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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
二章 入れ替わった男
540/711

355話 ヘルトムーア王都にて

 幅10m。高さ50m。完成してからというもの、巨人族、魔族の侵攻を幾度となく退けてきた。

 王都を守る城壁の厚みは、鉄壁を誇ると。そう思われた。


「無残なものだ」


 ぽっかりと空いた穴が、丸い円筒を作っている。


「はっ。セリアが、またしても都に現れたそうです」


 部下の男は、かしこまって言う。打つ手は、ないのか。

 最強の軍団。ヘルトムーア王国の第1軍から3軍までが駐屯していたというのに。

 今や、見る影もない。


 王都南側から開ける田園地帯には、鋼鉄の巨人が倒れたまま放置され。

 傷ついた王国軍の兵士たちの呻き声が聞こえるという。

 助けに行こうとすれば、また負傷者の仲間入りだ。


 もはや、セリア・ブレス・ド・フェンリルをただの幼女だと思う兵はいまい。


「Sランクの冒険者はどうしている」


「それが、招集に応じる者が少なく…」


「国家の危機だぞ!」


 都を守るはずの壁も穴だらけになっている。その上、15万人近い兵士が救助を待っているのだ。

 一刻の猶予もならないというのに。

 怒気を込めてみたものの、部下は恐縮した様子もない。


「まずは、入り込んだセリアをどうにかするべきかと」


「その手段がないのだよ。一体、誰が鋼鉄の騎士を倒せると思う。戦車も戦闘機も効果がないではないか」


 敵は、素手で合金入りの壁を破壊してくる化物だ。

 ぽっかりと空いた穴は、斜めに抉られている。中の町並を破壊しないように、気を使ったかのように。

 敵に情けをかけられているのだ。


 しかし、交渉の使者は両手両足の骨を折られているとか。


(獣なら、まだやりようがある。が、奴はどうしたら倒せる)


 空を飛び、地を駆けること疾風の如し。眼系のスキルを持たぬ者には、視認すら危うい。


(遠距離からの射撃は、効果がない…殺されてしまう)


 射撃武器を使うものは、もれなく頭を砕かれるか手足を引きちぎられて4足になるか。

 

 考えているのに、


「将軍! 大変です。日本人たちの処刑が決まりました」


 ノックもなしに、また別の男が入ってくる。眼鏡に黒髪をした部下の1人だ。

 黒い軍服に身を包み、息を荒げている。


「そうか」


 何が、9割9分、勝てるだ。嘘っぱちではないか。

 国王が怒り狂うのも無理はない。


「たしか、レアスキルを持っているのでは」


「それでも、生かしておく理由がなかろうよ。逃げ出したりされんのだな?」


「ぬかりないかと」


 ふっ、ため息が出た。それでも、セリアが交渉に応じなければ意味がないではないか。

 処刑するにしても、ガス抜きになるのか。

 

「日本人は、助けられまい。それよりも、あの化物をどうするか、だ」


「同じ冒険者をぶつけるという案、冒険者に死ねと言っているようなものですから…」


「だとしてもだ」


 多くの兵が戦えなくなっている。だれか、1人でも一矢報いようという兵はいないのか。

 己では、一瞬でやられてしまうだろう。

 

 セリアの目的がわからない。城を落とすのなら、すぐにでも落とせる。

 皆殺しにしてしまえばいいからだ。王の首を取り、昔ながらに勝鬨を上げそうなもの。

 だれも阻むものは、いない。


 常勝のアンタレス、不動のマクムード、烈火のザーク。

 武勇でなる将軍たちは、皆して動けなくなっているという。

 いずれ、救助されてくるのかもしれないが。

  

 セリアの目的とは?

