341話 兎狩り続
登場人物 アルストロメリア、チィチ、ミーシャ、ザビーネ
転移者、アキラ、拓也
狐族 グラシア、メルシア、狐
虚しい周回プレイもどき
昼飯をとりながら、兎狩りの続行だ。
森の端から100mほどのところに、張り巡らされた壁がある。
その壁に沿うようにして、冒険者たちの利用する小屋が立っていた。これは、金を取られるが。
「帰りましょう」
狐娘は、諦めない。アルストロメリアたちが周回している間もずっと同じ事を言っている。
「煩いのじゃ。これ以上言うなら、本国の奴らに言いつけるしかないのう」
「その長老方が、連れ帰ってこいと言っているのです」
一回、帰ってはどうなのか。
「じゃあ、そのうち、うむ。たまに帰ると言っておけばよいのじゃ。しつこいようだと、帰らんようなるぞい」
金色の狐は、前足で頭を掻いている。痒いらしい。毛を刈って丸洗いしたいところだが、逃げられる。
横には、アキラのパーティー。それに、拓也のパーティーが準備をしている。
グラシアは尚も食い下がろうとして、視線を送ってきたが無視だ。
メルシアは、目をつむったまま口を挟まない。ひょっとして、寝ているのかも。なんという図太さ。
「このねーちゃんたち、何者。紹介してくれよ」
アキラが割ってきた。黒い鎧に、黒いマント。黒ずくめだ。日差しが強いと暑そうである。
「鎧が金色の方が、グラシアさん。狐国の騎士で偉い人です。銀色の方が、メルシアさん。同じく騎士らしいですよ」
「へー。狐国つったら、かなり東にあるとか聞くけど。狐族ねえ。で、もうやったの?」
なんていうことを言うのだろう。明け透けに言うアキラは、ごく自然に言う。
「やってませんし、失礼ですよ。謝りましょう」
「う、申し訳ございません。しつ、げんでした」
最後は、吃っていた。
「ほんに、失礼な奴じゃ。主さまの下僕でなくば、素っ首をねじきっておるところよな。ところで、おやつはまだかの」
狐は、雑食である。肉を焼いて出せば、タレを要求するし。野菜だって、食う。
狸もかくやという食欲で、出されたものはなんでも食うのだ。
牛の肉であるが、加工されて焼きやすくなっている。
「ふう。あっちの、寝てる子たちはなんなのよ。俺らが来る前から寝てるっぽいけど」
「たった10周で、へばった錬金術師と戦士たちです。どうですか。このやる気のなさ。鞭で、ばしっと叩かないといけないんですかねえ」
アルストロメリアが、ぴくっと動いた気がする。が、敷物に寝っ転がって起き上がる気配はない。
「10周って、あそこに入って兎を見つけたら捕獲するっていう?」
「そうです。ゴブリンが兎を捕獲しようとするところを横からさらうか。それとも、定点まで走って兎がでていないか見る。そして、巣穴の点検です。一度、見つかった巣穴にはいないでしょう」
「その兎、高価なのかよ」
もちろん、高価に決まっている。というよりも、値段がつけられない。売りにもでないレアなのだ。
作った本人にしか装着して、効果がないという。持っている者は、持っていない者から憎しみを受ける。
憧れであり、憎悪を掻き立てる呪われた兎とも言えるだろう。
「ええ」
「どのくらい?」
「値段のつけようがないんですよ。刈り取った兎の毛から作るので、量でなんとかできますが」
パーティーメンバーなら、それを可能にするらしい。つまり、アルストロメリアに狩らせてもいいと。
セリアに呼びかけるも、忙しいらしくて手を貸せと言われる有様。
しかし、ここ1、2週間しかでてこないのだ。期間が終われば、兎は普通のライトバニーこと光兎に戻ってしまう。
「ベテランでもやってんのかよ。はんぱねーな」
重装備を脱いだ男が、女に見送られて走っていく。カップルなのか。
「むしろ、できるアイテムのために狩人となった強者でもやってきますからね。なんだって、こんなアイテムがあるのか」
神がいたら、神を殴るほど怒りが募る。
「聖素の吸収率10パーセントアップアイテムか。さらにダンジョンドロップ率も上がる。私たちも狙っておくか」
グラシアが、立ち上がる。どうやら、狐の事を諦めてはいないようだが。
2人で走り出す。鎧を着たままだと暑いだろうに。
「よっしゃ、俺たちも行くか」
アキラと拓也のパーティーが立ち上がって駆け出す。薄い装備をした方がいい。だが、ゴブリンたちは武器を使うし油断ならない相手だ。
