52話 森でトカゲⅣ! (シグルス、ユウタ、セリア、モニカ、アルル、エド、ジェフ、リザードマン、デミタルザウルス)
某日某時刻 変異した森
天を突くかのようにそびえたつ木と陰鬱な雰囲気の森。
そこで、亜人達に倒した蜥蜴人達から武器を奪取させます。
ユウタ殿にセリア殿、2人が合流すると亜人達と森から抜けようとしました。
亜人達の集団が、森から抜けるため歩き出していくと。
ユウタ殿が尋ねてきます。
「あのシグルス様、ゲートを使って転送すれば早いのでは?」
「そうですね。しかしゲート門を開けますか?」
実は、私もそう思ってテレポートを開こうとしていたのですが・・・。
赤くなったり青くなったりするユウタ殿。
同様のようですね、やはり無理ですか。
詳細はわかりませんがこの森全体に障壁のような物を感じます。
「すいません、門が開けません」
「しょうがありませんね。残念ながら徒歩で移動するしかないでしょう。ユウタ殿が回収しているゴブリンやオーク達の防具を、亜人達に配布できますか?」
「防具ですか、わかりました」
ユウタ殿は了解してくれました。なので、イープルをパーティー間の会話スキルである念話で呼び止めます。
そういえば、ユウタ殿は全くこれを使われません。
パーティー員のみ。
ですが、非常に便利なスキルなのに使わないのが不思議です。
ともあれ、黄色い頭の少女騎士に呼びかけます。
「(イープル!止まりなさい)」
「(うわぁ!いきなり何ですかぁシグルス様)」
「(今から防具の配布をします、一旦停止しなさい)」
幸いなことに、まだトカゲ達の襲撃はありませんが・・・。
ふう・・・油断はできません。
ユウタ殿から配布された防具を全員に着せる。
と、森を脱出するために移動を開始します。
まあ無いよりマシな装備ですが。
アルル様とユウタ殿に私で最後尾。
先頭はセリア殿とモニカ殿とイープルで脱出することにしました。
しばらくの間、トカゲ達の襲撃もリザードマン達の襲撃もないまま進んで行きます。
亜人達の進行速度が遅く、イライラが募りますが我慢です。
最後尾を歩く私に、傷ついた灰色混じりの茶髪をしたドワーフが犬耳を生やす茶髪の男に支えられて、ひょこひょこと歩き寄って来ました。
「美しき白騎士様よ、すまんがのう。皆疲れておるんじゃ。そろそろ休憩を入れて欲しいのじゃが」
「無理なお世辞は結構ですよ。・・・・・・ですがここで巨級やデミタルザウルス等に襲われれば守りきれません。食料も全員分あるわけではないので小休止でいいですね?」
犬耳の男が話に割り込んできます。
「そんな!? 騎士様、皆疲労が限界近いのです! もう少し休憩時間をお願いできないのでしょうか」
「いや、駄目じゃエド。そんなことシグルス様とて重々承知しておられるじゃろ。食料も無く数も足りないのにこのまま夜になってみろいかに腕が立つとはいえ、闇夜に紛れて襲い来るモンスター連中に不覚を取らんとも限らん」
エドと呼ばれた犬系亜人の言うのももっともですし、ジェフが言う事も一理あります。
夜になれば、流石に守るどころか。
それ以前に、自分の身だけで精一杯ということになるでしょう。
こちらを伺うかのようについてくる昆虫系や猿系のモンスター達。
これらが、遠巻きに様子を伺っている節すらあります。
「ええ、お2人の懸念や意見ももっともです。ですが、此処で死ぬつもりがないのならできるだけ歩くべきでしょう。この森を抜けてさえしまえば、皆を近くの村なり町に送ってしまえますし。それまでは、月並みですが頑張りましょう」
「・・・・・・」
「すまんのおシグルス様。小休止で十分ですじゃ。皆にはわしから言って聞かせますのでよろしくお願いしますじゃ」
そう言うと、ジェフとエドは集団に戻っていきました。
皆が、これで納得してくれるならいいのですが。
蜥蜴人達の追撃が無いとも限りません。
何よりこのままでは終わらない予感がします。
ユウタ殿と相談して、適当な広さの窪地で小休止にしました。
休憩に入るといきなりユウタ殿が料理を始めました。
おもむろにイベントリを開くと。
中から鍋を取り出し水を魔術で作り出し、麺料理をし始めます。
領民でもないのに、食事を振舞ってやったりするのはどうかと思いますし、怪我の治療をしてやるのもお人好しすぎます。
ゴルを取るなり貸付をするなりするべきですし。
魔力がいくら豊富だといってもやりすぎです。
ルナといい甘い顔をしても、民をつけあがらせるだけだというのに施しなど、甘やかすだけの結果になりますよ。彼女は、貴族らしからぬ振る舞いが問題ですけど。
たまにはいいのでしょうが。
毎度の如くそのような施しをやっていると、つけあがらせて舐められますよ。
それに、この場で火を使えば敵を招き寄せるのですが?
