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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
二章 入れ替わった男
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348話 帰らずの地メラノ~仕掛け

 ネロを連れて外に出る。

 それはいい。食料がないからだ。


(しかし、危ないんだけどなあ。ほんとに大丈夫か、確認してからの方が良さそうな気がする)


 少女は、白のドレスに涎の跡をつけていた。着替えは、ないらしい。


「姫様。金子にございます。これをユークリウッド殿に預かっていただきますが、覚えておかれますよう」


「ありがとう。これで、いいのかしら」


 硬貨が入っているとみられる袋を人形から受け取ると、手渡してくる。

 水色の瞳は、なんの感情もないように見下ろしていた。


「確かに、お預かりしました。では、着いてきてください」


 肩に下げた鞄に、袋を入れる。なかなかの重みだ。


 首を縦に動かして、裾の部分を調節すると。礼拝堂の出口へと向かう。

 本来なら、骨を埋葬してやるべきだが時間がない。

 魔物の数と脅威度を測れば、助手が必要であるが…。


(誰も、手伝おうなんてやつはいないだろうな。ここ)


 冒険者に大金を積んだって、来るかどうか怪しい。金と危険度が釣り合っていないとなれば、尚の事。

 近くの街で、冒険者を募るべきだろうか。

 ロゥマにも、冒険者ギルドはあるはずだが?


「何を考えてますの? きゃっ」


 上から降ってくるのは、腕だ。黒い腕が、伸びてきて真っ直ぐにユウタを狙っている。

 ネロを突き飛ばして、魚の持つような鱗に覆われた腕先を躱す。

 その腕を掴むと、思い切り引っ張って地面へと叩きつける。


「なんですか」


 あやまたず、地面へと叩きつけられた魔物は昆虫のような身体と頭をしていた。

 カブトムシを連想させる。

 黒い表皮に、長い腕。おかしなくらいに伸びてきた。


(動かないな。死んだか?)


 石よりは硬くなかったようだ。敷き詰められた石は、黒から白へともどっていてカブトムシもどきは身体から煙を上げている。流れ出ている体液は、緑色をしていた。気味が悪い。


「大丈夫ですか?」


「それは、こちらのセリフです。その虫は、魔物なのですか」


「ええ。ですが、倒しました」


「このような魔物が、この先もずっと現れるのですか」


 手を取って引き起こす。その手は、微かな震えがあった。ネロは、蝶よ花よと育てられたのかもしれない。立ち上がったものの、動きが鈍い。


「ええ。ですが、外に出たいのなら歩いてください」


「…わかりました。ここに居れば、頭がおかしくなってしまいそうですもの」


「出初めからこれでは、心配じゃ。しっかり、お守りしてくだされよ」


 人形が、ぶつくさと言うけれど。守れる確証は、どこにもない。

 そもそも、己の身だって守れるかどうか。スキルも使えなければ、回復アイテムもない。

 

(そうだ。忘れてたぞ。ポーションだよ。あのやろう…忘れてるのか?)


 アルストロメリアは、天才だと自称する。しかしながら、肝心なことを抜かしているではないか。

 己が気が付くのだ。彼女が気がついていないだろうか。そこである。


(ケツバットの刑だな。マジで)

 

 思うに1人で迷宮を攻略しようというのも、稀になっていた。まさか、魔術とスキルを封じられたまま進むとか。


「大丈夫ですか?」


「いえ、ご心配なく。どちらからでようかと思いまして」


 安全なのは、一度進んできたところだ。しかし、そちらもなにげに不安だ。逃げ場がない。

 己1人なら、柱にしがみついて帰る事もできようが。


(どうすっかな~。東口を掃除しておいてもいいかもしんないんだよな)


 すごく罠の気配がする。堀があったし。何もないと見せかけて、敵がわんさか出てくる予感がする。

 

「東から帰りますので、そちらに向かいます」


「そうですか。では、そのように」


 ネロは、剣を腰に吊り下げている。足どりは、普通だ。石畳を歩くに、魔物が襲ってくることもない。

 あらかたの魔物は、駆除できたようだ。

 

