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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
二章 入れ替わった男
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347話 帰らずの地メラノ~ほーほー女(ベネディクト人形体10cm程度m字禿げ

 ほーほー女は、暗い穴の空いた眼窩を向けている。入り口から、すぐそばで群れを成していた。

 入れないようで、張り付くようにしている。

 

「騙したつもりは、ありませんけれど」


 ネロは、何が言いたいのか。柳眉を上げる彼女は、勝手に勘違いしていそうだ。


「仲間は? あの化物たちを突破してきたのでしょう? どこにいるのかしら」


 仲間は、礼拝堂にいない。アルストロメリアを始め、広域空間閉鎖型の迷宮と化したメラノの外にいるものの助力は期待できないのだ。


「外に、いますが」


「では、貴方はどうやってここまでやってきたのです。神器を持っているのでしょう? でなければ、ここまでたどり着けるはずが」


 力が、無いとでも言うつもりか。馬鹿にするのなら、もう見捨ててもいいのではないか。

 そんな気持ちが、ふつふつと湧き上がる。


「姫様。お言葉ながら、この者、見かけによらぬ剛の者でございます」


 人形が、両手を動かして主張していた。


 ほーほー女の身体は、大きい。一々飛び蹴りをしていては疲れてしまう。

 なので、長椅子を手にすると殴りつけた。相手は、入ってこれないのだ。

 そのまま張り付いているので、倒すのも容易だった。


 木製だけれど、気を通せば鋼鉄かそれ以上の硬さ。倒れる人型に背後からは、


「え?」


 という驚きの声。何も、武器が剣とか槍でなくたっていい。そこにあるもので戦えばいいではないか。

 頭を割られた女は、萎んでいくと。


(な、ん、だと…おいおい…嘘だろ。普通の女の人になったぞ)


 人の皮が残った。まるで、抜け殻のよう。


「やはり、驚いておるようじゃな。そうじゃ。クラウディウス家にも武を持ってその人有りと言われる者たちがおったのじゃがのう。彼らをして、遅れを取らせたのがそれじゃ。元は、領民たちなのじゃよ」


 とはいえ、魔物だ。所詮、人は死ねば肉になるだけ。そして、倒さねば死ぬ。


「はあ」


 気が滅入る作業だ。相手は、案山子のようだし。結界に張り付いては、殴り殺されていく。

 よくよく見れば、倒れた魔物の顔や口から黒い霧が出ていくではないか。


(黒い霧ね。瘴気が、取り付いて魔物にしてるってのかな?)


 瘴気が操っているのか。瘴気で操っているのか不明だ。


「お主、他に武器はないのかの」


「あるもので戦うしかないでしょう」


 インベントリが開けない。なので、あるもので戦わないといけないのだ。

 己の心情を察していないベンことベネディクトは、武器の心配をしている。

 ネロといえば、隣で見ていた。


「それ、ただの椅子、よね?」


 両手で、慎ましやかな胸を持ち上げて。


「ええ。それが、どうかしましたか」


 ネロは長椅子の前にある机に座ると、足を組む。

 ほーほー言っている魔物は、倒れては皮になって山になってきた。

 一体、どれだけの人間が餌食になったのか。


「ご覧になりましたか。その者、武器を選ばないようですじゃ。先程は、素手で戦っておりましたし。石を投げてスケルトンを倒す様は、痛快でしたぞ」


 解説されても、反応に困る。武器を持ってないわけでもないのだが、気がつくと高価な武器はアルーシュに持って行かれたりして手元にない。


 気がつけば、有名な武器を持っていなかったりする。


「それは、見てみたかったですね。一体、何時になったら倒し終えるのでしょう。そろそろ飽きてきましたわ」


 飽きる飽きないの問題ではない。確かに、腕を振るだけの作業であるが疲れるのだ。


「せっかちは、禁物ですぞ」


「ええ、もちろん。ですが、少々お腹が減ってきました」


 このアマ~、ぶっ殺すぞと怒りが脳を支配しそうになるではないか。ほーほー女は、硬いので結構な力を込めて殴らないといけない。精神的な疲労を感じるも、


「これをどうぞ」


 片手を鞄に入れて、弁当を取り出す。エッダが作ってくれたとみられる弁当だ。

 あるいは、錬金術師の何某か。


「気が利きますね。ありがたくいただきます」


 すぐに、包を解いて三叉の銀細工を握った。


(にしたって、こいつら切りがないな)


 1秒で倒されているくらい、入れ食いだった。数を数えるのも、億劫になる。


(なんというか。ゴキブリを叩いている気分っていうか。土竜叩きのゲームをやっている感じになってきたな)


