51話 森でトカゲⅢ! (シグルス、ユウタ、セリア、アル、リザードマン)
1人称の危険を今頃味わっております。3人称ェ
某日某時刻 変異した森
薄暗い森の中に溢れかえる砕けた卵の残骸を踏みつけ。
戦っているのは、てらてらと光を反射する緑色の鱗を持つ蜥蜴人達。
と、防具を着込み剣や槌を持つ人間達。
全く数だけは多いと愚痴ってしまう人間達の一人、私です。
ユウタ殿の仲間達の攻撃で多くの蜥蜴人が地に伏せすでに事切れています。
滑るように間合いを一気に詰めつつ切り伏せていきます。
蜥蜴人連中が構える只の盾では騎士達のマジックソードから逃れられません。
ドラコゾンビはユウタ殿とセリア殿が相手をしています。騎士以下4人は次々に蜥蜴人を始末しつています。
左右に散るイープルは、もちろんアル様もモニカ殿も確実に蜥蜴人を圧倒しつつ倒しています。
包囲させないように突っ込みつつ的を絞らせません。
蜥蜴人が3人がかりでスピアを3方向から付きこんでくれば、穂先を斬り飛ばし退きながら滑空状態から3人仕留めるため【ソニック・ブレード】を放ちまとめて斬り飛ばします。
蜥蜴人の損害はかなりのものだったはずです。が、かなり倒しても遠距離攻撃はないようです。
遠距離タイプが居ない群れなのでしょうか。数だけの集団ならばこちらも恐れることはないですね。
心配なのはモニカ殿のことです。可愛らしいというよりはボーイッシュな顔立ちと体型の彼女ですが、この中PTメンバーからすればやはり死なれる可能性がかなり高いでしょう。
パーティー1の防御力を誇る装備しているアル様は、少々やる気がないようですし。やはり無理やり連れてきたのは不味かったのでは? と思います。
「アル様、モニカ殿大丈夫ですか?」
「こっこれしき、どうということはない!」
「大丈夫です! たあ!」
「そうですか。無理は禁物ですよ!」
「シグルス様ぁわーたーしーも大丈夫でーす!」
イープルには聞いてません。貴方が余裕なのは当然です。そろそろ一気に決めてしまいたいのですが、それではアル様の修行にならないので自重しているのです。
イープル。アル様とモニカ殿に1匹ずつ行くように調整するくらいでないといけませんよ? 突きこまれる槍の穂先を斬り飛ばして槍を引き込んで体勢を崩すと蜥蜴人を斜め方向から斬り倒す。
斬られた傷から濁った赤色の体液をほどばしらせながら、糸が切れたように倒れる蜥蜴人。
「バラバラでは危険です。アル様とモニカ殿で、ペアを組んでください」
「わかった」
「了解です」
この蜥蜴人は竜族を崇める部族なのでしょうか。お供え物代わりの亜人達が20人弱ほど洞窟内手前の壁際に追いやられているのが見えます。
が、こちらは手一杯です。
亜人達の顔ぶれを見ると。
チラホラと、獣耳や尻尾をはやした獣人にドワーフが見えます。こちらが手を出さなければ殺されないのかもしれませんね。
餌は活きがいい新鮮なものほど邪悪な竜も好むと言いますし、生前のドラコゾンビは邪竜か悪竜の類だったのでしょう。
この大陸には竜族はほとんどいないはずなのですが。
これは、どういうことでしょう。
ヨルムンガンドの末裔でもある知恵ある蛇・・・。
竜族達の多くが2回目のラグラナロクにて敗れた後。
他大陸で有翼人種との覇権争いを永劫万年続けているとは聞きます。
なんにしてもアース神族の末裔でもあるアル様にとってはドラコゾンビも楽勝の相手です。そこはアル様が本来持つ神族としての真価を発揮したならば・・・の話ですが。
次々と倒れていく蜥蜴人達ですが一向に撤退する気配がありません。そして更なる援軍が現れました。
入口に一際大きな蜥蜴人のリーダーとその配下。さらに生贄用の亜人達が20人ほど連れています。
全くもって厄介なことになってきました。そろそろ手加減しながら調整するのもやめにしますか。
「イープルそろそろ手加減抜きでいきますよ」
「えー。シグルス様、まだ本気じゃなかったんですネ!」
まったくこの子ときたら言っていることはお世辞なのか、自分もまだまだ余裕があるとアピールしているのかわかりづらい子です。
アル様付きの近衛騎士の中では最も実力のある若手の一人です。
が、たまに・・・。いえ、少々頭がゆるいような事を言ってしまうのが欠点です。
レィルが気になっているようですが。関係は進んでいないようです。
進んだら進んだで除隊ですが、貴族同士なので願ったり叶ったりでしょう。
まあ、そう簡単に才能ある若手同士結婚させる事に反対するわけではありませんが邪魔しています。
決して私が恋人の1人もできないから、ではありません!
