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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
二章 入れ替わった男
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374話 中世未満の戦争

 ミッドガルド軍なにするものぞ。

 その意気込みで攻略しようとしてたのに。

 

「そんな、馬鹿なことがあってたまるか」


「敵は、エレッカ砦を破壊してこのサンボルタへ向かっているようです。撤退の指示を」


「撤退だと? 冗談ではないぞ」


 予定では、キュルク城も攻略しているはずだったのだ。

 それが、一体、どうして頓挫してしまったのか。吸血鬼がでただの天空城が飛来しただのと流言飛語が飛び交っている。


 ようやく落としたサンボルタ城は、穴だらけになって燃え落ちた。 

 敵の、


「敵は、どれだけの軍勢だ」


 戦力を推し量らねばならない。グスマンが引けば、ファガディア城を攻めているオリバーレス伯爵の軍勢

が敵中に孤立することになる。もっとも、グスマンの軍もまた脇腹を突かれる格好になって窮地に立っていた。


 兵の顔は、浮かない。


「それが、たった1人だとか」


 次の瞬間、赤い光と共に爆発が起きた。


「魔術士の攻撃だと?」


「敵襲」


 敵の軍勢が迫っているという報告はなかったのだ。方陣を敷いて、民家を接収して休息していたのだが。通りに出ていた兵が浮き上がっていく。と、同時に扉が飛んできて押しのける。

 強力な魔術による攻撃だ。


 空から来ているのなら見えているはず。兵が外に出ると、後に続く。敵の姿を探すものの、砂埃が酷い。 

(一体、なんだというのだ)


 逃げる兵の姿が目に入る。恐るべき敵の攻撃で、戦車が溶解し車体の下部分だけが残っていた。


「撤退だ。逃げろ」


「了解しました」


 戦うどころではない。魔導で強化されたはずの装甲板が、溶ける熱量だ。とんでもない魔術士を投入してきたのだろう。せっかく落とした城だが、再利用できないのだ。問題は、どうやって逃げるかであった。矢を射掛ける兵の姿が目に入る。 


(オリバーレス卿の娘が、後続だったな)


 赤い光が襲ってくると、兵が燃え落ちた。火系の術か。それとも光系か。

 この場を切り抜ければ、なんとかなる。いかに剣技とスキルで女の身で、成り上がろうと所詮は女。

 一度の失敗で、将軍の目はない。


(服を変えておこう)


 しかし、次の瞬間には意識が飛びそうになる。何かが飛び出している。地面からだ。

 体は、動かない。だんだんと力が抜けていった。






 かつては、人がいたのであろう家は燃え落ちて住んでいる人の姿はない。

 ヘルトムーアの軍勢が焼き払ったと見られる村。家畜も残っていなかった。

 戦争というのは、残酷なものだ。


 そこかしこに、首のない人が放置してある。

 

(糞が・・・)


 ヘルトムーアしかり、アルカディアしかり。

 日本と違って、民だろうがなんだろうが殺して根絶やしにする。

 攻め込んだら、いずれは領民になるだろうに。


 のんびり観戦だなんてしていられない。

 森が燃えているので、水球の術で鎮火をしてから進むと。

 胸糞悪い光景に出くわす。


(うえぇ。女の子が・・・)


 脳みそが飛び出して死んでいた。蘇生を試してみるものの、蘇ることができないようだ。

 老人も、子供も、一様に逃げようとして殺されたのか。

 村の側で、死体になっていた。


 いつもなら嫌味の1つでも言うひよこはいない。


(敵は、捕らえられないか)


 兵士がいれば、捕縛するという選択肢もあっただろう。しかし、率いている兵隊もいない。

 味方の軍勢は、後退してしまった。

 進んでいるのは、己だけ。ユウタは、辺りを見る。


 草原と西側に人の姿があって馬から、


(矢か)


 飛来するのは、矢と。盾に触れた砲弾。止まっているところを看破されたようだ。

 砲弾を放った戦車の姿がある。横にゴーレムと思しき人型があった。

 火色の光がゴーレムを破壊する。対魔術防御を施していないようだ。

 

 もしくは、していても貧弱なのか。それとも、質で上回っているから手応えを感じないのか。

 走って移動する。

 日本の戦国時代と違って、村を略奪して殺して回るのなんて普通だ。


(一体、何がやりたいのか)


 決まっている。敵を殺すのだ。領土を広げ、敵対部族を消滅させる。

 その感覚が、未だに戦争から抜けきれない理由でもあった。

 考えるに、強姦したり、奴隷にしたりと何でもありの戦争である。


(敵か)


 鑑定は便利なスキルだ。遠くにいる人間でも、ヘルトムーア軍だということを教えてくれる。

 戦場ではなくてならないスキルだろう。

 味方であっても、村から略奪をしたりするのだからたまらない。

 殺せば、味方の数が減るという。


 遠見の術で、エレッカから東へ1キロもしない位置にいるヘルトムーア軍を発見した。


(さて、と)


 子供が1人で行って、降伏勧告をしたところで信じることもないだろう。

 なので、先制攻撃あるのみだ。

 近寄られる前に、地上で休んでいる飛行型の魔獣から始末しつつ前へ進む。


 隠形を捉えられると拙いのだが、どうしても火線を使えば居所がばれてしまう。


(味方は、何をしてんだ。さっさと来いっつーの)


 見つければ、片っ端から焼いていき、禍根を残さない。

 

(弱すぎる。それとも、あの女騎士だけが特別だったということなのか?)