ここは注意するべきでしょうか。
どうやらセリア殿が懸念を伝えます。
「ここで火を点けるのは不味いぞ、ご主人様」
「けど、皆腹減って動けないんじゃ不味いよ。疲労回復のためにも食事しないと士気も上がらないよ」
「確かにそうだな、だが・・・・・・」
それ以上セリア殿も追求出来ないみたいですね。確かに負傷に疲労回復もせず進行速度が遅ければ、結局追いつかれることになるでしょうし、その時戦う力もないでしょう。止む得ませんね。
しかし、この森が本当にサウスホットの森ならば。
伝え聞く名付きレアなモンスターが出てきてもおかしくありません。
竜モドキのトカゲ。
これが進化したタイプが、巨大化することでなることがあるそうですが。
30mはある巨木がゴロゴロしています。
これに匹敵するような大きさになると言われていますし。
もちろんそんなモンスターを相手に戦えませんし、逃げるしかないでしょうが。
暗く沈んだ雰囲気もエドという犬耳の若者が歌を歌いだすと。
皆、元気づけられたようです。
体力が回復して解放された事を実感しているのでしょう。
ですが、そううまく物事が進むとも思えません。破壊した産卵所にトカゲ共が血眼になって我々を探しているでしょうし、生贄の亜人達が逃げ出したことに蜥蜴人達の本隊が、気づけば追撃を受けることになります。
ここは、一刻も早く森を抜け出さなければならないのです。この事はPTメンバーでも騎士達セリア殿辺りまでは気がついていると思います。前後に集団が挟まれる危険性に。
既に昼過ぎに森に入って戻りまた森の中と、かなりの時間が立っています。
夜になるのは、非常に不味いです。
薄暗い森の中で夜を迎えることになれば、全滅よりも脱落者多数を覚悟で強行走したほうがいいかもしれません。
こそこそと、どこかに行こうとするアルル様。ああ、下の方ですか。こっちに来るなよ、という目を向けてきます。
「(アルル様付き添います)」
「(いらん! 一人で出来る)」
「(ですが・・・・・・見張り位必要です)」
「(・・・・・・わかった好きにするがいい)」
全く、見張りもなしにそんなことしようとするなんて、無用心にも程があります。
どうせ紙がない! とか色々言い出すにきまっているのです。
用を足している間に、曲者に襲われたらどうするのですか!
亜人達集団から少し離れると、用を足すアル様。
「なあシグルス、聞きたい事があるのだが」
「はいアル様、なんでしょうか」
「アイツがあいつなのか?」
アル様は、疑っているようです。
「・・・・・・そうですよ。候補です、まだ確定しているわけではありません。パッと見て頼りない少年ですが、感じますよね。魔力の多さは剣の稼働に十分です、魔導院の報告通り魔力タンクとしてもってこいでしょう? 今後も魔力量が増え続けるとなれば、確保しておくべきです」
「今のアイツ、あまり好みではないのだ」
顔が変わっているせいでしょうか。皮一つでこの対応とは、臣下として女として見る目がありません。ならば、私がいただいてもいいですよね?
「好き嫌いも、一緒に過ごす内に心が付いてくるものですよ。どうしても駄目だというのならしょうがありません。彼の事は諦めましょう」
「アルーシュの奴はどうなのだ? 本気なのか?」
姉上の事ですか。同じ日に生まれた先に取り出されただけの子どもですが、力は絶大です。先んずれば、全てを制するといいますよ?
