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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
二章 入れ替わった男
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405話 ぽちっとな

 突き立てた剣は、抜けない。

 力強く抜こうとすれば、折れてしまった。

 刺さっている半ばからなので、背丈くらいの長さである。


(持ち帰れば、武器に使えるか?)


 両手で持つ剣だ。ただし、切れ味などは保証できない。ぶっ叩いて使うといったほうがいい剣だった。

 折る事、10本。

 ゲームとは違って、破壊不能のオブジェクトとかいうものではなかった。


 運ぶのは、縦の上に乗せてだ。縛る紐もないので、落としそうになる。

 戻る通路には、魔物の姿はない。


(倒しても、復活しないのかね)


 倒して、復活するなら何度でもドロップが狙える。試す人間、パーティーはいるはずだ。

 インベントリが無いだけで、とてつもない不便さを感じている。

 まず、喉が乾く。水筒がない。時間がわからない。

 

(やべーな。こりゃあ、さっさと脱出すべきなんじゃ)


 クリアしてしまえばいい。確かにそうなのだ。

 だが、残された日本人の少年少女はどうなるのだろう。

 迷宮で彷徨うに違いない。出たら、ミッドガルドに出るのか。


 法律も知らなければ、外国にだって行った事のないように思える。

 正確には、外国での生活だとか。日本からでれば、それはもう異世界なのだ。

 曲がり角を曲がって、元来た道を戻る。


 魔物の姿はない。そして、向かってくる高校生の姿もない。

 壁は、硬そうだ。剣の先がこつこつと鳴る。

 魔物の死体、残骸は残っていなかった。


(つまり、消えるタイプか)


 魔物の死体も皮を剥ぐ事ができる。ただ、ユウタはインベントリに放り込んで酒場じみた台の上に乗せるだけだった。だから、まともに剥いだことなんてない。


(骨、骨ねえ)


 骨が、一本残っていた。

 しかし、使い道にこまる。剣の上に積み上げて、扉から出ると。

 人の姿がある。まるで、待ち構えていたかのようだ。


 顔には、好奇心や無表情が張り付いていた。


「小学生?」


 女が声を出す。腹を立ててもしょうがない。

 無言で、右に移動する。右には、扉の横に不思議な箱が置いてあった。

 入る前には、置いてなかったはずだ。知らない箱だが、見覚えがある。

 

 硝子のようなケースであった。

 叩けば、中身が取れるかもしれない。

 その横に、長い茶色をしたテーブルと猫が立っていた。


 猫人だ。顔面が、毛むくじゃらだった。


「にゃにゃ、売りに来たのかにゃ」


 誰に断って商売をしているのかしれないが、非常に興味が湧く。


「これ、売れるのかにゃ」


「にゃー、お客さん真似はやめるにゃ。折れた剣にゃあね。銅10枚にゃ、それで良ければ買い取るにゃよ」


 袋の中身を見る。金の板が大量に入っていた。一枚を手にとって見せる。

 

「お客さん、お金持ちにゃねー。それじゃ、剣を売る意味がないにゃ。銅10枚で銀1枚にゃ。金は銀10枚にゃ。パンなら銅1枚にゃ。防具とかいるにゃ?」


 防具は、間に合っている。


「間に合ってるかな。それより、ここは何の迷宮なの」


 灯りがついている。水の出る噴水があって、瘴気はないように思えた。

 猫は、羽織っている袖から手を出すと、毛で覆われた手をこすり合わせる。


「情報料っていいたいけど、生贄にしようとした道化師の迷宮にゃ。それを防ごうとした女神さまがわっちを遣わせたにゃ。みーたちは、救助役にゃ。このままだと、時間の狭間で永遠に彷徨う事になるにゃ」


「道化師とはなんなの。永遠に彷徨うとは?」


 制限時間があるのか。


「にゃ、ゆーは、この子達のなんなのにゃ」


「別段関わり合いない人たちだけれど」


「なら、さっさと突破した方がいいにゃよ。悪魔の拉致を妨害したけど、完全には修正できなかったにゃ。もって、一ヵ月にゃ」


 聞き耳を立てているようだ。


「その、なんとか全員を元の世界にもどす事はできないの」


「無理にゃ。そもそもにゃあ。管理している世界の神さまが引きこもってて何もしてないせいにゃ。あちしは、商人のチャクロにゃ。ここでお助け猫するようにお告げを受けたにゃ。悪い気もしなかったし、手伝う事にしたにゃ。あんまし、脱出している人はすくにゃいけど皆勝手に脱出してるにゃ」


