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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
二章 入れ替わった男
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401話 税

 おかしい。


 のんびりと学校で過ごすはずが、人に囲まれてしまっている。

 学校である白い校舎の端っこに、最底辺のクラスはあった。

 アルーシュが押しかけてきたせいだろうか。


「まったく、私としては3日で殲滅して欲しいのだがな?」


「はあ」


 3日で攻撃するとなれば、都市を無差別爆撃なりなんなりをする必要がある。

 そうしなくとも王を捕らえているのだ。後ろから足に、人の足が当たった。

 足が、折れそうな打撃だ。音こそ派手ではないが、肉にめり込む。


「ふっふっふ」


 振り返れば、調子に乗ったわんこが口元を緩ませていることだろう。

 右に、アルーシュ。左にフィナル。前が何故が双つの席が並んでいる。

 後ろもそうだ。歪だ。


「ま、セリアが頑張ってくれているおかげで降伏してくるだろうけどな。私が言いたいのは、最初に派手な攻撃をしておけば後々が楽になるのだぞ」


「都市攻撃は、無理ですよ」


「何が無理なんだ、おい。お前は、私の騎士なんだから言う事を聞いて当然だろ。命令に逆らう、とは言わんが忖度して食料を奪うとか火をつけるとかだな。いくらでもやりようはあるだろ。今日も、まさかサボるつもりじゃああるまいな」


 ん、という顔を作る。後ろからの足による嫌がらせは、まだ続いていた。

 何がしたいのかしれない。火をつけるのも、食料を奪うのも気が進まない。

 確かに、戦国時代なら村やら町に火を放ったのだろう。人攫いだって、武田信玄もやっている戦法だ。


 しかし、戦国時代のような世界にいても意識が追いつかない。

 

「ふ、姉上。味方の援軍として貼り付けておけばいい」


「あれな。この前のだろ。味方が総崩れして、こいつが焼きまくったかと思ったら敵の巫女か。そいつが、焼きまくったんじゃねーか。逃げたやつらは、戻らねーし。あいつは、がーあ、兵が足りねえとか言ってくるし。どうしてくれるんだよ。金がいくら有っても足りねえ。わかってんのか」


 常備軍が編成されているというのに、アルーシュは自分のところの兵を出そうとはしない。

 専ら、国外では傭兵を使っていたりする。

 女の教師と見られる人間は、素知らぬ顔で授業を進めていた。チョークは飛んでこない。


 こっこ、という黒板を鳴らす音だ。パソコンはないので、技術の進歩は遅れている。


「じゃあ、金を増やしましょうよ」


「寄越せ。へそくり持ってんだろ」


「……あの」


「あのじゃねえ。あるなら寄越せ」


 少額ではない。アルーシュが寄越せというのは、セリアに匹敵する額面に違いない。

 即答はできずに、白い手へ手を乗っけた。


「誰がお手をしろと言った」


 すぐに叩かれたが、後ろからの蹴りよりはマシだった。反対側に顔を向ければ、澄まし顔をした女がいた。フィナルだ。その前にはエリアスとアルストロメリアが並ぶ。

 年齢が、アルストロメリアは上ではなかっただろうか。記憶が間違っているのかもしれないが。


「ともかく、状況が状況だ。増税」


「駄目です」


「戦費がかさんでいる。これはもう、やるしかあるまいよ」


 戦費の捻出に増税をしようとしている。それは、止む得ないのかもしれない。

 

