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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
二章 入れ替わった男
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358話 外人アキラ

(うー、ケツ痛え…帰りたい)


 なぜか、エリアスだけがケツを叩かれた。踏んだり蹴ったりである。

 目の前に座った女の子が、顔に笑みを浮かべながら見つめてくるではないか。


(あー、こいつ、人がケツ叩かれたのを妬んでんのかよ。マジで、変態だぜ)


 どうせなら、替わってくれても良かったのに。フィナルの隣には、アルストロメリア。

 こちらは、にたにたしている。気持ちわるいというより、腹が立つ顔だ。

 ぶん殴りたい。


「戦局は、こちらの有利です。このまま兵を進めれば、勝てます。正面に4万。敵方は、間者の報告によれば1万にも満たないとか。勝ったも同然ですな」


 そうれは、早計。

 勝負事というのは、終わってみないとわからない。

 が、敵の側で控えているはずの王子と王女を捕らえてしまった。

 相手の士気は、みるみる内に下がっていくだろう。


(これさあ。戦うまでもなくね、って突くな!)


 隣に座った男が脇を突く。エリアスの尻が、大変な腫れ具合になっている原因だ。


「して、現状ではいかにいたしましょう」


 縛られた王子が片隅に座らせられていた。煩いので猿轡を噛まされている。

 玉座に座ったアルーシュは、肩肘をついたまま視線を送ってきた。

 視線のやりどころに困る。アルーシュとアルトリウスを見分けるコツは服装だ。


(んだよ、俺が何したってんだよ。みんなして、いじめかよ…)


 いたたまれない。帰ってしまいたい。しかし、そうもいかない。


「打ち殺そうか」


 小便が漏れそうになった。


(セーフ…)


 下3万、中4万、上5万。12万に補助兵まで含めれば、相当な数だ。


「は?」


 ぽかんとした声が、最前列から聞こえてくる。赤騎士団か青騎士団か。いずれかの重鎮だろう。


「なんでもない。差し当たり、王子の流言でいいだろう。直接的に当たる必要もない。数は3倍、4倍で当たれ。一騎打ちに応じる必要もない。アドルかドスで捕縛できるなら、よい」


「では、そのように」


 ミッドガルドとブリタニアでは兵力に差がある。何も同数で戦う必要もない。

 敵の巨大ゴーレムが数を減らしてくれば、一気に攻勢にでられるだろう。

 それまでは、様子を見ているしかない。相手の数が多かったりすると、セリアか或いはユークリウッドを呼ぶことになる。


(あー、もう、めんどくせえなあ)


 会議は、実に面倒でエリアスは茸刈りを楽しみたいところ。じゃあ、城での会議にでないでいるとどうなるのか。祖父は、まだいいが。親から、叱責を浴びるだろうし。妹は隣にくっついて、替わりをやろうともしない。こちらは、こちらで魔術の研究ばかりだ。


 ゴーレムの。


「アル様」


 初老の騎士が、手を上げる。足元では、また蹴りあいが静かに始まっていた。


(痛えって、なんだよ。もう)


 犯人は、フィナルだ。


(なんで、俺の膝を蹴るんだよ。じゃれつくんなら、ユーウとやれよ)


 ただでさえ、なぜだかユーウとくっつくと言われるし。

 全く、気がないわけでもなかったがこうもいじめられると心が折れそうだ。

 クリスが逃げ出したのも、わからなくもない。彼女は、先見の明があったという事だろう。


「ねえさんねえさん。殿下が呼んでますよ」


 足の蹴り合いは、続いている。顔を向けると、片方の眉を吊り上げていた。幼女の笑みが、怖い。


「お前ら、なあ。人が真面目に話をしているのに、遊んでんじゃねーぞ。きのこ野郎」


 きのこ野郎って、酷い。きのこ大好き。だけれど野郎じゃねえって、言い返すべきか。


「えっと?」


「姉さん、金の羊です」


 それが、どうかしたのだろうか。カンタベリーの教会が秘密にしていた金の羊。

 どこからそれを手に入れたのかは、不明だった。それをいいことに、アルーシュが無理やり難癖をつけて手に入れたという。元々は、地中海辺りの羊人族が象徴だったとか。詳細は、不明だ。


(金色の毛がとれたってねえ。価値は、そこまで高くねーよなあ)


 原典は、コルキスの王女メディアが飼っていたとかいう皮を剥がれた羊ではなかっただろうか。


「はい?」


「いや、もういい。聞いてなかったのなら、遊んでないで話を聞け。金の羊の価値だ。魔術師から見て、どれほどの価値があるのか」


(遊んでねえ~。このっ)


