404話 通路一本道
ユウタにガチャなどない。
フレンドもいない。
扉は、閉まっている。
「仲間を探した方が、いいのだろうが…」
手を肩に置かれそうになったので、避けた。
仲間が居なくてもクリアできるかどうか試して見るべきだろう。
いや、死んでも生き返れるならいくらでも死ににいく奴がいてもおかしくない。
「ちょっと、待て君」
ヒロアキの制止を振り切って、扉を開いてみると。
一般的なミッドガルドの迷宮っぽい石畳があった。
壁には、ご丁寧に灯りがついている。松明ではない。光る苔のようなものだ。
(追ってこないってことは、中に入った瞬間から迷宮に入った扱いか?)
外に出れば、すぐには入れない可能性がある。それは、とても苦痛な事だ。
ダンジョンマスターは、性格が悪いに違いない。
(うー、スキルが発動しない。なぜだ?)
何度やっても、転移門がでないのだ。夢だというなら、悪夢に違いない。
だが、足を叩けば痛む。ステータスカードは、と確認すれば、
ユークリウッド・フォン・アルブレスト
年齢 10
性別 男
職業
スキル
所持品
空っぽだった。
おかしい。
(夢、にしちゃあおかしい)
誰かが、ユウタに夢を見せている可能性は否定できない。
だが、夢もうつつも同じようになってきているのだ。
夢だと思ったら、あの世だったとか笑えない体験もしている。
(まあ、先に進むか。わくわくしてくるな)
いきなり槍が飛び出てきて死ぬ、なんて罠はないようである。
扉を開いたら矢が飛んでくるとか、水で埋め尽くされるとか即死系の攻撃はないようだ。
進むに、骸骨が剣と盾を持って立っている。
2体だ。普通、1体ずつではないのだろうか。他に戦っている剣戟は、しない。
(骸骨かー)
だらりとした動作から、ユウタを発見したのか走ってくるや剣を揃って突き出してくる。
下にと潜ろうとするところにも、剣。慌てて、弾く。足を捉えて、振り回してやれば砕ける。
後には、剣と盾が2対。残った剣のうち、一つを手にとった。どこにでもある鉄でできた剣だ。
2つ、剣と盾を手に入れた。
(うーん。魔術が使えなくても、筋力はそれほど落ちていないようだ)
音を聞きつけて魔物が寄ってくるかと思ったが、そうではないらしい。
2体の骸骨を倒して、先に進む。真っ直ぐなようで、凹凸で折れ曲がっていた。
次に遭遇したのは、珍妙な色をした飛ぶ団子のような生き物。
先手必勝と剣を投げつける。柔らかかったのか、剣は突き抜けた。
当たった紫色をした生物は、地面で萎んでいく。
目が黄色く濁っているので、奇怪だ。
(何も、起きないな。レベルアップとかの表示すらねえ。バグってんじゃ)
仮にゲーム世界だとしたら、1人だけバグってるという。
いくらなんでも、1人だけアバターなしでパーティーメンバーもなしというのは辛い。
精神的にであるが。
(レアリティーねえ)
ユウタの記憶からすれば、ガチャを引けるとかいうシステムがなければおかしい。
しかし、キューブにはガチャなどというシステムはなかったはず。
あるのなら、告知を出して欲しいものだ。
(もっとも、なんもでねえ気がするぞ)
100連くらいしても虹色の物体が来ないなんてことは、ざらだ。
狭い通路のような場所に思える。
さらに歩いていくと、扉に行き当たった。その場所だけ、岩がむき出しのような風になっている。
扉を無理くりにつけたという作りだ。
(扉の向こうにゴーレムがいる、とか?)
