表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヘタレの異世界無双   作者: garaha
二章 入れ替わった男
592/711

407話 蝦蟇装備

 取っ手を下に下げて、押してみる。動かない。

 引いてみる。すると、向こう側が見えた。明るい。苔が光っているし、光る石まで嵌めてあった。

 床は、石の畳だ。


 その先に、階段がある。登って、扉があった。上だ。なので2Fというべきだろうか。

 

 扉を閉めると、開かない。戻れないようだ。


(うーん、人がいない?)


 思っていたのと違い、通路には人の姿が少なかった。

 監視している人間もいない。暇ではないのだろう。

 出入り口なので、気にしている人が居てもおかしくないのだが。


(アルーシュたちは、いないか)


 よく探してみれば、いるかもしれない。

 通路を真っ直ぐ進む。

 1Fと変哲ない石造りの噴水だ。水を汲む桶が置いてある。飲水も兼ねているのかもしれない。


 左に通路が見える。左にも噴水がある。

 水が何処からきているのかわからない。

 女の子たちの姿が見える。通り過ぎると、右手に猫姿が見えた。


 2本の足で立っているようだ。ユウタとさして背丈が変わらない。

 2本の足で立っている猫。獣人なのだろうか。白と黒だ。

 名前は、きっとシロクロとかそんなものに違いない。


 便所は、あるだろうか。商人の横に灰色の箱がある。

 中身は、紙が入っている。紙で買い物をするのだろう。


(仲間とか、ゲットできないよねえ)


 果たして、ずっとクリアしていけるのか。

 コモンのレアリティーで。スキルは、ないので傷を受けたら治せない。

 すると、ちょっとした怪我で死ぬのではないだろうか。


(死んだらどうなるんだ?)


 仮に死ねば、ユウタは高校生たちのように泉で復活できるのか。

 興味はあるものの試しに、死んでみようとは思わない。


「ちょい、おみゃー」


 商品と思われる台の後ろで猫が、手招きしている。肉球のついた手を上下にしていた。

 茶色い手だ。薄い茶毛である。


「みゃー、おみゃーだにゃ。ほれ、そこの金髪ボーイにゃ」


 近寄っていくと、


「ヘイボーイにゃ、ユークリウドであってるにゃ?」


「そうですけど、ウドって」


「ウッドにゃねえ、こわーい木のお姫様から伝言を預かってるにゃ」


 羊皮紙がテーブルに広げられた。書きなぐりで、「早く追いかけてこい」とある。

 待っていようとは、欠片も思わないのが彼女らしい。

 待っていられても、困るところだが。


「それで、その人たちは?」


「もう居ないにゃ。3時間は、遅れてるにゃっていう感じにゃ」


 だから、どうしたというのだろう。追いついたところで、パーティーの変更などできやしないだろうに。

 如何にもスポーツマンといった男の姿はない。

 

(まあ、会ったって何も話すことなんてないんだけどなー)


 ともかく、1人でも突破できるのだ。

 コモンだとかレアだとか、レアリティーを気にしてもしょうがないのではないか。

 それとも、高校生たちは違うのか。強力な魔物が出て来るのかもしれない。

 

 次の扉の前には、年若い人が屯している。待ち合わせといった風だ。


(進んでみよう)


 最早、待っても意味が無い事を悟った。

 小学生の相手など、誰もしてくれない。パーティーが必要ないのなら、進むべきだろう。

 とりもなおさず、上がってきた扉とは逆の扉に入る。

 石畳が続いていた。灯りもある。 


(1Fと同じ作りかねえ)


 歩いていくに、4つ角に行き当たった。

 罠は、ないようだが先に進めばあるかもしれない。

 床を叩くのも良し悪しで、魔物を呼び寄せるのだ。


 手持ちには、折れた剣。長方形の盾。腰に、長剣。貨幣の詰まった袋。水筒などだ。


(人と行き合わないっていうのは、不思議だよなあ)


 ユウタが経験した迷宮では、大抵が同じ場所で同じ時であった。

 人と会わないという事がなく、人こそが最も脅威となる。

 故に、遭わないならそれでいいのだ。


(思ったんだけど、猫がいるところで殺し合いにならんのかなあ)


 不思議と血の跡は、ない。であるならないのだろう。

 試練の迷宮は時が錯綜していそうである。中でなくとも、外で殺し合いそうなのが人間だ。

 レアリティーがあるなら、すぐさまにでも上下ができるだろうに。


(ま、ないか。外に出た時、戻った時を考えたらねえよな。魔物がすぐ入ったところにいれば楽なんだけどなあ)