 なるほど。

 金の羊。金の毛が取れるくらいだろうか。魔術的には、触媒にするくらいだ。

 幼女に変化してしまって、ザビーネの膝の上で芋を食っている。

 人になってしまっては、毛が取れない。であれば、手放していいだろう。


「もう、ないんじゃないですか? また羊にしようったってねえ」


 方法を探すのが、面倒だ。第一、人化なんて滅多にない話。人魚じゃあるまいし。


(生体物理工学は、専門外なんだよ。俺ぁ、菌類工学第一なんだけど…)


 茸栽培はお手の物。だから、羊の人化或いは可逆なんて知らないのだ。

 ふと、突き刺さるような視線を感じる。ユーウからだ。人を殺しかねない視線だ。

 瞑目した。


「時間も金もかかりますよ? スキルでっていっても人化スキルって当人の意思次第だったはずです」


「ふむ。ま、しょうがないか。金銭的な価値も、つけられんし」


 研究には終わりがない。同様に戦いは、何処でだってあって終わりがない。

 議論は、兵力の配置に移っているようだ。

 異世界では、アトミックウェポンによって世界的な戦がないとか。

 信じられない。アルーシュは、考える素振りをしている。


(答え、決まってんだろ―に、前振りがなげーんだよ。これだから、アルトリウスの野郎は…)


 かっこつけたがりなのだ。

 配置について終わり。




「殿下、よろしいですかな」


 今度は、対面に座っている禿げ親父が片手を上げる。直角だ。手が。


「うむ。許す」


「ユークリウッド殿が、日本人を騎士に取り立てたとか。これは、まことにございますか」


 おう。なんともタイムリーな話だ。恐らく、皆が懸念している事だろう。

 外人の騎士など、ありえない。


「それか。ユーウが責任を取るだろうよ。何かあれば、ふっふっふ」


 口角が、ぐいっと上がった。なんて、腹黒いのだろう。逃げられないようにするつもりだ。


「されど、大した功績もない男だとか聞き及んでおります。日本人だからと、贔屓にするのはよろしくない。釘を刺しておくべきでは?」


 あまりに、直球すぎる。ユークリウッドがいないと成り立たない事が多いので腹をかかれても困るのだ。

 アキラだとかいう年上の日本人を思い浮かべる。

 領主の器じゃない。


「うむ。その点も踏まえて、言ってある。これ以上の詮議は無用。なんとなれば、円卓の騎士を全員捕縛してこいと命じてもやり遂げるだろうよ。それでも、まだ不満があるのなら…心配するに留めよ。卿らの気持ちは、わかっているつもりだ」


「はっ。出過ぎた発言でした」


 白髪が混じった爺。


(わかるよ。でもなー、ユーウが補給と配達をしなくなったらどれだけ困るか勘案しろっての・・・)


 まず、海を越えて食料を手に入れるのが難しい。兵員を帰還させるのも難しい。

 また、空中要塞の移動ができなくなる。これらを全て、放棄してまで反対する事柄ではない、という事だ。今は、はいはいはいと言う事を聞いているが。


 ユーウは、黙っている。会議の時は、大人しいものだ。


(そろそろ冬だし。兵隊も帰りたがるからなー。輸送っつったって、俺だけじゃあなあ。痛えって、いってんだろがあ! 糞豚ナルが)


 格闘が最も苦手の癖に、格闘を鍛えているという。幼女なのに、足が硬い硬い。

 

「ねえさん、いい加減に遊ぶの止めてくださいよ」


「いや、お前、これ絡まれてんの」


「お前らさー。仲良いよな。結婚しちまえよ」


 紅茶の汁が、顔面に飛んできた。フィナルだ。もう、我慢ならない。

 テーブルクロスの下へ潜り込むと、足を引っ張る。


(やったぜ!)


「ねえさん、もー、何をやってるんですか」


 フィナルが飛びかかってきた。それを滑り込むようにして、躱す。

 相変わらず、武器を使わないと弱い。

 顔面を滑るようにして、床から壁に激突した。


「おいおい、大丈夫かよ」


「やった本人が言うセリフなの」


「うっせえなあ」


「お前らなあ、いい加減にしろ! 外で頭を冷やしてこい!」


「へーい」


 激突して、気絶したフィナルを抱えると移動した。




「ふー。で?」


「で、じゃありませんわ」


 突っかかってくるのが、理解できない。


「わかんねーもん。言わなきゃわかんねーっての」


「ユーウの肩を少しくらい持ったって良いじゃありませんの」


「ひーきの引き倒しになっから、ユーウもよーく耳の穴をかっぽじってきいとけよ」


 女をぞろぞろと連れやがって。


(俺も、意趣返しで野郎を連れ歩くか? だりーな、それ)


 瞑目した。妹であるアリエスですら、鬱陶しいというのに。

 兵隊を連れ歩いているから、既に野郎と一緒であったのを思い出した。

 緑色の髪をした羊人は、有頂天になっている。


(はあ、マジでだりーなあ、説明する?)


