368話 戦争は終わらない?
どうやって虜にするか。
とにかく、部屋にでも行ってみる事だろう。
アルブレスト邸は、庭に木が植えられており竜が棲みついている。
(恐怖なんだけど…。他の奴ら、平気なのかよ)
普通の人間では、まず出会うこともない。それが、竜だ。
大型の蜥蜴ですら、スキルを持った冒険者は苦戦する。
おとぎ話で、大陸から姿を消したはずの種族。
森のように鬱蒼として、虫の音が消えると。背筋が冷たくなった。
(水?)
最初は、スライムかと思ったが。隣を歩く姉妹は、何処吹く風である。
怖くないようだ。
「うんこ、漏らさないでありますね」
「毎回、脱糞するって決めつけんなよな」
「ふふ。うんちが出ないだけだよ」
「なんと」
最近、食事を取る気にもなれないのはまさにゲロとうんこのせいであった。
ぶっといの出すと、爽快なのだが。
大きく息を吐いた。
「恐怖でありますからねえ。まだ、アルストロメリア殿は新米であります。ガッツでありますよ」
「まーな」
そう安々と脱糞するつもりもない。なので、紙のおむつを仕入れる必要がある。
「新作、いる?」
「おう」
白いおむつだ。これがあるのとないのとでは、大分違う。
500ゴルと超格安。受け取ったら、即装着した。腹にほとんど入っていないので、出て来るものも少ないだろう。最近は、腹が凹んで来たくらい出ている。
進んでいくと、びちっびちっという音が聞こえてきた。
なんであろう。
小さな狐とひよこが道でぶつかり合いをしている。
「まーた、喧嘩でござるか」
「どっちが、強いかなんてさもしいよね」
「誰がさもしい「んじゃい」の!」
息がぴったりなようだ。人語を話す獣というのも、非常に興味をそそられる。
「それで、今日は一体何が原因でありますか」
その向こう側で、女の子がちらちらと様子を伺っている。真っ白な髪に真っ黒な角が生えていた。
目が離せなくなる。肩を掴まれた。
「あれを見ては、いけない。であります」
「お、おお」
魅入られるというのだろうか。その間にも、
「ふん。どっちが、一等強いかって事だよ」
「わらわに決まっておるわ」
「のわりに、傷だらけー。ぷぷっ」
「糞ひよこが、うんこいろにしてくれるわっ」
ビチビチビチビチと、肉がぶつかり合う音がする。
目で追えない速度で、6畳間くらいある金色の壺を作っているかのよう。
動物たちも和を持って尊しとする、という訳にはいかないのか。
「またー? 通れないんだけど」
「今日こそ、決着をつけてくれるっ」
何時迄も通れないと、寝る時間になってしまう。困っていると、ぴよまるが、鳴いた。
「貴方達」
声がした瞬間、女が現れる。空間から出てきたのか。それとも、走ってきたのか。
わからないが、すっと手を壺へ突っ込み。
「ぴぎゅっ」
潰れそうな声を出して、2匹が捕らえられた。
(やっと、通れるぞ。それにしても、このメイド)
一体、何者なのだろうか。銀色の髪にカチューシャ。青いメイド服に、長いスカートで足は見えない。
白い髪をした少女は、いつの間にか居なくなっていた。
「さ、中に入りましょう」
そうして、足を前に出した瞬間。耳が、生温い。地面が、迫ってくる。
ユウタは、食事を終えて寝ようとした時だ。
部屋でくつろぐ狼だとか、妹たちを追い出してベッドに座って居たのに。
「で、どうしてこうなってるの」
仰向けになったまま運ばれてきた幼女は、白目を剥いていた。
ついでに、手は悪戯されてピースサインをされている。
黒い箱が光を放っている。ルーシアは、写真でも取っているのか。映像を写す魔道具のよう。
酷い光景に、釈明を求めた。
「うーん。アルストロメリアが、ユーウの家に遊びにきたらこうなったであります」
「あたしたち、お風呂入るね」
「疲れたであります」
鎧を脱いだラフな格好で、そのまま家の風呂に入るつもりでいそうだ。
部屋を見ると、赤いソファーでテレビを囲むようにしてゲームにいそしんでいる面々。
人の部屋は、たまり場ではない。
「だーも、なんで勝てんのだ。クソゲー」
「4台欲しいですね」
「そーなのだ。さっさと、日本人に作らせるのだ」
画面を4台? 作れない。そんな無茶。パソコンを異世界で作ろうなんて、無理がある。
異世界で、簡単な自動車を走らせようというのはまだわかるが。
PCというのは、半導体からして製造できないだろう。コーボルトは、戦車を作っていたりしたものの。
戦車といっても、動くやかんと言ったなり。
(異世界にやってくる連中が都合よく技術を持ってる? いやいや。冗談きついぜ)
また日本にでも行ければいいのだが。あいにくと、ほいほい移動させてくれない。
アルルが視線を送ってくるではないか。シグルスが、隣に座ってあれこれと指導している。
ヘルトムーア王国と戦争中だろうに、2人は暇なのか。
暇しているように見えて、
「だー、もう何なのだ。ずるい、ずるいぞ。こっちのターンが全然来ないのだ。ボコられてるのだ!」
ロボゲーのようであるが、ユニットを生産し易いもので押しまくっているのは。
「・・・常に先手を取る。常道」
「流石です。ティアンナさま」
2人は、胸をこたつの上へ乗せていた。ついでに、顎を上に乗せおっぱいを敷物にしている。
(痛くないのだろうか)
でかすぎて、頭を乗せられるという。
痴女と喪女が揃って、無敵のようだ。風の術で、疾風のように移動できるのだろう。
