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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
二章 入れ替わった男
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360話 人形で遊ぶ

 見ていられない。

 いや、見ていないと心配で仕方がない。

 冒険をさせるのだって、心配なのだ。応援を呼んで、ぼちぼちやっていると時間はあっという間だった。


(まずいなあ。これは、まずい。ひょっとして)


 これは、病気だろうか。レウスは、飛行能力を持っていない。

 

 墜落すれば、アキラと違って死んでしまうだろう。

 早すぎた戦場で、死なせる訳にはいかなかった。

 仕方がないのだ。


「ユークリウッド様。配置の方、終わりました」


 チィチとトゥルエノが働いている。ザビーネはというと、金の羊を世話していた。

 それは、猫のようなサイズに縮んでいる。


「ありがとうございます。そしたら、どうしようかな」


 いくら兄と言っても、いきなり戦場に押しかけるというのは格好が悪そうだ。

 ましてや、ついていって先回りしてはゴブリンだの魔物の駆除をやっていたとか。

 赤騎士団の伝手を頼って、アキラをねじ込んだものの。


「まだ、行くところが有るのですか?」


 チィチが尋ねてくる。ルドラを見れば、一升瓶を片手に樽の上だ。しかも底なしのようである。


「ああ、うーん。次は、ハイデルベルクに行くかな」


 ロンドンことキャメロット城を含んだ地域の事をご当地では、ロンディニウムと言うらしい。

 そこでの物資補充の方は終えて、夕暮れの日が西に沈もうとしている。

 配達だけで、一日が終わるのも慣れてしまった。


「我は、眠い。ここで帰らせよ」


 いや、帰るってルドラの寝床はユウタの家なのか。当然のように、言い放つではないか。

 ちっとも手伝っていないで、横になって酒ばかり飲んでいる飲んだくれだった。

 今も、片手にグラスに入った年代物のワインを呷っているという。


 転移門を出して、ルドラを送るとそのまま門を出し直してハイデルベルクへと移動する。




 底冷えのする湿った部屋。

 出たところは、ハイデルベルクの冒険者ギルド。

 そこの転移室だ。灯りは、壁に付いているものの薄暗い。

 オレンジ色の光を浴びた扉へ手をつける。


「おっ、お前!」


 甲高い声。誰だろうか。それは寄ってくると、いきなり飛びついてきた。 

 さっと避ければ、羊を抱えたザビーネと激突する。

 桃色髪の体が、ザビーネを押し倒そうとして、ブリッジを作った。


 危なかった。


「なんですか。いきなり、失礼な」


「いや、わたしもそんなつもりじゃなかったんだが、その、重いか?」


 憤慨した様子のザビーネに謝る桃色の悪魔は、髪で顔が見えない。だが、相手にするのは危険だろう。


「お羊様が、潰れちゃいますよ! どいてください」


「すまない」


 しょんぼりしたふりだ。その証拠に、反転するやいなや両手を上げてまたしても突っ込んでくる。

 それをティアンナがキャッチした。顔面に指がめり込む。手を剥がそうとするが、取れないようだ。

 テーブルへと座り、メニューを開くと。


(お、雪だ。んー、メニューも変わってきてるな。どれ、寒いので暖かいのにしよう)


 水晶玉を取り出すと、また様子を伺う。隣にティアンナが座ると、際どい服に胸が高なった。

 いや、性欲だ。赤いサンタのようなコスチューム。胸の上ががばっと開いている。

 時期が、あっていないのにどーしてそういう服を着ているのか。


「・・・ん」


 身体を寄せてくるではないか。エリストールが、ティアンナの反対側に座る。

 あまりにもきわどい。こちらは、お腹丸出しである。胸も半分くらい見えていた。

 寒くないのだろうか。


「・・・クリスマスプレゼント」


 いや、ダメだろう。それは、駄目だ。もらいようがない贈り物だった。


「おねーさん。チキンの盛り合わせでお願いします。果汁のジュースも」


 正面に、チィチとザビーネ。それにトゥルエノが並んで座る。飯代だけでも、普通なら頭が痛い。

 水晶玉を通して、『人形使い』の能力を発動していると。


「ティアンナ様~。こいつに空気なんて読めませんって」


「・・・むっ。ユウタ、空気飲めない?」


 読めないが、飲めないになっている。どこから突っ込んだものか。空気は吸うもの。

 胸を押し付けてきて、重たい。水晶玉に映る人形が、殴られた。

 ゴブリンにだ。なんてことはないのに、動揺したというのか。


(糞が、やばい)