距離にしても歩いて5分程度だ。ボスの部屋が、目の前なら近いにも程がある。
(中ボスって可能性か。それとも、ソロを禁じる的な仕掛けがあるとか)
味方は、いない。武器といえば、剣と盾。回復術は、使えない。
手が汗で湿ってきた。
どきどきしている。
(あれ? 何も使えないけど、わくわくしてきた? てきな)
死ぬかもしれないのに、脳がかっかとしてくる。扉を開こうとしたら、動かない。
鍵穴は、ない。押してみれば、向こう側へと冷たい金属の扉が開く。
外からは、中が見える。変哲ない石畳の部屋。それに、鎧が立ったまま飾ってある。
剣を持っているのだ。動き出すのだろうか。
石像の姿は、ない。鎧は、剣を持って一列にならんでいる。扉の両脇で、待ち構えているようだ。
(前に進んだら、動き出すタイプか。全部で、10体じゃん)
ゲームならば、太刀打ちできない数だ。1匹ずつ釣るか、それともまとめて相手をするかだ。
(意外に、動かないってことも、あるかも)
背後、周囲には気配がしない。隠密系スキルでつけている、という事もなさそうだ。
扉は、取っ手から手を放すと閉まる。戻ろうとしたものの、開かないようだ。
戻れなくなった。
(死ねば、戻れるっていうけど)
死んだままだったら、どうなるのであろう。前へ進むと、左隅にいた鎧が動きだす。
他の鎧は、動かない。手に持った剣は、長大な剣だ。
背丈だけでも屋内の天井に頭が当たりそうな鎧である。鋼を赤く染めたのか。血の色のよう。
(匂いは、しない。生のものが入っているようではないけど、一斉には動かなかったか)
無言だ。ゆったりとした動きで、間合いを狭めてくる。
壁際まで下がった。剣の間合いなど、わかっているのだろうか。
アバターと言う名前の召喚システムは、ない。
盾を投げつけた。剣先が、下から上へと移動する。
上がった剣は、盾を弾く。同時に、鎧の篭手を抑えながら足を掴んだ。
つるつると滑るので抱えるようにして、地面へと叩きつけた。
何度も、何度も。長い剣だけしか武器は、持っていないようだ。
長剣を手放した頃には、兜が取れた。中身は、何もなかった。
(これは、あれか? ひょっとして憑依系?)
白い霧が鎧から出るという事もない。動く鎧は、見慣れた代物だったから慌ててもなかった。
長大な剣を握る。呪いの剣だったりするのだろうか。しかし、武器としては有用そうだ。
持ち運びが辛いだろうが。
(あ、鎧が消える。剣だけじゃん)
鎧が残っていても、元のところには戻らないようだ。そして、残りの9体。
9回、繰り返した。
残ったのは、やはり剣だ。
出口になりそうな扉を開けようとしたが、開かない。
(うーん)
部屋を見渡す。石の畳に、剣が散乱していた。鎧は、壁にもない。
壁に灯りを灯している何かがある。剥ぎ取れないかと見てみるも壁の石が光を放っているのだった。
きっと、苔か何かなのだろうと諦める。
次いで、部屋の中央に穴を発見した。
(これ、ひょっとして?)
剣が差し込めそうだ。つまり、きっちり10体を倒さないと出られない仕掛けなのだ。
鎧と戦うことでレベルが、高校生たちは上がるのかもしれない。
ユウタには、まるで恩恵がなかったが。
最後の一本を差し込むと、刺さったまま動く。カチャッという軽い金属音がした。
(殴って破壊するのも、ありだったかもしんないわ)
最後は、そうだったかもしれないが。手を痛めていたかもしれない。
外は、またしても灰色の壁。高校生たちの姿はないようだ。
先行しているであろう500だか600人の内、1人も会わないというのは仕様としか思えない。
(同じフィールドでは会わせないようにしているのかねえ)
ともあれ、長い剣は得られずに元へ戻った。盾は、回収してある。
丸い盾で、投げやすいといえばその通りだ。
通路で発見したのは、またしても骸骨で今度は槍を持っていた。
接近すると突きを放ってくる。それを掴んで、地面へと叩きつけた。
骸骨の身体は、ばらばらに散らばってしまう。
元には、戻らないようだ。
(ひょっとして、骸骨がメイン、とか)
不死系なんていわれるが、骸骨は動きも遅いし耐久力もない。その上、回復術を浴びせられると骨から溶解してしまうなんて魔物だ。
(学生相手には、もってこいの手合とは言えるけど。先に進めばいいのかな)
ゴーレムとは出会わないまま、扉を見つけた。一方通行だった。
他に、行ける道がない。扉は、模様もなくただ茶色の金属製だ。取っ手を下に引いてから中へと入る。
今度は、ただっぴろい場所だ。
30mx30mだろうか。丸い闘技場にも思える。その正面に、丸っこい岩の身体をした魔物らしいものがいた。動いていない。中へ入るべきだろうか。岩の魔物は、馬車よりは大きめな岩の身体で頭は円筒のような金属をしている。
(創られたっぽいな。にしても、足が短すぎて見えないとか? 転がるような気がするぞ)
巨大な魔物は、ローリングアタックも仕掛けてくる。とすると、押しつぶされて死ぬ。
ユウタの体重は、鎧を込みでも60kgに達しない。鎧が軽すぎるということはあるだろう。
体格も、日本の高校生に比べれば圧倒的に劣っている。
(鬼畜なゴーレムか)
鎧に自ら変身してしまえば、一撃だ。もっと言えば、魔術さえつかえれば間合い関係なく一撃である。
灰色の身体をしているゴーレムがいかほどの硬さをしているのかしれないが、とても鉄の剣で斬れるとは思えない。
(目からビームとか)
焼け死ぬ姿を想像して、背筋が寒くなった。何度も生き返っている日本の高校生もいるという。
生き返るという保証が、ユウタには何処にもない。
(他に、魔物はいない・・・よな)
剣を投げつけたって、刺さりもしないだろう。ゴーレムを倒せば、先に進めるような仕様になっているのか。倒さないと出口が見つからないのか。出口となりそうな扉は、姿がなかった。
(しかし、1人で戦えるのか?)
