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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
二章 入れ替わった男
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364話聖暦1109年9、 


 足を置いたのは、煉瓦でできている屋根だ。

 東からは、山の際から朝日が登ろうとしている。

 空は、青く白い鳩が飛んでいるではないか。

 ユウタの前には、黒いスカートを白いエプロン。ふわふわひらひらさせた幼女が立っている。

 三角帽子の鍔に手を添えて、


「さー、さっさと行こうぜ」


 降りようとしているのだ。眼下には、ハイデルベルクの町並。本人は、格好いいと思っているようだが、白いもこっとしたパンツが見えていた。余り健全とは言えない姿に、股間が滾ってきた。

 視線を動かすと、遠くに白い雪山が見える。

 北にも山、南にも山。そして、やかましくなっていう鐘を見る。


「どこへ行くの」


「城だっつーの。わかれよな」


 城? ならば、教会の上にいるのは何故か。結婚式場の上にいるようなものだ。

 直接、城へ跳べばよかったのでは。

 なおも、手を掴んでぐいぐいと引っ張る。鳩のうんこでも被ればいいのに。


「わかったから、でも。ここ、教会じゃない」


「そいつは、ちょっと事情があんだよ。ちょっとついてこいって、間に合わなくなるだろ」


 手を振りほどけば、1人で箒に乗るのだ。後ろに乗ると、


「こら、お前、何処触ってんだ」


 腰に手を回す。お怒りのようだ。しかし、掴む場所がないのである。

 仕方がないではないだろうか。肩は不安定だし、全てはエリアスの乱暴すぎる運転が原因だった。

 決して、車を運転させてはいい人間ではない。前には、朝日を浴びて金の草原ができた。


 髪の毛が顔面にかかれば、いい匂い。と、思ったのに、


「おげええええ」


 芳しい香り、なんてしなかった。腐った茸かなにか途轍もない汚臭。

 風呂に入ってないのかもしれない。

 キラキラと、光が当って内容物が落下していく。下に人が集まっているようだ。


「やべえよ。お前、何やってんだよ。ふざけてんじゃねーぞ」


 ふざけてるのは、どっちだ。うんこの方がまだマシかもしれない。

 いや、うんこに失礼な激臭がした。意識を一瞬で失うような。

 この手の匂い。本人は、自覚がなかったりする。言っておかねばならないだろう。


「エリアス。臭い」


「は? だから、どうだってんだよ。いそがしーんだよ」


 忙しいで、風呂に入ろうとしないのはどうかしている。ミッドガルドでも生活習慣を変えるべく風呂を勧めているのだが。西洋人というのは、体臭を気にしなかったりするからとんでもない。


 ふわふわと浮いて移動しているのに、ぐるんと振り落とそうとするではないか。


「ちょっと待て、お前、何処をっ。変態、どスケベ」


 逆さまになったら、箒で支えるのと手が下にずれるだろうに。

 頭に血が上る行為をさり気なくやってくる。

 手が胸にあたって、


(まったく、ない。かわいそうに)


