50話 森でトカゲⅡ! (ユウタ、セリア、モニカ、アルル、シグルス、トカゲ、リザードマン、ドラゴンゾンビ)
某日某時刻
薄暗くどこか陰鬱な森を駆ける。
亜熱帯の森の中ともいうべき道なき道を疾走し逃げるのは4匹のトカゲ達。
こいつらを追いかけながら、止めるべきか迷う。
どこまでも追っていくわけにはいかないし。
どこまで追いかけるんだ?
俺は一瞬思案する。が、セリアの案内に従ってどこまでも追いかけていく。
今までの森の中とはまるで違う。
亜熱帯特有の大木というか、一抱えすらできないような巨木ばかりが生え並んでいる。その高さときたら、天をつくような大きさだ。
森の中で凄まじい音がする。それ近づいているようだ。その存在が、生み出す打撃音と叫び声に圧倒されそうだ。
モンスターか?
姿を見たらやばそうな気配を避けてさらに進んでいくと、半分洞窟のようになる巨大な何かの骨の中に植え込まれるようにして色とりどりの卵がある産卵所に辿り着く。
・・・これから、アイツらの兄弟が生まれるのか?
一刻も早くこれを打ち壊さねばいけない。
大小様々な卵が立ち並ぶ大規模産卵所とも言うべき場所に並んでいて不気味だ。
これ全部生まれてあいつらのようになったら・・・。
「ご主人様。どうやらさっきのトカゲ共さらに逃げ回っているようだ。がこれは破壊しておくべきだと思う」
「このようなもの初めて見ます」
シグルス様も同意見のようだ。
「・・・それでは壊しますね」
【アイスミラー】を仕掛けながら片っ端から【サンダー】で打ち壊す。広がっていく氷の地面に稲妻が炸裂しどんどんと音を立てて卵が爆発していく。
この卵持ち帰って売れないだろうか。一瞬真剣に考えてしまったのは、貧乏症だということにしたい。奥の方から何かが現れるように蠢く影が動いた。
そいつは小屋並のさらに倍にしたような。
そんな顎をもつ4足歩行なトカゲだった。
ウロコが真っ黒だがところどころ表面に穴が開いていて死臭を放つように鼻にくるような刺激臭を放っている。そしてこいつには目が・・・ない。
死んでいるようだ。
これはトカゲゾンビか?
これは火を放つしかないんじゃねーのと直感してしまう。
「来るぞご主人様」
「ああ」
【エンチャント・ファイア】で炎属性を付けた槍を持ち接近するセリア。
セリアは縦方向に斬撃を飛ばす。
【ソニック・カッター】を使い巨大な牙と顎から逃れるように牽制し始めた。
俺自身のMP回復は大分している感覚がするし。
まあ回復薬飲まずにいても平気かもしれない。
シグルス様イープル、モニカ、アル様も援護するようにトカゲゾンビに斬り掛かるが、斬ってえぐった端から再生してしまう。
幸いにして、相手のトカゲゾンビは動きが鈍い。だが、こちらは疲労が貯まる一方だ。
そして背後からは騒がしい音が聞こえてくる。敵の増援か。
トカゲが人になった。
MMOでいうならリザードマンだ。目は真っ赤でびっしりとウロコを生やしている顔面がヌルヌルしたタイプで武器も持っているようだが何より別の物を持っていた。
猫耳やら犬耳やら、ケモナーなら誰でも喜びそうな亜人さん男女20人ほどを数珠つなぎにしていた。
亜人さん達を助けるか否か、まあそういうこと言う前にこいつらを捕まえているリザードマン達をなんとかしなければならない。
前門にトカゲゾンビ後門にリザードマンと前後に挟まれた。以前であれば逃げ出すしかなかった状況だ。
「こちらは私に任せてリザードマン達を頼むご主人様」
「いえ我々で十分です。ええ。ユウタ殿はセリアさんの援護をお願いします。いきますよ」
シグルス様はそう言って駆け出していく。後に続くのはモニカ、イープル、アル様。
「これを使う」
「・・・了解だ」
不味い展開だがトカゲゾンビをどうするか、もう閃いた。
そう木こりのアレがあるじゃないか! 木材を取り出すとセリアに渡す。目で訴え木材を渡すと、何も言わなくともわかってくれたようだ。
こいつが俺達のメインウェポン!?
木こりによる産地直送。で、生産されたぶっ刺さるドデカイ杭だ。
セリアはそれを軽々と抱えると助走をつけてトカゲゾンビに放つ。
得物の重さを感じさせないよう風の様に疾走すると、次々に前後左右上下から打ち込まれていく。
セリアが放つ木材で地面に縫い付けられ、体中を木材が杭のように打ち込まれる。さながら黒ひげ危機一髪状態のトカゲゾンビ。
このあとどうなるのか?