重要な事なので2度言っておきます。
ええ、決して。ちょっと選り好みしすぎだとか。
釣り合う男性を選んでいたりはしますけれど。
普通そうですよね?
顔や性格で選んだり。騎士としての腕で選んだり。
何かの才能で選んだりするのは、当然だと思うのですよ。
友人からは鉄の女、等と呼ばれることもあったりしますが。
決して、このシグルス。行き遅れで、頭の不思議な騎士ではありません。
周りでチラッとでも行き遅れとか、蜘蛛の巣張ってやがるとか失礼なことを言う者が、いれば。即座に訓練と称して、物が一週間ほど食べられないように罸を下しますよ。
とか、壁に向かって一日中直立不動をやらせたり女性にたいする反省文100枚とかそういう暴力女ではありません。
はっ。かなり思考がそれてしまいました。
ともあれそんな風に別の事を考えながら。
それでも、余裕を持って蜥蜴人を始末していきます。
この連中ときたら単調すぎる攻撃を延々と繰り返すだけなのでしょうか。
っとたまに口から水弾を飛ばして来る相手もいます。
が、まとまった数ではありません。
人体を超えるような水球を作り出して飛ばしてこれる。
そのような相手がいれば脅威なのでしょう。
ですが、盾で剣で防がれるような水の玉では脅威を感じません。
ユウタ殿がドラコゾンビを倒し終えたのでしょうか。
【サンダー】の稲妻が蜥蜴人達を倒し始めました。
ドラコゾンビがどうなっているのか気になるのですが。
今は、蜥蜴人達に集中しましょう。
元々が水中戦闘を得意とする種。
それだけに稲妻は次々に水気の多い蜥蜴人達を仕留めていきます。
水属性だとかそういのもあるでしょうね。
蜥蜴人達は組織だった攻撃をしてこないのも弱く見えるところでしょうか。オークやゴブリン達に比べて見てもその特性とも言える鱗に頼った戦い方ばかりが目立ちます。
仲間がやられることによって怒りを力に変えて立ち向かってくる様子。
それは健気とも言えますが、少々雑です。
いえ、怒りで我を忘れているといってもいいかもしれません。
既に半数以上が殺られてもまだ立ち向かってきます。
ユウタ殿は【サンダー】から弓矢と交互に攻撃を切り替えてきています。
彼の攻撃で次々と頭に弓矢を生やし電撃に灼かれる蜥蜴人達。アル様の修行を忘れているのでしょうか、少々不味いくらい蜥蜴人達の数が減っていきます。
あまりに速攻過ぎますよユウタ殿、少々自重していただきたい。
と言えれば楽なのですが、まだまだ少年の域を抜けない子に頭ごなしの言葉は逆効果ですよね。
彼の年齢は16とか聞いていますからアル様と年齢差を考えても大分大人の精神安定度です。
結構好みの性格ですし、彼個人としての性格は大分把握したつもりです。が、人間というものは何を隠し持っているか知れたものではありません。
不確定部分を差し引いてもアル様の相手に彼の能力はうってつけの番に成りえます。こちら側に引き込む際、周囲の妨害があるでしょうが乗り越えてもらわねばなりません。
周囲を見れば後方にはドラコゾンビが火葬状態。
で、前方の蜥蜴人達はすでに蜥蜴人のリーダーとお供達だけになっています。
蜥蜴人達には、人質ならぬ亜人質を取る。
という考えは、思い浮かばなかったようです。
戦闘中にセリア殿が縛っている物を破壊し解放したようでしたし。
間に合わなかったと思うことにしますか。
「やりますよ、イープル」