 可哀想になってきた。けっして、邪な気持ちで背中に乗ったわけではなかったのだ。

 ぐるぐると回転し始める。


「ちょっと、待て、まてまて」


 身体をぴったりとくっつける。黒い上着に白いインナー姿だ。汚幼女なのであるが、飛ばさないと落下してしまう。体温は、低いようだ。


「どうしたの」


「いや、ちょっと待てって、こ」


 湯気が立つようだ。エリアスの鼻息が荒い。

 こ? 黙ってしまった。ふらふらと飛行していき、やがて城壁へと到着する。そこに見張り台と、兵士が立っていた。弓矢で撃ち落とされなかったのは、姿で判断できたからか。


「ご苦労さまです。レンダルク様」


「お、おぅ」


 兵士の男は、訝しげのようだ。1人ではなくて、幾人もの兵が待機している。

 名残惜しいが、着陸してしまっては仕方がない。

 箒から降りたエリアスは、ふらつく。そして、そそくさと進もうとするではないか。


「こちらは。アルブレスト卿。ようこそ、ハイデルベルクへ」


「本日は、よろしくお願いいたします」


 置いてきぼりにするかのように、幼女は城壁を伝って歩いていく。

 地面には、雫が落ちているではないか。泣いているのか。

 追いかけると、


「どうしたの」


「どうした? どうしたじゃねえよ。ばかやろう。うんこたれ、死ね」


 泣いていなかった。しかし、だとしたら染みは一体なんなのか。

 まさか、漏らしたのか。


「ごめん」


「ごめんですんだら、騎士はいらねーんだよ。俺に恨みでもあんのかよ。ふざけやがって」


 もう隠す気がないようだ。盛大な川ができていた。匂いは、しない。どういう事だろう。


「ともかく。悪気がねーんなら! 厠いくから、ついてくんな。みんちにするぞ」


 城の中だ。そうそう魔物も入ってくるまい。ただ、念のために調べておいた方がいいだろう。

 エリアスが去っていくと、水晶玉をインベントリから取り出した。


『主さまよ。わらわ、覗き見はどーかと思うのじゃ』


『覗きじゃない。ただの警備だよ。さすがに、着替えをしているところで襲われたらまずいでしょ』


『それならば、わらわがやっておく。人として、どーかと思うのじゃよ』


 そこまで言われては、仕方がない。確かに、覗きはよくない。

 狐が、フードから出ていくと。白い毛玉が頭に乗っているのに気がついた。

 手に取ると、


(目が赤く輝いているぞ。どーしたんんだこれ)


 エリアスには、いたいけな事をしてしまうし。いつも通りではなかった気がする。

 性欲に負けてしまっていた。毛玉を手に持って、むにむにと撫でる。

 毛並みはいい。角も邪魔だが、立派だ。


 すっかり、結婚式の事を忘れそうになっている。


(さて、と。アルーシュたちはどこかな)


 先導役の騎士もついておらず、端から入ると城の中はてんてこまいという感じで人が移動している。

 2階にいくべきだろうか。


(玉座で食事を取っているというのも、なかなかないだろーし)


 入り口から見えるのは、中庭で宴会のようになっている光景だ。

 朝から酒が振る舞われている様子。

 結婚式が終わってから、食事が進むのではないのか。


 魔族が襲ってくるというイベントもなく。知り合いの姿は、見えるが面倒だ。

 しかし、なんだって結婚式が行われるのだろう。

 誓いの儀とかそういう感じのものかもしれないが。これでは、単なる宴ではないか。


 飲んで食っての。貴族連中は、おめかししているのですぐにわかる。

 兵士と貴族で、はっきりと分かれているようだし。


『おい。どこいる。もう、終わってしまったじゃないか』


 という声が聞こえてくる。エリアスとは違う、上ずった念の声。


『はあ』


『はあ、じゃねーよ。エリアスはどうした。一緒じゃないのか。いいか。さっさと、中に入ってこい。宴が始まってるんだぞ。めんどくせー』


 同じである。同じように、めんどくさい。飲み食いなど、やってられない。

 ちらりと確認して、去るべき。

 自分で結婚を選んだのだから、それは自己責任で過ごしてもらわねばならない。


『1階の奥だ。はやくこい』


 あえて、ぶっちしたら何をされるかわからない。目眩を感じて、正面から入っていく。

 兵士たちは、止めようとしなかった。

 ひょっとすると、知名度はミッドガルドよりもハイデルベルクの方が上なのではないだろうか。


「これで、ハイデルベルクは安泰だな」


 という声もあれば、


「姫を2人とも取られれば、大公国の存続はいったいどうなる」


 という声も、聞こえてくる。


「まだ幼い姫さま方を質に取られるようなものではないか。これで、よいのかっ」


 祝の席ではあるものの、反乱を匂わすような声だってあるようだ。

 正直、


(どっちでもいいじゃないか)


