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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
二章 入れ替わった男
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371話 ポーション売り3 

 男が、足を踏み入れようとして。


「おぶっ」


 腹に足を添えて押し戻す。若干、浮いて扉の外へと飛んでいく。

 その後ろに、灰色の太い糸で編まれた帽子を被った男が立っている。

 反対には、痩せた頬に鋭い眼光をした男。


(外道っ)


 言葉を放つよりも先に動いた。

 皮の靴を掴み、引っ張る。反対の男の足も。相手は、鈍亀のように反応が鈍い。

 めり込む指に、攻撃が降ってこなかった。引きずりながら、へたり込む男の前に転がせば。


「いづ」「ってえ、糞ガキっ」


 と、叫び。倒れている男をかばうようにして、杖を構える外套の男がまた2人。

 ユウタから見て、左の男が持つ杖に魔方陣が浮かび上がる。

 石が杖に当たるよりも先に、召喚された体が形成された。


(速いな)


「魔術士、だな?」


 確認するように尋ねてくる。しかし、問答無用。敵なのだ。


「何をやっている。殺せ、あとの始末はなんとでもなる」


 相手方は、じりっと半円を組む。もう片方にいた鼠色のローブを纏う男と目が合うや、


「はああ、うあああああああああ」


 と、気でも触れたかのように叫び声を上げながら逃げていくではないか。まるで悪魔に会ったような顔になって。

 

「おい、逃げるな。あの野郎、ただじゃおかねえ」


 腹をぷっくりと膨らませた男は、手下に支えられて起き上がろうとしている。

 剣を抜いた男たちが狭まってくる。召喚獣とみられる物体は、蛇のような頭から炎でも吐きそうだ。

 大気の魔力を吸い取っているよう。陽炎のように揺らめきが見えた。


「一斉にかかれ。子供、だと思うな」


「外道に与する、外道どもめ」


 大きな魔術は、ぶっ放せない。町の中である。


「ほざけ、死ねやっ」


 その言葉が、引き金だった。後ろからは、援護の矢が飛び剣を振りかぶる男を支えている。

 端だ。嫌な予感がするとも。


「かかったな。防壁旋回陣」


 合わせスキルを発動させた。連携スキルとも言う。障壁に挟む技。


 冒険者崩れとは、ありがちである。スキルを使ってきた相手の懐に潜り込む。

 味方が邪魔で、切れない相手の防壁を盾にして拳を叩きつけた。

 腕が折れて、口からは悲鳴が漏れた。股間を蹴り上げ、突きを取ると。


「うぉおお」


 雄叫びと共に突進をしてくる。捕まえようというのだろう。拳を膝に、次に顔面へ。

 右に左に。手加減を目一杯して、死なないように殴る。

 崩れ落ちる男に変わり、電撃が召喚獣を襲っていた。


「我がしもべに魔術は、効かんっ」


「ああ」


 歩いて、近寄ると胴体を蹴り上げる。青黒い蛇頭をした4足の召喚獣は、空中に消えた。


「だから、なんだっていうんだ。舐めてるのか」


 後ろに下がりながら、目を見開いている。飛んでくる筒から放たれる矢を指で摘みながら、前へと進む。

 援護していた護衛の男2人に、お返しを見舞うと全身に矢が突き立つ。

 

「馬鹿な、そんな。魔術士が、護衛もなしに近接戦闘をこなすだと」


「お前は、できる傭兵のようだ。だが」


 主人である男の膝を砕く。両隣に控えていた男たちというと、後ろへ下がって今にも逃げ出そうとしていた。


「この糞の味方をするなら、容赦しねえ」


 手始めに、顔面へ拳を叩きつける。死なない程度に。鼻柱を潰す手応えだ。


「貴様ら、何を騒いでいる」


 横を見れば、人の輪を押しのけるようにして鈍色の鎧を纏った集団が現れた。狭い通路に並ぶと。

 筒型のボウガンを握りしめた男が、牽制しながら寄っていって耳打ちする。


「なるほどな。小僧を捕らえよ」


 兵が、前へ槍を構えて進んでくるではないか。捕えるにしても、やり過ぎだ。

 火線を使えば、一撃で町ごと焼き払う事ができる。それを考えに浮かべた瞬間。


「わが騎士に、槍を向けるとは愚かどもめ。構わんぞ、ユーウ。皆殺しにしてしまえ」


 声の主は、マリスんちの上に立って見下ろしている。

挿絵(By みてみん)