トカゲゾンビの状態からいってもキャンプファイアしかないよな。
トカゲゾンビが無数に生やす木を目掛けて火炎を投げる。
魔術【ファイア】を撃つと勢いよく燃え始めた。
ゾンビをどうするかだが・・・。
あれ用に神官で作れる【クリエイト・ホーリーアクア】で聖水を速攻作る。
ちなみにこの聖水作りは神官系の特権らしい。神官になれば初級スキルなので、だれでもすぐ作れるようになる。
なのになんて阿漕な職なんだ。
トカゲゾンビが火だるまになっても死なないようならコイツの出番だ。
動けなくなるトカゲゾンビを放ってセリアと俺は、リザードマン達とやりあっているシグルス様達を援護する。
援護するまでもないか。
リザードマン達の集団は、トカゲゾンビが燃やされていることにビビっている様子だ。
リザードマン達の連携練度は、人型でもないデブトカゲ共よりも落ちる。
少数に押されるリザードマン達は金切り声を上げながら抵抗しているが、シグルス様がイープルが剣を振るう度に倒れていく。
モニカとアル様は微妙に倒せていない様子だがそれでも圧倒していた。
騎士三人が持つ剣の切れ味が反則的で盾ごと切り裂いていく。
囲むどころか接近されればなすすべなく倒されていくリザードマン達。
亜人さん達は逃げているのか卵が破壊され尽くして中身の産卵する元産卵所の片隅にみんなで固まっている。
そこに駆け寄るセリアは次々と縄やら鎖を斬り飛ばしていく。嬉しそうに喜ぶ亜人さん達。
だがここから出られなきゃ、ぬか喜びなんだけどな。
「ありがとうございます」
「助けてもらえるなんて・・・!」
「もう食べられるだけだと思っていました」
いや、それはちょっと気が早いんじゃないかなあ。
次々に、様々だが喜びの声をセリアに掛ける亜人達。その様子を尻目に見ながら俺はリザードマン達を仕留めていく。
ラウンドシールドにシミターかスピアの組み合わせなのだが、皆オークの方が強敵に感じている様子だ。
つまり体格という点で微妙なのだろう。見たところ。
ゴブリン以上オーク未満170cm程度だ。
比較対象が少ないが、ホブゴブリン同等の大きさといったところか。
こちらの斬撃を盾で防いでカウンターにシミターかスピアをお見舞いしてくるのが、ここのリザードマン達の戦術なのだろう。
さっきからそればかりなのだが、やはり弓や魔術使いが混じっていない分相手の戦い方が硬直化している。
リザードマン達のウロコは硬く攻撃をとおさないのだろう。
鎧の類の防具をつけていない。
盾で防ぐように身を隠すリザードマン達を相手に取ると【サンダー】を撃ちまくってやる。
バタバタと倒れていくリザードマン。
水棲モンスターが陸に上がっちまったらこんなもんか。
というような有様だ。
それでも果敢にシミターを振りかざして襲いかかってくる奴の鳩尾に、【エンチャント・アース】で硬さをあげたガントレットの拳が突き刺さって吹っ飛んでいく。
盾を構えれば【サンダー】、攻撃を仕掛けてくれば打撃で対応する。
【サンダー】を撃ち殴り蹴る。次々とリザードマン達を仕留めていく。
周りでは一際大きなリザードマンの相手をシグルス様が相手している。
リザードマン達の中に形勢が不利だとさとった奴が逃げ出そうとするが、【サンダー】を放つと一発で沈黙する。
近寄ってくる奴がいなくなってしまったので、弓に切り替えると逃走を図るリザードマンを次から次に仕留めていく。
もっと効率を考えるなら、クロスボウ辺りを探すべきか。
狙いの精度が落ちるだろうけど速射性を考えればそっちのほうが良さそうだ。
辺りを見れば既にリザードマンリーダーと呼ぶことにした大きめな奴とそのお供くらいしか残っていない。
リザードマン達よりセリアのがずっと強いな。そう感じる部分が多々ある。
突きにしろ斬り払いにしろ。
体さばきに、蹴り。スピードとパワーもセンスも段違いだ。
そういう訳で鬱憤を晴らさせてもらうかの如くお供のリザードマンをしばき倒しまくる。
考えにふけってしまったがそれも突然のセリアの声で破られる。
「ドラゴンゾンビ。動き出しているぞご主人様」
「んっと、本当だ。うわ動いてるぞあいつ」
後方の元産卵所奥を見ると、ボロボロになって杭の炎に身を焼かれながらも、さらなる奥に戻ろうとするトカゲゾンビ。
奥に何かあるのか行き止まりのように見えるのだが、暗いのでよく見えない。
とりあえず止めに【ファイア・ボール】を生成する。こいつは【ファイア】と違って対象に当たると爆発するらしい。
周辺に爆炎を撒き散らすタイプの下級魔術だ。
セリアはポールアックスに換装すると頭部を破壊し始めた。俺は後方から尻に火球をぶち込んでいく。