ハイデルベルクから、家までやってくるのも日常になりそうだ。
(そろそろ、寝たいんだけど)
壁の暖炉に、薪が焚べられて暖かい。外を見れば、雪が降っていた。
「うー、さみいのだ」
「暖かいですよ」
テーブルは、こたつに蜜柑が乗ったものに変わっている。
トゥルエノもまた2人にならって、足を突っ込んで身体を滑り込ませた。
仮にも戦争中なのに、暗殺を警戒しなくてよいのだろうか。
水晶玉を通してヘルトムーアをみる光景というと、鋼鉄の戦車が砲弾を撃ちまくって自らの首都を攻撃しているという。一方、ミッドガルド軍の兵は国境で戦闘している。相手は、散兵、ゲリラと化した兵のようだ。
山岳地帯で、木が豊富。海沿いと山に進軍ルートが分かれているようだ。
1人、セリアを放っても占領できていないようである。
破壊には向いているものの、銀髪のオオカミさんは細かい仕事を苦手にしていた。
アルルは、蛙のようにひっくり返ったままの幼女に顔を向けると。
「ところで、こいつ、なんなのだ」
「酷い顔ですね」
公開放置プレイのようだ。アルストロメリアは、白目を剥いて寝たままだ。
赤い舌がだらんと力なく出ていた。目が覚めないようである。
「そろそろ、寝たいのですが」
「ふーむ。どうだ、この王子を王子とも思わない態度。帰れって言うのだぞ」
「確かに。不敬とは、申しませんが戦争への協力が足りないですね」
他国へ攻め込むのは、気が進まない。しかし、それを言ってしまうと首にされてしまいそうだ。
ミッドガルドは、不敬罪なんてものが普通にある国である。逆らえば、奴隷にされることも。
その奴隷。王自らが廃止しない限りなくならないだろう。
「補給をやっておりますよ」
「足りないのだ。さっさと、ゲリラどもを捕まえて火あぶりにするのだ」
人を人とも思わぬ。
酷い殺し方で、神をも恐れぬ所業である。ゲリラやスパイには人権も存在しない態度だ。
アルルもシグルスも顔は、画面の方を向いている。
「苦戦しているのですか」
「その通りだ。明日でもかまわんし、今からでもいいのだ。鬱陶しい虫けらどもを潰してしまえ」
情操教育は、どうなっているのだろう。アルルが、戦争大好きなのは過去でも未来でも変わっていなかった。入り口の横にある穴から、銀色のわんこが入ってくる。そのままベッドへと移動して、横になった。
風呂に入っているのだろうか。
犬の匂いがした。つかもうとしたら、逃げられる。疲れているようだ。
「しっしょう」
扉が開いてザビーネが入ってくる。
「どうしたの」
「おひつじさまを見ていませんか」
帰ったのではないのか。故郷に帰るはずだったろうに。金色の羊を抱えていない。
「ここにいるのだ」
こたつの金縁をした白い布裾を上げると。もこもこした金の毛で覆われたお尻が出てきた。
シグルスが、お尻を撫でる。
「帰るのですか?」
「帰りますとも、うん?」
ザビーネは、羊の身体を掴んだが、
「動かないのだ」
「ええ~。皆が、おかえりを待っているんですよ~」
というのだが、こたつの魔力に捕らわれてしまったのか。出てこようとしない。
ひよこに狐と毛玉。それにちびっこい竜たちでこたつが占領されようとしている。
「帰りたくないものを無理やり帰らせようとするのは、良くないのだ。止めておくがよい」
「でも、ですね。長老たちもみーんな待ってるんです。連れて帰らないと帰れないんです」
眠い。
非常に眠い。殺して、殺されての戦争に全力でのめり込むつもりはない。
勝手にやっていて欲しいのが、本音だった。
ついでに、
「ヘルトムーア王国。どうするおつもりです」
「む? どうもこうも、占領して支配するに決っているのだ。支配する民は、多ければ多いほどよい。わかるであろう」
いや、わからない。相手の反発など、毛ほども恐れていないようである。
「戦を恐れているのですか」
「・・・ユーウは手加減できないから」
「一向にかまわんのだが?」
負けるとか、全く想定していないし。この苦戦すら業腹に違いない。
敵が圧倒的で、勝てないとか。あり得るのだが。
(勝てば、官軍だし。負ければ大罪人にされるだろうけどさ)
子供を戦場に出すというのは、国としておかしいとか思わないのだろうか。
まだ、9歳なのに戦場に行かされる。
しかし、負ければどうなるか。ミッドガルドを囲んでいる国によって、喰われてしまうことだろう。
(強い方が勝つ。そして、勝った方が正義ってな。そんな事は、わかりきった事だろう。なあ)
負けっぱなしでいいのか。日本人なら、戦争をいやがるかもしれない。
戦争は、悪だと教えられてきたから。
戦争のない平和な国。日本。戦争が下手だから戦争をしてはいけないというのは、わかる。
精神論で、人を使い潰すのが名将の条件とかいう基地外なのだから。
(戦争は、駄目なんだけどなー。ほんと、なくならない)
現代の世界を見ればどうだっただろうか。
ベトナムで、アフガニスタンで、クェートで、イラクで、リビアで、シリアで。
絶えず、定期的に。何処かで、戦争が起きてきた。全人類が滅びるほどの核兵器があっても。
(終わらない戦争。核兵器があってすら終わらなかった。だから、核兵器で全滅する恐れがない世界では終わるはずもない)
そう。今いる世界には、核がない。変わりに、魔法、魔術がある。
戦争をしていけば、どうだろう。親を殺された子は?