「本当に、誰もいませんね」


「ええ。残念です」


「ミッドガルドの戦士とは、皆があなたのように強いのですか?」


 それは、難しい発言だ。確かに、同格なやつはいるけれど。多くは、ない。


「それは、ご自分で確認された方がよろしいでしょうね。門についたら、外にでないで警戒してください」


「わかりました」


 果たして、村の出口には人骨が転がっているだけだ。既に倒して、骨へ戻っている。

 出口まで石畳で舗装されているのを見れば、裕福な村だったのだろう。

 家の数も、多い。


「ここで、待っていればいいですか」


「はい」


 門の横には、ルーンを刻んだ石を埋め込んでいてちゃんと効果を発揮しているようだ。

 淡い白の燐光を放っている。


「ユークリウッドは、剣を使わないのですか? ないのなら、これを使った方がいいのでは」


「いえ。特に、必要というわけではないので。持っていてください」


 門の扉を外して、上に掲げると。外には、走り寄ってくる黒い鎧がいた。

 

「ひっ、リビングアーマーがっ」


 ネロは、驚いているようだ。身の丈を超える槌が、目に映る。右手の堀には、這い上がってくる鎧が。

 扉は、広く重くもない。人によっては、重いのだろうが。

 走り出すと、槌を振り下ろしてきた。


(速いけれど)


 寸前で避けると。右斜め前へ進む。太い足は、鎧で覆われている。引っ掛けるように、足で蹴ると。

 後ろを取る。次いで、ガラ空きの背中を扉で叩く。転がっていく鎧は、ばらばらになって堀から這い上がろうとしていた別の鎧へと激突した。


 腕と、槌が落ちている。倒したのか。拾おうとした槌が、空中へと黒い霧になって消えていく。


(んーむ。これは、アイテムをゲットできない系かよ)


 ひどい話だ。敵を倒しても金貨どころかアイテムすら手に入らないという。

 

(これじゃ、冒険者はこねーわな)


 残るのは瘴気で、上がってきた鎧を扉でぶっ叩く。3匹目。だが、堀の中で消えてしまった。

 大きな鎧を見に行くと、そちらも何も残っていない。

 一撃で、人を肉塊へと変えるであろう槌は魅力的だったのだが。


「終わりましたか」


「油断は、しないでください」


 歩き回る動く鎧だけでも、ネロは死んでしまいそうだ。柄に手をかけているものの期待できそうもない。


「ところで、あの橋。不自然じゃないですか。仕掛けとか、ありますかね」


 幅は、3mから4mか。馬車でも余裕で渡れそうな石でできた橋だ。

 近寄ってみれば、


「多分、あそこ」


 橋の下から、蠢くものが見える。ぶよぶよとしたスライムにも見えるそれは。


(うーわ。そんなのがいるのか)


 人間が、合体した魔物だ。もう、言い様がない。手で動いているのか謎であるが、ゆっくりと坂道を上がってくるではないか。


「あれは、なんなのでしょう」


「わかりません。ともかく、倒しておきますか」


「どうやって?」 


 どうやってって、足元に無限の武器が転がっているではないか。

 人類最古にして、最強の武器といえば石ころに決まっている。

 手頃な石を拾うと、気を込めてぶよぶよと蠢く赤黒い肉塊へと投げつけた。

 1発目。

 

「おや」


 当たって動きが、止まる。


「あの肉は、人間では」


「僕にはわかりかねますが、きっとそうなのでしょうね。ですが、倒さないといけない敵です」


「浄化の術でどうにかできないでしょうか」


 接近しようというのか。2発、3発。4発目で動かなくなった。急に、黒い靄が吹き出して肉は形を失っていく。萎んだ皮が残された。


「術は、使えないといっていませんでしたか。ご理解ください」


 残念だが、敵の接近こそ死につながる。己はともかく、ネロは身を守れるかどうか怪しい。

 ベネディクトにも約束した手前、何が何でも外へ脱出させてやらないといけないのだ。


「この下に流れる川は、もとは澄んだ清流と聞いていたのですが」


 見下ろす川は、黒くて鮫だか何かの頭をした魔物が2足歩行しているではないか。

 外へ出るには、切り立った崖にかかった橋を渡るか迂回している岩の道を進まねばならない。

 橋の安全が確保されているとなれば、来る時には渡れるだろう。


「あの魔物に、見覚えは?」


「ありませんね」


 知っているのかネロ、と言いたかったのに。お姫様だった。

 石の橋を渡っていいのだろうか。


(最悪、組み付いてもらって戻るか。それとも、岩の道を通って戻るか。なんだけど)