「それは、拙いのだ。ユーウ、魔術でぶっ飛ばしてしまうのはいけないのだ。せいぜい、ミンチにするぐらいに留めよ」


「なんだと? 誰だ!」


 見上げる男は、鈍色の兜を上げて貧相な顔がでてきた。


「誰を見上げているか。俺の許しを得ずに、頭を上げる。痴れ者めが。全員、肉片にしてばらまいておけ」


 と、とんでもない事を言うのである。回りの人間ときたら、ひれ伏していて動こうともしないが。

 

「う、嘘だ。このような場所に、王族が現れるはずがない!」


「このアル・フォン・ミッドガルドを侮るか。下郎」


 1人、気炎を上げ立ったまま剣を振る。2人いるからおかしなことになっているのに。

挿絵(By みてみん)


 羽を生やしたアルルが、剣を抜く。彼女に斬られればどうなるか。地獄行きで済めば御の字である。

 男の体を土槍で突き飛ばして引き寄せると。


(はっ)


 ぼこぼこに殴っておく。百か。瞬きする間に、膨れ上がって歯が飛び散った。

 止めに、金的で玉を一個潰すと。

 

「ひっ」


 見下ろす男は、後ろにずり下がった。アルトリウスとアルルは、親指を下にして上にする様子はない。

 すっかり萎えている。男は、醜い性根だがさりとて殺すまでもない。

 男には獣欲があり、それを叶えていただけだ。


 しかし、まかり間違っていればマリスは死んでしまっていただろう。

 ユウタだって、出会わなかったに違いない。

 振り返ると、屋根に2人の姿はなかった。胸の辺りを掴むと、おぞましい光景を垣間見た。

 霊気が映像を見せるとは。


「か、金なら払う。好きなだけやろう」


「僕の名を言ってください」


「・・・あいにくだが知らん」


 知らなくて当然かもしれない。ハイデルベルクでは知名度がまるでないようだ。

 ミッドガルドでも同様にない。つまり、恐ろしいから戦いを避けようとかそういう事もない。


(セリアを召喚するべきか?)


 まさに、彼女は暴力の化身である。ちょっと強そうな人間をみれば、顔面パンチをかまさずにはいられない狂犬ならぬ狂った狼。破壊し尽くすから呼べなくなっている。


「ですよねえ。ところで、なんでこの家に入ろうとしたんですか」

 

 なんとなくわかっていた。


(知らないまま、殺す訳にはいかねー。けど、この野郎・・・地獄すら生温いぜ。ああ、このまま知らずにマリスが死んでいたなら、きっと・・・)


 残されたサーラは、なんと思った事だろう。

 なんと思う事だろう。天に地に、善などないと思うに違いない。


「そ、それは」


 顔面から汗が吹き出している。寒いのに、誰一人動いていない。

 

「それは?」


「借金の返済だったんですが、その。もういいので、はい」


「本当に?」


 嘘をついている顔だ。汗を舐めたら、嘘の味がしそうである。決して野郎の汗など舐めないが。


「い、いえ。その」


 嘘をついて貫こうというのか。日本なら、ここでげろってしまうところだろう。

 だが、異世界。認めれば、敗北であり、敗者は全てを奪われる傾向にある。

 良くも悪くも、オール・イン・ワン。


「わかりました。これからは、善行を積むと約束してくれますか」


「え? いや、はい」


 立ち上がると。信じてもいない十字架を取り出し、


「汝、姦淫に耽ることを禁ず。また、過ぎたる欲に他者を虐げること甚だしく。悪行三昧。よって、畜生道の手前にありけるなり。正道に戻ること。されば、幸あらん」


「あ、あ。はい」


 実際、積み上げたカルマ値が高いせいか。生気が、極端なまでに黒いのだ。駄目かもしれない。


「最後に、お名前をお聞きしてもよろしいか」


「え、わしの名前はポルコです」


 ポルコ。このままでは、地獄行きは確定だろう。


「ポルコが、悪行を行えば即ち全身の筋肉という筋肉が収縮し、断裂することでしょう。ですが、それで死ぬことはありません。その内です。後悔しようとも、痛みの中で死ぬ事になります」