「外人をなあ、領主に据えようってのはジャパン的には外患誘致だろ? 天皇に外人がなるとかいうのな。ありえねーから。大名に外人がなる? ありえねーだろ? いくら、おめーに力があってもなあ。戦乱の世だからって、夢見すぎだっつーの。内部崩壊するわ!」


「あたくしは、構わないと思います」


 

(こいつ。ぜってー、腹野中。都合のいいタイミングで殺すつもりに違いねーよ)


 アキラも下手に目立つよりも、商人的立場でいればいいものを。

 或いは冒険者で満足していれ、消されずに済む。

 だが、騎士。領主になれるのだ。爵位を持つ外人など、ありえない。


 あってはならない。


「うーん。そっか。反対の人、多そうだね。やっぱりウォルフガルドで働いてもらう事になりそうだなあ」


 そっちだって、問題であろう。獣人の国だ。狼獣人を主とする以上、彼ら以上の身体能力がいる。

 太陽を食えずに燃え落ちた魔王。ウォルフガング王は、脅威そのまま。

 歴史を紐解けば、名前がところどころに残っている。 

 異様に長命だ。


「戦国大名に外人はいねーだろ。そこんとこわかれよ」


「そうなんだけどさ」


「やりたいように、なさればいいのです」 


 日本鎧。似合うような似合わないような。胴長短足の癖に。


(こいつ、子宮で発言してんじゃねーよ。マジで、内乱が起きるわ。まーん)


 本当に、どうかしている。勉強、してんのかと。敵を知り、己を知らば、歴史も帰りみるもの。

 異世界いったら、殺人も大量虐殺も躊躇いを無くす日本人である。

 どのような行動にでるのか知れたものではない。


(既に、結果出てんじゃねーか。勘弁してくれよな)


 やられたら、やり返す。ウォルフガルドでの殺戮は、まだ新しい出来事。


「コーボルトのこと、忘れたんじゃねーよな?」


「うん」


 今だに、散発的なテロが起きている。誰が、そうしているのかわからないが。

 日本人の影響なのだろう。火薬を使った武器が、残っているのだ。

 獣人が主とした地域では、長らくなかった火器を使用した戦争の後遺症とも言えよう。


 飛行機に、爆弾。戦車とあらゆるものが使われて、ウォルフガルド国内には地雷がばらまかれていた。

 それの処理だって、大変な作業だ。後から後から、悪行が出て来る出て来る。


「ねえさん、そんなにいけない事なのですか? 日本人という方が騎士になるのは」


「駄目だね。あいつらときたら、自分の欲望を満たすためにゃあ手段を選ばねーから」

 

 もちろん? アキラは、それ程幼いわけでもなく。狂人でもなさそうである。

 ただ、


「結婚でもして、嫁さんと子供ができたんなら代官くれーかな。そんでも、素行はチェックされんだろーし」


「うん。そうだね。そうなるといいなあ」


 根っこが必要だ。縛りが。捨てられないものを持っていれば、いる程信用が置ける。

 マールと懇ろになっているのは知っているけれども。男の心というのは、火花のように瞬き、消えるもの。フィナルのようにずっと追いかけて叶うのだろうか。


「それじゃ」


「夜な」


 難しそうな顔をしたが、有無を言わせない。膝蹴りは、受け止められてしまった。

 フィナルには、決まるのに。

 一夫多妻去勢脚(ハーレムキラー)


「使い物にならなくなったら、どうするんですの!」


「いいじゃん。どうせ、いまのままのこいつにそんな度胸はねーよ」


 小煩い幼女の甲高い声。いい気味である。脂汗を浮かべていた。

 が、次の瞬間。


「おぼっ」


 電光のように、柄が腹に埋まった。武器を使うなんて汚い。不意打ちではないか。

 尻に、衝撃が走って目には火花。

 落ちていく。


「千年殺しですわ!」


(なんで、おめーが…)


 言葉は、出ない。

挿絵(By みてみん)

魔装ルーシア戦闘時


挿絵(By みてみん)

おしおき様作画

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