 SAN値ピンチ。

 股間もピンチ。人形もピンチ。チィチに目で合図を送るのだが、わかりやしないようだ。

 トゥルエノもチィチもどうしていいのかわからないといった風で、素知らぬ顔をしている。


「ご飯にしよう」


「・・・セックス」


「ご飯だよ」


「・・・女体盛り?」


 訳がわからない。女とは、思考がぶっ飛んでいるいきものだとは聞いていた。

 感情で、生きているのだとか。

 男には理解できない生命体なのだ。


 これで、結婚する? いや、結婚しようがないではないか。

 理解できないのだ。


「しません」


「・・・けちんぼ」


「違います。あと、結婚前にセックスなんていけませんよ」


「・・・本当に?」


 小首をかしげる。どんなに魅力的であろうとも、やってはいけないのだ。

 やりたい。きっと、記憶がなかったら以前のように合体! 合体! だっただろう。

 だが、今は違うのだ。


 愛の信奉者である。恋だとか愛だとか、そんなの無いと思っても。信じたいではないか。

 普通は、女の子といっしょにいるなんてありえないのだ。

 今だって、夢ではないだろうかと。股間が、痛い。


「うん。わっ」


 隣に座っていたはずのエリストールが、飛んでいく。壁の方向へと飛んでいった。

 誰であろう。鈍色の甲冑に身を包んだ小柄な兵士だ。

 ギルドの職員には見えないが。


「危ないところだったな」


 聴き慣れた声だ。人に言わせると、清流のようだとか言われるものの。断じて、そんな人間ではない。

 兜を上に上げると、


 挿絵(By みてみん)


 そのまま隣に座るのは金髪の孺子ことアルーシュだった。


「何を呆けている。お前、頭がおかしくなったのか? まったく、あの野郎。ブン投げておけ」


「いや、いくらなんでも壁に投げるなんてとんでもないですよ」


 と言っても鼻をふんっと鳴らす。

 でてきた皿にワンコがかじりついていた。セリアだ。もうテーブルの上は戦場だ。

 毛玉と狐にひよこが混じって、混沌と化した。

 壁に穴を開けて、外へと放り出された痴女はどうなったのだろう。


 水晶玉を持ったまま穴の方へと移動する。穴から冷たい風が吹いてくるではないか。


「・・・エリスなら大丈夫。あの子は」


「けど」


 壁を土で塞ぎながら、砂にセメントを混ぜつつ塞ぐ。水も入れて作るので、水気が多すぎた。

 平らな板で、垂直にしてやる。ガラス窓の枠と板で、外が見える窓の出来上がりだ。

 これでいいのだろうか。


「手をぱんぱんと叩いて直すのは使えんのか」


「無理です」

 王女様は、漫画の読みすぎである。よく盛大に爆発させたりするけれど、下々の人間が直しているのだ。

 それはもう、大変な作業で魔法、魔術でぱっぱとどうにかなるものでもない。

 勢いよく扉が開く。


「あーーーーっ。さみーんだよ!! 殿下、ひどくね? 殿下、俺とアリエス、外で待機ってひどくね」


 ガタガタ震えながら入ってきたのは、エリアスとアリエスだった。2人して、鼻水を垂らしている。

 頭には、うさみみとみられる白いヘアバンドをしていた。

 白と黒のメイド服で、とっても寒そう。コートには雪が積もっていた。


「痴女は、雪ダルマにしてきただろうな」


「いいのかよ。あいつ、エルフじゃん。どっかに持ってかれるかもしれねーけど?」


「ふっ。そんなことができればな。ユークリウッドが黙っているはずがないではないか。なあ」


 もちろん。皆殺しにして、生体反応を調べる。なんてことはしないが、さりとて近寄ろうとする人間は、いないようだ。大きな雪ダルマが、二本の足を生やすとギルドの方向へと向かって走りだす。やばい。壁をつくると、激突してまたとまった。