「わたくしでしたら、少しばかりの寄付もできましてよ」


「と言っているが、何を出させる気だ」


「この世は、ギブアンドテイクですわ。当然、それ相応の物をいただきませんと」


 悪寒が背筋に走った。悪い予感がする。机の上では、黄色いひよこと白い毛玉が鎮座していた。

 足元には羊と狐だ。羊が大きい。座っているはずなのに、もこもことした毛が足に刺さる。

 敵か。敵の姿を探して、ぐるりと見るも後ろからの目潰しを躱しただけだった。


「む、むうう。なんだかわかるが、要、相談だな。簡単には答えられん」


「じっくりと考えになられるとよろしいかと」


「ふ、こいつからならいくらでも金が取れそうだが?」


 取ったら虐めである。金をせびるとは、要するに恐喝にほかならない。恐喝、恫喝は犯罪の類だ。

 授業の時間が永遠に思えてきた。

 長過ぎる。


「あら怖い。でも、発言には注意した方がよろしくてよ。ここはミッドガルドなのですから」


「ふっ。ユークリウッドをけしかけるつもりか? こいつと戦えるならそれでもかまわないぞ」


 止めて欲しい。セリアと殴りあいをした日は、疲れて動けなくなってしまう。

 丸一日、過ぎてしまったら何をしているのかわからない。段々と、未来のような耐久力を身に着け始めているのだ。ただ、割りと暗黒面へまっしぐらではある。


 記憶にある奴隷だった彼女の瞳に浮かんでいたのは、郷愁と悲しみだっただろうか。

 今は、つり上がった眼尻に憎しみの炎がある。


「お前ら、毎日戦ってるじゃん。俺らの迷宮探索をじゃまするなよ。マジで」


 金のほつれ髪、或いはウェーブとでも言えばいいのだろうか。波打つ髪がよく似合っている幼女は、口を尖らせた。たまに、教室の中を箒に乗って移動するという破廉恥女だ。パンツは、当然のように丸見えである。誰も、注意をしないのだ。


 貴族だからなのか。わからないが。


「ふん。もっと、邪魔をしてやってもいいがネロのところの迷宮化した町を攻略したそうだな。その褒美やらを考慮しなければならんのだが、そうだ。あの捕らえた女は、いるか? 赤い髪の巫女と将。どっちもなかなかの面をしているじゃないか。お前が要らないのなら奴隷として売り飛ばしてしまおうと」


「いります」


「ふっふっふ。では、赤毛の女2人で王都から西もさっさと攻撃してくれるな?」


 なんてチョロいのだろう。我ながらチョロすぎる。別に女がどうなろうと知ったことではないではないか。奴隷として売られて、処女膜がなくなってないだろうか。きっと、貫通済みになっているに違いない。娼婦が処女だったりするのは、いくらなんでも頭が幸せ過ぎ。


「はい。承りました」


「ふっ。ラトスクで捕らえている女たちか。ちょっとおっぱいがでかいからか? ユークリウッドも好き者だな。ところで、そろそろラトスクに城を作ろうか」


「誰が」


 振り返れば、びしっと指を差してきた。人の話を聞いていないのだろう。彼女は、そういう傾向があった。聞いていない振りをするというか。いや、しっかりと聞いていたけれどそうではなかったのかというか。

 隣にいる幼女が、うんうんと頷いている。


「城は重要だな。なにせ、結界を維持するための最重要施設だ。当然、そこに王がいるのも当たり前。ヘルトムーアの王は、逃げ出したようだがな」


 そして、アルーシュは耳に指を突っ込む。耳かきを持った白いエプロンにカッターシャツといった出で立ちの女が走り寄ってくる。


「お金、足りますの?」


「あー。まあ、何とかなるんじゃないかな」


 かなりいい加減な返事だ。白目を剥いて倒れたい。だが、ユークリウッドの身体は性能が良すぎる。

 倒れたい気分なのに、倒れられないのだ。突き出た腹もなく、息切れ動悸もしない。

 みずみずしい張りのある肌は、ホモになってしまいそうな程。

 

 心配そうに眉根を寄せている幼女は、髪の毛を弄っていた。その仕草をしているときは、何かを言いたい時である。しかし、言わないのだ。


「時に、日本人は約束事も守れないのだな」


 危うく教室だというのに掴みかかりそうになった。声の主は、あるじだからできないだけで。

 目が痙攣を起こしているのを感じる。脳の血流が、一気に熱を持った。


「なんで、また何か」


「不可逆とは、どういう意味か言ってみろ」


「それは、動かないとか戻らないとかそういう意味じゃないでしょうか」


「そうだな。盗みをして見つかったら、元に戻しておっけーとかいう事には決してならん」


 どういう事だろうか。盗みを働く日本人が出た、ということだろうか。

 小説等では、しょっちゅう他人のスキルやレベルを盗む。

 だが、所詮は妄想であって現実を見れば他人のスキルなど盗めない。


 仮に、その手のスキルを持っていれば指名手配を貰う事は確実ではないか。


「転移者の中から、窃盗犯が出た。現行犯により、腕を切り落とす。良いな?」


 いちいち聞いてくるまでもない。歯噛みする思いがしたものの、しょうがない。


「誰だかは…」


「接触は、無かろうよ」


 何故、わかるのか。見ているという事なのだろう。監視されていては、自家発電できない。

 何故だか、頭が風船のようになってくる。怒りのせいだろうか。

 机には、狐まで鎮座して占領していた。教科書は、下に踏まれて見えやしない。


(うーん。異世界じゃ、監視カメラもないから楽勝とでも考えたのかな? 理解し難いけど…)