 

「彼女の目的を探る」


「それでしたら、強い者を狙っているようですが…」


「強い者?」


 思わず聞き返した。強い者。スキルを持つもののことだろうか。セリアと戦えるような者が、いったいどこにいるというのだ。筋肉の鎧で身を包む戦士たちを一蹴するのに。

 小柄な幼女と侮った兵は、怖気を催す目に合う。





「ふ。困ったぞ」


「あの、皆さん。怖がってますよ?」


「当然だ、馬鹿者」


 弱っちい、達磨どもが勝負を挑んできたのも一時のこと。

 すぐに、戦う相手がいなくなってしまった。


「ゆ”る”じで」


「だ・め・だ」


 四角い男の頭は、血で彩られて歯はない。どこかへいってしまった。


「まだ、戦えるだろう? なあ」


「いえ…その方、もう戦意を喪失していると」


「ミミー、嘘はいけない。こいつは、私を侮った。それはもう、言ってはいけない言葉をな」


 都だというのに、外を歩いているのは兵士だけ。そして、遠巻きにして見ているだけだ。

 面白くない。

 地面に男の頭を叩きつけ、


「こいつ、なんと言ったか覚えているか」


「ええと、死んじゃいますよ」


 モニカが回復をかける。元通りになる男の鼻と歯。

 顔は、幼子のように涙を溜めている。


「やめて、ゆるして」


「こいつ、玉ついてんのか。もいどくか」


 男は、セリアの胴ほどもある腕を動かそうとしたようだ。が、動かない。

 明後日の方向を向き、白い骨が飛び出している。

 局部を掴むと、軽く引っ張った。


「ぎゃああああ」


「やりすぎですってー」


「もっとやるべきと、いえ」


 雪城は、面白そうに見ている。モニカとミミーは、乗り気でないようだ。

 回復の光で、股間がくっつく。涙を流す男の巨体を引きずりながら、


「良かったな? 何度でも引きちぎれる」


「はうっ。はうううう」


 幼児退行化してしまうので、やりすぎは禁物だ。しかし、助けようという人族がいない。

 根性がある者は、壁の外で倒してしまったのだろうか。

 矢が飛んできたのを影の手で、掴むと。お返しを飛ばす。

 当たってないようなら、直接行くまで。


「城にいくか。そろそろ飽きてきた」


「えっと、降伏勧告ですか」


「はあ。まちがいだぞ。まったく。わからないのか? 国王の首を取りにいく、だ」


 城へ、セリアたちを阻む敵はいないだろう。中に入って、探すだなんて面倒なことをしないでもいい。

 投石一つで、城を破壊できるからだ。


「あの、城を落としちゃっても占領できないですよね」


「そうだな」


「味方の兵士を支援するというのは…」


「めんどくさい。なんで、私がそんなことをやらなくてはいけないんだ」


 モニカが、指をつんつんと合わせて抗議しようとしているが歩き出す。

 引きずっている全裸の男は、苦痛の声を上げる。

 いい気味だ。


 女子供だからと、舐めた奴は全員ぶちのめしてきた。

 だんだんと、怒りがこみ上げてきて男の脇を蹴る。骨を折る感触がして、血を吹く。


「そんなに、怒らなくてもいいと思うです」


「はあ? お前は、そんなんだから犬なのだ。ボケッ」


「ううっ。横暴です。雪城も何か言ってください」


「おっぱいボインボイン」


 セリアは、胸を見てモニカの胸を見る。モニカは、歳に合わない大きさをしていた。

 掴んでみると。


「痛い痛いちぎれちゃいますよ~」


「何を飲んだら、そうなる」


 モニカの脇から手を入れてみたが、本当に柔らかい。食べたら、美味しそうだ。

 

「なんにも、ありませんよ~。ホルスタイン族の血です」


「つまらん。もっと、面白い返しを考えろ」


「それと、勝手に触らないでくださいよ」


「尻尾引っこ抜いていいか」


「アルーシュ様…」


 背筋が寒くなった。だれもいない。いや、いるが。アルーシュはいなかった。

 どこで、見られているかわからないが。

 ともかく、


「お前ら、おしりぺんぺんの刑」


 モニカは、にこにこして気にした様子もない。舐められている。だが、どうしようもない。

 ユークリウッドに尻叩きがバレたら、セリアの方が危ない。

 倒せるようになるまで、辛抱するしかなかった。


(…つまらん。弱い男しかいないのか)


