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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
二章 入れ替わった男
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356話 シティ・キャメロット

『おい』


 突然の念話だ。流水の如き澄んだ声なのだが、


『無視するんじゃない!』


 叩きつける調子で、頭に響く。パーティーは、6人x4隊。最大で、24人編成まで今のところできる。

 ジョブのクラスを上げていけば、できるようになるのだ。

 声の主を外すべきだろうか?


『ご機嫌麗しゅう』


『お前、俺を怒らせたいのか』


 この女、子宮で生きているのではないだろうか。アルトリウスは、たまに癇癪を起こしている。

 飯を食ったばかりだというのに、


『何か起きましたでしょうか』


『起きたじゃない。なんで、会いに来ない?』


『呼ばれてないもので…』


『俺は、王子だぞ』


 だから、どうしたというのだ。王子だから、要件がないなら会うこともないだろうに。

 意味不明である。


『はい』


『はい…じゃねーよ。さっさと城までこい。話がある』


 空は、真っ青だ。突き抜けるように、天が広くどこまでもいけそうな具合。

 

『いいな』


『了解しました』


『土産もあるよな』


 めまいを覚える。この女、ぬかりがない。


(たしか、饅頭が…)


 オデットが売っているものだが、ルーシアの餃子も入っていたような。

 思い出すに、甘いものは一通り揃っているはず。どこかで、買うこともないだろう。

 ロンドンこと都キャメロットに流れる川は、ゆったりとしている。


(イギリスといえば、メシマズで知られているからなあ。期待できないか?)


 道で買うというのも、なにげに難しそうだ。

 都の道は、コンクリートやアスファルトでなくて石で出来ている。

 露天が、立ち並んでいたりするが…


「師匠。あまり、美味しそうではありません」


 ザビーネが、興味深々で見ているのだ。意外に、食意地の張った3人で。

 毛玉と狐は、おとなしくしている。


「我が、食するのはじゃがいもの塊ではないぞ」


「魚を焼いたものでは、ありますが」


 トゥルエノも今一のようである。いい匂いというか。石のようなパンだ。

 黒いし。干し肉は、異様な臭気を放っていた。メシマズ大国というのは、嘘でないようである。

 キャメロットの南側から入って、すぐの場所。


 人の往来が激しい。バッキンガム宮殿がある場所に空中要塞は鎮座している。

 そこまで行く必要ができてしまった。

 イギリスのような島であって、イギリスではない。


 石畳と石の家が並び、田畑も横にならんでいる。

 都を覆う壁は、いくつもあるようだ。入った往来で、


「坊主、いい身分だな?」


 なんて声をかけられるのだ。日本からこっち、絡まれることが多い。

 気のせいだろうか。遠巻きになる人々。話しかけてくる男は、取り巻きをつれているようだ。

 なんと、芸がない。


 そこに浮かんだ笑みは、侮りだ。殴りたい、その顔を。その足を、刈り取りたい。

 できるか? 子供に。その嗤いは、そう言っているのだ。


「え、えへへ。ちょっとお使いを頼まれて、ですね」


 男たちは、近寄ってきて手を伸ばす。と、手がなくなった。吹き出す血潮。白い鎧の竜人が犯人だ。


「てんめっ、やりやがったな! こいつらは、身体検査に抵抗しやがった!」


「武器を捨てやがれ!」


 せっかくの、へりくだりも台無しである。ルドラは、手を開くと。べちゃっと地面に赤と白いもの。


「何を言っているのか理解できん。ゴミは、塵芥らしくしていろ。不敬であろう、雑魚ども」


 見上げるような身長だ。羽が、大きく広がる。巻き上がった風。転がされるのは、男たちである。


「こ、この化物がっ」


「切り捨てても?」


「なぐるだけでお願いします」


 抵抗できそうな人間は、いなさそうだ。モヒカンからピアスまで、殴られて転がっていく。

 少女2人の方が、身長では負けているのに。筋肉でも負けていそうなのに。

 終わってみれば、傷を受けた様子もない。


(手加減できるって、いいよねえ…)