 まともに戦っては、いくらなんでも数が多すぎる。きっと、どこかでやられていたに違いない。


「相手に、知能はないんでしょうかね」

 

「わからぬ。じゃが、お主でなければそのような芸当もできまいて。誇ってもよいのじゃぞ」


「はあ」


 魔術が使えれば、一掃できるのにそれができないもどかしさを感じる。

 敵が多いほど、覆したときの快感といったらたまらない。

 ネロは、

 

「聞いてもいいかしら」


 弁当箱から、肉の切れ端を口に入れて咀嚼しているようだ。いい匂いが漂ってくる。

 

「なんでしょうか」


「ここから、脱出するのにどれくらいかかりそうなのかしら」


 どれくらい倒したのか。10分程度は、へばりつくほーほー女を殴り続けているはず。


「わかりませんね。ここから、東の橋を渡れるのか試してみないといけないので」


 礼拝堂は、中心で東に行けば最初に見た地点への橋がある。


「食料は、これだけですか」


「外にでないと、いけませんね」


 ネロは、食料を気にしているようだ。食いしん坊でなければいいのだが。

 今だって、金をとってもいいくらいだ。無銭飲食である。


(まったく、これじゃ俺が餓死するわ)


 やっと、終わりか。丁度、腹が減ってきて苛立つので。

 礼拝堂の外に張り付いている女の腹を蹴り飛ばす。

 右に、1。左に、1。飛びかかってくるので、引っ込むと。また出て、頭を叩き潰す。


「ひょっひょ、これは、驚きさんしょのき。なんと、なんということでしょう。子供に、やられるとは~~~さぃっこ~~で~~す」


 正面の噴水にある天使像の上に、身体半分が白と黒のピエロ風な魔物が立っていた。

 生意気にも人語を話して、指を鳴らして。


「あ~ゆ~、れでぃ~? おっけ~あ~、ファイ!」


 石でできた囲いの前に、振りまく霧から黒い像ができるではないか。

 させまいと、突っ込み腹を拳で一撃。

 手応えが、ないものの気を送り込むと。

 弾け飛ぶ。その右にも、像ができつつあるので足で飛ばしてやる。

 

「ふぁ??? おーう。ファーック」


 ユーウの頭上を越え、ネロたちを狙おうというのか。通したら不味い。地を蹴って飛び上がる。

 ピエロの魔物へ蹴りを放つと。


「ぐぃえぶ」


 真白い肌をした筋肉の割れている腹と硬い喉を捉えた。ピエロの身体は、上へと上昇して下へ落ちるコースだ。

 その下にいるのは、ほーほー女だった。まだ、生き残りがいたのか。

 先に落下して頭を踏み潰す。舌を動かして、魔物はばったりと仰向けに倒れた。


 頭から落下してくるピエロが、地面に激突する。

 駆け寄って、サッカーボールを蹴る要領で攻撃すると。


「あ、あいあむざぼーん、おぶ、そーど」


 変態するではないか。身体が黒い剣に。だが、踏みつけてやればあっさり2分になる。根本の柄も踏み砕く。

 足が生えた黒い剣へと変身したようだが、あまりにも体勢が悪かった。

 距離も、短すぎて一息で攻撃できる位置だったし。


 破片が、黒い霧に変じて空に消えていく。転がしたとみられるゼリー状の人型もまた霧になっていった。

 周りには、動くものの姿がない。

 終わりなのか。ネロたちが、礼拝堂の入り口から様子を伺っている。


「まだ、安心できませんね。一旦、外までの安全を確保してからお連れしましょう」


「貴方、一体、何者なの。これだけのストローデビルたちを倒すなんて…」


「姫さま。それは、見たままですじゃ。して、いつ頃になりそうかな? できれば、ここを離れたいのじゃ。何しろ、食べ物がなくてのお。わしは、残るが頼みたいところよ」


 気になる単語も出てきた。ほーほー女の事をストローデビルと呼ぶらしい。


「1時間もあれば、行って帰ってこれるでしょうね」


「にわかには信じがたいが、走ってかね。それとも馬でも持ち込んでおるのかな?」


「馬ですか。そんなものありませんよ」


 ベネディクトは、人形の姿でネロの肩にへばりついている。


「それは、困ったのう。そうなると、お主は姫様を背負って格好で、この地を離れてもらわねばならんくなる。それでも、戦えそうかね」


 背負ったまま戦う。それは、無理な相談だ。縛りつけるやり方もあるが、急な運動をネロができるとは思えない。急激な重力で皮がめくれ内蔵が押しつぶされるとかいう。そんな死亡遊戯になってしまう。


