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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
二章 入れ替わった男
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380話 2F-3F 王族奴隷を手に入れた!

 魔物の大きさには大小が有るものの、1撃で済んでしまう。

 今しがた崩れ落ちる骨兵からは、アイテムがでない。落ちた槍は、錆付き使えそうもないのだ。

 レベル差があるせいであろうか。悉く、錆た武器防具。これでも、冒険者は回収していく。


(うーん。ゲームだと、そういう事もないこともないけど。レベル差適用する迷宮、つまんない)


 進んでいく道すがら、骨系か小さなゴキブリの魔物を倒しているのだが。

 

「でませんね」


「途中さー、これ省略しよーぜ。つまんねーじゃん」


 一度行った事のある冒険者が混じっていれば、途中の階を飛ばす事もできるようだ。

 箱から出てきた魔女っ子は、黒い帽子の中から瓶を取り出して頭を押す。香水か。匂いがする。


「たくよう、なんだってここなんだよ。効率わりーだろ」


「効率の問題じゃないんだけど」


 エリアスは、じとっと目を座らせていた。


「じゃあ、なんでここなんだよ。ゴキブリ行くんならせめて50層辺りからにしよー」


「んー、と言ってもねえ」


 セリアにとっては、弱すぎるのか。寝たふりか否かの睡眠に入っている。箱から出てくる気配がしない。

 先頭を歩いているのは、チィチとザビーネの2人。ミミーとミーシャが2人の後ろに付いている。

 茶色の毛を弄るモニカは、板の上でくつろいでいた。


「緊張感がねーって、いうかお前に殺されそうな気がするんだけど。だけど! 貞操の危険も感じるし!」


 アイアンクローをかましたい。切なる願いだった。


「エリアスさん。興奮しないでくださいよー。食べます?」


 モニカが、桃を剥いてくれる。その切れ端を爪楊枝でもって拾い上げて口に入れると。

 

「騙されねーぞ、おい」


 などと言って、ひょいひょいと平らげていく。セリアの分が残っているのか怪しいスピードである。


「骨、まずいって」


 各層が、横に長く大部屋にいる敵は少ない。浅い層なので人間も多そうだ。

 ドロップは、その多くが核。スケルトンタイプの魔物には、核が存在するので砕けば動かなくなる。

 砕けた核を採取してギルドに売りつけるというのが、地下2階での生計のようだ。


 後ろをつけてくる冒険者もおらず、身を隠して誘っていてもばれているのか。


「それは、そうと。冒険者さんたちは、襲ってきませんねえ」


 幾つかのパーティーを横切るも、声をかけてくる者はいない。

 鑑定をかけているのなら、名前がわかるからだろうか。

 ちなみに、使用スキルを表示したり教える機能を切っている。

 煩いからだ。


「襲ってこねーって、そりゃなあ。普通ねーだろ」


「たまにありますよ。セリアさんが隠れてると、ですね」


「堂々としてろよなー。可哀想だろ」


「ふっ、悪を間引くためだ。私は手間を惜しまない」


 爪を切ったり、鏡を見たりと魔女っ子はやりたい放題だ。板の上が楽だからといって敵が出てこないわけではないのだが。見落としがあってもいいはずである。

 倒れた骨兵は、魔核を奪われても体が維持できない。骨がそのまま残っている魔物の残骸を見て、


「ここの警備ってどうなってんだよ」


「冒険者の善意ですよね」


「つまんねーなあ」


 つまんなくないのである。助け合うのが、人なのに殺し合いをしていては進歩もない。

 ユウタたちが通り過ぎた道では人が重症を負っているという事もないようだった。

 薄茶色をした石壁を通って、終着点である一際大きな扉に行き着く。

 風は、中で下へと向かっている。


「ボスですか」


「だろうね」


 順番待ちの人間は、いないようで中に入る。しかし、肝心のボスはいないようだ。

 白く長い髪を揺らした幼女が、宝箱もないまま下の階への扉を押す。

 続く犬耳の忍者服を着た幼女は、


「待ち伏せは、ないようです」


「進もうぜ」


 地下3階へと向かう。

 階段でも、斜めになりながらおりていく。背中に箱があたって、痛い。

 罠の類も、ないようだ。白乳色をした光で、影が伸びる。

 