「あの」


 ぐいっと袖を引っ張られた。誰だろう。知り合いを悉く避けているのに、


「アルブレスト様ですよね」


 それは、


「バーモントのエリィにございます。お久しゅう。お元気でしたか?」


「ええ。ご無沙汰しております。顔も出せずに、申し訳ない」


 人が密集しているような感じだ。正月の参拝を思い出す。密集具合が酷い。

 隣には、ちびっこの姿もありにこにことしている。エリアスとは大違いだ。

 すごく礼儀正しいではないか。


 正装というには、民族衣装に近い姿だった。ドレスというには、ややも厚手。


「ねーねー。おにいちゃんも呼ばれたの?」


「ん。んーどうなんだろう。これじゃあ、入れないね」


 人が多すぎる。アルーシュは、入って来いと言っているが入り口からして族長だのどこそこの貴族だので順番待ちをしているようだ。


 魔族の気配は、ない。全身で、気配を感じ取ろうとしているのだが。変身して忍び込むような豪の者はいないのか。いや、いたとしても結界石が出来上がっているせいであろう。まるで、魔を感じ取れない。毛玉は、紅い瞳を閉じて動かない。


 寝てしまったのか。


「今日は、父の付き添いです。アルブレスト様はどのようなご用件でしょう。お暇でしたら、一緒に中へ入りませんか?」

   

 と、お誘いを受ければ断る理由もない。彼女からは、悪意も感じ取れないし。

 手袋をしているクラリスの方は、赤いほっぺに笑みを浮かべた。

 妹を思い出す。


「いいですよ」


 待っているのも、手持ち無沙汰というものだ。時間も、長くかかりそうである。


「やったね。おねーちゃん」


 エリィは、すぐに赤くなってしまった。なんと、初々しいのだろう。

 まるで、


「糞が。いいきなもんじゃねーか。この野郎」


 恋のよう。股間で、足を防いだ。首だけ振り向けば、腕組みしたエリアスがいた。密集しているのに、とんでもない事を仕掛けてくる。足を掴む。


「危ないな。こんな真似をする奴は」


「あの、この方は」


 エリィが、手を口に当てて尋ねてくる。淑女といった女の子には、毒だろう。

 あばずれ2号こと、


「エリアス」


「あ、足、折れるって。ごめん、悪かった」


「大丈夫? おねーさん」


 へし折ってやろうか。玉が潰れたら、ズッコンバッコンができなくなってしまうではないか。

 

「おう、まーな。俺は、エリアス・フォン・レンダルク。レンダルクで魔術師をやってるぜ。魔物で困った事があれば、なんでも相談しな。こいつが、退治しにいくからよ」


 瞑目した。人をこき使おうというのだ。それは、アルーシュもセリアもエリアスも同じことで。

 なんで、人のために働かなくてはいけないのだ。いくらなんでも、疲れてくる。


「レンダルクの。魔術兵団をおかしいただき、大変ありがとうございます」


「良いってことよ。金は、全部、こいつ持ちだからさ。いつでも、言ってくれていいんだぜ。あそこらへんに巣食ってるオークやらなにやら掃除するにゃー大変だろーしな」


 どうにも、おねーさんぶるエリアス。ケツを蹴りたくなるではないか。

 着替えをして、悪臭も取れたようだ。すいっと狐が登ってくるとフードへ潜り込む。

 

「ところで、順番待ちしてんの?」


「そうだけど」


「ふっふっふ。俺に任せとけよ」


 前へ進むエリアス。頼もしい。やおら、顔パスなのか進む。

 中は、これまたおやじ臭い。扉の向こうは、華やかな会食会ではなく。

 