 同じようにして、入ったとしてもそこにはいない。

 まるで、別次元にでも飛ばされたかのようだ。


(避妊もしないでぱこってたら、あっちゅうまにできるんじゃね? 他人事だけど)


 4つ角を右に曲がって進む。

 扉がある。開くべきか。扉には、回転してあけるような取っ手がついている。

 罠、という事もあるので慎重になるべきだろう。


 取っ手を回すと、重力が抜ける。落とされる。取っ手を持ったまま、扉に体当たりだ。

 間一髪で、転がりこむ。中には、紫色をした口があった。縦に折れた剣を振る。

 巨大な口が、ぱっくりと裂けた。胴体を薙ぐ。

 腕が左右から迫ってくる。


(糞がっ)


 剣を振るう方が早い。縦に、横に、蛙か何かか。腕が飛んで、向こう側へ倒れた。

 茶色だ。胴体は、薄い茶色をした蛙のような生き物だった。

 でかい上に、腕の皮が硬い。ぶっ叩くようにして振り下ろした剣でも、皮は裂けたようだ。

 

 切り落とした尻尾や手が部屋に散らばっている。部屋には、骨が散乱していた。

 人食いの爬虫類らしい。

 耳につんとくる叫び声だ。


「ぎゃぎゃぎぃいい」


 なんと言っているのかわからない。奇襲だったのだろう。顔面から液体が飛ぶ。

 予想通りの攻撃で、続く鉄片が連なったかのような尾を剣で押しとどめる。

 絡める動きだ。上体を浮かせながら、更に飛んだ。


 部屋の上部を蹴りながら、盾を下にして蹴り落とす。

 簡単な撒き餌だが、相手も待っていたのだろう。着地と同時に黒っぽい液体を撒き散らしながら、赤くなった爬虫類が倒れる。蜥蜴にしては大きすぎて、且つ蜥蜴にしては口が丸い。


 山椒魚を巨大にして人面を貼り付けたかのような形相をしていた。痙攣しているようだが、さしあたって復活する気配はない。


 4つ手蝦蟇を倒した。


 うっとおしいナレーションであるが、鑑定がない今のユウタにとっては天の声に思える。

 

 死体となった4つ手蝦蟇。

 剥ぎ取りが可能のようだ。『剥ぎ取り』のスキルを持っていると、勝手にインベントリへ消える。

 しかし、インベントリがない今となっては皮を切ってもその効果はない。

 皮の下に肉が蠢いている。


 内蔵は、毒液が詰まっているのだろう。水入れに、真っ黒な液体を掬う。

 触ったら、死ぬかもしれない。口元を布で覆いながら、死体を引きずっていく。

 死体だが、骨やら何やら使い道があるはずだ。

 

(毒の息でも吐き出しそうだからなあ)


 剣に、毒を塗るのもいいだろう。倒せそうもない敵であっても、毒で弱らせて倒すという手段は有りだ。

 来た道を戻る。4つ角に戻って、左に曲がる。右に曲がったのだから帰りは、左のはず。

 死体は、消えていない。部屋へちょっと戻っても、蝦蟇は復活していないようだ。

 死体を引きずっても、1分で戻れる距離であった。


 罠がないのだ。入り口まで引きずって、首を切り落として外へと投げ入れる。

 首だけ外へと出た。外には、牙だけが落ちていた。

 

 蝦蟇の牙x2を手に入れた。

 首を引っ込める。手には、何も持っていなかった。

 

(んだ、こりゃあ。意味が、わかんねえ)


 身体が持っていたはずの死体。消えているのだ。牙が2本。それでは、割りに合わない。

 だが、やる価値はあるだろう。

 1回目と2回目は、どう違うのか。


 中にいる魔物も違うのか。台の側で、様子を伺っている猫に話を投げる。


「この牙……」


「にゃ? 蝦蟇を倒したのにゃね」


 茶色と黒の猫だ。同じ猫なのではないのか。猫の違いがわからない。目だとか?