「大変気に入られている様子ですよ。この分ですと。継承者はあの方で、決まるのではないでしょうか。あと・・・ライバルは1人ではありませんよ。それに彼の気持ちが、貴方様に向くかどうかはわかりません」
「・・・・・・」
姿形はそっくりなのですが性格がまるで違うのですよね。好みも当然違います。
顔だけで選ぶのもどうかと思いますよ。性格も見ないと後々困ったことになりかねません。
ユウタ殿の魔力量についてですが王立魔導院による調査でわかっています。
王立魔導院による転送器を通したデータ採取の精度はかなりの高さがあります。冒険者ギルドではこの際に取られたデータが冒険者カード等にも流用されたりしていますし、冒険者内で発生した犯罪者の特定や逮捕等にも大活躍です。ここは極秘扱いです。王家が冒険者ギルドの元締めになっていたりするのは公然の秘密ですが。
最古にして最新の王立魔導院製造魔術器による広域探査は、犯罪者の逮捕に大活躍しています。
そのため王都で盗賊ギルド等表だっては存在せず、門や公共施設などにも仕込まれているので、盗賊達も王都に入ってくればそのほとんどがすぐつかまります。
その分そういった犯罪のしわ寄せが周りの町にできているので効果のほうは半々といったところでしょうか。
私としてはどちらの方が、継承されて覚醒されてもいいのです。かつてあったルーンミッドガルド帝国による大陸統一の栄光、これを取り戻せるなら安いものではないでしょうか。
本当にこの方達、王族の楽観です。楽観すぎるところというか危機感の無さにはまいってしまいそうです。我らでうまく操縦しやすいほ・・・・・・もとい導いていかなければますます領土を切り取られてしまうことでしょう。
幸いにもどうやらモンスターが来ることも覗き魔が来ることもなく用は終わったようです。
しかし、黄金色に輝く鎧の下を着るのに四苦八苦しているのでしょうか、時間がかかっています。
大抵いつも誰かに着せてもらっていますからね。声を掛けておきますか。
「アル様鎧を着るのは大丈夫ですか?」
「し・心配ない。大丈夫だ。シグルスお前の方こそ終わったのか?」
「とっくに終わっています」
「・・・・・・そうか」
きゅうとかあーとか聞こえてきますが、聞こえないふりをしておきます。
まったくもってこう言う事は、一瞬で済ませないといけません。
出して拭いて終わりですが、他の・・・・・・詳しくは割愛します。
亜人達の集団にもどると、小休止を終えて再度移動を開始しました。
ふと失敗した事に気がつきます。見張りはユウタ殿にやらせるべきでした。
何らかの進展があったかもしれません。嬉し恥ずかしの出来事になったかもしれなかったのですよね。
まあ治療に料理に、頑張るユウタ殿にさせるのも無理がありましたし、アル様との距離を縮める事、これを忘れないようしなければいけません。
自分の婚期を考えろという父上の声が、聞こえたような気がしました。
大体この国の女性は12までに相手を見つけて16までに結婚するというのが貴族としては一般的です。
10歳とかで結婚というのもあったりしますがそれはどうかと思います。
そうした事情で私よりも父上の方が焦っているようです。
厳しい顔をした白髭を生やす父上と、どうしてこんなのと結婚したのかというような美女を体現したような母上。
どうにも父上はずんぐりむっくりで、顔は良くても体型が残念なのです。対して母上は黄金比を、そのまま体現したかのような見事な姿態をしていて私の自慢の母上です。美しい金髪に縦ロールが残念ですが。
父上、いいじゃありませんか弟が家を継げばいいのです。長子なのだし、私の事は放って置いて戴きたい。
幸いな事に弟は父上に似ませんでした。どちらかといえば母上に似て、7:3に分けられた金髪はとっても似合っています。
そんな弟ですが、ちょっと病弱で武名でなる我が家にとっては心配ではあります。
そのせいでしょうか、顔を合わせれば同僚を連れてこいとか、男は出来たか? とかうっとおしい事この上ありません。
・・・・・・そう考えるとユウタをアル様とくっつけるのもどうかと思い始めました。
僅かながら王家の血を引き、遥か昔から先祖より連綿と受け継がれる物。
それは、我が家に伝わる不死身のジークフリード伝説。
それをもじって変換されたのか、ジークフリートと呼ばれるようになった剣を受け継いだのは弟ではなく私です。
父上曰く私には剣技の才があるそうですが、王国全体をみれば上はまだまだいます。
才ではなく剣を操る事に対する才だとでもいうのでしょうか。剣を起動するには魔力が足りません。
盾はなんとか使えますが、父上には先祖の再来を私に期待して見ているのでしょうか。
破滅の指輪など欲しくもないのですが? 父上。
ついでに失われたブリュンヒルデとかグラムなんて、物? 人かもわからないようなものを見つける気は、全くありません。
既に夕暮れというよりも夕闇に溶け込みそうな森を、大分歩いた所でどうやら先頭を歩くセリア殿イープル達が、トカゲ共に補足されたようです。
PT会話スキルでもある念話で、イープルが連絡してきました。
「(シグルス様前方で、待ち構えるトカゲ共がいます! セリア殿のお力を持ってしても、回避出来ないようです)」
「(ええ、では強行突破しましょう。森の出口も近い。今そちらに・・・・・・いえ、そちらは脱出を急いでください。こちらはこちらで相手が来ました)
収納袋から大剣を盾のように作り、盾としての厚みを持たせた十字の盾を探します。
夜空に輝くような星の光を形にし、同時にそれを十字に刻んだ家宝、スターシールドを取り出し装備します。
後方を見れば、松明が延々と並んでいました。タイミングを狙っていたんでしょうか。
後方より迫ってくる蜥蜴人の集団が、松明を片手に接近してきました。
キューブステータス シグルス・ジギスムント 21才 十字騎士
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