 川の魔物を掃除しておくべきかもしれない。後回しにしておいて、いいこともないが。


「もし、組み付いてといったら。どうしますか?」


「組み付く、とは? どういう意味ですか」


 背の高いネロの足をかくっと、前へ押して膝を下げる。後ろから組み付くと。


「無礼な!」


 平手打ちが、飛んでくる。手を握って、見つめ合う。


「ネロ様が、僕に組み付く訳なのですが」


「言えば、わかります。婚約者とはいえ、無礼が過ぎますよ。まだ、魔王を倒したわけでもないのに気軽に触れないでください」


 勝手に人を婚約者にしないでほしい。当人たちの意思を無視する結婚も、個人的には反対だ。

 勝手に、愛が生まれるかもしれないとはいっても。


「じゃあ、今から組み付いてください。背負って、移動しますので」


「私が、貴方に? 冗談でしょう」


 そうこうしている間に、真ん中まできてしまった。何か仕掛けてくるなら、


(ここしかないよな)


「だいたい、知り合ったばかりです。まずは、話をして人となりを知るべきでしょう」


 微かに音がする。川からか。それとも、地面からか。

 正面には、緑色の化物がいたとみられる寝床があって。

 土でできた壁は、急な斜面を作っている。


(なんだ、あれは)


「前っ、あれ、あれは」


 ネロが、目を大きく開けて固まっている。その方向をみれば、猫、違う。

 

(4足の何かかよ)


 巨体だ。禿げた崖上に1匹の動物らしい魔物が立っているではないか。

 心胆を凍らせる叫び声を上げると、転がってきた。

 

(ハリネズミ、だと!)


 手には、扉が握られている。投げつけて、倒せるかどうかわからない。

 逃げ場もない大きさだ。近寄ってくるに、扉で迎撃するべく構えを取る。


「組み付いて!」


「あ、あんなの」


 後ろに逃げ出しそうな雰囲気だ。


「大丈夫です。姫様」


「本当に?」


 怒涛の勢いで、回転してくる猫にも見える魔物は巨体を転がして迫ってくる。

 端によっていくと。下から、顔姿を現すではないか。

 正確には、頭に蜘蛛足といった魔物だ。断じて人間ではないが、人間の顔がついている。


(うーあ。逃げ場が、ないじゃん)


 こうなれば、距離を詰めて扉で押すか方向を変えるかしかない。

 ぶら下がろうにも、橋の裏では魔物が待ち構えているという。

 

(どうやって、繁殖したんだよ。くそが)


 投げれるのか。そもそも、巨体に押しつぶされないとも限らない。

 気を込めて、扉を構えると。


「ユークリウッド、どうするつもり」


「こうします」


 盾替わりの物に、激突する巨体。支えきれなくなる力を上へと逃がして、投げ捨てる。

 方向を変えた魔物は、無防備な頭を晒していた。


(もらった!)


 扉を投げると。剣のようでもありトゲのようでもある毛の生えた頭が、弾けて裂けた。

 

(我ながら、ナイスなコントロールだぜ)


 ネロは、組み付いたままだ。すると、橋が振動しているではないか。

 

(やばい)


 走り出す。距離にして、50mか。普通は、飛べない。下に折りたたまれる前に柱となった橋の一部へと飛び乗る。もう1つ。2つ。3つ超えて、対岸へと着地する。

 落ちたら、川にどぼんだ。鮫の魔物に食われる最後とか。絶対に嫌だ。


(こういう…罠ね。誰だよ仕掛けたの)


 どこで、操作しているのかが気になる。折りたたまれるようにして足場の無くなった橋は、見ている内に元の姿へともどっていくではないか。

 仕掛けの仕組みをしらなければそこでお陀仏である。


「今のは…」


「そんなの知るわけないじゃない」


 と、震える声で言っているネロ。背中が、暖かい。まさか。

 慌てて、横へと移動する。土の壁には矢が、ささっていなかったか。

 仕掛けが作動しているのなら。

挿絵(By みてみん)

レシティア(ハイデルベル公女そのうち王国になって王女になる?

やしろ。様作画


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