復讐者となって、ミッドガルドへ牙を向けてくるだろう。
(殺して、殺されて。それでも、戦争するっていうんだから人間ってのは始末におえないわ)
日本人たちが持ち込む科学兵器もまた戦場を過酷に、より凄惨な物へと変化させているのだ。
勇者として、異世界より送り込まれてくる彼ら彼女ら。
世界の何処かにいて、何処かで死んでいるだろう。或いは、生き延びている。
今は、優位にあるミッドガルドだが。
(殴っている側が、いつ殴られる側になるのかしれんのだけれど)
アルルは、ゲームを止めようともしない。
「殿下」
「なんなのだ。私は、いそがし、あばああ、ぜ、全滅?」
画面では、マス目がティアンナ軍とみられる青ユニット一色に染められていた。
「何でしょう」
とりあえず、寝たい。出ていってもらえないだろうか。その言葉を飲み込むと。
「ヘルトムーア王国と戦争を続けて、また占領してしまうのですか」
「それが、何か問題でもありますでしょうか」
シグルスは、事も無げに言い切った。
アルカディアの事もそうだ。当然の事として、侵略し占領するものと捉らえている。
かの国との事は、仕方ないと割り切ってやれた。
(殴られたら、殴り返すもんよ。殴られるのが正解とか150万恐喝されるのが正解とか。理解できんし)
殴られていろ? そんなもの断るに決っている。
何しろ、戦争にしか思えないやつを。百年以上も小競り合いからやってきていたのだ。
早急に、終わらせる必要があった。アルルは、リトライするようだ。
NEW GAMEを選択した。
「前に、説明していなかったか? 星の修復をする必要があるのだと。あんぽんたんどもが、重力兵器でぼっこんぼっこん大穴開けたからだぞ! そのあんぽんたん野郎こと日本人な! 重力子を解明したら、あら大変。地面は、浮くわ、地殻が崩壊するわでこら大変。今、有翼種たちが住んでいるとこな。もー、我慢ならんのだと言ったけれど、止まらないのだー。で、そろそろ征服してこいと言われたのだ。なので、はっきし言うと。人間、皆殺しにしていいのだ。けれど、可哀想なので! ココ重要なー。なので、従うものは許してやろうと言ってるのだ。全然、信じないし言う事聞かないけど。あ、やばいのだ。まったなのだ」
全然、聞かない話だった。
シグルスは、頷いている。トゥルエノやエリストールは、わかっていなさそう。
「・・・待たない。そして、本当のこと」
冷静沈着に機械仕掛けかと思わせる速さで、進める風妖精。
アルルは、髪を振り乱し一体化したようにコントローラーを動かす。
身体が一緒に動くタイプのようだ。
「人間、度し難い愚かしさだよね~。殲滅しよっ」
「お主は、懲りんのう」
ひよこが、茶々をいれる。
アルーシュが「地面を掘るな」というのは。
地殻が崩壊しているからだったのか。
「じゃあ、戦争は」
「やるのが、正義なのだ。なぜなら、神族というのはー。神力を増やすのにー。レベルが頭打ちになるのだ。よって、支配する領域とか民の数が重要になるのだ。わかったら、ばんばん攻めて服従させるのだ」
聞いた事があるような気もする。しかし、本気にしていなかった。星が崩壊しかかっているとか。
神が居て、魔術なんてものが飛び交い。法律なんてものは、形だけで。
暴力が支配する世界に生きているのだった。
作画Cグミ様。