「荷車を持ってきます。それで、ここに」


「わたしは、歩けます。馬鹿にしないでください。法術を使えば、役に立つはずです。杖がありませんけれど…」


「姫様。術は、使えませんぞ」


「え?」


 また、驚いている。一体、何度目であろうか。赤くなって、青くなった少女は。


「術は、使えませぬ。姫さまは体術も剣術もそれほどではなかったでしょう」


「しかし、ユーウは…。あり得ない高さまで飛び跳ねましたよね。あれは、スキルではないのですか」


「いえ、普通ですよ」


「お主、常識がないのう。普通の人間が、家屋敷以上の高さまで飛べるはずがないわ!」


 と、論破したかのように爺人形が言う。引きちぎってやろうかと思うのだ。


「いえいえ。ミッドガルドでは、あれくらいが普通です。そうでなければ、魔物とは戦えませんよ」


「ともかく、ユークリウッドと同じように戦えないのなら同行して戦おうというのには反対ですじゃ」


「そんな、足手まといだと、う」


 冷たそうな顔なのに、ぽろぽろと涙を流している。すると、爺。


「お主、フォローせんかい!」


 自分で主を引き倒して起きながら。どの口が、それを言うのだろう。久しぶりにかっかと腹に来る様だ。


「その、飴でもなめる?」


 すんすんと鼻を鳴らしながら、飴につづいて薄い紙を手に取る。


「これは」


「鼻紙です」


「うん。ありがとうございます」


 ぶっとい音がして、ネロが顔を赤くした。


「姫様、男子の前で屁をこくのはいただけませぬぞ」


「屁ではありません!」


 と言いながら、絶対に屁だった。おそらく、長期間に渡ってガスが溜まっていたのだ。

 朝から糞を漏らす幼女だったり、屁こき女だったり。ろくなのがいない。

 顔が、なまじ整っているからいいのか悪いのかわからなくなってきた。


「外には、出ないでくださいよ」


「うむ。絶対に、出さぬが。剣か杖を持ってきて欲しいのじゃ。武器屋に行けば、あるかもしれぬ」


 なるほど。頷いて、外へ出る。空は、黒いし。気味が悪い。

 倒したほーほー女たちの死体に、気を込めると。

 青白い炎を上げて、燃えるように消えていく。聖職者ではないが、思わず十字をきってしまった。


(武器屋か。どこかな)


 看板から、察するにすぐ近くであった。魔物が入ってこないように、門に仕掛けをしておくべきか。

 幸い、ルーンによる結界が効果を発揮するようだし。

 村の中だけでも、浄化しておくべきだろう。


(まてよ? ほーほー女が全部女だとすると、男はどこへ行ったんだ?)


 動く死体になったのかも知れないし。骨になったのかもしれないが。

 門へと、ルーンを刻んで6箇所を基点に方陣を描く。

 魔力を通すと、淡い光が立ち上った。同時に、黒い霧が上昇していくではないか。


(なんていうんだろ。地面を掃いていたら、埃が巻き上がったっぽいような)


 武器屋へ向かうと、入り口の戸は斜めになっていた。

 何もいないのか。瘴気が払われたからか。入り口から入ってすぐに人骨が横たわっていた。

 握っていたのは、長い剣だ。

 

 置いてあるものは、一振りの剣だけ。多くの武具が運ばれたのか、なくなっている。

 

(杖も欲しいとか言ってたけど、剣しかないか)


 購入費用は、ベネディクトに持ってもらうとしよう。一礼して剣を手にすると、外へと出る。

 黒い粉が、上昇しているような。

 ほーほー女が出て来ることもなく、礼拝堂へ戻ると。


「どうでしたか」


「残念な事に、剣しか見つかりませんでした」


 治癒術士の使う杖が欲しかったのだろう。ということは、ネロは杖術を修めているのだろうか。

 剣も使うようであるが? とても戦闘ができそうな手には、見えなかった。


「ふむ。それで、どうするのかの」


 ネロを連れて、脱出するか。それとも、一旦戻ってから増援を連れてくるなり掃除をする。

 色々と選択肢は、ある。

 ただ、敵である魔物たち。連続攻撃で、容赦がない。ユウタが居なくなると、どうなるだろうか。


(うーん。居ない間に、攫われましたとかいうパターン。これは、最悪だ。十中八九、生贄かなにかにされて無惨な事になるだろうから。人形の姿をしたベネディクトなら、やり過ごせるかもしれない)


 またピエロのような危険な匂いがする魔物が現れないとも限らない。

 

「脱出しますか」


「ええ」


 とても嬉しそうに、笑みを浮かべたが。とても心配になった。 

 というのも、彼女の戦闘力がどの程度なのかわからないからだ。

挿絵(By みてみん)

ネロ

ぶちこ96様作画

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