 異世界だから、現代とは違っている。科学技術では、遥かに劣っているだろう。

 だが、科学が実現できない魔術やスキルなんて物が存在するのだ。


 狐を触っていると気持ちいいので、やめられない。


「異世界人というのは、どうして盗みを働いて腕を切り落とされると聞けば青い顔をするのだろうな」


「常識が違うせいじゃねーの。あっち、懲役みてーじゃん?」


「それは、あるとしてもだ。全くもって度し難い」


 腕を切り落とす。となれば、腕を燃やしていない限り治療は可能だ。

 割りと簡単にくっつけられる。魔物との戦いともなれば、腕なくなるなんてザラにあるのだ。

 もっとも、ミッドガルドに限っての話かもしれないが。


 周りを見ても、話に加わろうという人間はいない。アルーシュにびびっているのだろうか。

 気配を消しているように思えてくる。


「そうだ。消費税を作ろう」


「絶対に反対です」


「何故だ。大した税ではないと思うのだが」


 アルーシュに消費税を吹き込んだのは、誰だ。周りの顔を見るも、誰も理解していない様子だ。

 いや、そもそも消費税という言葉が何故アルーシュの口から出てくるのかという。

 

(ひょっとして、神族とか言ってるけど経済を理解しているとは言えないとか?)


 そんな気がしてくる。そもそも、金とは血流のようなものである。


「消費が鈍りますよ」


「む? そうなると、どうなる?」


「税収が落ち込みますね」


「え、なんで?」


 わかっていない。だが、誰から吹き込まれたのか。探偵ではないが、最大限に詮索したい。


「いや、だっても糞もですねえ。お金持ちが、お金を使いづらくなりますよ。すると、更に何かで税収を上げようとするでしょう。例えば、その消費税で。アル様は、賢いお方ですからそのような真似をなさらないと信じておりますけれど」


「ふむ。理解できんが」


「ふっ、頭が痛くなってくる」


 頭が痛くなってくるのは、ユウタのセリフである。王になろうと言う人間、いや王子が経済を理解していない国。ごまんとあるのかも知れないが、ユウタがいる限り消費税を施行させたりはしない。


「消費税は、駄目なのか。すると、どうすればいい?」


「戦費を削るしかないでしょう。もっとも、国債を発行しまくるのも限度があるのでしょうが戦争をしない事が一番だと思うのですがけれど」


「それは、ならん。このまま人間どもが魔力を使いつづければ魔界、悪魔界が表層に出てくる事になる。その前に、なんとしても亀裂を治さねばならんのだ」


 亀裂というのは、東の果てにあるとか。そこまで、一体どれだけの血が流れるのか知れない。

 消費税は、その為に施行しようとしている。だが、景気が悪くなるのだ。

 税が多少増えるよりも、なお消費活動が鈍ることによって減る税収の方が大きい。


 かつて経験しただけに、良く分かる。だが、日本は駄目だった。


「むうー」


 といって、アルーシュは立ち上がる。白い制服に赤く短めのマントだ。

 教室の後ろへ向かって、足元へ出来た黒い穴に足を入れる。


「ふっ。後で遊ぶぞ」


「多分、教室にはいないと思うよ」


 セリアは、後を追いかけていく。


「それでは、わたくしも所用を済ませてまいります」


 フィナルもまた光る門を出して姿を消した。


「なーなー。消費税って、そんなに問題なのかよ。お前が反対するって、あんまりないだろ。気になるわー」


 代わって、フィナルの席を押しやったエリアスが話かけてきた。


「何って、全てから取るからね。貧しい人からでも取るんだよ。例えば、エリアスの杖が1000万ゴルだとしてさ」


「うん。そんで?」


「10%なら100万ゴルとられるとするとさ。気軽に杖を新しいのに更新できる?」


 椅子から幼女は、立ち上がった。

「ふぁ? そ、そいつは、ポーションとかどうなるん。安く出来ねえよ」


「おほぉ、やべーよ。なんだよそれ。そんな法律? ぜってえー反対だわ。俺の箒とかいくらすると思ってんだよ。ふざけんなよ?」 


「そういや、山田って奴が消費税がないって素晴らしいとかなんとか言ってたなあ。知ってるかよ」


 2人は、知らないようだ。

 消費税については、知っている。その危険も。そして、消費税について語る人間が現れたのは脅威だ。

 戦闘ならともかく、絡め手からの攻撃は手遅れになる事がある。


「消費税でありますか」


 前の席にいるのは2人だ。席の幅が、倍になっていた。

 垂れ下がった馬の尻尾は、掴みたくなってくる。もちろん、尻尾は金色で髪なのだが。


「知ってる?」


「知らないであります」


 ミッドガルドでの知名度は、低いようだ。


「これ以上絞りとられたら死ぬわ」


 最低価格帯を設定しないといけないポーション屋は、悲鳴を上げている。


 

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