「はい」
拓也が返事する。
「けどさ。アスラエル王国とかヘルトムーア王国なんかと全面戦争をやり始めたってのに、こんなことしてていいのかね」
「大変な事態なら、呼び出されるでしょう。そうでないのなら、兵隊で十分ということです」
兵士は、それこそ何十万といるのだ。何も、無理に戦功を立てる必要はない。戦争ともなれば、人を殺さねばならないのだ。人を殺す事は、悪だ。やってはいけない。
だというのに、アキラは戦争へ参加したいらしい。戦争は、基本的に人を殺すことになる。復讐者を生むし。魔法の有無で、虐殺になったりもする。そこらへんをどう捉えているのか。ユウタと違って、思春期の少年であるはずだが。葛藤は、ないのだろうか。
「手柄立ててえなあ」
そこに、全部が詰まっていそうだ。ユーウの記憶を探っても、婿養子として家に入ったケンイチロウくらいしか日本人で貴族になった者はいない。しかも、当人には当主としての権限がないという。お飾りでしかない。
(領主になろうったって、足を引っ張られるだろうし。工作員とかレッテルを貼られて、処刑される可能性を否定できないからね)
ロシナは、日本人の転生者であるものの。見た目、ミッドガルド人そのものだ。10歳なのに、欧米人よろしく身体が大きい。彼は、彼で何かを抱えているようだ。人の心というものは、不可解でうつろいやすいもの。のぞき見たりする事ができれば、また違うのだろうが。
(うーん。日本人、日本の国籍を持ったままだと工作員扱いになりそうだしなあ。スパイって言われたら、俺まで責任を取らないといけないのは困る。どうしたもんかな)
ミッドガルドは、日本と違って王制なのだ。忠誠を示さねば、国で生活をする事すらできない。
(拓也もそうだっけな。どちらかを選べって言われた時、2人ともどうすんだろ…)
こればかりは、本人たちの選択だ。あくまで、日本に帰るなら国籍を保持したままでいい。
だが、
(まあ。領主、代官になるのは無理だろうな)
差別だとかなんだとか通用しない。小説では日本人もよく王になったりするが、歴史のある国なら。
(総理大臣が外人とかね。ありえんし)
まず、王子であるアルーシュが許さないだろう。貴族たちに知られれば、アルブレスト家の改易だってありえる。
(アキラがわかっていないのなら、言っとかないといけないか)
森へと向かう一行を見送ると。周りには、まるで海岸にならぶようにしてパーティーが横に列を作っていた。壁ができてからというもの、この黒い森に近い場所に住み着く人間が増えた。出入り口には、検問所ができてその周りに農民という奴隷が家を作っている。
彼らにも戸籍を用意して、税金を取り立てる。そして、道路や下水施設を整備していくのだ。
魔術は、非常に有用だが使えなくなったときどうするのか。
アルストロメリアは、知っているのか知らないのかしれないけれど。
(魔術は、万能じゃない。魔術に頼るのは、危険だから人の知恵と技術。これと両立させてかないといけないんだ)
魔法、魔術を封じる物だってあるのだ。
知るところでは、アンチマジックフィールドと呼ばれる古代の神話級魔導兵器が存在する。
天空城といった空を飛ぶ城に備え付けられた広域戦略兵器だ。
仮に、稼働させれば一体どれだけの災害になるのかしれない。
魔術に頼らない生活環境を人の手で作って行くべき。一人でなんでもかんでもは、疲れる。
「おい、どうしたよ。もう、終了しようぜ」
なんと、根性のない。幼女は、椅子に座ると硝子のコップに水を要求する。
「ぷはー。生き返るわー。わりい、また寝る」
椅子の横になった。子供が、よくやるやつ。ミニスカートで、パンツが見えそう。
駄目だ。こいつ。体力がなさすぎ。ザビーネ以下もそもそと椅子に座るが、元気がない。
無理をさせても駄目か。
「金色の兎なんて、本当にいるんですか?」
「いるよ。でも、見つかるかどうかは運次第だもの」
「はあ」
ミーシャとチィチ、それにザビーネはのろのろと動き出す。まだ、やれるようだ。
疲労を取るリフレッシュの魔術といえども、限度がある。日に、4とか5回とか。
当人の限界値は、各人で把握しておかないといけない。
「あいつら、まだやるのかよ」
歩きだした3人と入れ替わりに、アキラたちが出てきた。
