝るとも劣らない鬼畜の所業であろう。心に恥じ入るところがあるのなら、止めておけ。後から後悔しても遅いぞ」


「確かに。じゃあ、売るのは止めておくかなー。危なくなったら、エリストールがなんとかしてくれるんだよね」


「わたしだけでは、心許ないがティアンナ様もお忙しいし。毎日、ミッドガルドへ行くのは大変なのだからな。火は、相克だし」


「そういえば、この子ら誰だっけ」


 糸が切れた吊り人形のように崩れ落ちてしまう。2人とも引っくり返ってしまった。

 口からは、泡を吹いている。回復の術が飛ぶ。


「こ、言葉で殺すとは恐ろしい方だね」


「こういう奴だから、あまりオススメできないぞ」


 失礼な話だ。勝手に倒れて、人が尋ねているのに続けられなくなった。


「ヒトリちゃんにボーボーちゃん、でいいか」


「いくら何でも、それはひどいですよ」


 牛娘が、手ぬぐいを濡らして頭に乗せている。胸は、動いているので生きているはずだ。

 ボーボーの股間は、絆創膏のような何かである。裸と何処が違うのか気になった。

 モニカもまた普段から水着のような装備だが、この場では上に白地に黒い点を斑にした外套をしている。


「その心は?」


「ヒトリは、火の鳥を飛ばしてくるんだよね。ちなみに火炎放射スキルも持っているみたいだね。強敵だよ。ティアンナは、余裕っぽかったけど近づいていたら焼き殺されてたかもね」


 火にあぶられたらこんがりした真っ黒い肉になっていたことだろう。戦いなのだ。その結果が、良かったから生きているようなもので明日には死んでいるかもしれない因業な稼業である。騎士とは、いったいなんなのだろう。


 少なくとも、馬に乗って威張り散らしているのなら良かったのにと思わずにいられない。


「ユークリウッド様。少なくとも、この2人の名前はヒトリとかボーボーではありませんよ。初対面から、殺し合う関係だったとしてもです。性奴隷としてお使いになられるか或いは戦闘奴隷としてお使いになられるのかわかりませんものの、彼女たちとの関係改善を図るべきかと。ことは、ヘルトムーアをどうするか、という事に関わってくるものと愚行いたします」


 ロメルは、熊系にもかかわらず明晰な頭をしている。ユウタは、なんにも考えていなかった。

 という事は、やはり貴族か王族で間違いないようだ。確認もしているのだろう。


「正確な身分って、なんだったの」


 鑑定でもすれば一発なのだが、勝手にしては不味いという常識が邪魔していた。


「王族ですよ。ヘルトムーア王5番目と8番目女の子で、火神から加護を賜っているようです。火の術で、王国に仇なす敵を排除してきたみたいですね。15歳と11歳。年上もいいと思います、うわっ」


 ロメルにエリストールが、顔を近づけている。息がかかりそうな間合いだ。

 そんな彼女をどかしながら、


「シャクティア様とティリア様です。奴隷に、鑑定をかけてもよろしいのですよ。遠慮は、必要ありません」

「そうなんだねえ。とりあえず、任せてもいいかな」


「お使いになられるということですね」


 そこに、戻ってきたエリアスとアルストロメリアが顔をしかめて、


「奴隷って、なんだよ」


 獣人の娘たちは、めいめいにご飯のようだ。エリストールは、馬人の女と酒を飲んでいる。


「うーん。奴隷ですが?」


「ふーん。奴隷ねえ。どいつだよ」


 指を向けた先に、壁に身体を預けた女の子が2人。


「ふーん。こいつら、王族じゃん。勝手に、奴隷にしたら国際問題になるっつーの。アル様に」


 腰鞄から石版じみたステータスカードを取り出し、


「もしもし、エリアスです。はい。はい。申し訳ございません!!! え? ちょ、そりゃないですよー。その、ほら、ぜ、全力を尽くしますんで!」


 いつもの調子だ。


「あーこりゃ、折込済みだったんだな」


 椅子に座る。隣に、アルストロメリアが座った。当然のような動きだ。

 柑橘系の匂いがした。香水でも付けているのか。子供なのに、とんでもない女だ。


「何が?」


「何がって・・・そりゃあ、おめー。ふつーは、膜付きの王族で戦闘スキル持ちだったらよー。そりゃあもう、桁違いの身代金が取れるだろうよ。アル様だって、ここんところの戦さ続きで金欠になってる見てーだし? 俺んところにも無心に着てねーってことは、だ。何か宛てがあってなんだろーけど」


 そこで、隣からの手をはっしと掴む。両手を掴んだところで、むにっとした感触が肩に当たった。


「ほっ?」


「うりうり~」


 うりうり~ではない。隣の女は、体重をかけてくる。酒くさい息で、鼻がつんとした。


「おい。メリア!!!! 助けろ!」


「ん? 振りほどけばいいじゃん。ゆーあーぴーんち?」


 冗談ではなかった。馬女は、意外なまでに怪力である。足元からは、長い足が伸びてきて足で挟み込む。

 

「い、いっ痛っておほおおお」 


 引き抜こうとしているようだが、抜かせない。痴女が2人になってしまった。


「さ、おねーさんと良い事しよう?」


「この、アホー!」


 叫び声からするに、エリアスの声。顔面を避けたところアルストロメリアを押しつぶすような格好で倒れてきた。危うく接吻する姿勢だ。更に、姿勢が悪くなったのか。


「なんか、頭にへんな感触が・・・」 


「お前ら、ここでやることじゃねーよ」


「僕は、被害者だと思う」


「やはり、鬼畜か」「ちょっと、助けて」「ねーわ」


 休憩のつもりだったのだ。頭が、大事なところで動いている。

 そして、奴隷が増えていく。

挿絵(By みてみん)


Rojeny様作品

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