 戻せないらしい。管理している神がいるようだ。見たことといえば、金髪ロリ死に損ないくらいである。

 あとは、皺くちゃのお婆さん。神とか言われても、実感がわかないのだ。

 扉の向こうへと正面で出くわした子たちが入っていく。

 

(さて、どうするか)


「剣は、置いておくとかできるかな」


「あちしが、台の上に置いておくか壁に立てかけておけば消えないにゃ。あんまし持って来られても、受け取れないにゃ。おっとお客さんにゃ?」


 男子学生が立っていた。2人組だ。武器は、何も持っていない様子。


「それ、使わないんならもらっていい?」


「どうぞどうぞ」


 両手で持つ剣を受け取る。すると、青い顔をした。地面に剣が落ちそうだ。


「お、重てえ」


「にゃ、ちみたちにはこっちがおすすめにゃ」


 といって、差し出されたのは木の棒である。


「それは、もう持っている。けど、くそ重くて無理だこれ」


「まじかー。いい武器だと思ったんだけどな」


 猫は、腕組みをして目を瞬かせた。


「ちみ、見かけに寄らず腕力あるのにゃ。とてもコモンとは思えないにゃ」


「悪かったね。でも、どうするかな」


 武器を与えても、筋力値が足りないと持てないのか。持てる数値が必要なのか。

 わからないが、パンを購入するべく金貨を出す。


「まいどにゃ。ちみ、クリアしたければ、パーティを組んだ方がいいにゃよ」


 釣り銭を受取りながら、パンにかじりついた。硬い。水を浸さないといけないだろう。


「んー、考えとくよ」


 迷宮を進まずに安穏として、迷宮に留まるというのも方策だろう。

 だが、猫商人チャクロとの会話から考えるに時間はそれほどなさそうである。

 己の身体を見るに、具足と鎧。金属の防具を装備しているといっても、小学生くらいに見える。


 机の横に、木箱があって猫商人がいた。色が違う。白黒斑だ。 

 

(パーティーか。うーん)


 隅っこの木箱に背を持たれると、ふと気になった事を猫商人に尋ねる。


「トイレは、どこ?」


「トイレ? 厠かにゃあ。そんなものはないにゃ」


 返事が返ってきた。同じ語尾だった。猫人というのは、全員語尾が、にゃっとなっているのだろうか。

 手の毛を舐めている。

 

「トイレ、ないの」


「ないにゃ」


 それは、困る。ユウタだって立っしょんはしなくなっているのだ。迷宮では、転移門で戻れた。

 しかし、スキルがないと戻れない。小便は、非常に重要な問題だろう。


「風呂場は?」


「そんなもんないにゃ。情報料を寄越すにゃ」


 商売猫だった。ただでは、話したくないらしい。釣り銭から銅貨を1枚、抜き取って渡す。

 

「まいどにゃ。まあ、ただでも良いんだけどにゃ。儲からないし、なんだって店長は出店してるのかわからにゃいけどにゃ。風呂場がほしけりゃ、そこで買うといいにゃ。皆でお金を入れる方式にゃ」


「へえ」


 自販機にしか見えない白い箱。黒い中には、紙しかなかった。便所、風呂場。

 2枚だ。ベッドが下にある。


「入れるのかにゃ。でも、それ、にゃあ」


 途中で、茶黒の猫に連れていかれた。流石に、説明しすぎということかもしれない。

 金貨を入れていくと、風呂場の紙が落ちてくる。

 半分残った。 


(これをどうすればいいんだろうか)


 風呂場と便所を一気にゲットしたかった。更に便所へと金貨を入れていく。

 パンで餓死しなければ、いい。それくらいのつもりだ。

 剣と盾を置きっぱだが、盗まれていない。


(ミッドガルドでも治安が悪いとなくなるからなあ)