再生しようとする体の中に聖水入りの瓶も投げ込んでやる。
これで死なないようならまた厄介だ。
炭化する全身を引きずるように動くトカゲゾンビだったが、頭が破壊されて動きが止まると、大型トラックを倍化したような身体が崩れ落ちる。
倒したか。それにしても奥には何かあるのだろうか。回り込んで見るとセリアがトカゲから何か取り出している。
「面白いものを見つけたぞ。ご主人様」
「セリアそれは?」
「おそらくこれは竜玉だ。竜達はその力を角かあるいは体内のどこかに珠を作ることでその力を昇華させているらしい。私も実物を見るのは初めてなので大変感動している」
「そのこれが竜だなんて信じられないんだけど」
「元・・・だな。やはり動きは鈍くなっているが、それでも噛み付きは脅威だったし動きを封じられていなければその力を発揮していたかもしれない。だがまあ・・・死んでいまえば生前の能力を十全に発揮するのは難しいだろう。さらにいうなら竜といってもピンキリあるのだから油断は禁物。注意が必要だぞご主人様」
「わかったよセリア」
セリアはいつになく饒舌になっているがやはり手にした竜玉が興奮させているのだろう。
手に持った竜玉を受け渡すとセリアは奥に入っていく。受け取った竜玉がピシリと音を立てて割れる。
ユウタは竜人を獲得した!
うあ・・・また何かヘンテコなジョブを獲得したけれど代わりに珠が・・割れてしまった。
地面に落ちてしまった珠の欠片は砂のように大気に紛れて消え去ってしまう。
怒られるかな、やばいよなあ売れば相当なゴルになっていたであろうそれがパーになる訳で・・・。これは、カミさんに怒られるオヤジの気分を味わってしまう。
いつまでもびびってもしょうがないので、思考を振り払うと奥にいったセリアに続いていく。
奥は暗いのだが中にはいっていくと明かりを放っているものがある。
見ると壁にリザードマンの頭蓋骨が明かり代わりに光っていて、壁には奇っ怪な模様が明滅していてその部屋とも言うべき奥にはセリアが立っている。
側には直径1mくらいの黒い珠がある。珠から毒々しいなにかが漏れ出ているのだが、何やらただ事ではない様子だ。
「その珠なんなの?」
「解らないな。ただロクな代物でないことだけは確かだろうご主人様」
放置するかそれとも回収するか。いずれにしても持ち運びは困難だし、こんなのイベントリには回収したくないんだが。
割るか? しかし割ったら大魔王的な何かが復活するという結果もありえる。
もっというなら魔力みたいなものを強烈に感じるしコイツは選択肢が出てきそうなところだ。
珠に触れてみると真っ黒な何かを中に感じるが、どんどん魔力がこちらに流れ込んでくる。フラッシュバックのように何かの光景も見える。
触れた明滅する珠が脈動するように同期する部屋が振動する。
「何かしているのか? ご主人様」
「い、いや触っただけで何かしているわけじゃないんだけど! ・・・この珠もらってくか」
「そうか、私はこれがボスモンスターだと思ったがハズレだったか」
いや、セリア怖いこと言わないでくれ。まあ二人でならボスだろうがなんだろうがドンと来いという気分ではある。
見ると真っ黒だった珠が透明になり、透き通るような輝きを見せている。これなら置物としても使えそうだ。
ユウタはダンジョン生成士を獲得した!
ダンジョンクリエイターだと?
また何か変なジョブを獲得したみたいだ。ともかく部屋の振動も収まったし妙な珠も妙なことにならなかったので万々歳だ。
珠をイベントリに入れると、部屋を出てシグルス達のところに戻った。
キューブステータス サナダ・ユウタ 16才 冒険者
装備 ミスリルの剣 ハーフプレート チェイングリーブ プレートヘルム 硬い皮のブーツ 対魔術の盾 銅の篭手 オークの弓 オークのワンド
邸宅有り セリア 人狼 モニカ 鍛冶士
スキル テレポート PT編成
特殊能力 なし
固有能力( 人形使役、人形化 、幽体離脱、生命操作、力吸収、ダンジョン生成、竜化)
▽
[冒険者LV64]市民69村人68戦士 68剣士 68弓士 68勇者 69狩人 69魔術士 64商人 61薬剤士 61騎兵 61弓騎兵61格闘士 61英雄 61治癒士 61料理人 60魔獣使い 58付与術士 58錬金術士 61木こり54下忍 54神官51人形使い51死霊王11生命王11闘技士20騎士20槍士20 村主20 竜人1ダンジョン生成士1
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