 毛皮で判断するべきなのだろう。ユウタと然程違いのない背丈だ。

 どう見ても、チャクロな気がする。


「何か作れる? とか」


「にゃ? ええと、牙と骨を持ってくれば剣が作れるにゃ。毒ダメージで倒せるようになるにゃ。でも、蝦蟇って、1人で倒せるようにはできていないのにゃ。ちみ…チャレンジャーなのにゃ」


「もう作れる?」


「10本あれば、短剣ができるにゃ。人間に使ったら駄目にゃよ」


 釘を刺されてしまった。人間に使う予定などない。とはいえ、襲ってくれば別である。

 

(金に変える方向は、なしかねえ)


 毒入れを預けて、水入れを購入した。

 折れた剣は、それなりの硬度のようだ。蝦蟇の皮膚は、硬い。表面は、ざらついていた。

 早速、戻ってみると蝦蟇はのんびりと待ち構えていた。

 逃げる素振りもない。傷は、そのまま。まるで、時を戻したかのようだ。

 

 蝦蟇の側まで歩いていき、腕が伸びてくるので切り落とす。

 飛びついてきたのを蹴り上げれば、天井に激突して地面へと落ちてくる。

 今度は、口を開けられないように剣を突き立てた。


 そのまま引きずっていく。動かなくなった蝦蟇の腹を裂く。酷い光景だ。

 蝦蟇から、牙をへし折って道を戻る。流れ作業だ。

 繰り返すこと6回。


 蝦蟇の歯が、1本だけの時があった。全ての蝦蟇に生えていないのは、不思議だ。


「揃ったよ」


「ちみ、蝦蟇倒しすぎにゃ。あれから10分経ってないにゃよ? 奥まで行ってないにしても、早すぎにゃ」


 ぽいっと投げ返されたのは、鞘のついた短剣であった。


 毒蝦蟇の短剣を手に入れた。


 腰の差込口に空きがあるので、そこへ入れる。


「鞘は、オマケにゃ。しっかし、ちみ疲れないのにゃ? 日本人も狂ってるけどにゃあ」


「やっぱり、戦いまくり?」


「そうにゃねえ。ちみみたいに早く戻ってこないけど、迷宮の中で過ごす子は多いみたいにゃ」


 猫は、鼻の頭を掻いた。情報料を請求されるのだろうか。なんとなく、気になって離れようと機を伺う。

 人の姿が少ないのは、皆して潜っているからだろう。

 食料だけ買いに戻ってくる感じかもしれない。


 周りを見ても、誰も話かけてこなかった。猫だけである。


「思うんだけど、この迷宮を出たらどこに出るの」


「そりは、秘密にゃ。ミッドガルドとかいっちったらやばいにゃ」


 猫は、素直に答えているような気がした。ひょっとすると、おバカな猫なのかもしれない。

 座高が、上がる。椅子に猫が座ったようだ。足は、短いようなので椅子が高い。


「僕が死んだら、どうなるのでしょうね」


「コモンだと、待機時間が長くなると思うにゃ。でも、ちみみたいな変なのはわからないにゃ。ほり、あっちに幽霊みたいなのがいるにゃ」


 見れば、男が倒れていてその上に人影のような靄が浮かんでいる。

 

「ありが、死にまくりのペナルティーにゃ。寝なくても不眠で死ぬにゃ。あと、餓死なんてのもあるにゃ。餓死は、お腹が減りまくってると死ぬのにゃ」


 身体に魂が戻れないという奴なのだろう。きっと、そうに違いない。であるなら、寝ている間に悪戯される危険がある。


「身体が、あのままで大丈夫なんですか?」


「強姦とかしたら、死刑にゃよ? あくまで同意にゃいと玉も棒もさくっとなっしんぐにゃ」


 日本人だけに注意されれば、やらないと思うのだが。同意してても、子供ができたらどうするのだろう。

 保育園の開設が、必要になる。だが、ユウタがそこまで面倒みなくてはいけないのだろうか。

 不意に、反骨心というか怒りが芽生えてくる。


(皆、楽しそうだ。なんで、俺だけが…)


 ぼっちには慣れっこである。だが、仲間が欲しいかと言われればノーであって我儘なのだ。

 

「あんまり死んでいると、経験値の差ができるにゃ。ということは、レベルに開きがでてくるからにゃ。パーティーが崩壊しちゃうにゃ。アイテムとかも、揉めるしにゃ」


「へー。それじゃ」


 逃げようとしたが、やっぱり情報料を取られた。

 蝦蟇祭りを開催するしかない。仲間は、零だ。


(とりあえず、毒蝦蟇剣、毒蝦蟇槍、毒蝦蟇弓とか作れるんかな?)


 ユウタは、装備を集めたくなった。


 


挿絵(By みてみん)


和のすけ様作品

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