「チィチ、トゥルエノ。彼女、回収してきていただけませんか」


 2人とも素直に頷くと、外へと歩いていく。水晶玉の中を見れば、ゴブリンに人形が殴られているところだった。反撃に、パンチを食らわせてやる。

 頭から四散して、地面に飛び散った。ゴブリンは、脆い。ちょっと殴ったら、死亡してしまう。


「時に、アキラの件で色々と困ったことになっているようだな? くくく」


 何を考えているのだろう。


「ふふふ。確かに、アキラは外人。領主になるなど、もってのほかよな」


「ええ。残念ですが、騎士ですら槍玉に挙げられるくらいです」


 もうテーブルの上には、料理が残っていなかった。丸いボウルの中で毛玉とひよこがおねんねしているようだ。しかたなく、追加注文する。  


 水晶玉に写っているゴブリンをあらかた倒すと、土へと戻す。完璧だ。

 魔力をたどられれば、厄介だが。この方法でなら、余程の魔術師でなければ気取られないだろう。

 アキラやレウスの目なら誤魔化せるはず。そして、アリバイもある。


「なーに。話は、簡単だ。俺の嫁になればいい」


 ぶーーーっとエリアスが口に入れていたモノを吹き出した。

 幸いなことに正面には誰もいなかったが、窓がべっちょべちょになっている。

 黄色いなにかだ。かぼちゃのスープを飲んでいたところか。


「というのは、どうだろう」


「また、無茶なことを」


「反対するやつらは、皆殺しだ。いいな」


「よくないですよ。勝手に、そんなことを決められても」


 これまた頭のネジがぶっ飛んだ女の子だった。


「順番も決まっているからな。断っても、無駄だぞ。無駄無駄」


 女は、メルヘン世界に住んでいるようだ。こんなことはありえない。夢だ。

 女心と秋の空という。きっと、時間が経てば忘れているだろう。

 だいたい、メリットがなさすぎる。


 ワインで誤魔化すか。アルーシュは、酒によわい。ちょっと飲ませたらぐでんぐでんになってしまう。

 ただ、それでどうにかなるかというと植木鉢に入れてやらないいけなくなるが。

 それは、なんとかなる。


「・・・ユウタ。結婚2番目」


「んーんーー」


 そのうち、ティアンナも他の男と懇ろになるはずだ。月日というのは残酷である。


「お前、ちゃんと責任とれよな。男らしくねーぞ」


 エリアスが、白と黒のメイド服で腕組みをしながらむっつりと言う。

 己が、何をしたというのだ。ゴブリンをまたしても発見。人形は、高速で移動することができる。

 それこそ砲弾よりも速く。人間の限界を遥かに超えたスピードだ。

 

「何もしてませんけど、責任ってなんですか」


 振るわれる棍棒。しかし、土くれで作ったために地面へ足をつけている限りいくらでも再生する。

 水晶玉といったり来たり。


「そりゃあ・・・その、なんだ? そうだ、優しくするのが犯罪だっての。わかれよなー」


 超、飛躍。もう、話をしていたら孕まされたくらいの扱いだった。

 優しくしないでいいなら、無情攻撃でもしてみよう。


「じゃあ、エリアス、金返して」


「えええ、いや、その」


 途端に、脂汗を浮かべるではないか。隣の妹というと、殺す、というような視線を送ってくる。

 いじめているつもりはない。ごくごく一般的な常識として、貸しっぱなしはない。

 利子だって、払ってもらわないといけないくらいだ。


 無利子なんて日本くらいのものである。1000兆の借金。

 馬鹿ではないだろうか。おおよその歳入が50兆。支出が100兆。馬鹿でもわかる。

 返しきれないって。


 わからないのは、日本人くらいのもの。いやさ、政治家と官僚くらいか。

 なぜ、そうなのか。馬鹿しかいないのか。馬鹿だから、政治家、官僚になるのか。

 馬鹿にでもやらせておけばいいと、放置していたツケか。


 幼女は、汗を流してぷるぷると震えている。

 水晶玉の中では動くゴブリンがいなくなっている。またしても、強いゴブリンを発見できなかった。

 死んだふりをしているのもいるが、逃すわけがない。


 レウスとアキラが行く先に先回りしては、ゴブリン、コボルト、オークといった魔物を倒していく。

 ネズミの如き体躯をした巨大な魔物も人形の突進には耐え切れなかった。

 だいたい、一撃で沈む。素材を取れないのが、残念だ。


「じゃ、じゃ~~よ~~。セリアはどうなんだよ。あいつには無利子で貸してんじゃん」


 膝の上で寝そべっていたワンコが寝返り打つ。腹を見せたって返してもらわねばならない。


「そのうちね」


「そのうちって、いつだよ。今すぐには俺だって無理」


 アルーシュは、黒っぽい板の上に顔を乗せて倒れ込んでいる。胸板の金属が当たって頭だけがこっくりと。両手は、上に投げ出されていた。


「わかってる。だから、優しくしてるじゃん。駄目?」


「ぶー、ぶー。そうやって、すぐ人を煙に捲くしさー。その気がないんなら、優しくしちゃだめだろってこと」


 だが、人には優しくありたい。数多の兵を、敵を手にかけてきたのだ。

 行く先は、地獄しかない。

 地獄から来るなと言われるが。


作画Cグミ様

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