 出歩いている人族が少ないので、因縁を吹っかけるにも困る。

 戦場と同じく殺しまくってもいいのだが…


(強敵を育ててから、刈り取る。こういうやり方も悪くないはずだ)


 弱すぎる敵だ。他の兵ならいざ知らず。セリアはおろか、雪城以下の戦闘力しかない人族ばかり。

 引きずっている男の反応が、弱まってきた。放す頃合だろう。

 男は、抵抗の意思すら無くしているようである。


 人は、これを心が折れたというらしい。セリアには理解できないが。


「ダントンさんを放せ!」


 扉から飛び出してきたのは、少年と少女。無謀にも、程があるだろう。

 まだ、若い。といっても、セリアたちよりは年上か。

 

「おい。相手をしてやれ」


 レベル? 低そうだ。ジョブを鑑定器にかけても、8なんて数字が出てきた。

 戦いにすらならない。

 ミミーが前に出ると。瞬きのうちに勝負が終わる。

 

 蹴りで足を折られて倒れた少年に、少女がすがりつく。


「う”」

 

 足を折られただけで、動けないようだ。気合もない。


「あの、どうしましょうか」


 殺す? 意味がない。ダントンとかいう男ともども放置して、城へ向かって歩き出す。


「あの人も」

 モニカがほっとして胸を押さえる。肉達磨を殺すとでも思ったようだ。雑魚すぎて話にならないのに、殺すとは。

 無意味だ。


 遠巻きに囲む兵たちが、邪魔くさい。石を投げて、足を砕くと。蜘蛛の子を散らすように、逃げ惑う。


「やる気あるのか、やつら」


「彼らのやる気があれなんです」


 電磁を纏った矢を受け止め、投げ返す。相手は、死ぬ。

 意識外からの攻撃。悪くない手だけに、容赦しない。


「勝負にならないのに、戦争を仕掛けてくる意味がわからん」


「だれもが、セリアさんの強さを知っているなんてことありませんし」


「そんなものか? 普通、間者でも入れておくものだろうに」


 スパイを敵国に送り込むのは、常套手段といえよう。日本人の手で、道路が広くよつわの獣が走っているようだ。セリアには、鉄の棺桶にしかみえないが。それも、道路にあるだけで走っていない。

 残骸が、そこかしこにある。


「このまま前進制圧していく。が、味方がいないから意味なさそうだな」


「どうしますか?」


 モニカは、さすがに先ほどの少年への治療をしていない。城へ走って突入するのもいい。

 しかし、ろくな抵抗がなかった場合。

 国王の首を上げないと、いけなくなるかもしれない。


(強いやつはいないのか。数だけは、たくさんいるのに)


 最強を探している。フェンリルは、最強でなければならない。

 だというのに。竜族。狐族。毛玉。妖精族。己の上を行くような。それが、我慢ならない。

 特に、DD。戦えば、負ける気がして拳に力が入る。


(雑魚も踊り食いなら、経験値になるかと思ったが)


 その実、地力が上がったようには思えない。人は、セリアを最強と言うがそうではない。

 弱いのだ。

 だから、モニカやらミミーを連れている。決して負けないわけではないから。


 そして、最強は負けてはいけない。負ければ、最強ではない。

 そして、最強は負けないもの。負けている者も、最強ではない。


「この国。雑魚しかいないのか? とんだ期待はずれだ」


「んと、結構、強い人はいたと思いますよ。彼らからしたら、最強に思えるような人も…」


 それでも、ミッドガルドでなら連隊長になれるかなれないかで。将軍だというには、程遠い。

 

「人の限界を極めたとか言ってるような連中ではな。雑魚だ」


「それで、掘り出し物を狙いに歩いているわけなんですか?」


「いるかもしれないだろ」


 最強が。条件さえあえば、とか。そんなものではなく。

 最強は、最も強いということ。

 モニカやミミーを倒してしまえそうな手合いなら、喰っとくのもありだろう。

 だが、それですらないのだ。


(この国に強いやつは、いないのか)

 

 今日も、獲物を探して彷徨っている。    

挿絵(By みてみん)

猫丘朝生さま作画


挿絵(By みてみん)

飛来裕夢さま作画

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