「この調子で、一番したまでいくとよう。5,6日は、余裕でかかるだろ。セリアがいるんで最下層まで行っちまえばいいじゃんか」

「いいけど、死ぬかもしれないじゃない。無理はさせられないね」


「えー。いざとなったら、かばってくんねーのかよ」


 この幼女、すぐに人を当てにするのだ。庇うというスキルは、たしかに存在する。

 とはいえ、即死されたら事だ。一体、どう言い訳したらいいのか。

 フィナルは、必死に強くなろうとしているようであるが。エリアスときたら、


「物事にはね。順序があるの」


 と言うのに、口を尖らせて。


「そこをなんとかすんのが男だろ」


「思うのですが、ユーウさんは万能の神さまじゃないですよ」


 その通りである。もっと言って欲しいのだが、魔女っ子はモニカを睨みつけるではないか。

 対する牛戦士は、怯んでしまう。そそくさと、茶色の布で槌を手に汚れを落とし始めるではないか。


「あーあ、お前はいいよなー。オデットんちで素材も集めたい放題だもんなー。あれ、これってずるくね? ずりーよな。俺んとこ、ぜんっぜん金がね~んだけど」


 金が無いのは自業自得である。


「エリアス、アルストロメリアと被ってるんだもの」


「それだよ!」


 板の上で立ち上がる。地下3階の溜まり場にでると、慌てて座る。なんという小心者なのだろう。

 顔を赤らめたかと思うと、きっと睨みつけてくるのだ。何もしていないのだが、癇に障ったに違いない。

 地下3階でも、概ね同じであった。


 白い天幕が置かれて、料理用の鍋がぶら下がっていたりする。転移室があるのか。

 階層前の扉には、天幕がない。 


「んだよ、じろじろ見やがって。気に食わねえ」


「一言多いってば」


 地下3階では、優しいルートを通るべきか。先頭は、チィチとザビーネで安全なルートを通るようだ。

 

「もうちょいいいとこね~のかよ~。時間ばっか過ぎちまうぞ」


「ん、今、何時だ」


 箱の中から、声がして時間を尋ねてくる。時計は、貴重品だ。コーボルトでも生産されている品物であるが、数が少ない。錬金術師に作らせようとしているものの、


「3時だぞ」


「そうか。もう3時だと? 結構、時間が過ぎてしまったようだな。帰るか」


 帰るのか。


「ちょっと待てよ。俺ら2人になっちまう感じ? 身の危険を感じるぜ」


「ふっ、膜の前に頭がなくなりそうだがな」


 酷い話である。しかし、進むに帰ろうとしない。箱の中には、気配が残ったままだ。

 

「あの~。移動しないんですか?」


「……」


 返事はない。モニカも困った視線を向けてくる。出て来る魔物は、中型の蜥蜴と鼠だ。

 中型と言っても3mクラスで、天井に近い。

 鼠は、人型を取っていて前衛を見つけるや距離を詰めてくる。


 黒い剣身が左右に移動して、赤い飛沫が飛び散る。薄茶色の石壁が、染まっていく。


「移動しなくていいのかよ」


「気が変わったんじゃないのかな」


「ふっ、そうとも言う。姉上に、エリアスと2人きりにするな、と言われていたのを思い出した」


 別に問題は、ない。だが、エリアスに防御能力があるのか気になるところだ。


「は? 何も問題ねーっつーの。アルストロメリアの奴も忙しーみてーだしよう。俺が付いてなかったら、どんどん置いてきぼりが拡大すんじゃねーか」


「PNP型とNPN型の結晶…」


「うっ」


 セリアが、つぶやくと金髪の幼女は黒い外套を揺らす。指の先を合わせて、口笛を吹き出した。


「ピッ、P型がなんだかわかんねーだろ。おめー」


「ポジティブだな」


「ほっ、やるねえ。んじゃ、よう魔力層を活性させっとそこに流れる魔力の値が5MAだとすっと…」


 突然、魔術講義が始まる。最新の魔術では、精緻な魔力の制御が問われる。

 ちなみに、魔力と電気が似通っているのはどうしてなのか。

 ユウタにとっては、不思議であった。


「ふふん。魔力界は、右ねじの法則くらい知っているぞ。サインθ角度で求めるんだろうよ」


「糞っ、あんまめんどいの嫌いなんだけど」


 セリアも、影魔術の使い手であるから理論を勉強している。V=IRのような公式も応用できるのであった。魔力量というのは、Iの二乗でRをかけるというモノで。

 テスラが神話なら、アンペアは神ではなかろうか。


「うー、頭が痛くなってきます」


「モニカ、お前にも関係が有ることなのだがな。獣人が舐められる理由だぞ!」


 セリアは、魔力を無視していない。人の持つ魔力は、頭打ちになるから他所から持ってくればいい。

 そうして、常に維持しているのが結界であった。なら、それを覆す己の魔力槽とは一体なんなのであろう。そろそろ、壊れてもおかしくない話だ。


 進んでいる速度が遅いのか。罠もあれば、魔物がいない訳でもなく。


「そう言われましても、ですね。私は、治癒術ばかりですからですね」


「ふっ、全系統を修練しろ」


「セリアさんだって、影系の破壊と移動じゃないですか」


 醜い争いが始まりそうである。モニカの反撃で、セリアというとぐうの音もでなかった。

 