 ゴーレムも対魔術防御が施されているようであるが、紙を裂くように泥人形に戻る。

 城が見えるころには、動く敵兵の姿もない。

 空中を飛んでいる兵も撃ち落として、飛んでいるのは鳥くらいだ。


 戦車もまた火線で、燃え落ちている。

 残っているのは、城の前にある家くらい。人らしい姿はない。

 城と言っていいのかわからないくらいだ。門も崩れ落ちて、何がなんだかわからない。

 

(家の中に残っているな)


 家の並ぶ道を裏手から進んでいくと。辺りを伺うようにしている兵がまばらにいる。

 道にいた兵は残していない。

 畑があるものの、そこには人の死体しかない。植えられたものに降り掛かっているのは、赤い色だ。


 死体は、男の方が圧倒的に多い。

 敵兵といえば、息を潜めて中に隠れているつもりのようである。

 赤い煉瓦が作られた家の壁。窓は、閉まっていて中は伺えない。


 草の生えた裏手を歩いて進む。敵兵がうろついている様子がない。

 立てこもって、姿が見えた瞬間を狙い撃とうというのか。

 進んでいくと、木が並んでいる。そこで、尋常ならざるものを見つけた。

 

 なんであろう。まるで、毛虫が吊られたようにしていたが。人だ。両腕があり、手足がある。

 木の間で、首を吊っている人間を見るに脳が焼き焦げそうだ。


(ひでえ)


 目が抜け落ちているものの、女の子であった。素っ裸で、もがいた痕のようなものがある。まるで、警告するかのようだ。

 接近してくる気配が、3。姿は、見えない。その後ろに20。

 脱出しようというのだろう。


 畑で、何もないのだ。走り寄ってくるに、気配察知のスキルを持っているに違いない。


「その心臓を貰い受ける!」


 両腕を交差して、構えを作っていた。

 言ってくれる。だが、そんなことにはならないのだ。

 雷電の光が、手に生まれる。

 魔方陣が回転して、くるくると。左右に分かれるものの、関係ない話だ。


(死ね!)


 迫る敵に間合いを取りながら、雷光剣を振るう。ゴーレムと見えない敵兵をまとめて薙ぐ。

 歩兵は、削れたものの。ゴーレムは、形を保っている。対雷電防御をしているのか。

 先頭を切って迫るアサシン型の兵は、接近を止めようともしない。


 後ろに下がりながら、同じ速度で迫る兵に脅威を覚えた。

 しかも、避けるのだ。銃弾をも避けるであろう敏捷さ。

 方向性を持った拡散するように放つと。


 短い悲鳴を上げて、黒いタイツを着た男が3人。姿を現して、地面へ倒れる。


「お前は、何者だ」


 何者だと問われても、答える必要がない。

 倒れている間に、鉄の剣をインベントリから出して首と心臓を貫く。

 ゴーレムの方は、再起動できないのか。


 赤い光が、黒いのと赤いのを貫いて爆裂した。

 敵に動きはない。

 空を見上げると、雲が日差しを隠そうとしている。げんなりした気分に活を入れるべく、ハイデルベルクへと転移門を開いた。



 

 石畳の上には、穴が掘られている。

 寒いのに、上半身を露わにした男たちが土を掘り返して管を埋めてようと頑張っていた。

 その向こうでは、錬金術師と見られた男たちが2人で突っ立っている。 

 頭を深々と下げるのだ。


 上がるのを待って、同じように下げる。それから、扉を開けて中に入ると。


「お、来たじゃん」


 アルストロメリアとトゥルエノが立っていた。


「ん、まーね」


「何処に行ってたんだよ。迷宮じゃねーだろうな」


 語るのも、億劫になりそうな現実だ。椅子から立ち上がって、テーブルの上に置かれた容器をちらつかせる。


「そうじゃないよ。もっと、きついとこだった」


「へー。じゃ、やめとこうかね。それよかさー、ヘルトムーアに行って来いって話があるみてーじゃん。どうなのよ」


 実は、そこに今しがた行ってきたのだが。とんでもない戦場に、精神が参っている。

 ひょっとして、柔くなってしまっているのかもしれない。

 

「やつら、大概な外道だね。久々に、煮えたぎってきたよ」


 微笑んでいたトゥルエノが頭を撫でてくるので、困ったものだ。

 赤ん坊をあやすかのようで、くすぐったいというか。

 キモデブオッサン臭の精神が、みるみる内に元気になってしまった。


(おれ、ひょっとして、大概なチョロインなのか?)


 ちょっと、優しくされただけで勘違いしそうになる。罠に決まっているのだ。

 手を取りながら、戻すと。じーっと半眼で、睨んでいる女の子がいる。


「おめーさー。なに、頭を撫でられて嬉しそうにしてんの? 変態」


 ぐさっときた。変態なのだろうか。

 ユウタは、変態ではないと思っているのだが。


「俺様が撫でてやるよ。嬉しいだろ」


 手を伸ばそうとしてくるが、避ける。


「テメエ・・・なんで避けんだよ。ふざけやがって。ぶっ殺すぞ」


「なんで、そんなに怒るの」


「抵抗するんじゃねーよ」


 とんでもない女の子であった。飛びかかってくるところをトゥルエノが後ろから捕まえる。

 

「ご無事ですか。主様」


「うん。ありがとう」


「面白くねー。せっかくポーション瓶を売れるように都合つけてきてやったってのによー」


 それは、吉報だ。目を合わせると。何故か、顔を真っ赤にして背ける。


「勝手に、見てんじゃねーぞ。金取るわ」


 なんて言うから、虐めたくなってしまう。



 

挿絵(By みてみん)

「味方は、味方。敵国は、敵です」


Cグミ様作画

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