「はいはーい。シグルス様、んじゃ私達は雑魚でいいですかぁ?」
「いいでしょう。では!」
イープル。
蜥蜴人を雑魚というには、少々難があると思うのですが。
まあいいでしょう。
蜥蜴人が包囲しようとすれば、斬撃です。
【ソード・ウェイブ】を放ち妨害します。
数による包囲だけは避けなければなりません。
セリア殿がユウタ殿に声をかけています。
「ゾンビ動き出しているぞご主人様」
「んっと。本当だ。うわ動いてるぞあいつ」
そう会話すると2人は洞窟奥ドラコゾンビの方に戻っていきます。どうなっているのか此処から振り返って鑑賞する暇はありそうもありません。
こちらは既にお供をする蜥蜴人達から突進してくるリーダー格を相手しています。周囲の蜥蜴人と比べるとひと回りと言わずふた回りほど体格が大きいですね。
手には人ほどの大きさを持つカトラスタイプの剣を持っています。
カトラスは、物理的な破壊力は相当なものがありそうです。
得物を振るおうとする蜥蜴人リーダー。
でしたがスピードがあまりにも遅すぎました。
大上段から斜めに振り下ろすように振るわれるカトラス。
これを易々と避けると、持つ腕を一刀にて斬り飛ばします。
持っている剣は、虚仮脅しでしたか。
返す剣にて、蜥蜴人リーダーを連続攻撃。さらに、その胴を薙ぎます。
止めの攻撃で心臓とおぼしき位置に半ばまでロングソードが埋まり、剣を振り抜くとどうっと音を立てて倒れる蜥蜴人リーダー。
まあ奥の手や技を使うまでもありません。
蜥蜴人リーダーは他愛もありませんでした。
お供蜥蜴人達も次々とイープル、アル様、モニカ殿に殺られていきます。
これほど弱いと、あっさりしすぎかもしれません。
アル様の修行になったでしょうか。
遠距離が居ないだけで、ゴブリン以下と感じてしまう。
のも、無理ないかもしれません。
蜥蜴人達をあらかた片付けて蜥蜴人達に連行されていた亜人達を戒めから解放して話を聞くことにしました。集団の中にドワーフがいたのでこの方から聞いてみます。
「私はシグルス・ジギスムント。栄えあるルーンミッドガルド王国に所属する騎士です。どうしてこんなところに? どこからきたのですか? 蜥蜴人達との関係は? 此処について知っていることを話して戴きたいのです」
「助けてもらったことには感謝しているがのお。質問が多いのう。せっかちな方じゃな、まずはワシはジェフという。ここにいるのはサウスホットの森周辺にある村の者達ばかりでな・・・蜥蜴人達と戦ったのだが奮戦虚しく多くの者が殺されるか捕まるかしてしもうた。
此処はお主の言う国・・・ルーンミッドガルドからすると南に位置するする森の中のはずなんじゃがな。此処はそうじゃな・・・卵の産卵所というのは解ると思うが、ワシらがどういう関係かと言われればすぐ察しがつくじゃろ? 生まれたてのヒナになにをやるのか。もう駄目じゃと観念しとったんじゃがのお、何が起きるかわからんのが人生というやつじゃな」
そこまで渋面だったのが一転して最後にはニカッと大笑するドワーフ殿。捕まっていた一団は40人強といったところです。
これを脱出させるのは難儀することでしょう。できる限り手伝いますが、どれだけ生還できるかどうか想像つきません。
「それで皆さんはどうされるのでしょうか。我々としてはできる限り森から脱出のお手伝いしようと思います」
