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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
二章 入れ替わった男
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338話 例の物の行方

 まったく、うるさいにもほどがある。

 女の子たちは、なぜだかユウタがけしかけたと思っているようだし。

 とんだ災難とはいえ、ウンコパンツなんて欲しくない。


(あんな臭いパンツを欲しい奴…いるのか? 女の子の物とはいえ…)


 戦国武将が敵に追われて脱糞する話があったような気がする。

 だから、なんだか可哀想なイメージがあるものだ。

 

(まさか、ウンコと小便の付いたパンツを神棚に飾るなんてできないしなあ)


 同時にパンツを飾る話も思い出す。ああでもしなければ、大成しないのかとも。


(ま、俺にはパンツを集める趣味なんてないから)


 ユウタは、1人で風呂に入るべく脱衣所へ向かう。と、通りがかったザビーネを捕まえた。

 

「これは、師匠。おかえりなさい。あの、何か用ですか?」


 口には、入りきらないような感じで食い物とみられる物が詰まっている。

 骨がひょっこりと飛び出しているのだ。


「ああ、ちょっと、ついてきて」


「はあ」


 すっかり住人と化している少女だ。せいぜい、役に立ってもらわないと。


「あの? これは」


 脱衣所の入り口に立たせる。風呂に入るのには、ここを通らないといけない。


「ここに立って中に人を入れないでね」


「ここは、男湯なのですか?」


「そう、書いてあるよね」


 ちゃんとつるりと光を反射する壁に板がぶら下がっている。男湯と。間違いない。


「では、なぜ、立つのでしょうか」


「女の子が入ろうとするからね」


 ザビーネは、得心がいかないようだ。肘を手で支えて、顔に手を付けている。


「師匠。私をからかっているのですね。そんな事があり得るはずがないです」


「いや、あるの。だから、見張っててよ」


 すっと、立ち位置を決めると。周りを見る。廊下は、両側が石の壁。先の切れ目に、様子を伺っているかのような顔の端が見えた。が、すぐに引っ込む。金髪なので誰だかわからない。


「見た?」


「いえ」


 なんて、勘の悪い女の子だ。戦闘には、向いているが普段は鈍いのだろうか。


「まあ、僕は入るから。誰か来ても入れないようにお願い」


「あ、メイド長が歩いてきますけど」


「入れないように、ね」


「はあ」


 彼女もまた、背中どころかとんでもないところを触るのだ。触られたら童貞など、一瞬で爆発してしまう。それは、いけないことだ。頑丈とはとても言いがたい扉をからからと横に滑らせて、中には誰もいないようだ。


 いつも、誰もいない。これは、おかしい。


(気がつくべきだったんだよ! いっつも弟たちがいないんだから、何かおかしいって)


 ユーウからして、人と風呂に入るのを好まなかった。だから、普通だと思っていたのだ。

 しかし、それはとんでもない勘違いだった。

 気がつくとボッチ風呂。ならぬ、獣風呂に―――


(タイミングが良すぎるし。ひよこも)