何も持っていないようだ。説明は、十分だっただろうか。
幸運を呼ぶ兎を殺したりしたら、毛皮が取れなくなって皆が困る。
賠償額は、アキラの命だってたりないくらいだ。
元の位置へと戻ると、また走りだした。軽装が、いいとも言えるが実力がないとできない。
「これって、確率はどのくらいなのよ」
「20パーセントくらいは遭遇するらしいですけれど、逃げられるんですよね」
「最悪だろ、それ。つか、10回入ったのに一度も会わなかったぞ」
それは、単に運が悪かったのだろう。頑張って欲しい。
「さてと、ゴブリンが妙な動きをしていないか監視しますか」
「お前、やんないのかよ。いつもは率先して退治しにいくだろ」
「ええ。だから?」
「だから、なんでやんないんだよって話」
つまんないからに決まっているだろう。黙っていると、わかったようだ。
「そんな顔すんなよ。わかったよ」
「わかったら、いいんです。これはですね。冒険者という職業が、いかに大変かということを新人さんたちにわかっていただくためのご理解授業。とでも言うべき作業ですから」
「つまんねーのな。誰が考えたんだよ」
そんな事は、神にでも聞いてみるしかないだろう。ただ、このくそったれなアイテムを考案した野郎はぶっ飛ばさざるえない。なんだって、面白くもない事をさせるのか。ゴブリンが、おまけになっている。ちなみに、このため、奥までゴブリンの集落は掃除された。群れたゴブリンと、滅多にお目にかからなくなっている。
(おかげで、森がすっきりしているというかなあ)
休んでいる間に、見に行ってみると。たまたまか、ゴブリンの集団が居たので風の魔術で肉片になってもらった。
確かに、掃除している効果はあったけれど。冒険者たちの憎しみも遭遇しない兎に天井しらずへ鰻のぼり。
「さてね。日が暮れるまでに、一匹でも捕まえられるといいんですが」
にっこりとした表情で引き上げるパーティーには、殺意が凝縮されて飛んでいるし。
ユグドラシルまで真っ直ぐのコースさえ開拓された。
北に行けば、沼沢がありリザードマンが住んでいたのに駆逐され。
南はルナの父親が治めるエッフェンバッハ領に繋がる。
「俺、寝るけどいたずらすんなよ」
「ええ。もちろんです」
いたずらするに決まっている。誰も見ていないのだ。パンツをズリ下げたり、写真を撮ったりと。
あらん限りの妄想くらい許されてしかるべき。
やらなくとも、妄想くらいいいではないか。
(ミニスカートは、どうかと思うなあ。突っ込まれるぞ・・・)
危なくてしょうがない。
誘うかのようにして、尻を向けているのだ。これはもう、いたずらしてくれと言っているようなもの。
日差しも高くなって、日傘を付けると。テーブルの上では、横になった狐と毛玉の姿がある。
「ふむ? あの娘は気に召さなかったかの」
「なんで?」
「なんでとは、また。主様がまた童貞のまま死ぬのではないかと心配なのじゃ」
変な心配は、余計だ。寝ている幼女のパンツが目に入った。
「ふむ。ロリコン、か。これは、重傷なのじゃ」
狐の言葉に、どきんと胸が鳴ったような。
「それ、元にもどしてあげて」
「しかしのう、妾はこの通り」
ぴょんぴょんと飛び跳ねて、前足を上へ上げる。そして。
ひょいっと飛ぶと、布を下げようとした。が、違うものが下がった。白いかぼちゃのパンツだ。
やべえ。どうして、こうなった。
「貴様、一体、なにを?」
声がする方を見れば、口元がへの字になった狐娘が鎧を脱ぎ捨てながら剣を抜いていた。
「スカートを元に直そうとしたんです」
「正気で、言っているか!」
冗談ではなくて、本気で斬りかかってきた。逃げるよりも、身体が動いて腹に拳を入れてしまう。
「ぐ、ぐええ」
鎧がないので、めり込んだ。そのまま倒れてしまう。なかった事にしよう。
狐を見れば、パンツをいそしそ元に戻すところだ。メルシアは、というと。
「大丈夫ですか?」
「ええまあ」
「姉は、はやとちりなんです。頭に血が上がるといいますか。怒髪天つくといいますか。おっちょこちょいなので」
静かに、入れたお茶を啜る。
「ここはさ。あっ、しまったあ。とかいいながら、おっぱいを頭でささえたり揉むくらいしないと。駄目なのじゃ」
何が駄目なのだろう。ごろりとよだれを垂らす少女の胸は、予想外の曲線を描いていた。
惜しい。