「世界は広いのう、お前さんのような騎士もいたんじゃのお・・・世にも稀な騎士様じゃな。早死せんといいがの。ありがたい、護衛よろしくお願いするぞい」
「・・・・・・」
「す・・すまん言いすぎたわい。早死は失礼じゃったな。美貌の騎士様よ」
「・・・ええ・・・・・・口は災いの元です。吐いた唾は戻せないのですからね。気をつけることです」
眼を細めただけで震え上がるドワーフを尻目にイープルを先頭に脱出をさせ始めました。
このドワーフは少々口が悪いですが人心の機微はわかるようです、ですが何か勘違いもしているようです。
手伝うとは言いましたが、守りきるとは言っていません。
そこのところわかっているのでしょうか。
「皆さんを守りきるとは言ってませんからね」
「生きてでられればめっけもんじゃでな、生贄になるよりマシじゃい。わしらの国は腐っとる。何かとあれば金、金。それ以外にないのかと言いたいほどじゃよ。金ばかりで嫌になるほどじゃ。わしらの国ではのう・・・騎士でさえ右を向いても左を向いても二言目には村の救援?それは金になるのか?じゃでの。
こうやってワシらが捕まってしもうたのも一緒に戦っていたハズの騎士連中が逃げ出してのお。敵に愛とかわけのわからんことを言っておったりのう、阿呆な指揮も駄目じゃったがのお。皆の衆も馬鹿らしい気分なっておったし。それでも守るモンがある者達ばかり守備に残ったんじゃよ。圧倒的な数の差じゃったが、逃げるわけにもいかず戦ったんじゃけれども力及ばずこのありさまじゃい」
「それで守れたのですか?」
悲しげにフルフルと左右に首を振るドワーフ。よく見ればその手足は負傷でボロボロでした。
右手首から先が無くなっています。左腕には深い傷が刻まれていました。
「そうじゃなどれだけ守れたやら・・・じゃよ。わしらの村に接近させまいと皆奮戦したんじゃがのう。リザードマン達の数は、お前さん達が倒した10倍以上は居った。正直いって村人達の生存は、期待しておらん。周辺の村も同じ目に遭ったそうじゃしの。それはそうとお前さん方はまだここに居るのかね。はよう逃げんとトカゲ共の増援がくるぞい」
「そうですね、まだ仲間が帰ってこないのです」
こっちにはアル様とセリア殿がいますから、どうとでもなってしまいますからね。
2人を倒そうと思うならそれこそ神か悪魔か魔王とかでも連れて来ないと無理ですよ。
1人は追い詰めるほどに力を増し、もう1人は最初からどうやれば倒せるのかわからないほどです。
2人の剣は勇壮華麗にして強大無比、神族が神たるにふさわしい能力を持っています。
それにしてもユウタ殿は遅い。
!・・・。急激に地面が揺れると景色が一変しました。
振動が収まると破壊された卵が消え、巨大な何かの骨も消えると通り抜けてきた森と同じような黒い密林に変わりました。
振動が収まり景色が変わってしばらくすると洞窟奥の穴からユウタ殿とセリア殿が2人出てきました。
キューブステータス シグルス・ジギスムント 21才 十字騎士
装備 白銀の剣 ミスリルシリーズ プレートメイル上下 ヘルム ガントレット ブーツ
収納袋 (十字盾 、大剣、小道具及び雑貨)
スキル 剣技 盾技 共通術 気術 体術 治癒魔術
サブジョブ 治癒士 冒険者
閲覧ありがとうございます。
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