「春を待たずに、制圧作戦を進めていくらしいぞ」


「いやいや、北部の連中も帰参を決めたとか」


「しかし、大公様も思い切った事をなされたな」


「であればこその、婚姻であろう。なんとなれば、ハイデルベルクの姫が正后になるやもしれぬ。公も、それに賭けたのでは」


「確かに。バーモントの意見。一理あるな」


 おっさんばかり集団を作り、女子供もまた集団を作っているという。

 すぐにわかる位置で、アルーシュはむすっとしているようだ。

 薄笑いをしていたりと。面白くなさそうなのが、すぐわかった。


『てめぇ。ぶっ殺すぞ』


 そんな声が聞こえてきても、前の席は埋まっていて座る場所はない。


『はあ』


『はあ、じゃねーんだよ。お前、その餓鬼どもとよろしくやってたな? このロリコン野郎が』


 アルーシュも傍からみれば、ロリコンである。しかも6歳だかなんだかで、結婚式を挙げるという。

 ハイデルベルクの場合は、宴のようである。

 教会で、式をしないのか。


『くくく。まあいい。くくく』


 気味が悪い。なにやら悪巧みをしていそうだ。

 魔物が現れるというサプライズもなく。敵対的勢力が、暴動を起こすというのもない。

 忍者が警護に当っているせいか。それとも、盗賊たちが有能なせいか。


「あの。バーモントには、いつお越しくださるのでしょうか」


「何か、異変が起きましたか」


「そんな報告は、ねーけどな。怪しいところはあるけど、今度は北部の貴族どもシメに行かねーとよぉ。その為に、兵力を集中させる拠点作りが必要ってわけだ」


 きな臭い話になってきた。また、戦のようだ。


「無論。北部が恭順を誓えばよし。でなければ、野原にでも変えてしまえばよろしいのです」


 と、少女がエリアスを押すようにして座る。川のように長い金の髪を後ろにやりながら、


「連れてくるのが、遅いのではなくて?」


「うっせーな。新参者の癖に」


「小便垂れに言われたくございません」


「へえぇ。俺に、喧嘩を売ってんのかよ」


「滅相もないこと。ユークリウッドさまをけしかけられては、かないませんもの」


 フィナルといい、ネロといい。エリアスとは、とことん馬があっていないようだ。

 お友達をしているだけの関係なのか。

 

「へっ」


「よしよし」


「毛玉を寄越すな。角が痛えんだよ」


『お前、良い身分じゃあねーか。遅れてきて、貢物もなしか? いいぜ、ならばんばん増やしてやるわ』


 アルーシュ。どんどん自爆しようというのか。恐ろしいようで、恐ろしくない。アホの子だった。


「それでは、ここで失礼します」


「あら、着たばかりではなくて? もっとゆっくりとしていけばよろしいのに」


 後が恐ろしい。アルーシュが、何をするのかも恐ろしいが。

 足を踏もうとする小便垂れ娘にも、困ったものである。

 エリィとエリアスの胸を比べると、大平原と丘くらいの差があった。


(エリアス、クラリスと同じか? 年上のネロには、完全に負けてるな)


 12歳のネロは、それなりだ。だが、滾ってこない。この差、なんなのであろう。

 魔族の襲撃か日本人の蜂起が起きてもおかしくないので、顔を出したのだが


(杞憂だったかなー)


 読みは、当たらなかった。人の心というのは、摩訶不思議なもの。

 都合の言い様には、行かないというわけだ。ましてや、恋心だとか。

 エリィも適当な貴族の嫁に行くことだろう。


(メラノでも行くかね)


 予定が、未定になったので攻略を進めないといけないだろう。

 人に任せていても思うようにいかないのが、世の中というやつだから。


「おい。てめぇ、どっかにいこうってのか? おん?」


 顔が赤い。酒でも飲んだのか。顔を寄せてきた息が、匂う。

 対面には、ネロとそれに置いてきたはずのティアンナ、トゥルエノが座っている。

 

「…酒を飲ませたらだめ」


「主さま」


 なんて、外道を見る目をしているのだろう。何もしていないのに。

 エリアスというと、酒から雪だるまを作っていた。それをどうするのか。


「ぱいぱいー」


 挿絵(By みてみん)

 雪だるまをトゥルエノの胸に乗せただけである。周囲が、凍りついた。

 同時に、雪がエリアスに向かって飛び散る。

 刀を抜きかねない雰囲気だ。


(エリアス。全方位に喧嘩、売りすぎだろ)


 手に負えないが、見捨てられない。エリィは苦笑を浮かべて。


「おねーちゃん、めっだよ」


 クラリスに抱きついているではないか。よしよしされているのだ。

 それで毒気を抜かれたのか。トゥルエノも椅子に座る。

 危なかった。


 しかし、対人関係というのは苦手だ。力では、どうにもならない。


(運がいいやら、悪いやらだわー。殺し合いにならないといいのだけどな) 


 放って、メラノの攻略をすすめる事にした。 


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