 黄色い手乗りサイズをしたひよこが列を作って風呂場に入ってくるではないか。

 どこから? 壁に穴が開いている。とことこと、歩いてきて。

 当然のように風呂桶に飛び込み手洗いを要求してくる。


『いやー、いい湯だね』


『んー。今日は、どこで何をしてた?』


『おや、珍しいじゃない。えっと、ちょっと地球に似た惑星の原住民が抵抗するっていうんで殲滅してきたよ』


 聞かなければよかった。


『そうなんだ』


『あいつら、他の動物たちをいじめて、食いまくるからね。苦情が多いんだよ。害悪だよね』


 確かにそうなのだが、そうであっても人間は食っていかないと生きていけない。

 踏み込んではいけない話だ。


『やっぱ、人間は悪、なのかな』


『さてね。そこらへんは、主観の問題じゃないの。ボクは、ボクの思った通り、あぶぶぶぶ』


 狐が、寄ってくると前足でひよこを桶の中へと沈めている。 


『主様よ。こやつの話に、耳を傾けたもうことなかれ。弱肉強食こそ、この世を腐らせる災い』


『よくも、やりやがったなー。このやろー』


 ひよこたちのタックルを狐はぺぺんと叩き落とす。見慣れた光景だ。

 身体を洗ってやると、己の身体を洗って風呂に入る。

 すると、


「あなた達、どういう?」


 叫び声がする。どうやら、何かが起きているようだ。

 ひよこたちが入ってきたのとは反対側から、金色の植木がかさかさと枝を揺らしながら走ってくる。

 だが、遅い。

 その後ろからきた小さな狼に抱えられる。


『おまえら、喧嘩をしているんじゃない。また、ぶっ壊す気か』


『喧嘩してないもん!』


 そういって、ひよこは風呂に入る。水面をすいすいと泳いで、自由きままだ。


 入り口の扉ががたがたと音を立てる。だが、まだ開かない。


「わかっていると思うけど、他の子が入ってきたらみんな追い出すから」


『わかっている。くくっ、変身できない奴らとは哀れなものよ』


『姉上。それよりも、身体を洗って入ってください』


 木が湯へ入ろうとするのだ。根っこを掴んで引き戻すのは、セリアの仕事だった。


『わかっている。これが、愉悦か。ふっふっふ』


『とか言ってるけど、たしか』


 外では、扉が壊れる音がして雷鳴がする。雷撃を使ったようだ。誰が?

 考えないようにしよう。ゆったりと湯に、身体を沈みこませると疲れが取れていくようだ。

 気のせいかも知れないが。


『そういえば、昼間くらいか? 吸血鬼が城に忍び込むという事件が起きてな。何か知っているか?』


 知っている。めっちゃ知っている。しかし、正直に答えたらぶっ飛ばされそうだ。

 

『そんな事があったんですね。大変でしたか』


『いや? 全然、大した事がなかったがお前、知ってるだろ』


 どうやら、ばれている。木を抱えると、水上を進ませる。枝を切ったら、どうなるのだろうか。

 木には、顔がないが?

 空気を吸っているのか、謎だ。


『ふーむ、しらばっくれやがって。後で、ばれるんだからな。だいたい、彼処へ直接入ってこれるやつというのは決まってるんだぞ。セリアだって、直接は入れないんだ。となれば、あの程度の吸血鬼では到底、無理。結論は、決っている。で、どうして、送り込んだ』


 決っている。一番、吸血鬼が嫌がりそうなところだ。砂漠ではないが、かんかんに日の照っている場所。

 かつ、聖騎士が揃っている。戦力は、申し分ない。


「さて、ざぶーん」


『こら、遊ぶな。人で、遊ぶな―』


 ルナに見つかれば、確実にやられるであろう。いや、誰でもやるかもしれない。

 セリアは、立つようにして浮かんでいる。頭だけ出して。


『あんまりすると、樹化が解けちゃうじゃないかな』


 そりゃ、不味い。手を止めると、ひどい目にあったと飛び跳ねてくる。

 枝が刺さって痛い。


(でもまあ、全然、痛くないけどね)


 外では、雷の音が色々して大変そうだ。風呂を出ようと脱衣所へ迎えば、扉を押し倒してザビーネが滑ってきた。


「大丈夫?」


「いえ。その、すいません」


 謝られる謂れはないものの。


「明日も、お願いね」


「わかりました。誠心誠意頑張らせてもらいます」


 どうやら、落ち着いて風呂に入れそうだ。大きな槍を手に黒い眼帯をしたオデットは、出ようとすると舌打ちして去っていった。危ないところである。


 