 探すのが、手間だったりする。金がどんどん吸い込まれていって、風呂場よりは少ない額で紙が落ちてきた。二枚の紙を手にして、猫に近づく。


「それで、これ、どうすればいいのかな」


「んゆう、しょうがないにゃあ。どこに設置するにゃ」


 猫の手元で、光が四角い絵図になっていた。通路らしい。噴水が3箇所ある。

 迷宮への入り口は、1つ。


「男が屯しているとこは?」


「右にゃ。右で良いかにゃ」


「2つともそれでいい」


 便所と風呂場を一つずつ設置出来ただけでも御の字だろ。

 

「パーティーを探さなくていいのにゃ?」


「うーん、ちょっとね」


 観察しているだけでも、面白い。

 迷宮には、色んな人間が入っていく。

 パーティーの型も様々だ。


「ちみ、変わってるにゃ。にしし、ニボシ食うにゃ?」


 魚は、苦手だった。手を振って合図する。立っていても勧誘にくる学生は、いない。

 それは、そうだろう。小学生をパーティに入れようなんて物好きは、ユウタでも考えられなかった。

 客観的にみたら、そういう事でおままごとか何かをしているようにしか思えないだろうし。


 待ってみたが、アルーシュたちが現れる事もなく時間だけが過ぎ去っていく。

 風呂場を見に行ってみたものの、白いドーム状のものだった。

 便所は、隣にあって公園などにある様式をしている。


 流石に、むき出しの和式だったら大変だ。

 戻る間に、人の数を数えてみた。400はいない。確実に。

 天幕は、猫商人が売ったのか。


「にゃ、どうしたにゃ、また潜るにゃ?」


「うーん。やっぱり、壁があるみたいだなあって思ったよ」


「そうだにゃ。髪の毛から、ミッドガルド人ってわかるからにゃ。ゆーは、相容れないにゃよ」


 金髪なのだ。目立つ。染めている学生はいなくて、進学校なのかもしれない。

 セイヤとヒロアキが戻ってこないから、2Fに到達したのか。

 400から500が全校生徒なのだろうか。


 全員が到達できればいいのだが、肉壁として出荷すら手伝えない。

 そもそも、パーティに入れてもらえないのである。

 コモンというレアリティー。これが、全てだった。


「だいたい、1人でクリアしたにゃよね。でなきゃ、金貨があんなにもらえるはずないにゃ。でも、ゼイらにはクリアして戻ってくるなんて頭おかしいことできないにゃ」


「頭はおかしくないと思うけどね。誰もやらないのは、不思議だなあ」


「皆で進むのがコンセプトにゃ」


 話しがおかしい。食い違っているような。すると、


「疑いのまなこでみないで欲しいにゃよ。女神さまが、外に出た時に力をつけておけるようにする為の措置にゃ。試練なのにゃ」


 なるほど。


「試練を突破して外にでたら?」


「それは、もう知らないにゃ。魔王を倒せだなんて無茶は……言わないはずにゃ」


 それはそうだ。拉致をしていないという一点だけしか信用できていないが。

 魔王を討て、といっても学生だった人間にはとても無理な話である。

 

「外に出るまで、いくつ突破しなきゃいけないのかな」


「そりは、部外秘にゃ。ただ、1週間くらいで踏破される予定の難易度にゃ」


 階数は、それほどないように思える。だが、


「避妊具は?」


「なんにゃ?」


 駄目だ。ぽかんとしている。なんと説明したらいいのか。


「えっと、ゴム」


「伸びるやつかにゃ」


 と言って、台の上に置かれたのは丸い玉だった。果実のようである。

 薄緑色をしていた。


「違うんだけど」


「じゃあ、知らないにゃ。蜘蛛の実でもないかなにゃ。蜘蛛人特産の高級ねばねばにゃ。一回はめたら癖になるにゃ」


 猫は、何が楽しいのか踊っている。


「わかったよ。いいから」


 迷宮なんて場所にいたら、男女でいるのだ。自然とそういう流れになるだろう。

 そう考えると、トイレを作ったのは失敗かもしれない。

 シコシコドピュっ。そんな場所として使われかねないのだ。


「トイレ、撤去とか」


「今更は、無理にゃー」


 やれやれといった様子だ。

 ちなみに、学生に声をかけられる事はなさげである。

 

 

  


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