自問自答すると。
(無理じゃね。無理っしょ)
なんて、気弱な返事が返ってきた。脳内の返事は、いつも消極的だ。
ステータスがあって、スキルがあって、レベルがあると。
レベルがない人間は、一体どうなるのだ。下手なダメージを受ければ動けなくなって、死ぬ。
殴られたら死にそうなくらい太い腕だ。胴体の半分以上の幅をしている。
足は、見えない。埋もれているのか。
動き出したら、手に負えないタイプかもしれない。
両手を振り回して横回転しっぱなしとか。
(やるなら、足か首か。最初で決めておかないとな)
走り出しながら、罠はないかと伺う。ど真ん中で真下に落とされたらショックで立ち直れないだろう。
果たして、岩ゴーレムの身体からバケツ状の頭が伸びる。
顔が出てきた。と、同時に飛びかかっていた。
頭だ。千切れろとばかりに渾身の力を込める。腕が伸びてくるよりも、早くもぎ取った。
円筒形の頭だけで、ユウタよりも大きい。
目の部分は、魔導の光を失っている。が、きゅきゅんという音と腕を縦に回転させて追ってくる。
胴体だけで。
(死なないとか。やってくれる)
足こそ遅いものの、距離をとれば突進してくる。猛牛のような勢いだ。
さっと躱せば、胴体は壁と激突した。
動かない。
地べたに置いておいた頭が消えると、玉が出て来る。丸く青い色を湛えていた。
入ってきた場所とは、反対側に扉が出来ている。部屋の真ん中に、これみよがしな箱が置いてあるではないか。
金色の箱だ。蓋を上引っ張る。鍵は、かかっていないようだ。
罠もなさ気。中は、と見れば何も入っていなかった。
嫌がらせなのか。悪意しか感じない。
せめて、食料でも得られないとユウタは餓死だ。すると、蓋から飛び出したかのように丸い金の板が降る。思いついたかのようなやり口だ。周囲を誰か見ているのかもしれない。ぐるりと見る。
気配は、ない。
金貨を手に入れた。箱がないので、金の箱を持ち上げようとすれば、ゴーレムよりも硬い粘着力だ。
地面と一体になったかのようですらある。金の箱を叩くと、袋が出てくる。
「ん?」
まるで、思考を箱が読んでいるかのようだ。箱を壊されると困るのかもしれない。
何がしたいのか。考えるに、想像もつかない。
が、先に進める。
戻ることもできる。
1人で進んでいいのだろうか。
(レアリティーねえ)
レアだろうが、コモンだろうが関係ないだろうに。ガチャでは、性能が全てだ。
では、高校生たちは?
(むしろ、コモンの連中を引っ張り上げた方が楽しくねえ?)
デスゲームだと殺し合いしか想像できない。
(そうだ)
レアリティーが全ての世界を否定したいではないか。
どんなキャラでも育て方一つで最強になる方が面白いに決まっている。
(全員を救う。それこそが、英雄ってやつだろう)
当面は、2Fに向かいたい者を進ませるのだ。