 やることを済ませて、寝床へ身体を横たえると。


『アスラエルとヘルトムーアが攻め込んで来て、不安ではないのか?』


「ん」


 枕元に揃った木が、尋ねてきた。


「勝つも八卦なら、負けるも八卦でしょう」


『さっさと、更地にしてしまえばよいものを。よい。私が許す、さっさと終わらせてしまえ』


「アルル様が出てますよ」


 更地にしてしまえというけれど、強い相手がいたら敗北してしまうではないか。

 それに、戦争するのがお仕事ではない。

 配達、誰がするのという。


『あの野郎は、戦争が下手だ。アルカディアを落とすのに、何年かかった。1つ落とすのに3年、4年かかっているんでは話にならん』


 野郎というが、女の子だ。同時に、アルーシュの方も。


 金色でいて暗がりに輝く木は、そう言って植木鉢の水に身を沈めた。鉢の置いてある机の上で、光るので眩しい。

 光もないのに、光合成しているようである。試しに、布でもかぶせたい。

 眩しいのだ。


「そう、言われましても」


『奴がゴーレムで前線に出てみろ。味方の死体が多くなるわっ』


 頭が痛い。かっこいい事を言うアルルであるが、その反面では大雑把過ぎる攻撃が味方を巻き込む。

 アルカディアで、前線に出れば味方に被害が出るのだ。

 単体で働いてると普通なのに、戦争になれば狂気の沙汰とはこれ如何にするか。


 アルカディア方面軍の悩みであった。何しろ、前線に出るのが大好きなのである。彼女は。


『まあ、今はよい。ただし、天秤が傾きそうな時はやってもらうぞ』


 アルーシュのとり越し苦労であると、思いたい。


『主様よ。そろそろ、眠いのじゃ』


 苦情がくる。しかし、アルーシュの愚痴は止まりそうもなかった。




 ちゅんちゅん。

 雀が鳴いている。瞼を開けると、変わらぬ天井だった。

 今日は、


(戦争に行くか、それともハイデルベルを、ウォルフガルドをどうにかしに行くか)


 2つの強大な王国。コーボルトと違って、そう安々とは終わらないだろう。

 アルーシュは、事も無げに言うけれど。ユウタがキュルク城の手前で殺した兵隊の数。

 万を超えているはず。


(普通の兵隊じゃ、銃やら何やら使う敵にどうしようもないんだよな)


 ベッドの上には、もこもこした狼の姿も狐もない。ひよこが、ベッドの前で踊りをやっていた。

 くるくる回って、雀の真似とは。


(可愛いから、いいけど)


 可愛いは、正義だ。ということは、可愛い格好で戦意を喪失させる。


(ないわなー)


 ユウタがやったら全力で鉛弾が集中するに違いない。敵兵は、却って殺意を増幅させそう。

 ウォルフガルドの時は、つい、かっとなってしまった。

 あまりに、残虐非道の限りを尽くしていたからだ。


 ユウタがセリアと組んで攻撃すれば、確かに終わるかもしれない。


(けど、絶対に殺しまくる事になるんだよね)


『いいんじゃなーい。戦争したってー。それが、やらなきゃいけない事ならさ』


「おはようございます」


『人間ってのは、争う宿命にあるんだよね。それは、もう太古の昔から決まっている事なんだよ』


 嫌な宿命だ。彼女の言うところもわからなくないけれど。


「見てきたかのように、言うよね」


『もちろん。見てきたもんね。だから、断言できるよ。人ってのは他者を傷つけずには、生きられないってね』


 そうかもしれない。立ち上がって、ローブと下着を取り出して着替える。

 それでも。いつか、きっと。


『ないね。そうしたら草食系わろすになるじゃーん。独身のオッサンコースうぇーい』


 どうしようもないとは、この事だ。

 机の上には、予定表が乗っていた。とりあえず、配達をすることにしよう。

 表をポケットにしまうと。白い毛玉が、フードの中へと潜りこんできた。


 黒い羽が生えていた?

 扉を開けると、


「おっす。おはようさん、パンツ泥棒」


「え?」


 そこには、じとーっとした目に隈を作った女の子がいた。誰であろうアルストロメリアだった。

 後ろには、チィチとミーシャの姿がある。チィチは、胸がミーシャの上に乗っている軽装だ。


「え? じゃねーぞ。おおん? 昨日のパンツを返しやがれっ」


 声は、鋭くて硬い。

 パンツを盗んだ覚えは、ない。絶対に、持っていない。


「盗んだと? そういう事ですか?」


 わからないので、事情を聞かないと。


「おいおい。こいつは、とんでもねえな。あの時、パンツの事を知ってんのはおめーとルナくらいだろ」


 なんか抜けている。桜火だ。ピンときた。


「いえ、そうではないのでは」


「は?」


 殴りたい、顔をするので拳に力が入る。殴ったら、負けを認めるようなものだ。


「本当に、パンツはないんですか?」


「何言ってやがる」


 スカートの中が気になる。気になって仕方がない。すると、毛玉が飛んでいくではないか。


(まさか。会話ができる!? そんな馬鹿な)


『いやー、腹黒いよねー』


 毛玉の事だろうか。それとも己の事か。わからないが、そのままアルストロメリアの白いワンピースに潜り込んでいく。予想外だ。慌てふためいている幼女に、


「パンツがないなら、探しとくから」


「てめっ、でかいって。声を小さくだなあ」


 しろってか。断る! と、嫌がらせをするべきか。

 慌てる3人にルナが寄ってきて混乱が加速しだした。

 放っておいていいだろう。


 例のパンツは、気になったが。食堂へ歩いていく。  

挿絵(By みてみん)

アルーシュ水着

初野うぃんさま作画


夏も半分・・・

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