 殺さずに済む。もっとも、彼らが起き上がったときには首と胴がお別れするときかもしれないが。

 ユウタが死んだすると、ブリテン島侵攻軍の補給が困難になる。

 それだけでも、重要さがわかろうというものだ。


「いきましょう」


 なおも、執拗に蹴りを入れているザビーネに声をかける。


「えっと、ですね。いきなりなのですが…このあとで金の羊を探すお手伝いをしてもらえないでしょうか」


「いや、本当に突然、わかりました。ひとまずは、城へ」


 すると、また新手のようにふくよかな禿げ頭といかつい男たちがあらわれた。

 先へ進もうとしたのに、これである。

 アルトリウスの怒りが爆発しそうで、怖い。


 彼女、知略家のように周囲には思われているが、自分の思い通りにことが進まないとかっかするタイプであった。


「おお、トニー。いったい、どうしたんだ」


 更に増える男の手下。鎧を着て、ボウガンまで持っているではないか。槍とボウガンの組み合わせ。

 遠巻きに見る民衆も家へと逃げ込む。


「あいつらが、いきなり襲いかかってきて」


「なんだと?」


 まるで、息子が死んだかのように睨みつけてくるではないか。背丈は、やや低くザビーネくらいだ。

 ほかの巨人のような男たちに比べれば、迫力で劣る。


「女どもは、生かして捕えろ。ガキは、殺せ」


 こんなことがあっていいのだろうか。よくわからない内に、殺されそうになっている。

 法とは、どこへいってしまったのだろう。

 ミッドガルドも未開なら、ブリテン島も未開だった。


「だんな、お言葉ですが、こいつら相当できますよ。騎士団に応援を頼んだ方がいいんじゃ」


「馬鹿野郎、そんなことをしてみろ、このグルドンの沽券に関わるわっ。ギルドの敵だ! ガキを殺れば、1000万ゴルくれてやる!」


「はあ、ま…」


 まっすぐに歩いていくと、グルドンという禿げの横にいた男が下から剣を振るう。

 遅い。剣の腹を叩くと、刃は折れて短くなった。

 反対側の男は、槌を振り下ろす。鉄の槌だ。四角い箱のような鉄の塊に尖った先端が、接近してくる。

 

 手で押しのける。飴細工のように曲がった。重量も十分。錆びているものの、魔力を帯びていた。


「は? ぽぎゅっ」


 金的攻撃。持つ槌を取り落とし、泡を吹いて悶絶した。1人。

 グルドンは、右の足で蹴りを放つ。剣よりも、蹴りか。その足を掴んで、


「し、どぅあっ」


 反対に立っていた男へグルドンを叩きつけてやる。軽く。

 力を込めすぎると、足がもげてしまうのだ。やりすぎてもグルドンが死んでしまうだろう。

 2、3回で2人とも動かなくなった。


 周りでは、乱戦が繰り広げられている。矢で、やられる面子はいないようだが。

 魔法、魔術も飛んでくるのだ。


(殺してもいいだろうか…)


 ギルドと関係があるのなら、話で片がつきそうなものである。

 禿げがギルドマスターなら、問題だ。


「マスター?」


 酷い話だ。


「ギルドマスターを…倒しやがった。騎士団を呼べ」


「馬鹿、その前にこいつらを」


「腕、うでええ」


 手足が妙な方向へ曲がる男たち。女の冒険者は、いないようだ。

 漫画や小説だけの話なのだろうか。セリア級とまではいかないまでも、ティアンナのように強い女冒険者がいてもおかしくないのに。


(うーん。普通に考えると、可愛くて戦えるなんてレアだよなあ。騎士団だってほっとかないよなあ)


 可愛いは、正義ではないだろうか。

 世の中の女子であれ、男子であれ見目好ければイージーゲームである。

 これは、もう当然といってよい。


(仮に、冒険者をするっていってもねえ。こんな男たちといるわけが…ないな)


 トゥルエノやザビーネに勝てないのでは、ルドラに勝つのも無理だろう。

 女だから、弱いというのは当てはまらないのではないだろうか。

 育てれば、もっと強くなっていくことだろう。


「いてえ、いてえよぉ」


 地面に倒れて、呻き声を出すのだ。情けない。戦いが、戦いでないとはこのことではないか。

 とはいえ、騎士団に来られても面倒だ。逃すまいと、包囲しようという動き。

 

「この人たちは、どのように?」


「放っておきましょう」


「師匠、騎士団に突き出さないのですか。報奨金がもらえると思うのですけれど」


「あまりの雑魚ぶりに、始末する気にもなれぬ」


 ギルドの冒険者であると、仮定しよう。絶対に、面倒なことになる。

 殺してしまえば、後腐れもないといえようが。


「ええと、あなた」


「くそっ、なん、だよ」


 脂汗を浮かべている。大剣を持っていた筋肉に、力はない。


「このグルドンという人は、いったい、何者なんですか」


「? あんたは、どこの田舎者だ。グルドンさんは、キャメロットの冒険者ギルド南区でギルドマスターをしているんだ。この町で、逃れられると思うなよ?」


 とんでもないことをしてしまったようだ。ギルドマスターをぼこってしまった。

 やはり、先制の鑑定くらいするべきであったかもしれない。

 