 かけた言の葉は、強力だ。

 悪行を止め、真人間にならないといけない。そう。死刑宣告のようなものである。

 正道を歩まねば、血裂崩肢。山河に咲く花弁のように飛び散ることだろう。

 すると、突然。


「は、あがああああ、たす、助けてっ」


 駄目であった。許しも虚しく、破られた。男の体という体から、血が流れ出すではないか。

 助けようにも、血が吹き出して止まらない仕組みだ。


「なんで、こでええええ」


「貴方という人は」


 本当に、度し難い外道であったようだ。心の内まではわからないけれど。

 血しぶきを上げる男に近寄ろうとする人間は、いないようだ。

 

「せいっ」

 

 裂帛の気合を孕んだ声が、鋼を切断する。切っ先を受け止めると。

 轟音が大気を震わせた。眩い光。ややあって、肉の焦げる匂いがする。


「あぶないですよ」


「ありがとう」


 刀を鞘に納めながら、歩いてくる白い上着に赤い袴をした巫女服姿の少女。

 危なくないのだが。倒れたマリスとサーラが心配だ。血しぶきを上げる男をイベントリに入れると。

 石でできた家の中へ入る事にした。


 未だ膝どころか額を地につけたままの手下を見ているのは、トゥルエノで。情報を集めたい。


(どーしようか)


 恐るべきは、民心の腐敗だ。ハイデルベル王国になるイベントがあったはずなのだが、ユーウの記憶にないのである。

 力だけで解決できればいいのだが、そうもいかないのが人の心であった。







「ひのふのみ、4か」


 金色の髪に、鱗のマント。角が突き上がり、天に伸びている。


「1000年ぶりじゃの」


 もこもことした襟巻に、綿毛を摘む少女は煙管を手にした。


「ここは、禁煙です。金魚は、これないようですね」


「急な呼び出しじゃものな。オウカよ、なんぞ進展でもあったのかよ」


 狐耳を立てる少女は、面白くもない声音で言う。


「毛玉が揃い、汝も来た。なれば、そろそろ動いて良いのではないか」


「ハーレム計画かえ。されど、樹のやつ、まだ寝とるぞ。ええのん?」


 煙管には、水しかはいっていないのに煙を吐き出す。


「あれが、起きたらぶち壊しになる。そういい含めてあるからねー。でさー、あの魔女っ子さー。排除しちゃわない?」


「汝、またそれかえ」


「却下致します」


 毛玉は、毛玉のままで動こうともしない。


「だめだこいつら。あれの危険性が、どんだけやばいかってのー」


「否」


「駄目なのは、お主よ。危ない橋を渡るでないわ」


 13の席の内、4つが埋まっている。


「ぎょぎょ」


「お主」


 新たに現れたのは、丸い魚だった。風船のよう。それが、2本の足で椅子に座る。

 どう見ても、不格好で水から上がったばかりのよう。

 雫が椅子の後ろで池を作っていた。


「金の魚、ようこれたの」


「ぎょー」


「はよ、人化せんかい。ぼけっ」


「ぎょ・・・」


「駄目じゃ、こやつ」


 金魚が、人語を喋るのは時間がかかりそうであった。


「血の方がはよう来そうであるのに、どこで遊んどるんじゃ」


「いいじゃん。それよりさー。人間処分の提案をー」


「お主と毛玉だけじゃろが。の」


「魚、お前」


「そこの竜、強制してはなりません」


「ちぇ」


 毛玉すら持ち上げて、同意させているようである。ひよこは、ぼっちだった。

 

2B@始めたて様作画 アルトリウス

Cグミ様作画 アルル

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