「まあ、いいじゃんか。こいつが完璧だったら、俺らミンチにされちまうってばよー」


「ふん、おだてても何もでないぞ。そういえば、ラトスクに来ないとドメルがぼやいていたな。たまには、あっちの事務所にも顔を出して欲しい」


「行っているよ。流石に、毎日は無理だよ。仕事が押してたら、行かない日だってあるって」


 不満なのか、尻尾で叩いてくる。まだ爪で殴られないだけいいのだが。

 蜥蜴の死体が、切り口も鮮やかに転がっている。板の上で、座っているだけであった。

 

「ふっ。ラトスクにも、太陽光発電システムを搭載した魔灯が欲しいな」


「どうなの」


 魔女っ子は、話から離れようとしていたようだ。帽子を被り直すと、


「金」


 手を出してくる。金は、天下の回りもの。しかして、無尽蔵に出てくるものではない。

 青白い手には、傷1つなかった。


「いくらなの」


「1台につき、100万だな。高いと思うなら、他所を当たんな」


 足元を見ていると思ったが、これが独占企業の強みでもある。

 錬金術師ギルドと談合しているに違いない。

 談合は、必ずしも悪ではないが……。


「100万は高すぎるよ。いくらなんでも、それはないって」


「素材がたりねーもん。セリアたちが、自前で集めてくんのなら安くなるかもしんねーけどよー。こっちにだって、冒険者に依頼出してんだからな。そっから、税金で回収すんだから高くったって構わねーべ」


 構う。

 回収するが、冒険者というのは逃げ道を探すものだ。

 加えて、補助金だとかなんだとかを要求したりする。

 

「兵士を1人張り付かせるよりは、安いだろう。なんとか捻出できないのか」


「うーん」


「ふむっ。今なら、ヘルトムーアの便器もつける」


 どきっと、したが。


「要らないねえ。……便器って、もしかして女の子なの?」


「ふぅ……そうだろうが。いらないか」


「必要ない、けど」


 既に、回りは女の子だらけであった。これ以上の女の子は手に余る。

 前衛は、苦戦していないようで出番がなかった。大きな十字架かと見まごう手裏剣が、回転していき2足歩行する鼠の体に突き刺さる。そのまま動かない。1撃のようだ。ミーシャとミミーの得物は、大型手裏剣と苦無である。

 白い箱が揺れ、


「となると、奴隷商人に売り飛ばすしかないが?」


「いくらなの」


 振り返って見るセリアは、顔を箱から出したままにんまりとした。


「10億」


「ええ~。そりゃ無茶苦茶だよ」


「このくらい出す好事家もいるぞ」


 本当なの? とエリアスを見ると。


「何人だよ。流石に1人ではねーよな。それ、セットだろ」


「6人だな。女ばかりだが」


「相手の国は、交渉しないの」


「駄目だ。安すぎて、話にならない。それならば、まだミッドガルドの奴隷商人に売った方がいいではないか」


 アルたちが、買ってくれないだろうかと思ったものの。また、可哀想な事になりそうである。

 

「10億あれば、なあ。結界石だって、買えるんじゃね。高充電マナ装置も捗るしよー」


「ほう」


 インベントリの中に手を突っ込むと、箱を取り出す。

 税金を扱っている内に、金銭感覚がおかしくなりそうだ。

 3000人ほどの兵隊の事もあり、破綻しかねない。


「毎度ありー。契約書を用意しとくからよう、後で渡すでいいよな」


「いいけど。仮の契約書は、ないの」


「待ってろ。用意すっから」


 蜥蜴が転がっている横を通り過ぎていく。早まったような気分だ。

 口車に乗せられた気がしてしょうがない。


(味方が強すぎて、安全過ぎるのかねえ)


 全く緊張感がないのも困りものだった。

 ユウタは、王族奴隷を6人も手に入れてしまった。 

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