「僕が襲われたのですけれど…」


「そいつが、ううっ、事実であろうと、ギルドの威信にかけて、あんたらは狙われるだろうぜ」


「困りましたね」


 ぷっ、吹き出すルドラ。腹を押さえて、羽を前後に動かす。何がつぼに嵌ったのだろう。

 倒した男たちを両手で引きずったトゥルエノが、


「我が君を狙う? 死になさい」


 危ない。投げられた男の身体が激突すれば、せっかく話を聞いていたのに死んでしまう。


「ぶねえ、手下の女か? なんてえ」


「どうしたら、誤解は解けると思います?」


「そいつは…やっぱグルドンさんが間違っていたと認めるとか? い、ぅう”」


 そう、だが。それを認めるとは到底思えない。であれば、どうするべきか。

 仮にも、ギルドマスター。南区だから、他の区と話をつければ、丸く収まるのではないだろうか。

 

「僕は、城へ向かっている途中なのですけれど。ただ、それだけなのですけど…」


「師匠、こうなったらギルドを潰すしかないですよ!」


「いや、結構。そもそも汝が、ためらう理由がわからぬ」


 思うに、最近、この2人は似た者同士に見えてきた。

 羊は、もっと大人しそうなものなのだが。あるいは、思い込みだったのかもしれない。

 パカラン。

 パカッ、パカッと音がする。ようやく、騎士たちの登場だ。

 死屍累々。

 死んではいないはずだが、ぴくりとも動かなくなった人間が多い。


 先頭を切って馬から降りてくる兵は、背丈が低い。

 コビット族かと思うほど。つまり、ユウタと同じくらいだ。


「えっと、これ、どうゆうことなのかな。説明してもらえると助かる」


「ああ、んと」


 知ったやつだ。青い鎧の。


「騎士様、こいつらが急に襲いかかってきて!」


「え?」


 ちびっこ2人が飛び上がった。文字通り。左右についた騎士か従者。兜を取ると。


「ギルドマスターまで、やられちまうし。見てくださいよ、腕が」


「えっと、そこのところ、どうでもいいのだけれどね」


 そして、また。


「きさ、え、え?」


 新手の騎馬集団。走り込んできて、取り囲むではないか。


「騎士ボードマン。どうされましたか」


「い、いえ。副団長閣下におかれましては、このような場所、場所に? し、失礼しました~~~!!!」


 何もしないで、去っていった。何故だろう。


「僕も困るんだけどね。アルトリウス様がお待ちだよ。なんで、こんなところで道草を食っているのさ」


「そう言われても、いきなり襲われてるんだけど。こっちが聞きたいよ」


「うん。じゃ、まあ、後は騎士ドーベン、ギュネスに任せるから」


 馬に乗れとでも言うのだろうか。せっかくの異国情緒が台無しではないか。

 連れ立って、歩くと。


「騎士様?」


「黙れっ」


 ドーベンと呼ばれた全身甲冑姿をした騎士は、容赦ない黒い柄の振り下ろし。「き・・・」「くどいっ」と、にべもない。柄による殴打で、止めをさす勢いだ。


「ところで、本当になにもないのに因縁を吹っかけられてた?」


「キャメロットの治安が問われると思ったよ」


 羽飾りのついた兜を上げたアドルは、顎をさする。


「じゃあ、死刑になるかもね」


「いや、そこまでは」


 と、アドルの隣でクリスが過激なことを言う。2人とも馬に乗るので、仕方なく走る。


「叩けば、色々出てきそうだしね。泳がせてただけ、っていうか。蛮族の相手で忙しくて後手に回っちゃったと言い訳するしかないんだけど。円卓の騎士、捕まえてよ。いろいろ、捗るから」


「ん、ん~」


 女の子に頼まれれば、イエス。とはいえ、それはそれで困る。

 そもそも、占領したのなら治安の回復が最優先ではないだろうか。

 ギルドマスターと戦うという貴重な体験をしてしまった。

挿絵(By みてみん)

chicorico様作画


挿絵(By みてみん)

ルナ


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